グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

75 どうしたいんだよ

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75 どうしたいんだよ

 「凛! ナイスパス!
 それと、アマト。ナイスオウンゴールだったぜ!」

 念願の1点を決めた将人。嫌味ったらしい口調でアマトを煽る。

 「は、なんですか。わざと狙ったくせに、白々しいですね」

 「あー? 何言ってるのかさっぱりだな。
 俺がミスったシュートを偶然お前が綺麗にゴールに叩き込んでくれた、それだけじゃねえか」

 「……こんな状況でシュートを外すなんて、とんだ無能フォワードですね」

 「そうだなー、残念残念」

 将人は後ろを向き、アマトには目もくれず適当な言葉を発する。これはウザい。
 ここまでの言い争いは将人の全敗だったが、これは勝利だな。

 「にしても、顔って。お前あんなことしなくても普通に決められただろ。恨みこもりすぎな」

 「はっ、なんだから知らねえよ。
 ただ、腫れた顔で強がるあいつはケッサクだったけどな」

 わざと顔にぶつけるのはスポーツマンとしてはモヤモヤするが、まあ、将人はこういうやつか。

 後ろから地面を殴ったかのような音が聞こえる。アマトだろうか。
 フロージアの目的は大量得点。
 それが、現状は1-2。
 勝っているとはいえ、目標からは程遠い状況だ。それどころか、あと1点許してしまったら引き分け、更には敗北の可能性すら出てくる。
 ストレスも溜まっていることだろう。

 相手の感情が乱れているのなら、今が最大のチャンスだ。
 そのためには、このピンチを確実に乗り越えなくては。

 後半30分。フロージアボールで試合がスタート。
 おそらくフロージアは全員攻撃を仕掛けてくる。前回はボールを持っていたのが俺たちだったため何とか凌ぐことができたが、今回は違う。
 このフィールドをあの人数あのスピードで動き回られたら止めることは至難の業だ。しかし、ここで点を決められるわけにはいかない。俺たちも全員でディフェンスに回り、全力で守りきる。

 しかし、そう上手くはいかないのが現実。
 すばしっこく動き回るフロージアに俺たちは翻弄され続ける。
 そして、試合も終盤。時間の経過とともに疲労も溜まっていく。

 慣れない地面に滑らないよう気を張りながら移動しているからな。体力的な疲労だけでなく精神的な疲労も溜まる試合に余裕はなく、動きも鈍くなっていく。
 特に守りの要、ラーラはずっと動きっぱなしだ。体力の限界を迎えても仕方のない状況だろう。

 対するフロージア。慣れ親しんだフィールドということもあり、動きはスムーズなまま。滑る移動は走るよりは楽なのだろう。体力的にもまだ余裕はありそうだ。

 そんな中でのディフェンス、俺たちの動きに段々とほつれが生まれてきて……

 「ここです! ヒュウ!」

 「よっ、フリアさん!」

 「受け取りましたわ!」

 隙をつかれ、パスが通る。ゴール前。

 「今度も止めます!」

 「あら、息が上がってますわよ。そろそろ限界なのではなくて!」

 先程と同じ展開を嫌ったのか、フリアは早めに仕掛けシュートを狙う。
 抜かれるラーラ。いや、抜かせたのか?
 抜かれながらも足を伸ばす。上手い。これでシュートコースが制限され、ヘンディが取れる位置へとシュートを誘導することができた。

 フリアも気づいたか? しかし、もう止まれない。勢いのままシュートを放つ。
 シュートは甘い角度でゴールへ。大丈夫だ。これはヘンディなら確実に止められる。

 カウンターのチャンス。しかし、今はクレがいない。
 かなり厳しいが、軸にするなら凛しかいない。無理な頼みだが、ボールを保持したままゴールまでドリブルを――

 「ピィィィィィィィィィィィィィ」

 「……え?」

 笛が鳴る。なぜだ……まさか!?
 ボールを探す。無い。無い。……あった。
 1番あってほしくなかった場所、俺たちオグレスゴールの中、そこにボールはあった。
 そして、その前には立ち尽くすヘンディ。
 何があったのかは、一目瞭然だった。

 俺は急いでゴール前まで駆け寄る。

 「ヘンディ……」

 「……もうダメだ。
 俺なんかが任されるべきポジションじゃなかったんだ。
 お前らが必死に作戦を考え、必死に走り、必死に攻め、必死に守り、必死に奪い取った1点は、俺のくだらないミスで帳消しになった。
 許されたいなんて思ってない。俺はもう……このチームにいらない存在だ」

 虚ろな目で語り続けるヘンディ。その姿に希望は見えない。このままじゃ絶対にダメだ。

 「そんなことないって! 一度のミスがなんだ! まだ時間はある! 次止めればいいだけだ! ヘンディならきっと大丈夫!」
 「そうだね。それに、ディフェンスをするときのヘンディくんの声は凄く役に立っているよ。そんなに自分を卑下することないんじゃないかな」

 俺に続いてファクタもヘンディに言葉をかける。これで立ち直ってくれるといいのだが……。

 「は! くだらねえ」

 突如響き渡る刺々しい声。この声は……ヒルだ。

 「くだらない?」

 「ああ、くだらねえな。なんだこれは。甘やかして甘やかして気持ちわりいったらありゃしねえ。
 お前らも気持ちわりいし、ヘンドリックお前も気持ちわりい」

 「おいヒル」

 「あ? なんだ? 事実だろ。
 いつまでもうじうじうじうじ。男らしさの欠片も無え。
 終いにはゴミみてえなミスで点を奪われる始末。あんなボール俺でも取れるぜ?
 なあ? お前らも思ってるんだろ? 使えねえなって」

 「そこまでにし――」
 「いやいいんだ龍也。これは事実なんだ」

 「チッ、気持ちわりぃ。
 自分が使えないとわかってるならさっさとコートから去れよ。
 ハーフタイムの会話も聞いてたぜ。わざわざ確認取って、どうしたいんだよ。本当に代わりたいのならスタジアムから出てけばいい。そしたら無理やりだがお前の望み通り代われるだろ。
 それをしなかったってことは本心ではお前はまだ試合に出たがってるんだ。そのくせ、試合ではうじうじしたクソみたいなプレー。
 中途半端なんだよ。はっきり言って迷惑だ」

 「…………」

 黙って話を聞くヘンディ。
 今のヘンディにこんな話は聞かせたくない。しかし、少しだけ思ってしまった。俺は甘やかしていただけなんじゃないか、と。その引っかかりのせいで動けない、声が出せない。

 「ヘンディさん」

 ここまで黙って話を聞いていたザシャが口を開く。

 「正直……ガッカリしてるっス。
 俺はヘンディさんを尊敬してました。
 それでも……」

 「はっ、舎弟にすらこう言われちゃおしまいだな。
 どうする? もうダメだってんならさっさとコートから出ていけ。
 まだやるってんなら……プレーで俺たちを見返してみろ」

 突き刺さるザシャとヒルの言葉、それに対してヘンディはどう動くのか。
 全員の視線がヘンディに集まる。

 「……俺は」
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