グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

74 愛故に

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74 愛故に

 「カウンターです! フリア! お願いします!」

 アマトからフリアへのパス。攻めに人員を割いていた俺たちは一転ピンチに見舞われる。

 「アマトさん! もっと! もう一言いただければ、私更に強くなれますわ!」

 「……ここで決めれば、たっぷりとお仕置きをしてあげますよ」

 「……!!!
 アマトさんからのお仕置ご褒美! 負けられませんわああああああああ」

 どんどん勢いを増すフリア。瞬く間にゴール前まで到着する。そんなフリアに立ち向かうのは、ラーラ!

 「止めます!」

 「邪魔はよしてくださいまし! 私はアマトさんのために勝つしかありませんの!」

 「それならわたしたちだって、星のために勝つしかないの!」

 「星? 正義感ですの? そんなものでは私には敵いませんわ」

 「え!?」

 「私の力の源は愛! アマトさんへの愛が私を突き動かしていますの! 星のためなどという漠然とした感情ではなく、愛という確固たる感情が私の中には存在している。それが私の強さですわ。
 あなたもお顔は悪くないようですけれど、そういうお相手はいらっしゃらなくて?」

 「なっ!? い、いません!」

 「ふふっ、動揺しましたわね」

 フリアの言う通り動揺したのか、フリアに対し一手後れを取るラーラ。そこに生まれたシュートコースをフリアは見逃さない。

 「あなたのシュートコースを塞ぎ、遅延に徹する守備、中々厄介でしたわ。
 しかし、それはあなたと協力してボールを奪える選手がいてこそ輝く動き。満足に動けないディフェンスとポンコツキーパー、あなたが中心となって動かざるを得なかったのは理解しますが、それでは宝の持ち腐れですわね」

 「だからって、何もできず倒れるわけにはいかないの!」

 空いたスペースからシュートを打とうと構えるフリア。そうはさせないと、ラーラは崩れかけた体を捻り、つま先の先端でボールに触れる。

 「くっ、最後まで時間を稼ぎますわね。
 でもこのくらい」

 氷の上、滑るように体を一回転させるフリア。

 「蹴りやすくなっただけですわ!」

 「んなことないぜえええええ」

 フリアがシュートを放つ瞬間、飛び込んでくる影が1つ。
 その選手はフリアの目の前へと飛び込み、放たれたボールを顔面で受け止めた。

 「ぶばあ!」

 「……レオくん!」

 「なっ!?」

 「ラーラちゃんのサポートは俺がする!
 ラーラちゃん、遅延とシュートコースの絞り込み感謝するぜ!」

 「シュートが……。
 なぜ! あなた方はこんなに早く動けないはず……」

 「あぁ、足じゃ無理だからな。
 滑ったんだよ、膝で」

 なんと。滑り止めのある靴では間に合わないから、滑り止めのない膝を立てて移動したのか。
 ズボンが被さっているとはいえ、かなりの痛みを伴うだろうに。

 「なぜそこまでして……」

 「え? 君も言ってただろ。愛故に、さ。
 あと、君の気持ちの籠ったボール、顔面にぶつけられて痛いけど……ちょっと気持ちよかったぜ」

 「……き、気持ち悪いやつですの……」

 「えー……あなたがそれを言うんですか……」

 こうして弾かれたボール。偶然か必然か、強い風に吹かれ流された結果、凛の元へと到着する。

 「……もう1回! 今度こそ絶対に決める!」

 ボールを受け取った凛は、スムーズにトラップをし前を向く。

 「みなさん、戻ってください! 彼女は危険です。
 ディフェンスは奪えなくても構わないので彼女の足止めを、そのうちに戻ってきた選手で囲んでください!
 どれだけ人数差があろうと油断しないように!
 ソラ! パスの対応はあなたに一任します。できますね?」

 「了解!」

 凛がいるのは右サイド。パスを出すなら中央にいる俺・将人・ブラドの3人の誰か。
 大まかなルートが決まっている以上、ソラのスピードとジャンプ力が合わされば1人で3人に対応することは可能。
 ならば……

 「ブラド、そいつを頼む!」

 「おう!」

 「……え? わあっ!?」

 ブラドがソラの前に立ちはだかり、動きを妨害する。
 ブラドの強靭な肉体からのマンマーク(※常に特定の相手選手1人に対して張り付くディフェンス)を外すのは困難だ。ブラドは動けなくなるが、3人妨害されるよりは遥かにいい。

 とはいえ相手には特殊なシューズがある。ブラドもそう長くはもたないだろう。
 できるだけ早くパスを、と伝えようと凛の方を見る。すると……

 「あっ」

 ディフェンス3人に囲まれている凛にトラブルが発生。足を滑らせたのか、体勢が崩れている。

 「……! 今です! 奪ってください!」

 「「「おう!」」」

 3人が同時にボールへと足を伸ばす。流石の凛もこれは厳しいか……

 「彼女の技術は確かですが、流石にこのフィールドであれほどの精密な動きを維持するのは厳しいのでしょう。よく頑張りまし……た?」

 アマトの言葉が止まる。それもそのはず、体勢を崩したはずの凛が、ボールを奪われることなく、3人のディフェンスを抜いてゴール前まで迫ってきているのだから。

 「は!? な、なぜ」

 「だから、なめすぎ。
 このボクが、滑ったぐらいでボールを奪われると思う? ていうか、そもそも滑ってなんかいないんだけどね」

 「ま、まさか、先程のは、滑ったかのように見せかけたフェイントだとでも言うのですか!?」

 「正解。
 あのフェイントはさっきまで練習してたもの。
 この中園凛様が、フィールドくらい利用できないわけないでしょ!
 あとは任せたよ! 龍也!」

 凛からクロスが上がる。貴重な機会。絶対に点が欲しい場面。

 「決めるっ!」

 俺はシュートモーションに入る。マーク無し。ドフリー。しかし、アマトとキーパーの守りは固い。それだけでは破れない。

 「……なんちゃって」

 「へ?」

 俺のとった行動はスルー。
 シュートコースを狭めるため、前に出てきていたアマトは少し狼狽える。
 俺だってシュートを打ちたかったが、今回は協力するんだもんな。

 「ぶっ! つ! ぶす!」

 俺の裏に走り込んでいたのは将人!
 俺のスルーを読んでいたかのように、完璧なタイミングでシュートを放つ。

 「シュートを打つのは奥の彼です! 大丈夫! その角度なら止められます!」

 アマトはこんな状況でも的確な指示を出す。確かに、将人のいる地点からシュートを打てば角度的にキーパーの方が有利だ。故に、アマトは俺がシュートを打つと踏んでいた。
 だが、それはあくまで有利なだけ。キーパーとアマトの2人が守る状態ならともかく、キーパー1人が守る状態なら多少の不利くらいひっくり返せる実力が将人にはある。

 しかし、俺の想定とは違い、将人の放ったボールはゴールとはズレた方向――アマトに向かって飛んで行く。
 ……ああ、そういうことか。

 「はあ!?」

 これは予測できなかったのか、アマトは対応することができない。
 アマトの顔を捉えたボールはゴール方向へと跳ね返り、そして静かにネットを揺らす。

 「ピィィィィィィィィィィィィィ」

 「よっしゃああああああああああああ」

 後半30分。俺たちは念願の初ゴールを決めたのだった。
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