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第四章 新たな一歩

84 確信

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 ー同時刻 ミーティングルームー

 「あー、疲れたぜえ。
 久しぶりにこんな走った走った」

 「将人か、お疲れ」

 「おうクレ。お前もお疲れさん。
 てか、ミーティング今からだよな? 人少なくねえか?」

 現在時刻は夜の9時。
 特訓を終えた選手には、この時間にミーティングルームへと行くよう伝えられていた。

 「今日の特訓が終わってないやつがいないからだろうな。恐らくまだ特訓場だろう」

 「はっ、龍也もいねえじゃねえか。
 あいつあんだけ偉そうにしといて、ノルマすら達成できねえとはとんだ口だけだな」

 「偉そう?」

 「偉そうだっただろ? 上から目線で指導してきやがって、腹立つぜ」

 「いや、そんなことは――」
 「ほんと、それ」

 不思議そうな表情をしているクレと違い、完全に同調するように凛は登場する。

 「なんなのあいつ、ボクらのコーチにでもなったつもり?」

 「わかるぜ、凛。あいつこの前の試合も0点だったくせに、1点決めた俺たちに何指導してんだって感じだよな」

 「へー、将人先輩と凛先輩は龍也先輩が特訓相手だったんスか」

 「「え?」」

 2人の会話に割り込んだのはザシャ。彼の言葉に将人と凛は頭にはてなマークを浮かべる。

 「俺は……って、ザシャは違うのか?」

 「あれ? 聞いてないんスか?
 ロボットに診断されたっスよね?
 あの結果、俺たちが1番効率良く特訓できる相手が特訓相手に選ばれたらしいっスよ」

 「「え……」」

 「だから俺はヘンディさんだったっス!
 尊敬してるヘンディさんだったっスから、この短期間でも結構成長できた気がするっスよ」

 「ちょ、ちょっと待って。
 それってつまり、ボクたちがあいつ龍也をそんけ――」
 「待て凛!
 違う! 違うぞ!
 効率良く、効率良く特訓できる相手だ。
 別に尊敬に限った話じゃない。だろ? ザシャ」

 「そ、そうっスけど。
 でも、特訓相手に選ぶくらいっスから、少しくらいのリスペクトはあるんじゃな――」
 「わー! わー!
 聞こえねえ! 何も聞こえねえ!
 そ、そうだクレ! お前は誰と特訓したんだ!?」

 聞きたくない事実を誤魔化すかのように将人はクレへと話を振る。

 「お、俺か!?
 俺は別に……」

 「なんだよ。歯切れ悪いなぁ」

 「ほっほ、相変わらず賑やかじゃのう。
 特訓の量が足りんかったか?」

 ミーティングルームへと入ってくるアウラスとフィロ。口調に反して表情は重めだ。

 「お疲れ様です。
 まだ全員揃っていないようですが大丈夫なのでしょうか」

 「えっと……いないのは龍也くん、ペペくん、レオくん、ブラドくん、ヘンドリックくんの5人ね。
 正直全員揃っているときに話したかったけど、特訓場の仕様的に仕方がないわ。
 大事な話だから早めに話しておいた方がいいと思ったの」

 「大事な話……ですか」

 大事な話と聞いて、質問したアランを筆頭に全員の表情が変わる。

 「ええ、これはあなたたちが特訓場に行く少し前、次の試合に関してゼラからの定期連絡を受けたときのこと」

 ー約8時間前ー

 「2試合目もお疲れ様ー!
 負けちゃったねぇ。大丈夫? もう後がないよー?」

 「大丈夫です、まだ後がなくなっただけですから。
 ここから勝ちに持っていく戦略は既に考えてありますし」

 「そー? ま、俺はどこが勝とうとどうでもいいけどねー」

 フィロが話している相手はヒロ。ゼラの幹部で、グローリー・リーグ予選Fブロック(オグレスやフロージアの所属するブロック)の担当だ。
 試合が終わる度、他試合の結果や次の試合の日程についての連絡がくるようになっている。

 「で、試合の報告だね?
 裏でやってたエクセラルとメラキュラの試合は、2-1でエクセラルの勝ちだよー。エクセラルは強いって聞いてたけど、1点差って結構ギリギリだねぇ。アウェイの試合でもないのに」

 「そうですね」

 ヒロが関係の無い話をしてくるのはいつものこと。
 要件だけをさっさと話してほしいフィロからしたら面倒な時間だ。普段通り適当に聞き流す。

 「そういえば、不思議なことは他にもあってね、オグレス代表のグロリアンズってチームなんだけど、事前情報だとあまり強くないチームのはずなのに、結構いい成績残してるんだー。
 今回も負けたとはいえ、不利なフィールドで1点差だしねっ」

 「ええ、私たちも勝つために必死ですから。
 様々な特訓をしたり、科学技術を使用したりと」

 「うんうん、そうだよねー。
 毎回毎回君たちの科学アイテムの申請を受けてるからその辺はよーく知ってるよー。
 でも、それだけじゃないよね?」

 ここでフィロは気づく。
 これはただの雑談じゃないと。

 「なんの話ですか?
 もしかして特訓施設のことだったりしますか? そこでの科学技術の使用もあなたたちへの申請が必要だというのなら申請しますが」

 「またまたー、誤魔化しちゃって。
 ……バレないとでも思った?」

 「なんの話かわかりかねます」

 「結論から言うとねー、君たちの選手はオグレス星人じゃないんじゃないかと疑ってるわけなのだよー」

 弱いはずのオグレスが勝ち進む以上、ゼラや他のチームに疑われる可能性が高いことは理解していた。
 しかし、疑われたとてそれを証明することは困難。

 予想される証明方法は2つ。
 まずはシンプルに戸籍情報。オグレスで生きてきたなら当然所持しているもの。
 そしてもう1つは遺伝子情報。見た目からの証明は難しいため、より深い情報が必要となってくる。

 オグレスはもしもの時を想定し、選手たちのオグレスでの偽の戸籍情報を作成していた。
 また、遺伝子検査された際、オグレス星人だと証明されるような薬の開発にも既に成功していた。

 オグレス側は疑いを持たれたところで回避する手段を既に用意している。
 そのことをフィロは当然理解している。故に多少の疑惑に動じたりはしない。

 「私たちが他の星から選手を借りていると?
 そのような事実はありませんが、もし疑っているのならば、何かしらの調査をしていただいても構いませんが」

 大丈夫と自分に言い聞かすフィロ。
 顔色一つ変えず、平然と受け答えをする。まるでやましいことなど何も無いかのように。

 しかし、そんなフィロを見ながら、ヒロは不敵に笑いこう告げる。

 「あれあれ? もしかしてフィロちゃん、俺が"疑惑"をかけているとでも思ってる?」

 「え?」

 「違う違うなぁ。
 "疑惑"じゃなくて、"確信"だよ」
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