Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

文字の大きさ
22 / 41

第22話

しおりを挟む
 不機嫌に拍車の掛かった低音で唸られ、ハイファは首を竦めて遠慮がちに言った。

「もうすぐ二十一時半、ルーシャ宙港に帰る最終BELの時間なんですけど……」

 皆がリモータを見ると二十一時二十分だった。慌ててタクシーに乗り込むと停機場の広場へと戻る。まさにタラップドアが上げられる寸前でハイファがドアを踏んづけた。
 まさにギリギリで間に合った四人は機内でチェックパネルに料金を支払う。飛翔し始めてからシドはシートに収まった。溜息をついて何となく窓外を眺める。

 まもなくルーシャの上空だ。そして街を見下ろし思わず声を上げそうになった。
 街の至る所が毒々しい色の光を孕んでいたのである。光はネオンサインや電子看板にホロ看板などの集合体、それが脈動するようにチカチカと瞬いている。

「ハイファ、見てるか?」
「うん、何処かで見たことがあるような光景……ロニアみたい」
「歓楽街か。しかし半端な数、いや、半端な面積じゃねぇな」
「多いとは資料に書いてあったけど、ここまでとは思わなかったよね」

 反対側の窓外を見下ろしていたイリヤとシドは目配せする。これでイリヤと話した『PSCが成立する不思議』も不思議でなくなった。
 これだけの歓楽街があって仕切るマフィアがいるのなら、どんなことでも起こり得る。民間軍事会社は大繁盛だろう。

「ねえ、宙港付属ホテルがあれだけ立派な理由も分かった気がしない?」
「ロニアと同じ、甘い毒に集まる観光客専用って訳か。なるほどな」

 暫しシドは顕微鏡で見るウイルス増殖の拡大図にも似た街に目を落としていた。
 やがてBELは宙港メインビル屋上にランディングした。降機してみると定期BEL停機場は昼間よりも活気があって、笑えもしなかった。これから歓楽街で遊ぼうとする観光客らをかき分けるようにしてエレベーターホールに辿り着く。

 エレベーターで四十階に降り、スカイチューブで宙港付属ホテルへ。

 二十二時十五分、宙港付属ホテルA棟四十八階四八〇五号室に顔を出した。するとデラックスルームはセンリーと六名のガード、ナイト損保のネゴ二名にアドリアンとゲイリー、惑星警察から派遣された隠密チーム員四名で溢れ返っていた。

 センリーとアドリアンたちに訊いてみたが、エレボス騎士団からは何の連絡もないらしい。
 特筆すべき追加情報もなく、仕方がないので四八二〇号室に向かう。

 四八二〇号室は情報収集屋のロイとテレンスが押さえたツインだった。インテリ組は端末を起動し、ありとあらゆる情報を吸い上げては分析する作業に没頭していて、ここでもシドたち四人は邪魔なようである。

 そこでまだ帰っていないジェロームとリュノーに悪いような気はしたが、四人は先に食事を摂ることにした。宙港メインビル側に移ってレストランフロアへと向かう。
 フロアには様々なレストランが軒を連ねていて、何処もまだ盛況だった。

「ねえ、シドは何食べたい?」
「皿の上を這い回ってたり、スープを泳いでたりしなきゃ、何でもいい」
「そっか。和洋中、何でも揃ってるけど」

 男四人で物色し、和食ファミリーレストランに決めて入店する。喫煙のテーブル席に案内され、電子メニュー表を眺めてそれぞれセットメニューを注文した。出されたお絞りで手を拭くと喫煙組は煙草を咥える。
 水を飲みながらスティーブはまたもハイファ相手に思い出話だ。

「あの星の前線は酷かった、兵舎でも二人になれなくて苦労したっけな」

 積極的にスティーブは『二人』をアピールする。何れにせよ過去でしかなく、シドは極力無視しようとするが耳は勝手に集中してしまい、またも非常な不機嫌に陥った。薄く笑ったイリヤが気を使ったものか話しかけてくる。

「我々が本領発揮するには、何よりチェンバーズ氏の居場所を特定することだ。そこでシド、他星に慣れた上に捜査の専門家であるあんたならどうする?」
「そうだな。エレボス騎士団の本拠地ヤサが知れない以上、無闇に歩き回ってもムダだ。だがこのルーシャには巨大な情報源がある。まずはそこから攻めるしかねぇだろ」

「巨大な情報源?」
「ああ、マフィアだ。このラーリアの歓楽街を仕切るのはロニアマフィアの看板をそのまま背負った分家、奴らも近所の誰かがデカいネタを掴んだら、それなりに気にするもんだ」

 そこでワゴンを押した店員がやってきて、テーブルにトレイを並べていった。
 手を合わせて食べ始めながらイリヤは頷く。

「なるほど。だがマフィアが簡単に情報を寄越すとは思えんが」

 わさびショーユをつけた天然だか培養だか分からない刺身をポイと口に入れて咀嚼し、飲み込んでシドは答えた。

「そこらは任せてくれていい。ハイファと俺が上手くやる」
「全面的に頼ってばかりで申し訳ない気がするな」

 半分食べたエビの天ぷらをシドのライスに載せたハイファが笑う。

「僕らだって第二ホステージ・レスキュー部隊員なんだし、適材適所だよ。きっとあとでイリヤたちにも存分に働いて貰うから大丈夫」
「そう言って貰えると有難い。ではこのあとも動くのか?」

 ヒレカツを一切れハイファのプレートに移し、シドはライスをかき込みながら返事した。

「んあ、丁度遊びの時間だしな」

 茶碗蒸しを食べ、シジミのミソスープを飲んで、ライスの一粒まで腹に収めてしまうと玄米茶の湯飲みが出される。熱い茶を啜りながら喫煙組が煙草を一本吸うと再始動だ。

 だが席を立ちかけたとき、イリヤにリモータ発振が入る。操作し小さな画面を眺めたイリヤの顔色が僅かに変わった。残り三人が気付いてイリヤを見つめる。

「ジェロームとリュノーが撃たれてルーシャ中央病院に収容された」

◇◇◇◇

 定期BELで四人はルーシャ中央病院に飛んだ。星系政府管掌の七棟のビルの一棟である。
 救急機が直接は入れるよう天井の高い二十五階の救急救命フロアで、駆け付けた四人は再生槽に沈んだジェロームとリュノーを見た。

 見事なハートショットを食らって重傷だった。

「現在は人工心肺を埋めていますが、発見が早かったですからね。脳波も正常、十日もすれば臓器も培養完了して移植手術ができるでしょう」

 戦場の如き処置室内で救急の医師は楽観的な説明をした。医師にイリヤが訊く。

「意識はいつ戻りますか?」
「五日後に一旦戻す予定です。まあ、そう心配は要りませんよ」
「そうですか。宜しくお願いします」

 いったい何があったのか訊きたくても、五日後まで何も分からないということである。男四人は忙しそうな看護師に追い出され廊下に出た。廊下には惑星警察諸氏が待ち受けていて、四人を捕まえるなり色々訊ねてきたが答えられることは何もない。

 歓楽街の裏通りで倒れていたのを観光客が発見・通報したというのを聞き、誘拐が明るみに出ないよう自分たちも観光客で押し切って四人はその場を切り抜ける。
 こういった事件には事欠かないのか、惑星警察諸氏もあっさりとシドたちを釈放パイした。

 エレベーターで一階に降りながらイリヤが低く呟く。

「マフィアの抗争に巻き込まれたのか?」

 呟きにシドは考えつつ応える。

「あいつらがそんなマヌケとは思えねぇし、綺麗なハートショットを食らわす余裕があれば、マフィアなら後腐れなくヘッドショットでってるさ。見せしめ的ではあるがな」

 首を傾げたスティーブが意見を述べた。

「見せしめ的ということは俺たちに対する警告……エレボス騎士団かも知れないな」
「聞き回ったジェロームたちに気付いたエレボス騎士団が僕らに警告かあ。でも僕らがエレボス騎士団のことを殆ど知らないのと同様に、向こうも僕らの素性は知らないんじゃない?」

 ハイファの科白に、だがシドは懐疑的な返答をする。

「ジェロームたちは拷問されていなかった。だがクスリを使われた可能性もある」
「わあ、それがあったっけ。じゃあ、これ以上聞き回るのは危険かな?」
「いや、センリーに発振で直接的警告を食らうまでは粘りてぇな」
「確かにこうも情報が少ないと、我々は手も足も出ないからな」
「そっかあ、やっぱり歓楽街かあ……」

 エレベーターから降りながら少々ハイファが沈んだ。ロニアマフィアとの因縁を思い出したのだろう。理由は知らないながらも察知してスティーブが慰め始めた。
 スティーブにハイファは任せて、シドは惑星警察の同輩から聞いたジェロームたちの発見現場座標を確認し、イリヤはロイたちに状況を音声発信で伝える。

 そうしながらロビーを縦断し病院のエントランスを出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

徒野先輩の怪異語り

佐倉みづき
キャラ文芸
「助けて、知らない駅にいる――」 きさらぎ駅に迷い込み行方不明となった幼馴染みを探す未那は、我が物顔で民俗学予備研究室に陣取る院生・徒野荒野を訪ねる。 あらゆる怪談や怪奇現象を蒐集、研究する彼の助手にされた未那は徒野と共に様々な怪異に行き当たることに…… 「いつの世も、怪異を作り出すのは人間なんだ」

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

処理中です...