グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

82 劣る者

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 「それで、今のお前さんに足りていないものはなんじゃ?」

 「足りていないもの……ですか。
 ……全部です」

 「ほっほ、よくわかっているのう」

 うっ。自分で言ったこととはいえ、否定されないのは中々にくるものがある。
 しかし事実だ。
 このチームの中で1番実力が足りていないのは紛れもなく俺。だから、この特訓場で少しでもみんなに追いつけるよう努力しないと。

 「それで、全てが足りていないお前さんに、今1番優先すべき特訓はなんじゃと思う?」

 「え……シュ、シュートの特訓とかですか……?
 俺まだ1点も決められてないですし」

 「違うのう」

 「そ、それじゃあ……パスですか?
 前線で他のストライカーに上手くパスを繋げられるように」

 「それも違うのう」

 違うのか……?
 クソっ、わからない。足りていないものが多すぎて何から足していけばいいのか……。

 「ほっほ、お前さんは少し認識を変える必要があるのう。
 ニューグレ世代なのに大した力が無い。じゃから他のメンバーより劣っている。
 そんなお前さんが特訓をしたところで大した意味は無いわい」

 「何故ですか?
 みんなに追いつけなかったとしても、それでも俺の実力が上がればチームの実力向上に繋がります。下手よりは少しでも上手い方がいいに決まってる。意味が無いなんてことは無いんじゃないですか」

 「何を言っておるんじゃ。
 その状態で実力の劣るお前さんを使う理由がどこにある。
 それならベンチの他の選手を使う方がいいに決まっておるじゃろう」

 「…………」

 ……直球だな。
 だがアウラス監督の言う通りだ。
 わざわざ俺を使う必要は無い。

 努力をすればなんでもできるなんてのは誤りだ。
 いくら努力をしても埋められない差というものは存在する。
 当然だろう。俺が努力をしている時、追い越したいその相手もまた努力をしているのだから。
 もし追い越せると思ったのなら、それは相手を見くびっている。相手が最大限の努力をしないのだと、自分以下の努力しかしないのだと思い込んでいる。

 少なくともこのチームにはそんな選手はほとんどいないだろう。
 みんなこの特訓場で全力で努力する。
 俺の努力が彼らの努力を上回る、なんて言うのは彼らに対する侮辱だろう。

 だが、そんなことで今更くじける俺でもない。
 例え実力で勝てなくても俺にできることは確実にある。

 「それでも……俺は自分にできることを全力でやりきるだけです」

 「ほっほ、そういうポジティブなところは気に入っているんじゃよ。
 それで、認識は変えられそうかのう」

 認識を変える……。
 今の俺の認識が間違っているのか。
 思い出せ、今までのアウラス監督との日々を。その中に必ずヒントはある……!

 あ、そういえば。
 最初、アウラス監督と出会って最初の試合。オグレスのロボットと行ったあの試合。監督はあの試合を見て俺をキャプテンに推薦してくれた。
 あのときのことを考えると……

 「……作戦立案の側に回ること……ですか?」

 「惜しいが違うのう。
 それなら別の人物にも可能じゃ。
 選手でもあるお前さんに望むことは何かわかるかの?」

 「選手……フィールド……あっ!
 オフ・ザ・ボール!」

 「ほっほ、正解じゃ」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ※用語
 オフ・ザ・ボール・・・・・・試合中、ボールを持っていないか、ボールプレーに密接に関与していない局面のこと。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「サッカー90分の試合の中で、実際にボールを触る時間は2~3分だと言われておる。
 もちろん、その2~3分はこれ以上ないほどに重要じゃ。しかし、その2~3分に強い選手は既に充分に集まっておる。
 お前さんが他者より劣るその2~3分の実力を伸ばすより、他の80分以上の時間でより活躍できるようになる方が理にかなっていると思わないかの?」

 ……そうだ。俺たちはチーム。
 大切なのは俺が強くなることじゃない。このチームが強くなること……勝つことなんだ。
 このチームが勝つことに繋がるのなら、俺は……

 「やります。
 オフ・ザ・ボールの極意、教えてください」

 「ほっほ、任せろじゃわい」

 そう言いながらアウラス監督は指を鳴らす。
 直後、サッカーコートと大勢の選手が現れる。

 「わしがお前さんの中で1番評価しているのは、その頭じゃ。
 柔軟な発想やサッカーに対する感性、チームを広い目で見ることができておる。身体能力が頭に追いついていないのがもったいないところじゃが。
 こういったものは才能と違ってセンスが重要じゃ。紛れもなくお前さんの武器じゃのう」

 俺の武器。
 こういったところが、俺をキャプテンに推薦した理由なのだろうか。

 「そしてこれが今回の特訓じゃ。
 ここにはサッカーのコートと、全く同じ能力を有した10人のチームが2つある。
 お前さんはこの片方のチームに加わり、ボールに関わることなく自分のチームを勝たせるのじゃ」

 「ボールに関わることなく……ですか」

 「オフ・ザ・ボールの練習じゃからのう。
 両チーム10人の能力は同じ。つまり、もう1人がこの勝負を制する鍵となる」

 「なるほど。
 それで、相手チームのもう1人は誰なんですか」

 「それはこいつじゃ」

 「……! クレ!」

 「ほっほ、本人ではないわい。
 クレートの能力を模倣したロボットじゃ」

 「ロ、ロボットですか……」

 「クレートにはお前さんとは違ってボールに関与してもらう。
 今回は最初じゃし、ハーフタイム無し45分の試合でお前さんが勝つことが目標じゃ。
 チームメイトは両キャプテン、つまりお前さんとクレートの指示通りに動くぞい。
 まあとにかくやってみい。行き詰まったらアドバイスくらいは出してやるからのう」

 なるほど。これは難しい。
 クレは俺たちのチームでもトップクラスの選手。それに、パスを出すことで能動的に試合を動かすこともできる。
 模倣したロボットということで、流石に実力は本人に比べたら一段落ちるだろう。しかし、それでもボールに関われない縛りを考えると相当厳しい勝負になる。

 だが、臆してはいられない。
 このチームで勝ち続けるためにも、ここで俺は強くならなければならない。
 さあ、特訓開始だ……!
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