砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第8話

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 薄暗さに目が慣れた京哉は辺りを見渡した。外からはスイートルームのようだったが、中は広々としたサロンである。全ての席が窓際にあり、それぞれが壁で仕切られて半個室のようなブースになっていた。

 ブースのひとつに二人は案内され、本革張りのソファに腰掛けた。テーブルは磨かれたローズウッド製で中央には白薔薇が飾られキャンドルの炎が揺らめいている。

「こちらの隣がお客さまのお望みのものとなります。直接ご覧にはなることはできませんが、これ以上のお席はあいにくご用意できかねまして……」
「いや、ここでいい。すまない。協力に感謝する」 

 霧島と京哉は並んで座った。背後の壁の向こうが議員たちの席だ。席を立てば出入り口に近いここの前を通ることになる。確かにここ以上に監視に向く席はない。

 僅かな声でも聞こえるかと耳をすませたが、クラブ内で生演奏されているピアノ曲しか聞こえない。おそらくブースを仕切る壁は防音材なのだろう。ざっと見たところ客は七分の入りだ。世は不況でも高級クラブに出入りする人種には関係ないらしい。

 黒服が去ると入れ違いにカシュクールドレスをまとった女性が二人やってきた。

「初めまして、アリサです」
「ミキといいます、宜しくね」

 二人のドレスは黒で剥き出しの肩の白さが引き立っている。霧島と京哉を挟むようにアリサとミキは腰掛けた。だが無理矢理身を寄せてくることも、やたらと媚びた嬌声を響かせることもなく節度を持った接客態度に霧島はやや好感を持つ。アリサが二人に訊いた。

「お二人は何を飲まれるのかしら?」
「すまんが私は運転があるので飲めん」
「僕はこういう場所は初心者なんで……」

 アリサたちに任せた結果として何故かウィスキーのボトルを入れることになった。だが一ノ瀬本部長から経費として税金の詰まったカードを預かっている二人は気にしない。あまり強くない京哉は酔わない程度に水割りを僅かずつ飲んだ。

 ミキの眩く白い胸元を鑑賞しながら。

 料理から政治や映画に至るまで女性たちの豊富な話題に相槌を打ちながらも、霧島の怒りのボルテージは静かにカサを増してゆく。
 京哉は京哉で自分が女性の胸の谷間を鑑賞してしまっていることに気付いてもいない状態だ。危うい均衡を保って二時間が過ぎる。

 そこでディン資源公司の社長だけが席を立った。まだ日付も変わっていない時刻だったが民間企業の社長は忙しい身なのだろう。国会会期の谷間でヒマなのか池野議員は一人で居座っている。お蔭で京哉と霧島も動けず、京哉に対する霧島の怒りも更に増した。

 池野議員はたっぷり一時間ホステス相手に飲み、ようやく重い腰を上げた。合わせて霧島と京哉も立ち上がる。池野議員がチェックする間にアリサが首を傾げて訊く。

「そのままお帰りなのかしら?」
「そのままって?」

 素で訊いた京哉にアリサとミキは含み笑いを洩らした。
「刑事さんに言うのも変だけれど貴方たち素敵だから特別に教えてあげる。個人交渉さえ成立すれば、わたしたちをテイクアウトしてもいい、ここはそういう場所なの」

 なるほどと霧島は意外なクラブの盛況ぶりに納得する。ここは高級娼婦の斡旋もしているらしい。売春は勿論違法だが、こういった形で双方合意の上ならば言い訳も立つ。尤も客層も限られていて互いに秘密を握り合ったようなものだ。バレもしないだろう。

「でも貴方たちには必要ないみたいね」

 二人が左薬指に嵌めたペアリングに目をやったミキは、教育されたスマイルに僅かながら悪戯っぽい微笑みを混ぜて二人を解放してくれる。足早に二人は出入り口近くのカウンターに向かい、さらりと十万近い金額をカードでチェックした。税金だから怖くない。

 再来店を乞う黒服のお辞儀に見送られてドアを出るなり不機嫌な霧島が低く唸る。

「京哉、分かっているのだろうな?」
「えっ、何がですか?」
「あんなに女性の胸をガン見しておいて、しらばっくれるな!」
「そんなの僕は見ていません!」
「嘘をつくな、全くみっともない!」

「嘘じゃないです。大体、見えそうなのに見せて……くれませんでしたよね?」
「知らん! 透視する勢いで見ておいて何をとぼけたふりをしている!」
「今はそれより池野議員でしょう、そうでしょう?」
「ふん。誤魔化されんからな」

 既に池野議員の姿は廊下から消えていた。急いで二人はあとを追う。エレベーターホールに着くと一基が下降中だった。二人もエレベーターで一階まで下る。
 エレベーターから飛び出して小走りにロビーとフロントの間を駆け抜けると、エントランスの透明なドア越しに黒塗りに乗り込む池野議員の背がチラリと見えた。

「誰か一緒にいたな?」
「たぶん。毛皮のショートコートの女性でした」

 エントランスから走り出てコインパーキングに白いセダンを迎えに行く。コインパーキングから乗り出すと霧島は白藤市郊外にあるという池野議員の自宅方面に向かって白いセダンを走らせた。バイパスに乗った辺りで抜群の視力を持つ京哉が叫ぶ。

「あっ、追い越し車線の三台前に池野議員の黒塗りがいます!」
「女性の胸を透視するくらいなら、あの車の中も透視して貰おうか」
「忍さんって本当にネチこい土鍋性格ですよね」

「土鍋も何も、ついさっきのことだぞ。それにしてもこのタイミングで女か」
「もしかして忍さんは議員のテイクアウトが拙いと思ってるんですか?」
「もしかしなくても思っている」
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