砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

文字の大きさ
11 / 53

第11話

しおりを挟む
「仲間が資金を調達して、ターゲットとするプラーグ暫定政権否認派の情報をかき集めたわ、議員に近づくためにね。そしてロゼ=エヴァンジェリスタの名前とカードを託されて、わたしたちはプラーグから送り出されたの」

「どうして日本の議員ばかりを狙った?」
「仲間が決めたことだから本当のところは分からないけれど、プラーグの隣国ユベルをトンネルにして砂の花を買い取って、でもじつはプラーグ国民を騙してたのは某大国だったんでしょう? でも某大国は銃社会で『ロゼ』の活動は難しいわ。だから某大国と仲のいい日本を狙ったんだと思う」

 なるほど、予測にすぎなくてもユーリンの説は頷けた。

「だがユーリン、あんたと違ってエリンとサラとかいうロゼは、脅しだけでなく殺しまでやった。それは最初から計画のうちだったんじゃないのか?」
「それは……正直、分からない」
「思い余っての故殺か、それとも計画的犯行かは不明ということか。何れにせよユーリンには何も伝えられなかった、そういうことで間違いないな?」

「言い訳を許して貰えるなら、乗り継ぎのアンゴラ空港で別れたエリンとサラが、まさか人を殺しに行くとは思えなかった。笑って別れたのよ」
「ふん、状況に嵌って思わず殺してしまった故殺パターンか。とにかく複数のロゼはスタンドアローン的に暫定政権否認派議員を脅し、または消して回っていたんだな」

 何度目かの溜息をつくと霧島はユーリンを見据える。

「そして、その仲間とやらはハミッシュやジョセたちのことなのか?」
「違う、違うわ! ジョセたちは穏健派、ロゼのことなんて何も知らない!」
「落ち着け。ならば仲間とはいったい誰なんだ?」

 僅かに考えるようにユーリンは俯いた。

「旧政権を倒す前にあったような武装勢力が少数だけれどまた現れたの。穏健派がやっている国連との話し合いは堂々巡りで平行線。それじゃ幾ら待っても新政権が認められる日は来ない、砂漠の灌漑事業や大手企業の誘致なんかに漕ぎ着けない。そう主張する急進派の人たちが集まって国連平和維持軍にアタックしてるのよ」

「その急進派武装勢力がユーリンの仲間ってことでいいんでしょうか?」
「ええ、そうね。けれどわたしは彼らの思想に完全に賛同した訳じゃないし、彼らのように砂漠を放浪してもいないわ。でも『ロゼ作戦』の話を聞いてわたしは自分の意志で立候補したの。だから『ロゼ作戦』に関してのみ、彼らの仲間ってことかしら」

「どうして? 貴女の仲間はハミッシュたちじゃなかったんですか?」
「わたしは旧政権を倒す大攻勢のとき、参戦できなかった……」

 そう、霧島と京哉も参加したプラーグ軍へのアタックでユーリンは撃たれ、二人が病院に担ぎ込んだ。そしてユーリンの入院中に大攻勢はなされ旧政権打倒が成ったのである。

「そのあとやってきた国連平和維持軍への徹底抗戦にも加われずに、仲間のみんなが投獄されたのを知ったのも何日か経ってから。何もできなかったの、わたし」

 淋しそうに呟き、ユーリンは冷めかけたコーヒーを飲んだ。

「だからハミッシュたちのためになりたいって思った、それは分かります。でも忍さんが貴女に残した『選挙管理委員会を立ち上げろ』って言葉を貴女が実行したからこそ、全国民による投票で獄中出馬したハミッシュが当選したんじゃないですか」

「それはすごく感謝してる。でもわたしはやっぱり子供で自分の力じゃ何もできずに大人に相談して……そうしたら実際には全て大人が仕切って、わたしは言われたことを手伝っただけ。こんなのとっても情けないけれど、だから余計にロゼに……」

 溜息をついたユーリンは不安げに二人を見比べ、そして表情を硬くする。

「わたし、捕まるのよね? 覚悟はできているわ」
「覚悟ねえ……ユーリンは他にも誰かを脅すつもりだったんですか?」
「じつは池野議員の次に川崎志朗議員も脅す予定だったの」

「ふうん。それで、この日本に貴女以外のロゼはいるんでしょうか?」
「わたしが知る限りでは、わたしだけよ」
「じゃあ貴女は誰も殺しても脅してもいない訳ですよね?」

 作戦失敗をどう思っているのかユーリンは頷いた。そこで京哉は霧島に訊く。

「脅迫罪も成立しないですし、ユーリンは無罪放免ですか?」
「だからといって野放しにはできんぞ。何をやらかしてくれるか分からんからな」

 それでもユーリンは明るい顔をした。不慣れな先進国に一人出てきて知った者に出会えたのが嬉しかった上に投獄されないと知って安心したのだろう。

「ユーリン、もうひとつ訊かせてくれ。他のロゼはまだ誰かを狙っているのか?」
「今のところはエリンとサラも、もう他のターゲットは与えられていないと思うわ」
「そうか……エリンにサラか。どうすることもできんな」

 他国にたった独りで送られ、思わず人を殺めてしまった『ロゼ』は今、何処にいて何を考えているのだろうか。
 束の間の沈黙を破って京哉が殊更明るい声で仕切った。

「なら取り敢えず夜食でも食べましょう」

 京哉がティーバッグの茶を淹れ、三人はコンビニで買ってきた海苔弁当を食す。迷うことを知らない霧島はコンビニ弁当といえば海苔弁一択だ。食べ終えて京哉は一服を吸うと、寝室から予備の毛布を出してきてリビングの二人掛けソファに置いた。

「こんな所で悪いですけど、眠れますかね?」
「充分すぎるくらいだわ。本当にこんな素敵な部屋を借りてもいいのかしら?」

 まだ興奮して喋り足りなさそうなユーリンを宥め、京哉は寝室に引っ込む。

「どう思いましたか、忍さん?」
「お姫さまは何か言っていたか?」
「カレイドにコートとドレスを返さなきゃって心配してました」
「それか。事の重大さを分かっていないようだな」

「ですよね。ユーリンの失敗で新たなロゼが池野議員や川崎議員を狙いにくるかも」
「池野議員と川崎議員だけではない、下手をするとプラーグ暫定政権否認派を一掃するまで第三、第四のロゼがぞろぞろと派遣されてくる可能性もある」

 持ち込んだマグカップを手に二人は溜息をついた。

「任務はロゼを逮捕し、【今後の『デザート・ローズ計画』を阻止】でしたよね?」
「エリンやサラを捜索して今更逮捕しても難儀なだけで計画阻止にはならんし、私たちの仕事でもない気がするな。元よりユーリンも逮捕できん。本部長が言った特別任務の【ロゼ逮捕】はこの際、意味を失くしたと考えて構わんだろう」

「とすると、残るは【デザート・ローズ計画を阻止】するのが僕らの任務ってことですが、そのためにはまず、ロゼを作り出す元を断たないと難しいってことじゃないでしょうか?」
「ユーリンの言った急進派武装勢力を潰す、か」

 自分たちも参加した反政府武装勢力のクーデターには歴代の反政府ゲリラが溜め込んだ火器を使用した。砂漠の基地跡に隠してあった火器には迫撃砲まであって、それを思い出すと二人だけで急進派武装勢力とやらに挑むのはちょっぴり拙い気がする。

 二人で同じことを考えているのが伝わり、霧島は取り敢えず問題を先送りにした。

「実際に潰せるかどうかはともかくとして議員殺しは止めさせんと、プラーグ暫定政権の立場も悪くなる一方だぞ。武力を捨てて戦っているハミッシュたちの努力も水の泡だ」
「現状だとプラーグは片方で円卓に着くふりをして、片方では棍棒を持って殴ってるって画ですから。この分じゃ暫定政権否認派が増える恐れもありますよ」

 そこでライティングチェストの上に二人は目をやる。そこには普段リビングのTVボードに置いてあるA4サイズのカラープリント画像を移動させてあった。プラーグの仲間たちが写ったものである。フレームから溢れんばかりの人々は非常に陽気に笑っていた。

「プラーグに行くか、私たちも」
「ユーリンをつれて急進派を潰しにですか?」

「そこまではまだ分からんが、お姫さまたちの『デザート・ローズ計画』は潰さんと特別任務が終わらん」
「じゃあまた豆のスープと砂まみれですね」

 そんなことを京哉は嬉しそうに言った。
 彼らと共に旧政権を倒すために戦ったのち国連平和維持軍に対して徹底抗戦をするという時に霧島は一緒に戦わせてくれと申し出た。けれど彼らの答えはノーだった。

『あんたらはもうかけがえのない仲間だ。だが、だからこそ自分の居場所で俺たちをしっかり見守っていて欲しい……』

 そう言った彼らが今回の苦境を乗り越えられないとは思わない。しかし。

「私たちは私たちで、特別任務だからな」
「素直にみんなに会いたい、手伝いたいって言ったらどうですか? それに……」
「それに、何だ?」

「前回僕らがプラーグに放り込まれたのは某大国の企みでした。それこそスパコンで僕らの思考・行動をシミュレーションした挙げ句、反政府ゲリラを集結させて一気に叩くため、流れを決定づけるファクタとして僕らは利用された。貴方は途中までそれを読んでいながら一歩及ばず、表には出さなかったけれど、本音ではものすごく悔しがってましたよね?」

「だから何だ、先読みにおいて対スパコン戦で私に勝てというのか? これでも人間だぞ。悔しかったのは確かだが、あと一歩読めなかった自分に腹が立っただけだ」

 言いつつ思い出してまた腹を立てているのを察し、京哉はムッとした男に微笑む。

「一歩及ばすとも、某大国や多大な影響を受けた国連安保理に対する報復とも取れる『全国民による選管委員会設置』や『生き残って大統領選出馬』なんてアドヴァイスをちゃっかり残してくるんだから、充分互角に渡り合ったと思いますけどね」

「ふん。それで結局は何が言いたい?」
「今度こそは忍さん、悔いの無いよう貴方が勝って下さい。可能な限り補佐します」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...