グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

83 目、そして頭の中

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 「無理だあああああああああああ」

 「ほっほ、威勢が良かったのは最初だけかのう」

 今俺は、特訓場にてオフ・ザ・ボールを極めるために特訓している。意気揚々と始めた特訓だが……

 「無理ですって!
 もう10回以上やってますけど、精々5点差がいいところ。勝つなんて夢のまた夢ですよぉ。
 クレにも何かハンデをつけてくださいよー!」

 「それじゃあ特訓にならんじゃろう。
 それにそんなダメなことばかりでも無いじゃろ。先程から1点は決められるようになってきておる」

 「1点取れてもそれ以上点を取られたら勝てないんですよぉ。
 それに、オフ・ザ・ボールって次のプレーに繋げるためのものじゃないんですか? 全く触らないのなら活かせてない気が……」

 「そういうプレーもあるのう。
 じゃが、今回特訓しているのは違うものじゃ。
 フォワードのオフ・ザ・プレーで重要なのは相手ディフェンスの裏を取る動き。この特訓が成功すればそういうプレーの成功にも繋がるからのう」

 「ぐぬぬ。でも、これは流石に難易度が……」

 「ではそろそろヒントを与えるとするかのう。
 お前さんのチームが決めた1点。あれはなんで決まったかわかるかの?」

 俺たちのチームが決めた唯一の得点。
 あれは味方からのパスを上手くスルーできたから。この間のフロージア戦で将人にしたことと同じだ。

 「相手の意表を突けたから……ですか?」

 「ほっほ、半分正解、じゃのう。
 正解はそれに加えて数的有利を取れたからじゃ」

 「数的有利?」

 「ボールに触らないお前さんはいわば0。
 そんな0のお前さんが、シュートをすると思わせたことでキーパーとディフェンスの計2人を引き付けた。
 こうすることで、10VS11だった試合が10VS9へと変わる。これが数的有利じゃ」

 「なるほど……」

 「そしてこの数的有利を作れた理由、それがお前さんの言う意表を突くことじゃ。
 上手いプレーは確かに相手の動揺を誘える。しかし、それ以上に相手の動揺を誘えるのが、意表を突くこと……予想外のプレーじゃ。
 難しい作戦を立てる必要は無い。簡単に相手の意表を突ける方法はわかるかのう?」

 「簡単に……」

 簡単に、難しい作戦を立てる必要は無い。
 これが意味するのは、相手に対しての専用のプレーでは無く、どんな相手にでも通用するプレーということだろう。

 考えろ。
 監督は俺の頭に期待をしてくれている。
 ここまで言ってもらったんだ、俺が答えを出さなくちゃ。

 監督がこう問いかけるとき、答えは俺の思いつく中にある。
 監督を信じて思い返す。
 フロージア戦、1番意表を突いたのは何だ?
 氷のフィールド? クレに突っ込んだこと?
 少し違うな。

 ……ブラドだ。

 ブラドの擬似"ジェイグ"。
 あれはアマトを除くフロージア全員の意表を突き大きなチャンスを作った。
 間違いなくあれが1番だ。

 逆に考えてみよう。何故アマトだけがかわすことができたのか。
 それはおそらく、ブラドの動きを見てこれから起こる出来事を予測したからだろう。
 あれを予測できるのは確かに凄い。しかし、この場面で更に凄いことがある。
 それは、あの場面でブラドの動きを"見て"いたこと。

 いくら察しが良くても見ていないものまで気づくことはできない。
 1番大切なのは相手を見ること。

 じゃあ逆に相手に見られなければ……?
 そうだ、これはサッカーをやる上で基本中の基本。

 「……相手の死角を利用すること」

 「ほっほ」

 俺の言葉を聞いたアウラス監督は嬉しそうに笑う。俺の答えは正しかったのだろうか。

 「ギガデスやフロージアの特殊な戦い方を見たお前さんが難しく考えてしまう気持ちもわからんではないが、結局はサッカーじゃ。
 特殊な考え方も大切じゃが、基本の動きもしっかり頭に入れておくんじゃぞ。その使い分けこそが、この大会を制する柔軟な頭に繋がるからのう」

 確かに。完全に頭から抜け落ちていた。
 超パワーに氷のフィールド、こういった相手に対抗するためには俺たちも何か奇抜なことをやらなくてはと思っていた。

 違ったんだ。
 どんな試合であっても、元となるのはサッカー。だったら俺たちも元とするのは基本的なプレーであるべきだ。
 新しい戦術はその上で考えていくもの。

 「当然じゃが、基本の動きだけをしていれば勝てるわけでもないわい。
 というわけで、お前さんに望むのはそれに独自の強みを加えたものじゃ。
 死角を利用すると言ったのう。そのために必要なものはなんじゃ」

 「……相手の目線を意識すること」

 「そうじゃ。お前さんには、フィールドの全員の目線を理解してもらう」

 「ぜ、全員ですか!?」

 「ほっほ、それだけじゃないぞ。
 人間は、試合中の他者の考えを完璧に理解することはできない。じゃが、限りなく正解に近い推測をすることなら可能じゃ。
 その鍵が、目」

 「目……」

 「試合中の目の動きには非常に多くの情報が詰まっておる。
 オフェンス時なら、どこにパスを出そうか、どこにドリブルで向かおうか、どのディフェンスを警戒しようか、など。
 ディフェンス時なら、誰へのパスを警戒しているか、どのドリブルルートを警戒しているか、ボールを奪った後どう動こうか、など。
 オフ・ザ・ボール時なら、誰を警戒しているか、どのスペースを警戒しているか、逆にどのスペースが穴だと思っているか、など。
 目を見て、そこから頭の中を推測することで、お前さんは試合の支配者になれる。これは、ベンチじゃなく、試合に出場し、敵のプレーを間近で見られるお前さんにしか務められない役目じゃ」

 「でも、難しい……ですよね」

 「ほっほ、難しいとできないは違うぞい。
 それに、わしはお前さんなら可能だと判断したからこう言っておるんじゃ。
 お前さんには人の心を読み解く力がある。それはこの役目を果たすのに必ず役に立つ」

 「人の心を読み解く力……」

 「ブラドに凛、ヘンドリック、お前さんがキャプテンとして変えてきた者たちじゃ。
 これまでの経験の中で確実に力は身についておるよ」

 「だけど俺は、ブラドのときも、凛のときも、ヘンディのときも、一度間違いました。
 もしかしたら、あのまま終わっていたかもしれない」

 「ほっほ、失敗くらい誰にでもあるわい。大切なのは、その失敗をどう活かしたのか、最終的にどうしたのか、じゃ。
 お前さんに要求していることは、一度の失敗も無くこなせるほど簡単なものじゃないからのう。
 失敗して失敗して、それでも得る価値のあるものじゃ」

 「…………」

 「さあ、どうする?」

 「迷うまでもありません。
 正直、キャプテンとしては少しだけ手応えを感じていました。
 しかし、フィールドプレーヤーとしては真逆。
 作戦を考えたりはしていても、肝心のプレーでは役に立っていない。シュートだって1点も決められてないし……。
 俺もサッカー選手です。それは悔しい」

 「ふむ」

 「だけど、そんな俺でも、フィールドプレーヤーとして活躍できる。その方法を教えてくださった!
 全力で応えます。頑張ります。なので、これからもご指導のほど、どうかよろしくお願いします!」
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