グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

49 役割は

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 朝食も終わり、練習開始。俺はすぐにヘンディのところへと向かう。

 「よ、ヘンディ」

 「おー龍也! 今日からまた練習だなぁ。さっき言ってた通り、今日も基礎練と連携の練習でいいんだよな?」

 「ああ。監督とも話したけど、まだ特訓場は使わせてくれないみたいだ」

 「まぁぁぁしょうがないよなぁぁぁ。結局のところ基礎が1番大事なんだし、今回の大会みたいに敵が特殊であればあるほど堅実な基礎力が光るものだしな」

 「うむうむ」

 「それに連携の練習も必要だよなぁ。癖は強いけど実力は確かなメンツだ、上手くハマれば何にでも勝てる気がするぜ! 正直2週間じゃ足りないよな! 忙しいぜ!」

 アハハと笑いながら語るヘンディ。相変わらず的確に物事を理解している。

 「流石だな」

 「…………。
 そんな気使わなくていいって!
 昨日はほんと悪かったな、情けない姿見せて。それに試合もだ。1回も止められなくてすまん。
 これからはあんな姿は見せない。それに試合でもゴールキーパーとして活躍する!
 だからそんな心配しないでくれ! 龍也!」

 なるほど。心配されまいと言葉を考えてきたのは理解した。しかし、こんな浅い言葉じゃ誰の心も動かせない。
 頭は多少すっきりしたみたいだが、精神的にはまだまだ治っていなさそうだな。

 「凛、1点」

 「ん?」

 「ブラド、2点。
 将人、途中出場で1点」

 「急にどうした??」

 困惑しているヘンディに構わず俺は続ける。

 「ファクタ、途中退場で1点。
 ペペ、同じく1点」

 「……昨日の試合か」

 「龍也、フル出場で0点」 

 「べ、別に気にすることじゃないだろ!? シュートを決めることだけがフォワードの役割じゃないしな!」

 「じゃあキーパーの役割もシュートを止めることだけじゃないんじゃないか?」

 「ぐ、いや、だとしても俺は大したことは……」

 「そんなことはないだろ。
 前の試合、地面が揺らされていることを最初に伝えてくれたのはお前だ。
 その後も、お前はチームメイトに指示を出していたじゃないか。お前の指示が無かったら、大人数で1人に当たるなんて無茶な作戦成功してはいなかったよ」

 「…………」

 「シュートを止めることはもちろんキーパーの大切な役割だ。けどそれだけじゃないだろ?
 後方、フィールド全てを見渡せる位置から敵味方双方の位置を把握し、的確な指示を出す。これだって重要なキーパーの役割だ。当たり前のことすぎて忘れてたか?」

 「それくらいなら全員やってるだろ。みんなはそれにプラスアルファの成果を上げて勝利に貢献した! 対して俺は何も……。申し訳なくもなるだろ!」

 「ああ、しかし、その申し訳なさが役割の遂行に支障をきたしているとしたらどうする?」

 「? どういうことだ?」

 「ヘンディ、このチームには1つだけ欠けている役割があるんだけど、何かわかるか?」

 「え? 欠けている役割?
 んー……、あ」

 「話の流れから大体予想がつくだろ?
 察しの通り、副キャプテンだ」

 「まさか……」

 「あの時発表されなかった副キャプテン。
 何故発表しなかったかわかるか? ヘンディ」

 「……対象の人物に、まだその"格"が足りないと判断されたから」

 「そうだ。
 そして、宇宙人との戦い。この間の試合で改めて副キャプテンの重要さを実感した。これから戦いを続けていくにあたって、このまま副キャプテンが空白だと厳しい戦いになるだろうな」

 「なるほどな、つまりこういうことか。
 俺のメンタルが安定しないせいで副キャプテンを任せられない。しかし副キャプテンが不在の状況が続くのはチームにとってよくない。役割を果たしてチームに貢献したいのなら早くメンタルを安定させて副キャプテンになれと」

 「よくわかってるじゃん」

 「中々の荒療治だな」

 「時間も方法も無いんでな」

 「ははっ、いいやり方だと思うぜ? そう言われたら力も出るもんだ。
 ……それに今回の件は俺だって気にしてるんだ。まさかここまで……メンタルが弱いとは思ってなかったしな。
 よーし! チームのため! 俺もメンタルを鍛え――」
 「あ、そのことなんだけど、お前はメンタル弱くないみたいだぞ」

 「え? いやいや、見ただろ俺のあの姿。あれでメンタル弱くないは無理があるって」

 「いーや、その道の有識者からの言葉だ。お前は、ただただ責任感が強すぎるだけらしいぞ」

 「責任感……。
 ……そうか、確かに……そう……かもな……。
 ……俺の中のモヤモヤにも合点がいった気がするよ。
 ところで、その有識者ってのは誰だ? このチームにいるのか?」

 「ああ、いるよ。お前に憧れてるそうだ」

 「……へぇ、じゃあそいつのためにも頑張らなくちゃな」

 「そいつのためだけじゃないだろ?」

 「え?」

 「お前が沈んでる時もずっとサポートしてくれてたやつがいただろ?」

 「ザシャか。
 ……全く、俺は馬鹿だな。
 役に立たなかった俺を責めるどころかまだ慕い続けてくれている。そんなやつらにこんな姿、絶対に見せたらダメだよな。
 本当に、俺は馬鹿だ……」

 精神的な問題だ。すぐには立ち直れないだろう。
 しかし、それでも、少しでも前を向けたのなら、これからいくらでも変わっていけるのではないだろうか。

 ヘンディが副キャプテンに就いたらこのチームは今の何倍も強くなる。
 俺はヘンディを信じている。

 ***

 キャプテンとの会話を終えた男。
 男は後ろを向き、周囲に聞こえない声でこう呟く。

 「龍也……違うんだ……。
 俺は……責任感が強くなんか……ない。
 俺は……俺は……」

 そう呟くヘンドリックの顔は、暗く重たいものだった。
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