グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

文字の大きさ
84 / 109
第四章 新たな一歩

84 確信

しおりを挟む
 ー同時刻 ミーティングルームー

 「あー、疲れたぜえ。
 久しぶりにこんな走った走った」

 「将人か、お疲れ」

 「おうクレ。お前もお疲れさん。
 てか、ミーティング今からだよな? 人少なくねえか?」

 現在時刻は夜の9時。
 特訓を終えた選手には、この時間にミーティングルームへと行くよう伝えられていた。

 「今日の特訓が終わってないやつがいないからだろうな。恐らくまだ特訓場だろう」

 「はっ、龍也もいねえじゃねえか。
 あいつあんだけ偉そうにしといて、ノルマすら達成できねえとはとんだ口だけだな」

 「偉そう?」

 「偉そうだっただろ? 上から目線で指導してきやがって、腹立つぜ」

 「いや、そんなことは――」
 「ほんと、それ」

 不思議そうな表情をしているクレと違い、完全に同調するように凛は登場する。

 「なんなのあいつ、ボクらのコーチにでもなったつもり?」

 「わかるぜ、凛。あいつこの前の試合も0点だったくせに、1点決めた俺たちに何指導してんだって感じだよな」

 「へー、将人先輩と凛先輩は龍也先輩が特訓相手だったんスか」

 「「え?」」

 2人の会話に割り込んだのはザシャ。彼の言葉に将人と凛は頭にはてなマークを浮かべる。

 「俺は……って、ザシャは違うのか?」

 「あれ? 聞いてないんスか?
 ロボットに診断されたっスよね?
 あの結果、俺たちが1番効率良く特訓できる相手が特訓相手に選ばれたらしいっスよ」

 「「え……」」

 「だから俺はヘンディさんだったっス!
 尊敬してるヘンディさんだったっスから、この短期間でも結構成長できた気がするっスよ」

 「ちょ、ちょっと待って。
 それってつまり、ボクたちがあいつ龍也をそんけ――」
 「待て凛!
 違う! 違うぞ!
 効率良く、効率良く特訓できる相手だ。
 別に尊敬に限った話じゃない。だろ? ザシャ」

 「そ、そうっスけど。
 でも、特訓相手に選ぶくらいっスから、少しくらいのリスペクトはあるんじゃな――」
 「わー! わー!
 聞こえねえ! 何も聞こえねえ!
 そ、そうだクレ! お前は誰と特訓したんだ!?」

 聞きたくない事実を誤魔化すかのように将人はクレへと話を振る。

 「お、俺か!?
 俺は別に……」

 「なんだよ。歯切れ悪いなぁ」

 「ほっほ、相変わらず賑やかじゃのう。
 特訓の量が足りんかったか?」

 ミーティングルームへと入ってくるアウラスとフィロ。口調に反して表情は重めだ。

 「お疲れ様です。
 まだ全員揃っていないようですが大丈夫なのでしょうか」

 「えっと……いないのは龍也くん、ペペくん、レオくん、ブラドくん、ヘンドリックくんの5人ね。
 正直全員揃っているときに話したかったけど、特訓場の仕様的に仕方がないわ。
 大事な話だから早めに話しておいた方がいいと思ったの」

 「大事な話……ですか」

 大事な話と聞いて、質問したアランを筆頭に全員の表情が変わる。

 「ええ、これはあなたたちが特訓場に行く少し前、次の試合に関してゼラからの定期連絡を受けたときのこと」

 ー約8時間前ー

 「2試合目もお疲れ様ー!
 負けちゃったねぇ。大丈夫? もう後がないよー?」

 「大丈夫です、まだ後がなくなっただけですから。
 ここから勝ちに持っていく戦略は既に考えてありますし」

 「そー? ま、俺はどこが勝とうとどうでもいいけどねー」

 フィロが話している相手はヒロ。ゼラの幹部で、グローリー・リーグ予選Fブロック(オグレスやフロージアの所属するブロック)の担当だ。
 試合が終わる度、他試合の結果や次の試合の日程についての連絡がくるようになっている。

 「で、試合の報告だね?
 裏でやってたエクセラルとメラキュラの試合は、2-1でエクセラルの勝ちだよー。エクセラルは強いって聞いてたけど、1点差って結構ギリギリだねぇ。アウェイの試合でもないのに」

 「そうですね」

 ヒロが関係の無い話をしてくるのはいつものこと。
 要件だけをさっさと話してほしいフィロからしたら面倒な時間だ。普段通り適当に聞き流す。

 「そういえば、不思議なことは他にもあってね、オグレス代表のグロリアンズってチームなんだけど、事前情報だとあまり強くないチームのはずなのに、結構いい成績残してるんだー。
 今回も負けたとはいえ、不利なフィールドで1点差だしねっ」

 「ええ、私たちも勝つために必死ですから。
 様々な特訓をしたり、科学技術を使用したりと」

 「うんうん、そうだよねー。
 毎回毎回君たちの科学アイテムの申請を受けてるからその辺はよーく知ってるよー。
 でも、それだけじゃないよね?」

 ここでフィロは気づく。
 これはただの雑談じゃないと。

 「なんの話ですか?
 もしかして特訓施設のことだったりしますか? そこでの科学技術の使用もあなたたちへの申請が必要だというのなら申請しますが」

 「またまたー、誤魔化しちゃって。
 ……バレないとでも思った?」

 「なんの話かわかりかねます」

 「結論から言うとねー、君たちの選手はオグレス星人じゃないんじゃないかと疑ってるわけなのだよー」

 弱いはずのオグレスが勝ち進む以上、ゼラや他のチームに疑われる可能性が高いことは理解していた。
 しかし、疑われたとてそれを証明することは困難。

 予想される証明方法は2つ。
 まずはシンプルに戸籍情報。オグレスで生きてきたなら当然所持しているもの。
 そしてもう1つは遺伝子情報。見た目からの証明は難しいため、より深い情報が必要となってくる。

 オグレスはもしもの時を想定し、選手たちのオグレスでの偽の戸籍情報を作成していた。
 また、遺伝子検査された際、オグレス星人だと証明されるような薬の開発にも既に成功していた。

 オグレス側は疑いを持たれたところで回避する手段を既に用意している。
 そのことをフィロは当然理解している。故に多少の疑惑に動じたりはしない。

 「私たちが他の星から選手を借りていると?
 そのような事実はありませんが、もし疑っているのならば、何かしらの調査をしていただいても構いませんが」

 大丈夫と自分に言い聞かすフィロ。
 顔色一つ変えず、平然と受け答えをする。まるでやましいことなど何も無いかのように。

 しかし、そんなフィロを見ながら、ヒロは不敵に笑いこう告げる。

 「あれあれ? もしかしてフィロちゃん、俺が"疑惑"をかけているとでも思ってる?」

 「え?」

 「違う違うなぁ。
 "疑惑"じゃなくて、"確信"だよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

異世界からの召喚者《完結》

アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。 それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。 今回、招かれたのは若い女性だった。 ☆他社でも公開

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...