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第22話
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不機嫌に拍車の掛かった低音で唸られ、ハイファは首を竦めて遠慮がちに言った。
「もうすぐ二十一時半、ルーシャ宙港に帰る最終BELの時間なんですけど……」
皆がリモータを見ると二十一時二十分だった。慌ててタクシーに乗り込むと停機場の広場へと戻る。まさにタラップドアが上げられる寸前でハイファがドアを踏んづけた。
まさにギリギリで間に合った四人は機内でチェックパネルに料金を支払う。飛翔し始めてからシドはシートに収まった。溜息をついて何となく窓外を眺める。
まもなくルーシャの上空だ。そして街を見下ろし思わず声を上げそうになった。
街の至る所が毒々しい色の光を孕んでいたのである。光はネオンサインや電子看板にホロ看板などの集合体、それが脈動するようにチカチカと瞬いている。
「ハイファ、見てるか?」
「うん、何処かで見たことがあるような光景……ロニアみたい」
「歓楽街か。しかし半端な数、いや、半端な面積じゃねぇな」
「多いとは資料に書いてあったけど、ここまでとは思わなかったよね」
反対側の窓外を見下ろしていたイリヤとシドは目配せする。これでイリヤと話した『PSCが成立する不思議』も不思議でなくなった。
これだけの歓楽街があって仕切るマフィアがいるのなら、どんなことでも起こり得る。民間軍事会社は大繁盛だろう。
「ねえ、宙港付属ホテルがあれだけ立派な理由も分かった気がしない?」
「ロニアと同じ、甘い毒に集まる観光客専用って訳か。なるほどな」
暫しシドは顕微鏡で見るウイルス増殖の拡大図にも似た街に目を落としていた。
やがてBELは宙港メインビル屋上にランディングした。降機してみると定期BEL停機場は昼間よりも活気があって、笑えもしなかった。これから歓楽街で遊ぼうとする観光客らをかき分けるようにしてエレベーターホールに辿り着く。
エレベーターで四十階に降り、スカイチューブで宙港付属ホテルへ。
二十二時十五分、宙港付属ホテルA棟四十八階四八〇五号室に顔を出した。するとデラックスルームはセンリーと六名のガード、ナイト損保のネゴ二名にアドリアンとゲイリー、惑星警察から派遣された隠密チーム員四名で溢れ返っていた。
センリーとアドリアンたちに訊いてみたが、エレボス騎士団からは何の連絡もないらしい。
特筆すべき追加情報もなく、仕方がないので四八二〇号室に向かう。
四八二〇号室は情報収集屋のロイとテレンスが押さえたツインだった。インテリ組は端末を起動し、ありとあらゆる情報を吸い上げては分析する作業に没頭していて、ここでもシドたち四人は邪魔なようである。
そこでまだ帰っていないジェロームとリュノーに悪いような気はしたが、四人は先に食事を摂ることにした。宙港メインビル側に移ってレストランフロアへと向かう。
フロアには様々なレストランが軒を連ねていて、何処もまだ盛況だった。
「ねえ、シドは何食べたい?」
「皿の上を這い回ってたり、スープを泳いでたりしなきゃ、何でもいい」
「そっか。和洋中、何でも揃ってるけど」
男四人で物色し、和食ファミリーレストランに決めて入店する。喫煙のテーブル席に案内され、電子メニュー表を眺めてそれぞれセットメニューを注文した。出されたお絞りで手を拭くと喫煙組は煙草を咥える。
水を飲みながらスティーブはまたもハイファ相手に思い出話だ。
「あの星の前線は酷かった、兵舎でも二人になれなくて苦労したっけな」
積極的にスティーブは『二人』をアピールする。何れにせよ過去でしかなく、シドは極力無視しようとするが耳は勝手に集中してしまい、またも非常な不機嫌に陥った。薄く笑ったイリヤが気を使ったものか話しかけてくる。
「我々が本領発揮するには、何よりチェンバーズ氏の居場所を特定することだ。そこでシド、他星に慣れた上に捜査の専門家であるあんたならどうする?」
「そうだな。エレボス騎士団の本拠地が知れない以上、無闇に歩き回ってもムダだ。だがこのルーシャには巨大な情報源がある。まずはそこから攻めるしかねぇだろ」
「巨大な情報源?」
「ああ、マフィアだ。このラーリアの歓楽街を仕切るのはロニアマフィアの看板をそのまま背負った分家、奴らも近所の誰かがデカいネタを掴んだら、それなりに気にするもんだ」
そこでワゴンを押した店員がやってきて、テーブルにトレイを並べていった。
手を合わせて食べ始めながらイリヤは頷く。
「なるほど。だがマフィアが簡単に情報を寄越すとは思えんが」
わさびショーユをつけた天然だか培養だか分からない刺身をポイと口に入れて咀嚼し、飲み込んでシドは答えた。
「そこらは任せてくれていい。ハイファと俺が上手くやる」
「全面的に頼ってばかりで申し訳ない気がするな」
半分食べたエビの天ぷらをシドのライスに載せたハイファが笑う。
「僕らだって第二ホステージ・レスキュー部隊員なんだし、適材適所だよ。きっとあとでイリヤたちにも存分に働いて貰うから大丈夫」
「そう言って貰えると有難い。ではこのあとも動くのか?」
ヒレカツを一切れハイファのプレートに移し、シドはライスをかき込みながら返事した。
「んあ、丁度遊びの時間だしな」
茶碗蒸しを食べ、シジミのミソスープを飲んで、ライスの一粒まで腹に収めてしまうと玄米茶の湯飲みが出される。熱い茶を啜りながら喫煙組が煙草を一本吸うと再始動だ。
だが席を立ちかけたとき、イリヤにリモータ発振が入る。操作し小さな画面を眺めたイリヤの顔色が僅かに変わった。残り三人が気付いてイリヤを見つめる。
「ジェロームとリュノーが撃たれてルーシャ中央病院に収容された」
◇◇◇◇
定期BELで四人はルーシャ中央病院に飛んだ。星系政府管掌の七棟のビルの一棟である。
救急機が直接は入れるよう天井の高い二十五階の救急救命フロアで、駆け付けた四人は再生槽に沈んだジェロームとリュノーを見た。
見事なハートショットを食らって重傷だった。
「現在は人工心肺を埋めていますが、発見が早かったですからね。脳波も正常、十日もすれば臓器も培養完了して移植手術ができるでしょう」
戦場の如き処置室内で救急の医師は楽観的な説明をした。医師にイリヤが訊く。
「意識はいつ戻りますか?」
「五日後に一旦戻す予定です。まあ、そう心配は要りませんよ」
「そうですか。宜しくお願いします」
いったい何があったのか訊きたくても、五日後まで何も分からないということである。男四人は忙しそうな看護師に追い出され廊下に出た。廊下には惑星警察諸氏が待ち受けていて、四人を捕まえるなり色々訊ねてきたが答えられることは何もない。
歓楽街の裏通りで倒れていたのを観光客が発見・通報したというのを聞き、誘拐が明るみに出ないよう自分たちも観光客で押し切って四人はその場を切り抜ける。
こういった事件には事欠かないのか、惑星警察諸氏もあっさりとシドたちを釈放した。
エレベーターで一階に降りながらイリヤが低く呟く。
「マフィアの抗争に巻き込まれたのか?」
呟きにシドは考えつつ応える。
「あいつらがそんなマヌケとは思えねぇし、綺麗なハートショットを食らわす余裕があれば、マフィアなら後腐れなくヘッドショットで殺ってるさ。見せしめ的ではあるがな」
首を傾げたスティーブが意見を述べた。
「見せしめ的ということは俺たちに対する警告……エレボス騎士団かも知れないな」
「聞き回ったジェロームたちに気付いたエレボス騎士団が僕らに警告かあ。でも僕らがエレボス騎士団のことを殆ど知らないのと同様に、向こうも僕らの素性は知らないんじゃない?」
ハイファの科白に、だがシドは懐疑的な返答をする。
「ジェロームたちは拷問されていなかった。だがクスリを使われた可能性もある」
「わあ、それがあったっけ。じゃあ、これ以上聞き回るのは危険かな?」
「いや、センリーに発振で直接的警告を食らうまでは粘りてぇな」
「確かにこうも情報が少ないと、我々は手も足も出ないからな」
「そっかあ、やっぱり歓楽街かあ……」
エレベーターから降りながら少々ハイファが沈んだ。ロニアマフィアとの因縁を思い出したのだろう。理由は知らないながらも察知してスティーブが慰め始めた。
スティーブにハイファは任せて、シドは惑星警察の同輩から聞いたジェロームたちの発見現場座標を確認し、イリヤはロイたちに状況を音声発信で伝える。
そうしながらロビーを縦断し病院のエントランスを出た。
「もうすぐ二十一時半、ルーシャ宙港に帰る最終BELの時間なんですけど……」
皆がリモータを見ると二十一時二十分だった。慌ててタクシーに乗り込むと停機場の広場へと戻る。まさにタラップドアが上げられる寸前でハイファがドアを踏んづけた。
まさにギリギリで間に合った四人は機内でチェックパネルに料金を支払う。飛翔し始めてからシドはシートに収まった。溜息をついて何となく窓外を眺める。
まもなくルーシャの上空だ。そして街を見下ろし思わず声を上げそうになった。
街の至る所が毒々しい色の光を孕んでいたのである。光はネオンサインや電子看板にホロ看板などの集合体、それが脈動するようにチカチカと瞬いている。
「ハイファ、見てるか?」
「うん、何処かで見たことがあるような光景……ロニアみたい」
「歓楽街か。しかし半端な数、いや、半端な面積じゃねぇな」
「多いとは資料に書いてあったけど、ここまでとは思わなかったよね」
反対側の窓外を見下ろしていたイリヤとシドは目配せする。これでイリヤと話した『PSCが成立する不思議』も不思議でなくなった。
これだけの歓楽街があって仕切るマフィアがいるのなら、どんなことでも起こり得る。民間軍事会社は大繁盛だろう。
「ねえ、宙港付属ホテルがあれだけ立派な理由も分かった気がしない?」
「ロニアと同じ、甘い毒に集まる観光客専用って訳か。なるほどな」
暫しシドは顕微鏡で見るウイルス増殖の拡大図にも似た街に目を落としていた。
やがてBELは宙港メインビル屋上にランディングした。降機してみると定期BEL停機場は昼間よりも活気があって、笑えもしなかった。これから歓楽街で遊ぼうとする観光客らをかき分けるようにしてエレベーターホールに辿り着く。
エレベーターで四十階に降り、スカイチューブで宙港付属ホテルへ。
二十二時十五分、宙港付属ホテルA棟四十八階四八〇五号室に顔を出した。するとデラックスルームはセンリーと六名のガード、ナイト損保のネゴ二名にアドリアンとゲイリー、惑星警察から派遣された隠密チーム員四名で溢れ返っていた。
センリーとアドリアンたちに訊いてみたが、エレボス騎士団からは何の連絡もないらしい。
特筆すべき追加情報もなく、仕方がないので四八二〇号室に向かう。
四八二〇号室は情報収集屋のロイとテレンスが押さえたツインだった。インテリ組は端末を起動し、ありとあらゆる情報を吸い上げては分析する作業に没頭していて、ここでもシドたち四人は邪魔なようである。
そこでまだ帰っていないジェロームとリュノーに悪いような気はしたが、四人は先に食事を摂ることにした。宙港メインビル側に移ってレストランフロアへと向かう。
フロアには様々なレストランが軒を連ねていて、何処もまだ盛況だった。
「ねえ、シドは何食べたい?」
「皿の上を這い回ってたり、スープを泳いでたりしなきゃ、何でもいい」
「そっか。和洋中、何でも揃ってるけど」
男四人で物色し、和食ファミリーレストランに決めて入店する。喫煙のテーブル席に案内され、電子メニュー表を眺めてそれぞれセットメニューを注文した。出されたお絞りで手を拭くと喫煙組は煙草を咥える。
水を飲みながらスティーブはまたもハイファ相手に思い出話だ。
「あの星の前線は酷かった、兵舎でも二人になれなくて苦労したっけな」
積極的にスティーブは『二人』をアピールする。何れにせよ過去でしかなく、シドは極力無視しようとするが耳は勝手に集中してしまい、またも非常な不機嫌に陥った。薄く笑ったイリヤが気を使ったものか話しかけてくる。
「我々が本領発揮するには、何よりチェンバーズ氏の居場所を特定することだ。そこでシド、他星に慣れた上に捜査の専門家であるあんたならどうする?」
「そうだな。エレボス騎士団の本拠地が知れない以上、無闇に歩き回ってもムダだ。だがこのルーシャには巨大な情報源がある。まずはそこから攻めるしかねぇだろ」
「巨大な情報源?」
「ああ、マフィアだ。このラーリアの歓楽街を仕切るのはロニアマフィアの看板をそのまま背負った分家、奴らも近所の誰かがデカいネタを掴んだら、それなりに気にするもんだ」
そこでワゴンを押した店員がやってきて、テーブルにトレイを並べていった。
手を合わせて食べ始めながらイリヤは頷く。
「なるほど。だがマフィアが簡単に情報を寄越すとは思えんが」
わさびショーユをつけた天然だか培養だか分からない刺身をポイと口に入れて咀嚼し、飲み込んでシドは答えた。
「そこらは任せてくれていい。ハイファと俺が上手くやる」
「全面的に頼ってばかりで申し訳ない気がするな」
半分食べたエビの天ぷらをシドのライスに載せたハイファが笑う。
「僕らだって第二ホステージ・レスキュー部隊員なんだし、適材適所だよ。きっとあとでイリヤたちにも存分に働いて貰うから大丈夫」
「そう言って貰えると有難い。ではこのあとも動くのか?」
ヒレカツを一切れハイファのプレートに移し、シドはライスをかき込みながら返事した。
「んあ、丁度遊びの時間だしな」
茶碗蒸しを食べ、シジミのミソスープを飲んで、ライスの一粒まで腹に収めてしまうと玄米茶の湯飲みが出される。熱い茶を啜りながら喫煙組が煙草を一本吸うと再始動だ。
だが席を立ちかけたとき、イリヤにリモータ発振が入る。操作し小さな画面を眺めたイリヤの顔色が僅かに変わった。残り三人が気付いてイリヤを見つめる。
「ジェロームとリュノーが撃たれてルーシャ中央病院に収容された」
◇◇◇◇
定期BELで四人はルーシャ中央病院に飛んだ。星系政府管掌の七棟のビルの一棟である。
救急機が直接は入れるよう天井の高い二十五階の救急救命フロアで、駆け付けた四人は再生槽に沈んだジェロームとリュノーを見た。
見事なハートショットを食らって重傷だった。
「現在は人工心肺を埋めていますが、発見が早かったですからね。脳波も正常、十日もすれば臓器も培養完了して移植手術ができるでしょう」
戦場の如き処置室内で救急の医師は楽観的な説明をした。医師にイリヤが訊く。
「意識はいつ戻りますか?」
「五日後に一旦戻す予定です。まあ、そう心配は要りませんよ」
「そうですか。宜しくお願いします」
いったい何があったのか訊きたくても、五日後まで何も分からないということである。男四人は忙しそうな看護師に追い出され廊下に出た。廊下には惑星警察諸氏が待ち受けていて、四人を捕まえるなり色々訊ねてきたが答えられることは何もない。
歓楽街の裏通りで倒れていたのを観光客が発見・通報したというのを聞き、誘拐が明るみに出ないよう自分たちも観光客で押し切って四人はその場を切り抜ける。
こういった事件には事欠かないのか、惑星警察諸氏もあっさりとシドたちを釈放した。
エレベーターで一階に降りながらイリヤが低く呟く。
「マフィアの抗争に巻き込まれたのか?」
呟きにシドは考えつつ応える。
「あいつらがそんなマヌケとは思えねぇし、綺麗なハートショットを食らわす余裕があれば、マフィアなら後腐れなくヘッドショットで殺ってるさ。見せしめ的ではあるがな」
首を傾げたスティーブが意見を述べた。
「見せしめ的ということは俺たちに対する警告……エレボス騎士団かも知れないな」
「聞き回ったジェロームたちに気付いたエレボス騎士団が僕らに警告かあ。でも僕らがエレボス騎士団のことを殆ど知らないのと同様に、向こうも僕らの素性は知らないんじゃない?」
ハイファの科白に、だがシドは懐疑的な返答をする。
「ジェロームたちは拷問されていなかった。だがクスリを使われた可能性もある」
「わあ、それがあったっけ。じゃあ、これ以上聞き回るのは危険かな?」
「いや、センリーに発振で直接的警告を食らうまでは粘りてぇな」
「確かにこうも情報が少ないと、我々は手も足も出ないからな」
「そっかあ、やっぱり歓楽街かあ……」
エレベーターから降りながら少々ハイファが沈んだ。ロニアマフィアとの因縁を思い出したのだろう。理由は知らないながらも察知してスティーブが慰め始めた。
スティーブにハイファは任せて、シドは惑星警察の同輩から聞いたジェロームたちの発見現場座標を確認し、イリヤはロイたちに状況を音声発信で伝える。
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