Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

文字の大きさ
18 / 41

第18話

しおりを挟む
「いらっしゃいませ。お二人様ですね?」
「はい。できれば喫煙席でお願いします」

 制服のお姉さんに案内されたテーブル席は、ロイとテレンスにアドリアンとゲイリーの四人が着いたテーブルの隣だった。片手を挙げておいて着席し、二人は電子メニュー表を眺めてクレジットと交換にセットメニューのボタンを押して注文する。
 まもなく注文した品が運ばれてきて、二人は行儀よく手を合わせると食べ始めた。

「あ、このチーズハンバーグ、美味しい。分けてあげるね」
「じゃあ、こっちの肉も半分こな」

 隣でも食事をしながらアドリアンとゲイリーが、二人の様子を眺めてニヤニヤしている。

「仲のいい夫婦だな。美人二人がくっついてたら、俺には回ってこない訳だよ」

 なととアドリアンが天井を仰いだ。更にゲイリーがハイファの首筋をチラ見して言う。

「その分だと隊長と副長は失恋ってことか。気の毒なもんだ」

 パスタのセットをさっさと食したロイがクールな口調で訊いてきた。

「そこまでバディで仲がいいと、ときに仕事上の邪魔になりませんか?」
「うん。一切邪魔になんかならないよ」

 即答したハイファに皆が笑い出す。そこから先はそれぞれが持っている銃の話などをしながらハイファは優雅に食事を進め、シドはあっという間に食べ尽くして煙草を我慢した。
 セットメニューのドリンクは皆がホットコーヒーを選ぶ。シドとゲイリーの二人は喫煙タイムだ。コーヒーを啜りながらハイファはリモータ操作をしている。

「メシどきに珍しいな、基礎資料でも読んでるのか?」

 と、シドは訊いてしまってから、実父のチェンバーズが誘拐されていることを思い出した。気になるのは当然のことで、馬鹿なことを言った自分に呆れる。
 だがハイファは気にした風でもなく頷いた。

「スティーブから流された基礎資料も元は別室基礎資料から抜粋したものらしいけど、今読んでるのは抜粋前の別室オリジナルヴァージョンだよ」
「ふうん。何か面白いことでも書いてあったか?」

「面白くはないけど、ラーリアには歓楽街が多いんだって。それで歓楽街を仕切るのはやっぱりマフィア、それもロニアマフィアの看板をそのまま背負った分家なんだってサ」

 ロニアマフィアと口にしたハイファは少し憂鬱そうな顔をしている。シドも気分が宜しくない。二人にとってロニアマフィアは刑事課業で手を焼かされているだけでなく、苦々しい別室任務の数々を思い起こさせるものなのだ。

「そうか。だが今回マフィアは関係ねぇし、何があっても俺がお前を護るからさ」
「うん。でも僕だって貴方の背は護るからね、バディなんだから」

 またも隣からニヤニヤされていたが、二人は構わず微笑んで頷き合った。
 煙草を三本ずつ灰にして、コーヒーカップを干してしまうと六人は一緒に席を立つ。

 そうして十三時三十分、ファミリーレストランを出て通関に向かった。臭気探知機やX‐RAYサーチなどの機器の森を抜け、係員に武器所持許可証を見せて通関をクリアする。あとは一階ロータリーからリムジンコイルで宙艦まで運んで貰うだけだ。

 降ろされて見上げた宙艦は大型で、全長七、八十メートルもあるだろうか。

「へえ、結構新しいタイプの宙艦だね。乗り心地も良さそうじゃない?」
「四十分ごとに三回のワープ、二時間四十分の旅は快適に過ごせそうだな」

 チェックパネルを通過し、エアロックをくぐって客室に入る。内部はどんな艦とも同じで別段違いはなかった。シートに腰掛けたシドは次々と乗り込んでくる客を観察する。

 主産業の高級木材や地下資源関係のビジネスマンらしい、スーツのお父さんが多かった。次がラフな装いで手荷物の多い客だ。これは歓楽街狙いの観光客だろうか。あとはマフィア関係だろう、スーツ着用だがリモータにデコレーションを施した目つきの悪い客が混じっている。

 そうして眺めているとイリヤにスティーブ、ジェロームにリュノーが乗り込んできた。

「ようし、乗り遅れはないようだな」

 皆を見て確認したのち三列シートの通路側、ハイファの隣にスティーブが腰掛ける。それだけではなくハイファに話しかけ始めた。
 フェイダル星系第三惑星ラーリアの高級木材を採る森が、過去にスナイプで行った何処ぞのジャングルに似ているらしいとか、星系首都ルーシャの季候は現在雨季であのオペレーションを思い出すとか、話題は過去のことばかりである。

 無視もできずにハイファは話を合わせているが、当然シドは面白くない。
 おまけに通路を挟んだ向こうから、イリヤが整った顔に涼しい笑みを浮かべて流し見てくるのも気に食わなかった。もっとおまけにスティーブが聞こえるように言い放つ。

「スコールは最高の防音壁だもんな、あのときばかりはハイファス、お前も存分に声を上げてさ……」

 CAから配られたワープ薬を飲み下すと、シドは備え付けの毛布を取り出した。一枚を広げて自分とハイファに被せ、毛布の下でしっかりとハイファの手を握る。温かなハイファの右手が強く握り返してきて、シドの左薬指のペアリングをなぞった。満足して宣言する。

「ワープラグ対策だ、一緒に寝ようぜ」
「そうだね、お腹いっぱいで僕も眠いよ」

 ワープラグとは他星に行った際の時差ぼけのことだ。
 肩を凭れさせ合って目を瞑る寸前に、シドはスティーブの方を見て「ふん」と鼻で笑う。反応も確かめずにガン無視して、ハイファのソフトスーツの肩に黒髪を擦りつけた。

 そうして出航のアナウンスが入ったときには、既に二人とも寝息を立てていた。

◇◇◇◇

 到着十五分前のアナウンスでシドは目覚めた。もう少し眠っていたかったが仕方ない。大欠伸をかましながら対衝撃ジャケットの袖で目を擦り、ついでに垂れたヨダレをごしごし拭う。
 すると隣でハンカチを差し出し掛けたハイファが微妙な顔つきをしてシドを見ていた。

「何だよ、ハイファ?」
「ううん、これが『七分署・抱かれたい男ランキング』連続トップの裏側なんだと思って」
「お前はトップタイだろうが。ふあーあ」

 ともあれ任務に向けて頭を切り換えなければならない。まずは宙艦内に流れる電波を捉え、星系首都ルーシャ標準時をテラ標準時と並べてリモータに表示する。

「ふあーあ。自転周期が二十八時間三十三分三秒で、着いたら十五時十五分か」
「酷いワープラグは免れそうだね」

 欠伸をしながら二人で毛布を片付けた。他のメンバーも眠っていたようで、同じく毛布を畳んでいる。そうしているうちにも気の早い乗客が通路に列を作り始めた。

 まもなく僅かな振動が起こって無事到着のアナウンスが入る。十名の男たちは客列に混じって並び、エアロックを抜けた。外に出た途端に蒸し暑い空気に押し包まれる。
 湿度の高さに雨でも降るのかとシドは空を見上げたが、目の底が痛くなるような眩しさで恒星フェイダルは照りつけていた。思わず毒づきたくなるような日差しである。

「シド、ボーッとしてると置いてきぼりだよ」
「ん、ああ、すまん」

 宙港メインビルまで送ってくれるリムジンコイルに乗り込んだ。涼しく軽い文明の風を浴びながら窓外を眺める。宙港面には大型宙艦が多数停泊していた。

 メインビルがあると思しき進行方向を注視すると、五、六十階はありそうなビルが三本も生えている。複数のスカイチューブで強固に繋がれた三つ子のような、どれがメインビルなのかシドには分からなかった。星系首都とはいえ、かなりの大規模宙港である。

 プログラミングされたリムジンコイルは一番手前のビルのロータリーに滑り込み、停止し身を沈ませた。降りてビルに入り、ぞろぞろと歩いて通関をクリアする。

「十五時四十五分、やっと釈放パイだな。んで、これからどうすんだ、イリヤ?」
「私としては別室任務で他星に慣れたシドとハイファスに倣おうと思っているんだが」
「何だよ、俺たち任せってか。じゃあまずはこっちだ」

 ロビーフロアを歩き出したシドとハイファに皆がついて歩いた。向かったのは誰もが利用できるインフォメーション端末のブースである。ハイファが手早くホロキィボードを叩き、ダウンロードしたラーリアのマップをシドもリモータに取り込んだ。

「基礎資料にもマップはあるけど、重ねてより詳しくしておくのは基本だからね」

 皆は頷いてマップをリモータに落とし、資料ファイルのマップと重ねる。
 次に二人を先頭にしてエレベーターに乗り、ぞろぞろと屋上に向かった。階数表示ボタンでシドはこのビルが五十八階建てだと知る。貼られた電子案内図に依ると、ショッピングモールやレストランフロアも入居しているらしい。

「スカイチューブで繋がったビルは二棟とも宙港付属ホテルか」
「あれだけ大きなビルが二棟も丸ごとホテルなんて、すごいキャパシティだよ」
「そんなに高級木材ってのは儲かるもんなのか?」

「さあ? 地下資源はここ数十年で発見されて採掘し始めたばかりだしねえ」
「その地下資源のプラチナ鉱山を親父さんは視察にきたんだな」
「そうだね。レアメタルはFCの十八番だから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

徒野先輩の怪異語り

佐倉みづき
キャラ文芸
「助けて、知らない駅にいる――」 きさらぎ駅に迷い込み行方不明となった幼馴染みを探す未那は、我が物顔で民俗学予備研究室に陣取る院生・徒野荒野を訪ねる。 あらゆる怪談や怪奇現象を蒐集、研究する彼の助手にされた未那は徒野と共に様々な怪異に行き当たることに…… 「いつの世も、怪異を作り出すのは人間なんだ」

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

処理中です...