Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

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第20話

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「なあ、イリヤ。エレボス騎士団がこの星系で元PSCだったっつーのは裏が取れたのか?」
「それを今、ジェロームとリュノーがやっている」
「あー、そういうことか」

「だがここの惑星警察への問い合わせで殆ど間違いないと回答はきていた。テラ標準歴で約三年前までハックス社というPSCがこの星系首都ルーシャに存在していたそうだ。そのハックス社で売り出し中の傭兵グループがエレボス団と名乗っていたらしい」
「へえ、このルーシャになあ。それがエレボス騎士団の母体ってか。ふうん」

 おかしいと思ったのはシドだけではないようだ。イリヤも薄く笑う。

「まあ、ハックス社イコール、エレボス騎士団というのも推定なら、このような街でPSCなどという会社、セキュリティ・ガードのための傭兵などという職業が成り立つこと自体が不思議だ」
「だよな。んで、本星でも五件続行中、おまけに出戻ってのFC会長。あんたはどう見る?」

 訊いたシドも訊かれたイリヤもチェーンスモークだ。

「どう見ると言われても困るが。私は事実を基に動くだけ、捜査が専門ではない。だが、そうだな。エレボス騎士団が元PSCだったと仮定して、持ち前の行動力はあるとしても組織としては少々元の器を超えすぎていると思っている」

「そこだ。手先にそこらのチンピラを雇ったとしても、司令塔が太すぎだぜ」
「だがその司令塔の仕掛けるテロに対しカウンター手段を取ることと、司令塔自体を叩き潰すことが私の仕事だ。司令塔が太くなった理由など私は関知しない」

 聞いてシドはイリヤも気付いているのだと知り、それなりに感心している。元民間軍事会社がテロリストに育った過程で、与えられた肥料たる何かがあったのだ。

 だがそれにしたっておかしいとシドは思いながら、ビッシリと十階前後の建物が埋め尽くしたルーシャの街を眺める。この平和そうな街の何処にPSCの需要が生まれるのか。

「シド、イリヤ! 置いて行っちゃうよ!」

 気付くと大型BELが既にタラップドアを降ろしている。慌てて喫煙組は煙草を消しバディの許に走った。シドとイリヤが最後の客で、チェックパネルとリモータリンクして定額料金を支払いタラップを上ると、すぐあとからチェックパネルを持ったCAも乗り込む。

 タラップドアが閉められてからシドはハイファを探したが、ハイファの隣にはしっかりスティーブが座っていて、こちらに薄笑いを寄越した。出遅れたシドはムッとする。だが仕方ないのでハイファたちの後ろのシートにイリヤと並んで収まった。
 かいた汗がエアコンでみるみる乾いてゆくのを感じているとテイクオフ。

「おい、リオナの町にはいつ着くんだ?」

 前のシートに訊くとハイファが振り向き、シートの隙間から覗く。

「低空・低速で各町を巡るけど、リオナは最初の停機場だから三十分だって」
「着が十八時二十分か。この辺りの日暮れは何時だ?」

「ちょっと待って……ええと、二十時十五分だよ。それとリオナからの帰りの便は二十一時三十分発しかないからね、覚えておいて」
「ラジャー、聞き込みは約三時間。日のあるうちに親父さんのトレースを――」

 何でもいいからネタを探して話し続けるシドは、スティーブにハイファとの会話を弾ませたくないのであった。もう独占欲を隠そうともしない様子は子供以下である。
 表面的には涼しいポーカーフェイスなので余計に可笑しかったが、ハイファは愛し人がここまで嫉妬してくれることが嬉しく、機嫌も損ねたくないので気付かないフリをしていた。

 喋っている三十分はすぐだった。大型BELはどんどん降下しランディングした。
 シドたち四人の他にリオナの住人らしい男女が五人一緒に降機する。

 機外に出てシドが驚いたのは、そこが建物屋上ではなく地べただったことだ。地面もファイバブロックで整地されていない、押し固めた剥き出しの土である。見回すとそこは広葉樹林に囲まれた広場のようだった。
 蒸し暑い空気に土と緑の匂いが混じっているような気がする。

「さてと。惑星警察関係者に思われると拙いよね?」
「それもそうだが、お前は事実FC関係者だからいいんじゃねぇか?」
「じゃあ、僕はFC専務でシドとイリヤとスティーブはガードだね」

 にっこり笑うとハイファはリモータのマップを見てからシドの背後を指差した。

「プラチナ鉱山はそっちだよ。特に見ものはないと思うけど、どうする?」

 スティーブはイリヤを見て、イリヤはシドを見る。捜査の専門家はハイファに頷いた。

「何処にどんなヒントが隠れてるか知れねぇからな、行ってみようぜ」

 飛び立つ大型BELを見送ったのち、過剰に汗をかかないよう四人はゆったりと歩き出す。広場を抜ける際には広葉樹を皆で見上げた。さわさわという葉擦れの音だけは涼しげだ。

「これが高級木材ってヤツか。太い樹だよな、俺でも抱えきれねぇぞ」
「樹齢何年くらいなんだろう、僕やシドより年上だよね?」

 地面にはその樹が落としたらしいドングリに似た実が大量に転がっている。シドは割れた実を蹴飛ばしながら再び歩き始めた。低い位置まで垂れ下がった枝葉をくぐりぬける。すると見通しが良くなると思いきや、出現した小径は森の中の一本道だった。

 コイル二車線分くらいの道を辿り始めたが、緑のトンネルのような道は風が通らない。

「くそう、殆ど日は遮ったのに蒸し暑さは倍増だぜ」
「ハイファス、やっぱりあのときのジャングルに植生が似てるだろう?」

 またその話かよ、などと心の中で突っ込みを入れながら、シドは額の汗を袖で拭う。皆が早く風を感じたくて足早になった。二十分ほども歩いたか、前方に明るい出口が見え始める。

「おっ、取り敢えずのゴールが見えたぞ」
「マップ上でもゴールになってるよ」

 小径を抜けると今度こそ視界が開けて目前にいきなり鉱山が現れた。前方右側にテラ連邦規格のユニット建築を積み上げた事務所らしい二階建てがある。その背後は森が傾斜になっていて、これも森に覆われた標高の低い山に繋がっていた。

 左側は掘り捨てられた土砂の山である。あちこちにひょろひょろとした木が生えているが、イメージは剥き出しの地面だ。人工山脈はかなり遠くまで続いて、ずっと先に黄色い採掘マシンが数台動いている。ゴマ粒のように小さい人との対比で、採掘マシンはアパートほどの大きさだと知れた。男の子に還ったシドが目を輝かせる。

「すっげぇ、デカいな、あれ! あれってFCのもんなのか?」
「違うよ。このフェイダル星系に於けるレアメタル流通の約五割をFCは握ってるけど、それは別にFCのものって意味じゃないし、ここでは採掘権も持ってないし」

「地元民の鉱山主がいて、他の会社に採掘権を持たせてるってことか?」
「よくできました。付け加えるなら鉱山主は星系政府で、入札によって決められた地元業者が採掘権を手にしてる。FCは流通ルートを提供してるだけだよ」

 そんな鉱山まで視察するとはチェンバーズも仕事熱心だが、それが徒になったようだ。

「何でもいいけど暑ーい! もうリオナの町に行かない?」
「確かにこれは蒸し暑いな。私は本星の冬スーツのままなんだ、失敗した」

「イリヤが芽を出さねぇうちに戻ろうぜ。何か冷たいもん飲みてぇな、ビールとかさ」
「仕事中に、またシドのフリーダム発言だな」
「何だよ、スティーブ。文句があるならテメェは飲むな」

 喋りながらのそのそ歩き出す。森の小径を辿って広場を横切り、大きな広葉樹をやり過ごすと、今度はすぐに見通しが良くなった。石畳で整地された道が真っ直ぐ延び、左右には高くとも三階建てくらいの建物が並んでいる。
 一階に店舗の入った建物が多く、出入りする人々も少なくない。石畳を行き来するコイルもシドの想像より多かった。

「マップではここがメインストリート、先に約三百メートルの左側にガーゴイルはあるよ」
「三百メートルなら、そこまでビールは我慢するか」

 歩道と車道の区別がなく、左側の建物沿いに進む。ベーカリーだの八百屋だのカフェテリアにコンビニまであって目に飽きず、三百メートルを四人は難なく歩いた。

 辿り着いたパブ・ガーゴイルは軒の上に妙なものを載せた店だった。角の生えた動物だか悪魔だか分からない怪物の作り物があり、やってくる客を横から覗き込むように座っている。

「なあ、ガーゴイルって何だ?」
「その怪物の彫刻がついた雨樋のことだよ。その怪物は殆どの場合、排水溝の役目を果たす」
「口が空洞になってるな。あそこから水を吐くってか」

「たぶん、それで正解だと思う」
「相変わらず、妙なことばっかり知ってるな」
「たまには役に立つんだからいいでしょ。それより開店中だけど、どうするの?」

 ハイファはシドに訊いたが、冬スーツに閉口したのかイリヤが答えた。

「現在時、十九時三十分。入ろう」
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