砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第12話

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 三時間と眠らずに起き出しユーリンも交えて三人で朝食の席を囲んだ。霧島謹製のバゲットのフレンチトーストを頬張りながら、ユーリンは頬を紅潮させた。

「霧島さんと鳴海さんも一緒にプラーグに来てくれるの?」

 コーヒーを啜りつつ京哉はユーリンに言い聞かせる。

「僕らは任務で遊びじゃないんです。ユーリンにも協力して貰うかも知れません」
「急進派とやらの仲間を裏切れとは言わんが、結果としてそうなるかも知れんぞ?」

 コーンスープをスプーンですくいながら霧島はユーリンに釘を刺した。
 冷凍ほうれん草と赤いウインナーの炒め物を食しながら京哉も更に念を押す。

「僕らは日本の警察官で政府与党の意向を背負っている。つまりは大攻勢の時に最終的な敵だった某大国を含めた国際社会側の人間なんです。忘れないで下さいね」

 それでもユーリンは明るい表情を変えなかった。自分の命を助けた上に特別任務を差し置いて、仲間と共に命懸けで旧政権を転覆させた二人を知っているからだろう。

 食してしまうと三人で後片付けし、京哉が一服してから出掛ける準備を始めた。

「一ノ瀬本部長には連絡済み、航空機のチケットも取れているからな」

 だが必要書類があるので一旦県警本部に出勤せねばならない。慌ただしくショルダーバッグに簡単な着替えと京哉の煙草を詰める。ベルトにスペアマガジンのパウチ、スーツの下に忘れず銃も吊り、戸締りを確認した。

 そこで京哉はソファに掛けてあった二枚の布に気付く。一メートル掛ける二メートルくらいで細かい染め模様の布は、東南アジアでバティックと呼ばれるものに似ていた。見ていたユーリンも近寄ってきて笑顔になる。

「プラーグで霧島さんと鳴海さんが被ってた布ね。少しの間だったけど懐かしい」
「プラーグの砂漠では必需品ですもんね」

 緑系の布が京哉、青系の布が霧島のものだ。日よけと砂よけにプラーグで購入した布である。丁寧に畳んでこれもバッグに詰めた。そこで腕時計を見た霧島が急かす。

「急がんと本気で間に合わんぞ!」

 慌てて玄関に走り三人は靴を履いた。部屋から出てドアロックをするとエレベーターで一階に降り、月極駐車場にダッシュする。霧島の運転で一時間後には三人揃って県警本部長室の三人掛けソファに座り、ロウテーブルに並べられた必要物品を確認していた。

「いやいや、また県警捜査員としての本分を越えた任務を課してしまって悪いねえ」

 カケラも悪く思ってなさそうに言う一ノ瀬本部長のテノールを聞きながら、航空機のチケットとパスポートに、銃を飛行機に持ち込む際の許可証とも云える日本及びトランジットで通過する各国政府の正式書類などをチェックする。
 全てポケットとショルダーバッグに振り分けて用は済んだとばかりに三人揃って立ち上がろうとした。
 だがそこで一ノ瀬本部長がロウテーブルの下から出した紙箱をドンと置く。

「これはわたしからの餞別だ。ちゃんと生きて帰って来てくれたまえよ」

 紙箱はいわゆる弾薬箱で五十発の九ミリパラベラムが入っていた。暫し無言で眺めてから京哉はそれもショルダーバッグに収める。そうして二人は身を折る敬礼、ユーリンは会釈をして県警本部長室を出た。今回の航空機のチケットは成田国際空港を十二時発だ。

 公共交通機関では到底間に合わないため一階エントランスの車寄せには覆面パトカーが待機していた。三人が後部座席に座るとすぐさま出発する。ドライバーは鉄壁の保秘を誇る警備部公安課、通称ハム所属の巡査長だった。お蔭で京哉は思ったことを述べる。

「霧島警視、僕は昨夜貴方に『勝て』と言いましたが、明確な敵の存在を想定してはいませんでした。じゃあこの鞄を重たくした弾薬は誰に使うんでしょう?」
「曲がりなりにも、ささやかながら本部長からの援護があったということは、今回の敵は日本国及びその同盟国ではないと見ていいだろうな」
「なら敵は単純に急進派武装勢力なんでしょうか?」

「一応そうなるだろう。ただ我々も参戦したクーデター時に武器弾薬は使い切った筈だが『国連平和維持軍にアタックしている』彼らはどうやって得物を調達しているのか。残があったのか、それとも他にルートがあるのか」
「うーん、バックに嫌なのがいる予感満載かも」

 喋っているうちに容赦なく緊急走行した覆面は無事に成田国際空港に到着し、一時間前というまさにギリギリでチケットのチェックインをした。
 そこで日本政府発行の書類を見せ、専門係員がついて銃や弾薬を携行したままセキュリティチェックと出国審査をクリアする。搭乗ゲートに並んで飛行機に乗り込み、何とか座席に収まった。

 けれど出国前に煙草を一本も吸えなかった哀れな依存症患者は凹んでいた。
 ともあれ出航するとすぐに機内食が出されて食す。食べながらユーリンに訊いた。

「食糧事情はまだ悪いんですか?」
「まさか豆のスープもないとは言わんだろうな?」

 ちぎったロールパンを呑み込んでユーリンは二人に笑って見せる。

「大丈夫よ。今は幾つかの企業がレアメタルの採掘を始めてるの」
「へえ、もうそんな……採掘権と税収で外貨を稼いでるんですね?」

「難しいことは分からないけど、ええ、他国から食料を輸入してるわ。まだ貧しいのには変わりがないけれど。でも村なんかはずっとマシになったんじゃないかしら。それに国連には暫定政権容認派もいて援助物資も送られてきてるのよ」

「ふうん。でもそんなに貧しいのに、どうやって急進派グループはロゼ=エヴァンジェリスタを三人も外国に送り出すだけのお金を手に入れたんですか?」

 京哉の問いに少し考えたユーリンは口からオレンジジュースのストローを離す。

「砂の花は無価値だって、みんなが知ったわ。けれど今でもお金の代わりに流通していない訳じゃないの。バザールでの闇取引で引き取ってくれる人もいるわ」
「じゃあ急進派は砂漠を放浪しながら、まだ砂の花を掘り続けてる?」
「詳しくは知らないけれど、たぶんそうね」

 食事が終わってもユーリンはまだ物珍しそうに目を輝かせていたが、そのうち疲れと睡眠不足だろう、眠ってしまった。備え付けの毛布を掛けてやりながら京哉は霧島に首を傾げて見せる。

「ねえ、忍さん。もしかしてユーリンは何にも知らないんじゃないでしょうか?」
「おそらくそうだろうな。勇ましいお姫さまは乗せられただけだろう」

「それにここまできて砂の花にそんな価値があると思えないんですけど」
「仲間内での物々交換アイテムとしてはこれまで通りでもいけるんじゃないのか?」

 言いつつ霧島も気付いていた。飛行機には砂の花では乗せて貰えない。霧島たちにとっては税金というのを抜きにしても巨額という訳ではないが、基本的に物々交換と配給制の彼らには莫大な金額の筈である。

「某大国が買い上げを停止した砂の花が、直接カネには化けないか」
「今更砂の花ごときで、三人を海外旅行させるお金なんて稼げないと思いますよ」
「ふむ、急進派武装勢力の武器問題と共にカネ回り問題も宿題だな」
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