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第11話
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翌朝、定期BELに乗るのは無理かと思われたが、そうもいってはいられないので暗いうちに起きだして、シドが文字通りハイファの手足となり準備にいそしんだ。
二人揃ってシドの部屋でリフレッシャを浴び、トーストとコーヒーに茹で卵とレタスをちぎっただけのサラダを食し、二人分の僅かな着替えなどをハイファのショルダーバッグに詰め込んだ。更にバッグに九ミリパラとシドのフレシェット弾、煙草なども追加する。
準備が終わる頃にはハイファも自力歩行が何とか可能になっていた。
「無理するなよ、気分が悪くなったらすぐに言えよな」
「分かってるって」
ドレスシャツにソフトスーツでノータイのハイファの顔色は悪くなかった。シドも綿のシャツにコットンパンツに対衝撃ジャケットという普段の刑事ルックだ。
ただハイファはベルトにマガジンパウチを着けて十七発満タンのスペアマガジンも二本携帯していた。銃本体と合わせ五十二発の重装備はイヴェントストライカとの別室任務時のたしなみだ。
玄関に靴を履いて立つとハイファはシドの長めの前髪に触れる。かき分けて少し背伸びすると額にソフトキス。それから互いの腰に腕を回すと改めてキスをした。探り合い、舌を交互に軽く吸い合って離れる。
ドアを出てシドがリモータでロックした。
「六時半の定期BELに間に合うな」
定期BEL停機場はこの単身者用官舎ビルの屋上にもあるので便利、だが時間が掛かるのが難点だった。高々度でのBELの巡航速度はマッハ二を超え、直行すれば宙港まで三十分のところを、低空で各停機場を巡りながら飛ぶので一時間半掛かる。
「ヤマサキか誰かに緊急機で送らせれば良かったか?」
「こんなに早い時間だもん、悪いよ」
ショルダーバッグ担当のシドがさりげなくハイファの腰に腕を回して支える。エレベーターで屋上に上がると既に定期BELは風よけドームが閉じた屋上に接地していた。
キャビンアテンダントが掲げたチェックパネルとリモータリンクしてクレジットを支払い、タラップドアを上る。二人並んで席に収まると、まもなく風よけドームが開く。
今日も快晴、蒼穹に向かって定期BELはふわりとテイクオフした。
雑談しつつ窓外の景色を満喫しているうちに順調なフライトで宙港管制にコントロールを渡した定期BELは、巨大質量を持った宙港メインビルの屋上にランディングする。他の乗客に混じって二人は列に並び、タラップドアを降りるとエレベーターに乗った。
太陽系から他星系に出るにも逆に他星系から入るにも、土星の衛星タイタンのハブ宙港を経なければならない。テラ本星からタイタン入りするにはシャトル便に乗ることだ。シャトル便は宙港メインビルの二階ロビーフロアに直接エアロックを接続するので簡単に乗れる。
二人がロビーの自販機でチケットを買いシートをリザーブしてリモータに流す頃には、八時二十分発のシャトル便には列ができて既に乗り込みを始めていた。
並んでチェックパネルをクリアし、エアロックをくぐって客室シートに収まると、二人は配られたワープ宿酔止めの白い錠剤を飲み下す。
タイタンへは通常航行二十分でショートワープ、更に二十分の計四十分で着く。タイタンには第一から第七までの宙港があるが、このシャトル便が着くのは常に第一宙港だ。
「ダグラス=カーターがロニアに入ったのは間違いねぇんだな?」
「タイタン発ロニア行きのチケットを八日前に取った記録が残ってるよ」
「……ロニアか」
「ロニアだねえ……」
二人ともロニアは初めてではない。テラ連邦では違法とされるカジノでシドが一山当てたのもロニアだ。だがそれよりも不愉快な思い出の方が圧倒的に多かった。
「キャッチフレーズが『人口よりも銃の数が多い』ってか。確かに快楽主義者には似合いの星だが、ロニアで遊ぶだけなら休暇とって旅行にでも行けば済む話だよな」
「そう。それにダグが求めるのはそんな種類の快楽じゃない気がするんだよね」
「じゃあ、どんな種類だよ?」
「もっと危険で……それこそ別室任務みたいな」
「命をすり減らすようなスリルってことか」
と、躰が砂の如く四散していくような不可思議な感覚を二人は味わった。ショートワープだ。あと二十分でタイタンである。
「とにかく八日も前にロニア入りしてるんだ。機密資料と電磁虫をマフィアに売っ払ってたら俺たちだってお手上げだぞ」
「今どきマフィアの三下として潜入なんてお洒落すぎるよね」
「あんな星で命の取り合いなんかやってられるかっつーの」
「僕の人生設計にも、そんなのは入ってないよ」
二人揃ってシドの部屋でリフレッシャを浴び、トーストとコーヒーに茹で卵とレタスをちぎっただけのサラダを食し、二人分の僅かな着替えなどをハイファのショルダーバッグに詰め込んだ。更にバッグに九ミリパラとシドのフレシェット弾、煙草なども追加する。
準備が終わる頃にはハイファも自力歩行が何とか可能になっていた。
「無理するなよ、気分が悪くなったらすぐに言えよな」
「分かってるって」
ドレスシャツにソフトスーツでノータイのハイファの顔色は悪くなかった。シドも綿のシャツにコットンパンツに対衝撃ジャケットという普段の刑事ルックだ。
ただハイファはベルトにマガジンパウチを着けて十七発満タンのスペアマガジンも二本携帯していた。銃本体と合わせ五十二発の重装備はイヴェントストライカとの別室任務時のたしなみだ。
玄関に靴を履いて立つとハイファはシドの長めの前髪に触れる。かき分けて少し背伸びすると額にソフトキス。それから互いの腰に腕を回すと改めてキスをした。探り合い、舌を交互に軽く吸い合って離れる。
ドアを出てシドがリモータでロックした。
「六時半の定期BELに間に合うな」
定期BEL停機場はこの単身者用官舎ビルの屋上にもあるので便利、だが時間が掛かるのが難点だった。高々度でのBELの巡航速度はマッハ二を超え、直行すれば宙港まで三十分のところを、低空で各停機場を巡りながら飛ぶので一時間半掛かる。
「ヤマサキか誰かに緊急機で送らせれば良かったか?」
「こんなに早い時間だもん、悪いよ」
ショルダーバッグ担当のシドがさりげなくハイファの腰に腕を回して支える。エレベーターで屋上に上がると既に定期BELは風よけドームが閉じた屋上に接地していた。
キャビンアテンダントが掲げたチェックパネルとリモータリンクしてクレジットを支払い、タラップドアを上る。二人並んで席に収まると、まもなく風よけドームが開く。
今日も快晴、蒼穹に向かって定期BELはふわりとテイクオフした。
雑談しつつ窓外の景色を満喫しているうちに順調なフライトで宙港管制にコントロールを渡した定期BELは、巨大質量を持った宙港メインビルの屋上にランディングする。他の乗客に混じって二人は列に並び、タラップドアを降りるとエレベーターに乗った。
太陽系から他星系に出るにも逆に他星系から入るにも、土星の衛星タイタンのハブ宙港を経なければならない。テラ本星からタイタン入りするにはシャトル便に乗ることだ。シャトル便は宙港メインビルの二階ロビーフロアに直接エアロックを接続するので簡単に乗れる。
二人がロビーの自販機でチケットを買いシートをリザーブしてリモータに流す頃には、八時二十分発のシャトル便には列ができて既に乗り込みを始めていた。
並んでチェックパネルをクリアし、エアロックをくぐって客室シートに収まると、二人は配られたワープ宿酔止めの白い錠剤を飲み下す。
タイタンへは通常航行二十分でショートワープ、更に二十分の計四十分で着く。タイタンには第一から第七までの宙港があるが、このシャトル便が着くのは常に第一宙港だ。
「ダグラス=カーターがロニアに入ったのは間違いねぇんだな?」
「タイタン発ロニア行きのチケットを八日前に取った記録が残ってるよ」
「……ロニアか」
「ロニアだねえ……」
二人ともロニアは初めてではない。テラ連邦では違法とされるカジノでシドが一山当てたのもロニアだ。だがそれよりも不愉快な思い出の方が圧倒的に多かった。
「キャッチフレーズが『人口よりも銃の数が多い』ってか。確かに快楽主義者には似合いの星だが、ロニアで遊ぶだけなら休暇とって旅行にでも行けば済む話だよな」
「そう。それにダグが求めるのはそんな種類の快楽じゃない気がするんだよね」
「じゃあ、どんな種類だよ?」
「もっと危険で……それこそ別室任務みたいな」
「命をすり減らすようなスリルってことか」
と、躰が砂の如く四散していくような不可思議な感覚を二人は味わった。ショートワープだ。あと二十分でタイタンである。
「とにかく八日も前にロニア入りしてるんだ。機密資料と電磁虫をマフィアに売っ払ってたら俺たちだってお手上げだぞ」
「今どきマフィアの三下として潜入なんてお洒落すぎるよね」
「あんな星で命の取り合いなんかやってられるかっつーの」
「僕の人生設計にも、そんなのは入ってないよ」
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