Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

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第19話

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 屋上に着くと数名の客と共に十人の男はエレベーターを降りた。
 そこは宙港にありがちな定期BEL停機場になっていて、風よけドームはあったが頻繁なBELの出入りのために殆ど開放状態である。
 エレベーターホールから一歩踏み出すと、シドの黒髪は渦巻く風でクシャクシャ、ハイファの金のしっぽも吹き乱された。

 構わず二人は残るメンバーを引き連れ、大型・中型のBEL群を避けてビルのふちに歩み寄る。ここにきたのはマップだけでは分からない街の雰囲気や匂いといったものを目で見て確かめるためだった。周囲の様子を知るにはこれが一番手っ取り早いのだ。
 だが落下防止に張り巡らされた透明樹脂壁から地上を俯瞰し、思わぬ光景に二人は唸る。

「うーん、そうきたか。高層ビルがたったの七本とはね」
「あー、思ってたよりも平面的だよな。それに何つーか、ドーナツみてぇだな」

 この立派な宙港ビル三棟のイメージからは随分かけ離れていた。遠くぼんやりと霞んで見えるのは低い山地で、その山の緑が零れ出したように裾野が広がり、街との境目が曖昧になっている。盆地となった街の建物は低く、どれも十階建て程度の高さだと思われた。

 そして中央付近には高度文明圏がそこだけテレポートしてきたかのように、ここからは針のように細く見える高層ビルが七本だけ生えだしている。
 つまり外側から山・森・街・ビルといった様子がシドにはドーナツを思わせたのだ。

「けど建物は低いが混み合いすぎてねぇか? ゼロメートル地点が見えねぇぞ」
「確かに何処まででも屋上伝いに歩いて行けそうな気がするね」
「んで、立憲君主制の王サマは何処にいるんだよ?」

「ええと……マップ上では、あの高層建築七本全てが星系政府管掌ビルになってて、内容は議会に行政府、各省庁に病院、それに王宮って書いてあるよ」

 王宮と云えば城で、天辺が尖塔か巨大玉ネギ型の飾りだと思い込んでいたシドは、何だか少々ガッカリする。自分に全く関係のないことなのに、八つ当たり的に鼻を鳴らした。

「ふん。王宮がビルって、何だか情緒のねぇ王サマだな」
「僕に言われてもね。でも別室資料に依ると、離宮は他の街にあるんだって」
「へえ、そっちは玉ネギかもな。で、このあとはセンリーに会うんだよな?」
「あっ、そうだった。何処にいるのかな、発振しないと」

 リモータ操作すると一分と経たず折り返し、センリーからの発振が入る。

「【宙港付属ホテルA棟四十八階四八〇五号室】だってサ。イリヤ、どうするの?」

 訊かれたイリヤは頷いて即答した。

「基本的情報はメンバー全員で共有するべきだ。センリー氏がよければ皆で話を聞きたい」
「構わないと思う。じゃあ、行こ」

 エレベーターで四十階まで降り、スカイチューブで宙港付属ホテルA棟に移る。スカイチューブを抜けた所にもフロントカウンターがあり、そこでハイファが四八〇五号室の宿泊者への面会を申し出た。了解を得て四八〇五号室に大人数で押しかける。

 四八〇五号室はデラックスルームで、元からいたFC会長のガード六名とセンリーにプラスして十名の男が加わっても、何とか酸素不足に陥らずに済んだ。
 座る場所が足りず殆どの者が立った中、センリーは前置きなしで喋り始める。

「会長が姿を消されたのは昨夜二十六時前後、場所はルーシャを囲む山向こうのプラチナ鉱山を抱えるリオナという町です。往路に使用したBELが不具合を起こし、新たな機を待つ間に町なかのガーゴイルというパブに入り、いつの間にかお姿が見えなくなりました」

 ガードの責任者らしき男が苦渋の表情で付け加えた。

「鉱山の視察は徒歩でした。その間に何者かがBELに細工をすることも可能であったと考えられます。件のパブは非常に多数の鉱区民が集う店、混乱のさなかのことでした」

 じっと聞いていたハイファがセンリーに訊く。

「身代金要求はどうやってなされたのかな?」
「私のリモータに直接発振が入りました。会長のリモータからIDコードを抜き取ったものと思われます。今朝七時十八分に一度のみ発振がなされ、以降は何もありません。これです」

 素早くリモータ操作してセンリーは皆に見えるようホロスクリーンに映し出した。

【会長の身柄は我々エレボス騎士団が預かった。無事に帰して欲しければ五十億クレジット用意して待て。のちほど振り込み口座は指定する。なお惑星警察の介入を我々は望まない】

 略取誘拐そのものといった文面を眺めたのち、シドが口を開く。

「保険屋のネゴシエーターはどうなってんだ?」
「勿論連絡済み、ナイト損害保険組合の交渉専門官が本星から急遽こちらに向かっています」
「ナイト損保か、最大手だな。んで、地元惑星警察には届け出ていねぇんだな?」
「それにつきましては専務のご意向を伺おうと思っておりました」

 センリーだけでなく全員がハイファを注視した。ハイファはよどみなく答える。

「ナイトのネゴが着き次第、届け出て。但し案件は公開しないよう強く申し入れるように」
「専務、宜しいのですか?」
「センリー、勝手の分からない他星系で地元惑星警察は重要な情報源だよ。僕らホステージ・レスキュー部隊も情報がなければ動けない。他に意見のある人は何でも述べて」

 そう言ってハイファがみんなを見回した。目が合ったイリヤが頷く。

「ガーゴイル、センリー氏への連絡待ち、街での聞き込み、情報の収集だ。我々はその四手に分かれる。ジェローム・リュノー組は街で聞き込み、アドリアン・ゲイリー組はセンリー氏に張り付いてくれ。ロイ・テレンス組はこのホテルに部屋を取って情報収集。私とスティーブはガーゴイルに回る。それでは別命あるまで掛かれ!」

 第二ホステージ・レスキュー部隊の皆がザッと動いた。

「ええと、僕らはどうしたらいいのかな?」
 首を傾げてシドとハイファは顔を見合わせる。そんなハイファの肩をスティーブが叩いた。

「ハイファスにシド、あんたたちは遊撃隊員ってことだ」

 それだけ言い置くとスティーブはイリヤを追って出て行ってしまう。親しげにハイファの肩に触れたスティーブにシドは腹を立てた。いきなりのご機嫌斜めを察知してハイファが退く。

「ちょ、何、どうしたのサ?」
「何でもねぇよ。それより何をしててもいいんだ、お前はここで連絡待ちするか?」
「それを踏まえたイリヤの心遣いだとは分かってるんだけどね。でも遊撃隊員イコール指図されなくても動ける人員だって認められたも同然なんだし、僕はシドに任せるよ」

「任されちまったか。なら現場百回、つっても一回目だが」
「ガーゴイルだね、言うと思った。じゃあ、行こ」

 先陣を追ってシドとハイファは、四八〇五号室のオートドアから駆け出した。エレベーターに乗りスカイチューブを駆け抜けて宙港メインビルに移動する。

 屋上の定期BEL停機場に二人が辿り着くと、まだイリヤとスティーブはBEL待ちをしていた。二人を見てイリヤは口許に苦笑を浮かべる。スティーブはニヤリと笑ってハイファの肩に手を伸ばしたが、さりげなくシドがポーカーフェイスで割って入った。

「現在時、十七時二十八分。リオナ行きのBELは何時発なんだ?」
「十七時五十分だ。ハイファスは父上の情報がダイレクトに入る所にいなくていいのか?」
「気を使わなくていいよ、スティーブ。実際、動いてた方が楽だしね」

 気遣いをしているのか下心なのか分からないスティーブの言葉を聞きながら、シドはベンチの傍に背の高い灰皿を見つけて煙草を咥える。隣にイリヤがきたのでオイルライターで二本分に火を点けた。
 二人は強風に灰が飛ばないよう火口を手で覆いながら紫煙を味わう。ここはエアカーテンで仕切られた喫煙ブースだが意味をなしていない。
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