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第36話
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「でも遠くなくて良かったですよね」
「せいぜい五百メートルというところか」
「芯まで凍る前に辿り着けそうだね」
夜間の吹雪で視界は最悪だが、幸いターミナルビルの方向は明かりが集中しているので判別可能だ。いかにも暖かそうに見えるそこを目指し、上衣をドレスシャツとタイだけにした霧島は、瑞樹と京哉が歩きやすいよう積もった雪を踏み固めながら進んでゆく。
三十センチほど積もった雪は凍りかけて歩きづらく、五分も経たないうちに足元はびしょ濡れになった。雪の下は融雪装置としてコンクリートの至る所に穴を空け水を流しているが機能が追い付いていない。却ってガリガリに凍り付いてしまっている。
途中で三人は雪を払い合いながら歩いた。まつ毛まで凍りつきそうで意外に時間を食って、十階建てくらいのターミナルビルの形がはっきり見えるまでに十五分近くを要する。
「瑞樹、大丈夫か?」
「お陰様で何とか。熱いシャワー浴びたいな」
「忍さん、貴方こそ肩は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。あと五十メートル、凍ってしまう前に入ろう」
その言葉で京哉は前方のターミナルビルを仰ぎ見た、そのとき不意に辺り全体が闇に沈んだ。ターミナルビルの窓という窓から洩れていた明かりが一斉に消えたのだ。
「えっ、どうしたのっ!?」
「瑞樹、落ち着け。停電か?」
「らしいですね。フェイルセーフが働けばすぐに復旧するでしょうけど」
三人は辺りを見渡した。京哉は背後の空港面を照らしていたライトまでが消えていることに気付く。というよりも明かりという明かりが消え、人工光が何処にも見当たらなかった。雪明かりの中、携帯のバックライトで三人は互いに顔を見合わせた。
「これって、どういうこと?」
「システムダウンは車両だけじゃなかったみたいですね」
「喋るのなら、まずは雪の降らない所に行きたいのだがな」
「あっ、そうでした。あんなに食べてこんなに寒いんじゃ、忍さんが冬眠しちゃう」
「私はクマではない」
既に誰も聞いていない。三人は滑らぬよう気を付けながらターミナルビルのロータリーへ駆け込んだ。自動ドアも停止しているので足元のラッチを踏んで押し開ける。
まだヒータの恩恵は残っていて、慌てて三人は融ける前に雪を払い落とした。
携帯のバックライトで辺りを照らしながら京哉は冷静な声を出す。
「この状態で航空機はまず出航できないでしょう。たぶん管制も死んでますよ」
「まずは情報収集だ。ロビーに行ってみよう」
エレベーターも死んでいて二階へは階段を歩いて上がった。ロビーフロアは他の客たちの携帯のバックライトがチラチラと辺りを照らし、真の闇ではなかった。
「当然、インフォメーションも死んでいるだろうな」
「バックアップの自家発電もないのかな?」
「フェイルセーフも機能してないのは厄介ですよね」
雪の行軍で疲れたのか、瑞樹が傍のベンチに座り込む。
「昼間なら良かったのに。言っても仕方ないけど」
「いや、夜間で利用客が少ないのは却ってパニックが防げて良かっただろう」
「でもこうしてても仕方ないですよね。僕、カウンターで訊いてきますから」
言い置いて京哉は一人離れようとした。けれどカウンターも見えているのに霧島もついてくる。携帯のバックライトが集中していてそこだけ明かりが列を成していた。
聞き分けのいい利用客が多かったようで予想より時間は掛からなかった。だが京哉の番になってみると係の女性からは想像通りの科白しか聞くことができなかった。
「申し訳ありませんが、現在当空港内の全ての電源が機能しない状態です。出航便も全て欠航中ですが原因究明と現状復帰に向けて誠意努力しておりますのでご了承下さい。なお機能が回復致しましたらご連絡差し上げますので、携帯のメアドをどうぞ」
備え付けのパソコンではなく、自分の手にした携帯にアドレスを打ち込む女性係員たちは笑顔を作ることを既に止めていた。メアドを入力して貰い瑞樹の許に戻る。
「もう街に出てホテルでも探した方がいいんじゃないでしょうか?」
「この上階の空港ホテルも死んでいるらしいからな」
「じゃあ、早くしないとタクシーがなくなるかも知れないよ?」
急いで三人は一階のエントランスに向かった。ロータリーには利用客が並び、外部から回ってくるタクシーは普通に動いていることが分かった。
十分ほど待ってタクシーに乗り込み、霧島が早口の英語で喋ってドライバーと適当なホテルを相談する。まもなくドライバーは心得たように頷き発車させた。
「良かった、街に電気はきてるみたいですよ」
「まあ、今どき電力が落ちるなどという事故は、そうはないだろうからな」
「もしかしてテロか何かかな?」
「さあな、可能性はあるだろうが」
「でも明日の昼間には、空港サイドも何か手は考えますよ、きっと」
楽観的な京哉の意見で瑞樹は表情を緩ませた。
「せいぜい五百メートルというところか」
「芯まで凍る前に辿り着けそうだね」
夜間の吹雪で視界は最悪だが、幸いターミナルビルの方向は明かりが集中しているので判別可能だ。いかにも暖かそうに見えるそこを目指し、上衣をドレスシャツとタイだけにした霧島は、瑞樹と京哉が歩きやすいよう積もった雪を踏み固めながら進んでゆく。
三十センチほど積もった雪は凍りかけて歩きづらく、五分も経たないうちに足元はびしょ濡れになった。雪の下は融雪装置としてコンクリートの至る所に穴を空け水を流しているが機能が追い付いていない。却ってガリガリに凍り付いてしまっている。
途中で三人は雪を払い合いながら歩いた。まつ毛まで凍りつきそうで意外に時間を食って、十階建てくらいのターミナルビルの形がはっきり見えるまでに十五分近くを要する。
「瑞樹、大丈夫か?」
「お陰様で何とか。熱いシャワー浴びたいな」
「忍さん、貴方こそ肩は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。あと五十メートル、凍ってしまう前に入ろう」
その言葉で京哉は前方のターミナルビルを仰ぎ見た、そのとき不意に辺り全体が闇に沈んだ。ターミナルビルの窓という窓から洩れていた明かりが一斉に消えたのだ。
「えっ、どうしたのっ!?」
「瑞樹、落ち着け。停電か?」
「らしいですね。フェイルセーフが働けばすぐに復旧するでしょうけど」
三人は辺りを見渡した。京哉は背後の空港面を照らしていたライトまでが消えていることに気付く。というよりも明かりという明かりが消え、人工光が何処にも見当たらなかった。雪明かりの中、携帯のバックライトで三人は互いに顔を見合わせた。
「これって、どういうこと?」
「システムダウンは車両だけじゃなかったみたいですね」
「喋るのなら、まずは雪の降らない所に行きたいのだがな」
「あっ、そうでした。あんなに食べてこんなに寒いんじゃ、忍さんが冬眠しちゃう」
「私はクマではない」
既に誰も聞いていない。三人は滑らぬよう気を付けながらターミナルビルのロータリーへ駆け込んだ。自動ドアも停止しているので足元のラッチを踏んで押し開ける。
まだヒータの恩恵は残っていて、慌てて三人は融ける前に雪を払い落とした。
携帯のバックライトで辺りを照らしながら京哉は冷静な声を出す。
「この状態で航空機はまず出航できないでしょう。たぶん管制も死んでますよ」
「まずは情報収集だ。ロビーに行ってみよう」
エレベーターも死んでいて二階へは階段を歩いて上がった。ロビーフロアは他の客たちの携帯のバックライトがチラチラと辺りを照らし、真の闇ではなかった。
「当然、インフォメーションも死んでいるだろうな」
「バックアップの自家発電もないのかな?」
「フェイルセーフも機能してないのは厄介ですよね」
雪の行軍で疲れたのか、瑞樹が傍のベンチに座り込む。
「昼間なら良かったのに。言っても仕方ないけど」
「いや、夜間で利用客が少ないのは却ってパニックが防げて良かっただろう」
「でもこうしてても仕方ないですよね。僕、カウンターで訊いてきますから」
言い置いて京哉は一人離れようとした。けれどカウンターも見えているのに霧島もついてくる。携帯のバックライトが集中していてそこだけ明かりが列を成していた。
聞き分けのいい利用客が多かったようで予想より時間は掛からなかった。だが京哉の番になってみると係の女性からは想像通りの科白しか聞くことができなかった。
「申し訳ありませんが、現在当空港内の全ての電源が機能しない状態です。出航便も全て欠航中ですが原因究明と現状復帰に向けて誠意努力しておりますのでご了承下さい。なお機能が回復致しましたらご連絡差し上げますので、携帯のメアドをどうぞ」
備え付けのパソコンではなく、自分の手にした携帯にアドレスを打ち込む女性係員たちは笑顔を作ることを既に止めていた。メアドを入力して貰い瑞樹の許に戻る。
「もう街に出てホテルでも探した方がいいんじゃないでしょうか?」
「この上階の空港ホテルも死んでいるらしいからな」
「じゃあ、早くしないとタクシーがなくなるかも知れないよ?」
急いで三人は一階のエントランスに向かった。ロータリーには利用客が並び、外部から回ってくるタクシーは普通に動いていることが分かった。
十分ほど待ってタクシーに乗り込み、霧島が早口の英語で喋ってドライバーと適当なホテルを相談する。まもなくドライバーは心得たように頷き発車させた。
「良かった、街に電気はきてるみたいですよ」
「まあ、今どき電力が落ちるなどという事故は、そうはないだろうからな」
「もしかしてテロか何かかな?」
「さあな、可能性はあるだろうが」
「でも明日の昼間には、空港サイドも何か手は考えますよ、きっと」
楽観的な京哉の意見で瑞樹は表情を緩ませた。
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