forget me not~Barter.19~

志賀雅基

文字の大きさ
36 / 51

第36話

しおりを挟む
「でも遠くなくて良かったですよね」
「せいぜい五百メートルというところか」
「芯まで凍る前に辿り着けそうだね」

 夜間の吹雪で視界は最悪だが、幸いターミナルビルの方向は明かりが集中しているので判別可能だ。いかにも暖かそうに見えるそこを目指し、上衣をドレスシャツとタイだけにした霧島は、瑞樹と京哉が歩きやすいよう積もった雪を踏み固めながら進んでゆく。

 三十センチほど積もった雪は凍りかけて歩きづらく、五分も経たないうちに足元はびしょ濡れになった。雪の下は融雪装置としてコンクリートの至る所に穴を空け水を流しているが機能が追い付いていない。却ってガリガリに凍り付いてしまっている。

 途中で三人は雪を払い合いながら歩いた。まつ毛まで凍りつきそうで意外に時間を食って、十階建てくらいのターミナルビルの形がはっきり見えるまでに十五分近くを要する。

「瑞樹、大丈夫か?」
「お陰様で何とか。熱いシャワー浴びたいな」
「忍さん、貴方こそ肩は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。あと五十メートル、凍ってしまう前に入ろう」

 その言葉で京哉は前方のターミナルビルを仰ぎ見た、そのとき不意に辺り全体が闇に沈んだ。ターミナルビルの窓という窓から洩れていた明かりが一斉に消えたのだ。

「えっ、どうしたのっ!?」
「瑞樹、落ち着け。停電か?」
「らしいですね。フェイルセーフが働けばすぐに復旧するでしょうけど」

 三人は辺りを見渡した。京哉は背後の空港面を照らしていたライトまでが消えていることに気付く。というよりも明かりという明かりが消え、人工光が何処にも見当たらなかった。雪明かりの中、携帯のバックライトで三人は互いに顔を見合わせた。

「これって、どういうこと?」
「システムダウンは車両だけじゃなかったみたいですね」
「喋るのなら、まずは雪の降らない所に行きたいのだがな」

「あっ、そうでした。あんなに食べてこんなに寒いんじゃ、忍さんが冬眠しちゃう」
「私はクマではない」

 既に誰も聞いていない。三人は滑らぬよう気を付けながらターミナルビルのロータリーへ駆け込んだ。自動ドアも停止しているので足元のラッチを踏んで押し開ける。

 まだヒータの恩恵は残っていて、慌てて三人は融ける前に雪を払い落とした。
 携帯のバックライトで辺りを照らしながら京哉は冷静な声を出す。

「この状態で航空機はまず出航できないでしょう。たぶん管制も死んでますよ」
「まずは情報収集だ。ロビーに行ってみよう」

 エレベーターも死んでいて二階へは階段を歩いて上がった。ロビーフロアは他の客たちの携帯のバックライトがチラチラと辺りを照らし、真の闇ではなかった。

「当然、インフォメーションも死んでいるだろうな」
「バックアップの自家発電もないのかな?」
「フェイルセーフも機能してないのは厄介ですよね」

 雪の行軍で疲れたのか、瑞樹が傍のベンチに座り込む。

「昼間なら良かったのに。言っても仕方ないけど」
「いや、夜間で利用客が少ないのは却ってパニックが防げて良かっただろう」
「でもこうしてても仕方ないですよね。僕、カウンターで訊いてきますから」

 言い置いて京哉は一人離れようとした。けれどカウンターも見えているのに霧島もついてくる。携帯のバックライトが集中していてそこだけ明かりが列を成していた。
 聞き分けのいい利用客が多かったようで予想より時間は掛からなかった。だが京哉の番になってみると係の女性からは想像通りの科白しか聞くことができなかった。

「申し訳ありませんが、現在当空港内の全ての電源が機能しない状態です。出航便も全て欠航中ですが原因究明と現状復帰に向けて誠意努力しておりますのでご了承下さい。なお機能が回復致しましたらご連絡差し上げますので、携帯のメアドをどうぞ」

 備え付けのパソコンではなく、自分の手にした携帯にアドレスを打ち込む女性係員たちは笑顔を作ることを既に止めていた。メアドを入力して貰い瑞樹の許に戻る。

「もう街に出てホテルでも探した方がいいんじゃないでしょうか?」
「この上階の空港ホテルも死んでいるらしいからな」
「じゃあ、早くしないとタクシーがなくなるかも知れないよ?」

 急いで三人は一階のエントランスに向かった。ロータリーには利用客が並び、外部から回ってくるタクシーは普通に動いていることが分かった。

 十分ほど待ってタクシーに乗り込み、霧島が早口の英語で喋ってドライバーと適当なホテルを相談する。まもなくドライバーは心得たように頷き発車させた。

「良かった、街に電気はきてるみたいですよ」
「まあ、今どき電力が落ちるなどという事故は、そうはないだろうからな」
「もしかしてテロか何かかな?」
「さあな、可能性はあるだろうが」
「でも明日の昼間には、空港サイドも何か手は考えますよ、きっと」

 楽観的な京哉の意見で瑞樹は表情を緩ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...