Green Eyed[グリーン アイド]~楽園21~

志賀雅基

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第29話

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 サンズが出てきた時点でイリヤとスティーブも店内に入っていた。だが四人と対峙してもサンズは怯まず、愛想笑いも崩さない。シドの言った意味が分からないのではない、愛想笑いの質が微妙に変化したのをシドは見逃していなかった。

 残忍にも見える笑みでサンズはシドたち四人を舐めるように見つめたのち、悠々とカウンターの内側まで戻る。そのとき外で異音が響いた。雨がコイルやBELを叩く音に紛れて聞こえたのは、確かに旧式銃の撃発音である。次には微かな連射音が鼓膜を震わせた。

 リモータが震えてイリヤが反射的に操作する。ロイの声が流れ出した。

エネミー、複数と接触! 交戦開始エンゲージ、エンゲージ!」

 ロイだけでなくアドリアンの声もする。側面から裏へと援護に回ったらしい。しかしシドたちに駆け付けるヒマなどなかった。カウンター内にサンズが身を伏せたかと思うと、奥の間からサブマシンガンを構えた男たちが飛び出してきたのだ。その数、何と六名である。

「イリヤ、逃げろ!」

 咄嗟にシドが叫ぶより早く、イリヤとスティーブは身を翻していた。店外のBEL陰に隠れたイリヤたちを卑怯だとは思わない、蜂の巣にされ全滅するよりマシである。けれど一挙動で外に出られない位置にいたシドは、背後にハイファを庇って立ちはだかった。

 次の瞬間、四十五口径弾の連射がシドの腕から胸を通過する。場違いに軽快な連射音はあとから聞いた。六丁ものサブマシンガンの斉射を食らってシドの躰は吹き飛ばされる。受け止めきれなかったハイファもろとも尻餅をついた。

 だがそのときにはレールガンを抜いている。

「ハイファ、お前は出るな!」

 威嚇の意味も込めて大喝しつつ、レールガンをフルオートモードにして薙いだ。強烈な反動を押さえ込み、フレシェット弾をバラ撒く。悪い体勢ながら三人がヘッドショットを浴びて頽れた。残り三人は着崩れたスーツから血飛沫を上げながらも、サンズに倣ってカウンターに身を隠している。

 シドはカウンターそのものにも弾をぶち込んだ。しかしカウンターは木っ端を散らすも壊れない。どうやら鉄板でも挟んであるようだ。

 超至近距離でのガチの撃ち合い、ハイファもハイ・ロウ、いわゆるダブルガン状態を承知でシドの肩越しに撃発音を響かせ出す。シドは単発に戻して速射に切り替えた。弾切れになったときが最期、この体勢で斉射を食らえば、次はアウトだろう。

 撃ち続けながら大声でハイファに怒鳴った。

「今のうちに退け! 外に出ろ!」
「貴方を置いて退ける訳ないでしょ!」
「いいから、俺には構うな!」
「ふざけたこと、言わないで! あと少しだから保たせて!」

 怒号の応酬をしていると更に奥の間から人影が現れる。シドは撃ちそうになったが寸前で留まった。それは裏から回ったイリヤとスティーブだった。
 二人はカウンター内に数発を撃ち込む。呻き声もしないまま静かになった。おそらくたった一人の生き残りであろうデイル=サンズをイリヤたちは引っ立て、テーブル付属のチェアに座らせる。

 その頃にはロイとテレンス、アドリアンとゲイリーも姿を見せていた。

「みんな無事だったんだね、よかった」
「まあな。相棒とテレンスが腕を撃たれちまったが」

 器用に片眉を上げてアドリアンが言い、テレンスとゲイリーがお揃いのようにタオルで縛った左腕を振ってみせる。貫通銃創だが骨には異常がないらしい。

 話によると建物内部に潜んでいた敵は総勢十名で、サンズがバシリーファミリーに依頼して借り受けたガードだという。やはりステファンにジェロームとリュノーを撃たせた時点で、レイクスは第二ホステージ・レスキュー部隊の存在をサンズに告げていたのだ。

「そっか。じゃあ敵は食い下がる犬の存在を完全に知ったってことだね」
「問題は俺たちが真の敵の存在を掴めていないということだ。こいつはフェアじゃない」

 腕組みしてスティーブが言うと、イリヤも同意して頷く。

「では、そろそろバシリーのチンピラも知らない話を聞かせて貰おう」

 静かな声で宣言したイリヤはスティーブと共に、昨夜シドたちから学習した成果を遺憾なく発揮した。急所を避けて脚を穴だらけにされると、サンズは叫び疲れて割れた声で答えた。

「FC会長を何処に隠した?」
「昨夜、第二宙港で……宙艦の、バッセル号に、乗せた。行き先は……知らない」
「それを誰に命令された?」
「いつも、命令を伝達してくるのは、レナード=ブラント……金髪で青い目の、中年男だ」

 レナード=ブラントのリモータIDを流させ、イリヤは更に訊く。

「サンズ、貴様は元PSCのハックス社の一員なのか?」
「違う……だがレナードは、元ハックス社だと、聞いたことがある」
「ふむ。ならハックス社がエレボス騎士団に化けた理由を知っているか?」

 もうあとは何を訊いてもサンズは首を横に振るばかりだった。ただサンズも背後に控えた大きな力を何となく察知し、バシリーファミリーまで動かせる自分に酔っていただけらしい。

「そこらのチンピラと変わらねぇ、こいつも小物ってことだな」
「そうみたいだね。あーあ、何処まで上があるんだろ?」

 溜息をついたシドとハイファにつられて他のメンバーも深く息をつく。だがバシリーファミリーの手下を十人もまとめてったのだ、ここでのんびりはしていられない。サンズの腹にスティーブが一発の銃弾を見舞うと、イリヤが撤収命令を下す。

 幸い乗ってきたタクシー二台はそっくり残っていた。

 一台に怪我人を出したバディ二組が乗り込んだので、不本意ながらシドはハイファとともにスティーブたちと同乗する。そのままシドたちは第二宙港に戻ってバッセル号について調べ、怪我人の出たバディは近くのクローナ大学付属病院に直行することになった。

 皆がエアコンで努めて乾かしたが、まだ髪から雫が垂れている状態で第二宙港に着く。銃を扱う以上は手を塞ぎ視界も遮る傘は差せないので仕方ない。
 宙港メインビルの一階ロビーフロアに戻ると、またインフォメーション端末一台を四人で囲み占有した。今度もハイファの腕の見せ所、ハッキングに期待である。

「さあて、調べるぞー。まずはバッセル号だよね」
「登録された艦籍簿を検索すれば一発だろ」
「うん。ええと……ほら出た。個人所有艦になってる。艦主はヨアヒム=ユンカース」
「ヨアヒム=ユンカースなあ。何者だ?」

 訊かれても知る訳がなく、首を傾げてハイファは艦籍簿に目を通した。

「あ、ここ見て。バッセル号の母港は第五惑星スーメラの第一宙港になってる。ヨアヒム=ユンカースの住所もスーメラ第一宙港のあるミルセの街になってるし」
「ふうん。でもスーメラって自転周期が遅くて目茶苦茶寒いんだろ?」
「そうらしいね。じゃあ、次はレナード=ブラントについて検索っと」

 こちらは宙艦利用者名簿で何度もヒットする。

「でもこの元ハックス社員のレナード氏も、このラーリア第二宙港とスーメラ第一宙港間のシャトル便ばっかり利用してるよ。二回に一回はバッセル号で行き来してるけど」
「ならレナード=ブラントとヨアヒム=ユンカースも、デイル=サンズを割り出したときと同じ方法で身許が出ないかどうかやってみてくれ」
「ラジャー」

 暫し待ちながらシドは喫煙欲求に耐えた。だが目はしっかりと喫煙ルームを探している。
 腕をつつかれて我に返ると、ハイファは奇妙な顔つきをしていた。

「どうした、何か変なもんでも見つけたか?」
「うーん。ヨアヒム=ユンカースはね、このフェイダル星系に於ける、宙港コーポレーションリミテッドの筆頭株主の一人で、レナード=ブラントはその下請け会社である宙港サーヴィスエージェンシーの役員になってるんだよ」

 聞いてそれまで黙っていたイリヤとスティーブも身を乗り出す。
 宙港コーポレーションリミテッドと云えば半官半民の大会社だ。星系ごとの独立性が高く、官と民の株保有割合も星系によって様々だが、宙港運営の全てを司ると云っても過言でないため、その経営には星系政府の意向が大きく反映されている。

「殆ど公営の宙港運営にヨアヒム=ユンカースは携わり、レナード=ブラントも立場としては公務員に近いということか。公務員がエレボス騎士団……有り得るのか?」

 独り言に近いイリヤの呟きにシドは耳をかっぽじって欠伸混じりに応えた。

「何だって有り得るぜ。喩え王サマだって人の子、誘惑に負けることもあるさ。ふあーあ」
「王か。この星系は王政だったな」
「王政って云えばスーメラ第一宙港のあるミルセの街には王室の離宮もあるんだよ。シド、貴方は王宮の天辺の玉ネギ飾りが見たかったんじゃないの?」
「別に極寒の地にまで見に行きたかねぇよ」

 殆ど人も住まないような寒い星など真っ平ごめんでシドは退いたが、ハイファはホロディスプレイの画面を切り替えると、諦めたような顔で画面を指差した。

「でも昨日の夜、バッセル号が向かったのは確実にスーメラ第一宙港なんですけど」
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