Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

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第27話

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 幸いここはどの部屋も完全防音だが、何れ発見されるのは必至だ。
 シドは室内奥のフランス窓に駆け寄って開放する。見下ろすと隣の建物の屋上が三メートルほど下にあった。窓枠に足を掛けて飛び降りる。綺麗に着地して降ってきたハイファを抱き留めた。

 イリヤとスティーブが飛び降りてくるのを待ってハイファを降ろし、四人でエレベーターホールへと走る。二階まで降りて階段に切り替え、慎重に一階に下ると裏口から忍び出た。
 高級娼館の建ち並ぶ裏通りからカジノがメインの表通りに出て、四人は直近の定期BEL停機場である、これもカジノの屋上へと上がる。

 遊び終えて宙港付属ホテルに戻る人々が多いためだろう、定期BELは宙港直行便が結構数多く運航していて幾らも待たずに乗れた。だが宙港に帰り着くともう五時である。
 定期BELから降りて四人は相談し、仮眠を取ってから動くことにした。

「ふあーあ。眠れても五時間程度か。部屋を取るのもムダっぽい気がしねぇか?」
「確かこの宙港ビル内にリラクゼーションルームがあった筈だよ」

 ロイやアドリアンたちに発振しておいて、四人はリラクゼーションルームに向かった。

 スカイチューブもある四十階にリラクゼーションルームはあったが、二人部屋が塞がっていて仕方なく四人部屋を利用する。リモータチェッカをクリアして入った喫煙可の部屋には、狭いがバスブースもふたつ付属し、飲料ディスペンサーなども完備されていた。
 時間制の部屋は出る際に内側からクレジット精算しないと開かないシステムになっている。

 四台の寝椅子をハイファ、シド、イリヤ、スティーブという並びで使用した。それぞれが上着を脱いで執銃を解くと、天井のライトパネルを常夜灯モードにして横になる。
 けれど毛布を被って幾らもしないうちに、シドはハイファの動き出す気配で目を開けた。

「リフレッシャ浴びてくるだけ、寝てて」
「ん、そうか」

 うとうとしていると今度は微かな話し声で意識が浮上する。隣を窺ったがハイファは寝ていない。身を起こして振り向くと、イリヤの向こうの寝椅子も空だった。ということはハイファとスティーブが喋っているのだろうが、非常に気になりつつも盗み聞きするのは気が引けた。

 かといって安穏と眠れる訳もなく、溜息をついて起き上がると、部屋の隅にふたつだけある独り掛けソファの片方に腰掛けて煙草を咥える。
 薄暗い中で紫煙を漂わせ、二本目を吸い始めたとき、高い声が聞こえて立ち上がった。

「やっ、だめ……やだったら、離して!」

 部屋を横切ったシドは声も掛けずにバスブースに繋がるドアを開ける。脱衣所代わりの洗面所で、備え付けのガウン一枚を羽織ったハイファが、同じくガウン姿のスティーブと揉み合っていた。いや、揉み合うというより一方的に壁に押し付けられ、両手を右手一本で頭上にまとめて縛められ、首筋に顔を埋められていたのである。

 膝を割って躰を割り込ませたスティーブをハイファから引き剥がし、シドは無表情のままスティーブの頬に右ストレートを叩き込んだ。狭い場所で膝を折った長身の腹に蹴りを入れる。
 だが相手もタフな軍人、容赦のない蹴り二発目で足を掴まれた。シドに縋るようにして立ち上がったスティーブは口の中を切ったらしく、洗面台に血を吐く。

 構わずシドは肩を掴んでこちらを向かせ、膝蹴りを入れた。胸ぐらを掴み締めて再び頬にこぶしを叩き込もうとした、その腕を背後から強く掴まれる。

「シド、それ以上は許してやってくれ」

 眉をひそめてイリヤが立っていた。暫しシドはブルーの目を睨む。

「ごめん、シド。僕も油断したから」

 今度はシドがイリヤを殴るのではと懸念してハイファは言ったようだが、宥めたその言葉をスティーブは逆手に取った。切れた唇の端を歪めて嗤い、言い放つ。

「聞いたか、シド。俺の前でもハイファスは油断するってことだ」
「勝手に吼えてろ、勘違い野郎」
「ふん、『今』にあぐらをかいて、あとで吠え面かくなよ!」

 呆れてシドは長身を見上げ、茶色い目を見返した。

「馬鹿か、テメェは。ハイファはテメェなんかに簡単になびかねぇよ」

 まだスティーブは吼えていたが、シドはもう相手をしない。馬鹿馬鹿しくて怒りも突き抜けてしまい、なお言い募るスティーブをガン無視してハイファを促し部屋に戻る。ハイファを横にさせて毛布を被せたが、自分はもう目が冴えてしまっていた。

 振り向くと定位置に置かれていたファーストエイドキットを持ち出してイリヤがスティーブの治療中である。これなら大丈夫だと思い、自分もリフレッシャを浴びることにした。

 眠りかけたハイファにひと声掛けておいてバスブースに向かう。小容量のダートレス二台のうち一台にハイファの洗濯物を発見して、そちらに自分の服も押し込みスイッチを入れてからリフレッシャを浴びた。

 ドライモードで乾かしバスブースを出ると、洗濯の終わった衣服を身に着けて、ハイファの服を抱え部屋に戻る。入れ違いにイリヤがバスブースに入っていった。
 一番端の寝椅子の脇を通ったとき、毛布を被ったスティーブのくぐもった声がした。

「俺だけじゃない、イリヤだってハイファスの躰を知ってるんだぞ」
「それがどうした」

 八つ当たり的に発せられた言葉にシドはそう返し、ソファに衣服を放り出すと、眠れないと分かっていつつ寝椅子に横になって毛布を被り、目を瞑った。

◇◇◇◇

 十時になって起き出し顔を洗った男四人の目は赤かった。
 リラクゼーションルームを出てレストランフロアのカフェテリアで朝食を摂ると、屋上の定期BEL停機場に上がる。
 停機場では既にロイとテレンスにアドリアンとゲイリーのバディが待っていた。八人で第二宙港行きの定期BELに乗り込む。バディごとにシートに収まった。

 恒星フェイダルが眩く照りつける中、大型BELは十一時ジャストにテイクオフ。
 この時間になると眼下に広がるルーシャの街は、電子看板も消えて普通の街に見える。

「んで、敵から三度目の連絡はまだこねぇのか?」
「何も言ってこないから、たぶんね」

 今朝早くセンリーのリモータにエレボス騎士団から二度目の連絡があったのだ。今回は音声発信でロニアの銀行口座ナンバを述べ、五十億クレジットを振り込むよう指示されたらしい。
 だがナイト損保のネゴもセンリーに指示し、チェンバーズ解放について何らかの言及がなされない限りは、要求に従えないと突っぱねたのだという。

「ネゴもプロだし、あっちは任せるしかないよね」
「けど強硬姿勢を取るにも限界があるからな、こっちも急がねぇと」
「まあ、これ以上焦っても仕方ないし、確実に辿れてはいるからね」

 しかし第二宙港直行便とはいえ何もできない三時間だ。仕方がないのでロクに眠れなかった四人組は積極的に眠る努力を始める。だが消炎スプレーで治療しても不名誉の負傷の痕が残るスティーブはまだ頬が痛むようだ。
 眠れそうにない様子を見てシドは鼻で嗤い、これ見よがしにハイファの肩に凭れると刑事の特技でさっさと眠りに就く。

 穏やかなハイファの寝息を聞きながら躰を休め、到着十分前のアナウンスで目を覚ました。かなりすっきりした気分である。だが減速したBELの窓を雨が叩いていた。

「うーん、これはびしょ濡れ覚悟みたいだね」
「濡れて歩くのには慣れてるさ」
「雨でも七分署管内の外回りは欠かさないもんね。でも僕らは銃の錆が気になるから」
「お前らのは鋼の塊だもんな、ご苦労さん」

 濡れても銃は撃てるが、錆が浮くと作動不良を起こしかねない。
 やがてBELが降下し始めて、地上の様子が分かってくる。クローナの街は意外にも星系首都ルーシャよりも高層ビルが多く、高度文明都市の体をなしていた。小作りではあるがビルを結ぶスカイチューブも垣間見え、高層ビルの間は二、三十階程度のビルが埋めている。

 都市の外側はここも広葉樹の森らしく、それを切り開いて都市は増殖中だ。

「ここでサンズ一人を捜さにゃならんとは、涙が出そうだな」

 と、アドリアンが天井を仰ぐと、ロイがクールに応える。

「検索を掛けるので、捜索自体は大した労働ではないと思われます」
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