Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

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第24話

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「シマを荒らしたつもりはねぇよ、ここは勝った客に因縁つけるようなセコい店なのか?」
「その腰のデカいチャカ、そっちの三人も懐に呑んでるだろう。サツカンか、それとも麻取か?」

 結構旨いカクテルを半分ほども飲んでシド、

「俺たちの素性なんざ、どうでもいい。勝ったカネで情報を買いたい。本星で誘拐ビジネスに手を出した奴がここでもやらかしたと聞いた。どうだ、買わせるか?」

 そこでマネージャーとやらは初めてシドたちをまじまじと見る。

「あんたらは本星人、エレボス騎士団を追ってるということか」
「知ってるなら話は早い。この星の奴がデカいネタを掴んだと聞いたんだが、どうだ?」
「あ、いや、他人のシノギを、そんな端金で洩らす訳にはいかないな」

 言ったその目が泳いだのをシドは見逃さない。つまりは知っているフリをしただけだと見取って、シドは煙草を消しさっさとスツールから立つ。残り三人も倣った。 

「次の店に行こうぜ、ハイファ」
「ちょっと待て、荒らすだけ荒らしておいて、そのまま出て行けるとでも思ってるのか?」

 完全にマフィアの貌を露わにした男に、シドは惜しげもなく勝ったカネをリモータリンクで投げ渡す。巨額をあっさり返され、マフィアの中堅幹部は「アー」と口を開けて、瞬時に振り込まれた一千二百万クレジットを眺めた。

 リモータ表示を見つめる男を置いて、四人はバーラウンジを出る。揉めて撃ち合いなどしているヒマはない。
 オートドアから出ると我に返ったような静かさと蒸し暑さだ。

「この辺りは同じくビューラーファミリーのシマだから、もう少し離れないとね」

 五十メートルほど先にタクシーを見つけ、四人は乗り込む。文明の風でみるみる汗が引いてシドはホッとした。モニタパネルを指すとハイファが座標指定する。

「今度も武闘派で、バシリーファミリー経営のカジノだけど、いい?」

 そうしてタクシーで行ける範囲のカジノを数軒巡ってみたが、これといって情報は得られなかった。やがて二十八時半を過ぎ、日付が変わると本格的に遊びの時間である。
 タクシー内でスティーブはシドのミラクルに興奮して喋り続け、イリヤはそれに頷きつつ後部座席でルームミラーの中のイヴェントストライカを凝視していた。

 一方で前部座席の二人は外をそぞろ歩く人々に閉口している。

「ちょっと、人轢いちゃう、もうタクシーは無理だよ」
「回れる範囲は回っちまったしな」
「定期BELで遠出するにしても、一旦ホテルに戻って出直した方がいいんじゃない?」

 二人は振り返ってイリヤを見た。イリヤも同意し、人混みで動かなくなったタクシーを四人は降りる。だがホテルに戻るにしても結構な距離だ。少々うんざりしてシドが訊く。

「宙港直行のBELはねぇのか?」
「あるよ。ここからワンブロック向こうの雑居ビル屋上に停機場があるから」

 こういった会話も大声でなければ成立しないような人また人の喋り声だった。各店舗から洩れてくるBGMの喧噪も凄まじい。ハッキリ言ってシドは飽き飽きしていて、何処でもいいから静かな場所に離脱したい、もうそれしか頭にない状態である。

 マップを見たハイファに誘導され、ワンブロックを歩いて、一階が合法ドラッグ店の雑居ビルのエレベーターに乗った。
 バーだの美容室だの屋内ハンドガン射場まで入っているらしいビルの屋上は、これもまたムッとする暑さだ。

「現在時、零時二十五分。定期BELは何時だって?」
「宙港ホテル直行便は五十分だよ」

 風よけドームもない夜空を見上げれば、青白いリンとピンクのエチルがへばりついている。

 背の高い灰皿を見つけ、シドは煙草を咥えた。イリヤも倣う。スティーブが傍のオートドリンカでアイスティーを手に入れ、ひとくち飲んでからハイファに手渡した。薄笑いを寄越したスティーブだけでなく、受け取って飲み始めたハイファにもシドは腹を立てる。

 腹立ちを任務へのモチベーションにすり替えて低く唸った。

「くそう、何もヒットがねぇのは痛いぜ」
「確かにな。だが昨日の今日だ、情報が巡るまで時間が掛かっているんじゃないか?」
「もっとマフィアは情報に敏感だと思ったんだがな」
「情報に敏感なマフィアねえ……」

 会話に参入したハイファが呟き、シドは暫し考え込んでから口を開く。

「そうだな……ハイファ、この辺りでエリアスファミリーが仕切る店がねぇか探してくれ」
「エリアス、そっか。大手じゃないけど財テク・エリアスなら何か知ってるかもね。ええと……郊外に近いけど、エリアスのカジノがあるよ。四十五分の定期BEL」
「よし、そいつだ」

 丁度その定期BELが垂直降下してきて接地する。イリヤとシドは煙草を消し、ハイファのアイスティーをスティーブが取り上げて一気飲みした。とことんシドを煽る気らしい。

 降りて行く客を見送り、キャビンアテンダントの掲げたチェックパネルにリモータを翳して定額料金を支払うと、四人はタラップドアを上ってシートに腰掛ける。涼しい風に安堵しているとすぐにテイクオフ、大型BELは低空を低速で飛翔し始めた。

 幾ら遠くても街を囲む山並みは見えている。郊外はそう遠くない。だがあちこちの停機場にたびたび停まるので距離は稼げず、三十分も経つとシドは眠くなってきた。

「もう少しだけ頑張って。あと十分そこそこで着くから」
「ん、了解」

 まもなく定期BELはランディングし、ハイファに促されてシドも立ち上がる。イリヤとスティーブも腰を上げた。ここも風よけドームのない低いビルの屋上だったが、客はごっそりと降りる。それも身なりの良い客が殆どだ。男女ともに最低でもスーツを着用している。

 そんな中でハイファとイリヤはともかくとして、シドとポロシャツにスラックス・コットンジャケット姿のスティーブは浮いた。人目を惹く二人は、だが互いに目も見ない。

「どういうことなんだ?」
「さあ、客層が高級なんじゃないの?」
「いいじゃないか、中身が下劣でないなら」
「ふん、約一名はそいつも疑わしいけどな」

 エレベーターで一階に降りて外に出ると、辺りは同じく人の群れだったが、居並ぶ店は派手な呼び込みなどしていなかった。
 バーやクラブに合法ドラッグ店、カジノに至るまで、電子看板かホロ看板をひとつ置き、浮かばせているだけで、あくまで上品なイメージで売っているようである。

 オートドアもきちんと閉まっていてBGMも洩れ出してはいない。
 それらの店々を眺めながらハイファは呟いた。

「却って入りづらい気がするなあ」
「会員制ではないのか?」
「何も書いてはいないけど……シドとスティーブはスーツでも買って出直す?」
「いい。こっちは客だ、構わねぇさ。入ろうぜ」

 傍のカジノの入り口、三段の階段をシドは上る。四人はオートドアから入った。一歩目は無音、二歩目でさざ波のように音が復活し、三歩目で煌びやかな世界に飛び込んでいる。

「こいつは驚いたぜ、別世界だな」
「本当にすごいね」
「歓楽街に見えないな、何処かのパーティー会場のようだ」
「今までの店と格が違うってことか」

 高額を張らせるために精神を高揚させるアップテンポのフロアミュージックは変わらない。だが広い広いフロアはまるで紳士淑女の夜会場だった。

 天井からは二桁に上る精緻な細工のシャンデリアが下がり、高い天井には宗教画のような天使と聖母が描かれている。金彩がふんだんに施された壁や柱には有名作家のシルクスクリーンやホロが飾られていた。

 制服の給仕がアルコール飲料のワゴンを押して回り、グラスを手にした人々の中にはカクテルドレスやタキシード姿まで見受けられる。ここではスロットマシンよりもルーレットやポーカーにバカラなどが人気らしく、ゲーム台の周囲で人々は笑い、どよめいていた。

「うーん、本当に僕らは異分子かも」
「入っちまったんだ、情報収集活動、行くぞ」

 またもスロットマシンから始めてポーカーゲームまで辿り着いたが、周囲で動いているカネの桁が違うのか、なかなか人目を惹かずに苦労する。それでもポーカーでシドがロイヤルストレートフラッシュを二回連続で揃えると、ようやくどよめきが集中しだした。 

「今回はサクラが見当たらねぇな」
「セコい儲け方はしてないみたいだね」

 けれど殆ど有り得ないシドの手役ハンドに対して挑戦のように、ディーラーが宣言する。

「では、このあとのゲームはワンベット千クレジットとさせて頂きますが宜しいでしょうか」

 宜しいも何も断定的口調だったが、ワンベット一万で本家マフィアとも渡り合ってきたシドは動じない。一山当てようとする客や、財力を誇示するかの如き老人たちをものともせず、二時間ののちにはシドの前にだけ壁のようにチップが積み上がった。

 それでもオーナーかマネージャーからのお誘いはこず、シドは自ら席を立って残り三人と一緒に喉を潤そうと、奥のバーラウンジに向かう。

 そこはバーラウンジというよりクラブのようだった。肩の高さの壁に仕切られた個別ブースにソファセットがひとつずつ、それが八つ並んでいる。
 勝手は違ったが臆することなくシドを筆頭に空いたブースのひとつに入り、ロウテーブルからせり上がってきたホロメニュー表を押して、クレジットと引き替えにカクテルを頼んだ。

 すぐに黒服の男がグラスとナッツの皿を運んでくる。シドはカミカゼ、ハイファはスプリッツァーのグラスを手にした。残る軍人二人は相変わらずビールである。煙草を吸いながらシドはウォッカベースの液体を喉に流し込んだ。 
 ハイファもナッツを摘みながら白ワインの炭酸割りを三分の一ほど飲んで溜息をつく。

「食いついてこなかったね」
「セコくねぇのはいいが、こうなるとどうしようもねぇな」
「幾らくらい勝ったの?」
「二千八百万」

 そんなケタのカネに縁のない耐乏軍人二人は天を仰いだ。

「うーん、まだ足らないのかあ。高額が動くバカラとかやってみる?」
「ルールが分からん」

 ぼそぼそと喋りながらシドは二杯目を頼む。ペースも速く飲み続けていると、ブースに青いドレスの女が一人やってきてスティーブの隣に腰掛けた。接待のサーヴィスかと思ったが、女は自分でダブルのウィスキーを頼むと、涼しい顔で飲み始める。

 男四人の視線を浴びつつショットグラス二杯を呷り、三杯目になってやっとハスキーな声を出した。

「大した勝負師だわね。何者かしら?」

 勘に従い、シドは誤魔化すことなく答える。

「テラ本星からきた、軍の人質救出部隊だ」
「ああ、FCの会長を助けに来たって訳ね。専務さんまでご苦労だこと」

 四人は鋭く視線を交わした。そのままシドが女と会話を続ける。
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