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死んでるように生きていたい

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死んでるように生きていたいと常々思う。

別に「死にたい」わけではない。確かに生きていたいのである。

例えばクラゲのようなイメージだ。水の中をゆらゆらと漂って、何を考えてるのかわからない、もしかしたら何も考えてないかもしれない、けれど確かに生きていて時折動いてみせる。

僕が死んでるように生きられたと思うのは大学時代のことである。

必要最低限の単位取得の為に必要最低限の授業に出席する。授業料に見合った「責務」さえ果たせば後の時間は完全に自由だ。

僕はお金が無くても十分楽しめる人間なので、派遣会社に登録してちょっと金が欲しい時や、今週は暇だなぁと思った時に働いていた。

基本的に物欲がないので「バイク買うためにバイトのシフトフルで入れたんだ~」みたいな事は無かった。ましてやバイト先で出会いを求めたり、憧れのお洒落なカフェで働きたいと思ったことは1度も無かった。

電車代や美術館・博物館などの入場料、たまに飲みに行く金があればそれで満ち足りた。


僕に至っては「死ぬほど熱中するもの」がないことが「死んでるように生きていたい」理由かもしれない。

僕のとある知り合いの話である。その人はいつもお金がない。給料が入ってもカードの支払いやらで数日後にはすっからかんである。その人はなぜお金がないのかというと、好きなアニメのグッズや、スマホゲームの課金に費やしているらしい。

僕はお金は命に匹敵すると考えている。お金の出所の大半は働くことによって得る給料である。働くという事は人生の時間の一部、つまり命の一部を削っていることになる。

つまり、お金を使うことは命を削っていることだと思っている。命に匹敵するお金や時間をいくら捧げても全く惜しくないほど熱中している時、それは「死ぬほど熱中するもの」になるのだろう。

曲の歌詞だったり、物語のセリフではしばしば「死んでるように生きたくない」みたいなことが書かれていることがある。

きっと世の中には生き生きとした日々を過ごしていたい人がいて、そんなメッセージに共感しているのだろう。周囲にもそういった空気を醸し出している人はいくらかいる。いや、むしろ周囲に「死んでるように生きたい」と思う人はまず見当たらない。

「死んでるように生きたくない」、そういった価値観を否定するつもりはないし、羨ましく思う事もある。好きなことがあってそれを夢中で追いかけることは楽しい。もし好きなことを仕事して、それでお金をもらえたらどんなに良いだろう。

ただ、死んでるように生きてちゃダメなのか?「つまらない奴だ」、「熱意を持て」、僕はただ生きていたいだけなのに、なぜその生き方を否定しようとしてくる?「生き生きと生きる」自由があるなら「死んでるように生きる」自由もあるはずだ。

布団に仰向けになり、天井と床の間をボーっと見つめる自由が欲しい。
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