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第12話
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まもなくシャトル便はタイタン第一宙港に接地した。ここでもシャトル便は宙港メインビル二階にエアロックを接続する。降りるなり二人はロニア便のチケットを押さえた。
ロニア星系第四惑星ロニアⅣ行きの宙艦もここ第一宙港から出る。現在時、テラ標準時で九時過ぎ、押さえたロニア便は九時半発だ。
喫煙ルームでシドが急いで煙草を一本灰にしたのち、二人は慌ただしく通関のX‐RAYや臭気探知機などの機器の森を経て、宙港メインビルのロータリーからリムジンコイルの最終便に飛び乗った。
プログラミングされて動く二台連なった大型リムジンコイルは満員、平和に倦み飽きスリルを求める人々がいかに多いかを伺わせる。
宙艦のエアロック前で降ろされ、チェックパネルをクリアした。
乗り込んで再びワープ前の錠剤を飲み、シドはシートに深々と身を埋める。緊張の前のリラックス、ロニアまではワープ一回を挟んだ一時間で到着だ。星系内でテラフォーミングされているのは第四惑星ロニアⅣのみ、星系政府の財政の主体は観光産業である。
汎銀河条約機構の定めた交戦規定に違反する武器を使わせ遊ばせるツアーや、テラ連邦議会が認可しない違法ドラッグを売る店、これもテラが禁止しているカジノや売春宿などが堂々と立ち並んでいる。露店で銃や弾薬を売っているのもこの星くらいのものだろう。
それらの『売り物』全般を取り仕切るのが林立したマフィアのファミリーだ。
マフィアはマフィアでそれぞれのパイの切り分けに日々忙しく、惑星内の殺人件数が一週間で本星の一年分という有様だった。
ワープを終えると、二人は宙艦内の電波を拾って、ロニア標準時をテラ標準時と並べて表示した。ロニアの自転周期は二十五時間七分十二秒だ。
ロニアの宙港に無事宙艦は接地し、他の乗客らと共にリムジンコイルで二人は宙港メインビルに運ばれた。通関では案の定X‐RAYサーチで銃が引っ掛かる。ここでは武器所持許可証など意味がない。自動的に通関の役人との個人交渉に持ち込まれる。
二人揃って平刑事の給料三ヶ月分ものクレジットをふんだくられて、ようやく解放された。何れにせよ別室持ちの経費なのだがシドは怒り心頭である。
けれどこんな所で暴れているヒマはないので仕方がない。
この宙港にも観光案内端末はあったが、どれも壊れていて用をなさない。どんな情報を手に入れるにも一度は宙港の外に出なければならなかった。
大勢の人間が出入りする割には何処となく荒んだ雰囲気の宙港メインビルを出ると外は夜、そして見渡す限り光の洪水だった。高くともせいぜい十階建てくらいの建物がびっしりと建ち並び、電子看板を掲げて人工光をギラギラと瞬かせている。
「ロニア標準時、一時過ぎか」
「丁度お遊びの時間だね。で、どうするの?」
「勿論、ダグラス=カーターが出星していないかどうかのチェックだ」
「じゃあ、エリファレットホテルでいい?」
エリファレットホテルは二人が以前にも利用したことのある、この辺りでは一番安全でまともなホテルだ。二人は肩を並べて光の洪水の中へと足を踏み出した。
歓楽街の中を呼び込みの声や電子看板の光、飛び出しては消えるホロなどを引きずって歩くこと十五分ほどでエリファレットホテルに着く。エントランスもちゃんと閉まっていてリモータチェッカが付いているここは貴重な施設だった。
中に入るとフロントに待ち合わせだと告げて、ロビーのインフォメーション端末に向かう。一台の端末にハイファがリモータからリードを引き出して繋いだ。
「うーん、八日前からか。すっごい数になりそうだなあ」
ここの端末を経由しても宙港のネットワークシステムに入り込み、出入星者リストをハックすること自体はハイファにとって簡単だ。だがその先が問題だった。
「ダグラス=カーターが『ダグラス=カーター』で出入りしたとは限らねぇぞ。ニセIDくらい、ここじゃ幾らでも手に入るからな」
「って、まさか宙港の監視カメラ映像を全部見ろっていうの?」
「いうんだ。けど何もお前に全部見ろってんじゃねぇ、特徴の合致する奴をふるいに掛けるくらいは別室戦術コンにやらせろよ」
「えーっ、八日分の映像データをダイレクトワープ通信で送るの? やだなあ」
通信も電波である以上、光の速さを超えられない。故に普通の通信はワープする宙艦に乗せられて運ばれる。ワープの分だけ光より速いからだ。だが通常航行の分タイムラグが生じるのは仕方ない。上手く宙艦でリレーできなければ随分と時間はロスされる。
しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを通じタイムラグなしで届く。
けれど亜空間にレピータを設置・維持する技術は難度が高いため、自由主義経済のテラ連邦でダイレクトワープ通信は非常にコストの掛かる通信方法として知られているのだ。
伝統ある耐乏軍人としてハイファが大容量メールを送るのを渋る理由だった。
「うーん、映像ともなると天文学的なクレジットが……」
「自分のカネじゃねぇだろ。ならお前、自分で全部見るか?」
「半分くらいは手伝ってくれてもいいんじゃない?」
「俺だと見落とすかも知れんぞ。まあ、頑張れ」
「……ダイレクトワープで送ります」
決心したもののシドに「根性なし」と言われながら、まず送ったのは八日前から三日分だった。返答がくるまでは自力で映像データを眺め続ける。
一旦消えたシドが何処からか買ってきた冷たいコーヒーを開けて手渡してくれた。
「あ、ありがと」
口をつけながらも端末のホロディスプレイからは目を離さない。髪や瞳の色を変えるくらいは造作もないのだ。慎重に映像の人々をチェックしてゆく。
たっぷり一時間近く端末を占領しているうちに別室戦術コンからの返答がきた。
「何だって?」
「ちょっと待って……あ、ヒットだ。八日前のその日のうちに通関、出ちゃってるよ」
「どれ……変装も簡易整形もせずに出星とは幸いだな。IDは?」
「それはこっちですり合わせないとね」
出星日時が分かればあとは簡単、ハック済みのデータを持ってロビーのソファに移動した。ダウンロードした名簿ファイルからオート検索で難なくIDを拾い出す。
「出た、バートラム=ノックスの名前で通過してるね」
「出星先は?」
「パライバ星系第三惑星アジュル」
「へえ、これまた観光地だな。旅行がしたかっただけじゃねぇのか?」
「本当にそう思ってる?」
「いや。仮にも別室員、ニセIDを使っても何れバレることくらい想定済みだろ」
「なら、何でこんな星に来たのかな?」
「時間稼ぎってところか」
「ダグがここのマフィアに機密資料とサンプルを売ってたらどうしよう?」
ハイファの懸念をシドが否定する。
「俺は売ってないと思う。たった数時間の滞在だ、偽造IDを買うのが関の山だろ。元々ここのマフィアと繋がりがあって依頼された可能性も否定できねぇが、クレジット目当てじゃないっていうお前の推論が正しければ、せっかく奪ってきたスリルをここで終わらせて悠々自適ってタイプには思えねぇからな」
「そう言われればそうかも。じゃあ、次はアジュル?」
「便はあるか?」
「ええと、四時発のがあるね。あと一時間くらい、ここでゆっくりしてる?」
「外に出ると何にぶち当たるか分からねぇからな」
イヴェントストライカなどという非科学的なモノを信じたくないのは山々だが、刑事という職業柄、現実認識能力は高い。ヒマを潰すため喫煙コーナーへと移った。
ロニア星系第四惑星ロニアⅣ行きの宙艦もここ第一宙港から出る。現在時、テラ標準時で九時過ぎ、押さえたロニア便は九時半発だ。
喫煙ルームでシドが急いで煙草を一本灰にしたのち、二人は慌ただしく通関のX‐RAYや臭気探知機などの機器の森を経て、宙港メインビルのロータリーからリムジンコイルの最終便に飛び乗った。
プログラミングされて動く二台連なった大型リムジンコイルは満員、平和に倦み飽きスリルを求める人々がいかに多いかを伺わせる。
宙艦のエアロック前で降ろされ、チェックパネルをクリアした。
乗り込んで再びワープ前の錠剤を飲み、シドはシートに深々と身を埋める。緊張の前のリラックス、ロニアまではワープ一回を挟んだ一時間で到着だ。星系内でテラフォーミングされているのは第四惑星ロニアⅣのみ、星系政府の財政の主体は観光産業である。
汎銀河条約機構の定めた交戦規定に違反する武器を使わせ遊ばせるツアーや、テラ連邦議会が認可しない違法ドラッグを売る店、これもテラが禁止しているカジノや売春宿などが堂々と立ち並んでいる。露店で銃や弾薬を売っているのもこの星くらいのものだろう。
それらの『売り物』全般を取り仕切るのが林立したマフィアのファミリーだ。
マフィアはマフィアでそれぞれのパイの切り分けに日々忙しく、惑星内の殺人件数が一週間で本星の一年分という有様だった。
ワープを終えると、二人は宙艦内の電波を拾って、ロニア標準時をテラ標準時と並べて表示した。ロニアの自転周期は二十五時間七分十二秒だ。
ロニアの宙港に無事宙艦は接地し、他の乗客らと共にリムジンコイルで二人は宙港メインビルに運ばれた。通関では案の定X‐RAYサーチで銃が引っ掛かる。ここでは武器所持許可証など意味がない。自動的に通関の役人との個人交渉に持ち込まれる。
二人揃って平刑事の給料三ヶ月分ものクレジットをふんだくられて、ようやく解放された。何れにせよ別室持ちの経費なのだがシドは怒り心頭である。
けれどこんな所で暴れているヒマはないので仕方がない。
この宙港にも観光案内端末はあったが、どれも壊れていて用をなさない。どんな情報を手に入れるにも一度は宙港の外に出なければならなかった。
大勢の人間が出入りする割には何処となく荒んだ雰囲気の宙港メインビルを出ると外は夜、そして見渡す限り光の洪水だった。高くともせいぜい十階建てくらいの建物がびっしりと建ち並び、電子看板を掲げて人工光をギラギラと瞬かせている。
「ロニア標準時、一時過ぎか」
「丁度お遊びの時間だね。で、どうするの?」
「勿論、ダグラス=カーターが出星していないかどうかのチェックだ」
「じゃあ、エリファレットホテルでいい?」
エリファレットホテルは二人が以前にも利用したことのある、この辺りでは一番安全でまともなホテルだ。二人は肩を並べて光の洪水の中へと足を踏み出した。
歓楽街の中を呼び込みの声や電子看板の光、飛び出しては消えるホロなどを引きずって歩くこと十五分ほどでエリファレットホテルに着く。エントランスもちゃんと閉まっていてリモータチェッカが付いているここは貴重な施設だった。
中に入るとフロントに待ち合わせだと告げて、ロビーのインフォメーション端末に向かう。一台の端末にハイファがリモータからリードを引き出して繋いだ。
「うーん、八日前からか。すっごい数になりそうだなあ」
ここの端末を経由しても宙港のネットワークシステムに入り込み、出入星者リストをハックすること自体はハイファにとって簡単だ。だがその先が問題だった。
「ダグラス=カーターが『ダグラス=カーター』で出入りしたとは限らねぇぞ。ニセIDくらい、ここじゃ幾らでも手に入るからな」
「って、まさか宙港の監視カメラ映像を全部見ろっていうの?」
「いうんだ。けど何もお前に全部見ろってんじゃねぇ、特徴の合致する奴をふるいに掛けるくらいは別室戦術コンにやらせろよ」
「えーっ、八日分の映像データをダイレクトワープ通信で送るの? やだなあ」
通信も電波である以上、光の速さを超えられない。故に普通の通信はワープする宙艦に乗せられて運ばれる。ワープの分だけ光より速いからだ。だが通常航行の分タイムラグが生じるのは仕方ない。上手く宙艦でリレーできなければ随分と時間はロスされる。
しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを通じタイムラグなしで届く。
けれど亜空間にレピータを設置・維持する技術は難度が高いため、自由主義経済のテラ連邦でダイレクトワープ通信は非常にコストの掛かる通信方法として知られているのだ。
伝統ある耐乏軍人としてハイファが大容量メールを送るのを渋る理由だった。
「うーん、映像ともなると天文学的なクレジットが……」
「自分のカネじゃねぇだろ。ならお前、自分で全部見るか?」
「半分くらいは手伝ってくれてもいいんじゃない?」
「俺だと見落とすかも知れんぞ。まあ、頑張れ」
「……ダイレクトワープで送ります」
決心したもののシドに「根性なし」と言われながら、まず送ったのは八日前から三日分だった。返答がくるまでは自力で映像データを眺め続ける。
一旦消えたシドが何処からか買ってきた冷たいコーヒーを開けて手渡してくれた。
「あ、ありがと」
口をつけながらも端末のホロディスプレイからは目を離さない。髪や瞳の色を変えるくらいは造作もないのだ。慎重に映像の人々をチェックしてゆく。
たっぷり一時間近く端末を占領しているうちに別室戦術コンからの返答がきた。
「何だって?」
「ちょっと待って……あ、ヒットだ。八日前のその日のうちに通関、出ちゃってるよ」
「どれ……変装も簡易整形もせずに出星とは幸いだな。IDは?」
「それはこっちですり合わせないとね」
出星日時が分かればあとは簡単、ハック済みのデータを持ってロビーのソファに移動した。ダウンロードした名簿ファイルからオート検索で難なくIDを拾い出す。
「出た、バートラム=ノックスの名前で通過してるね」
「出星先は?」
「パライバ星系第三惑星アジュル」
「へえ、これまた観光地だな。旅行がしたかっただけじゃねぇのか?」
「本当にそう思ってる?」
「いや。仮にも別室員、ニセIDを使っても何れバレることくらい想定済みだろ」
「なら、何でこんな星に来たのかな?」
「時間稼ぎってところか」
「ダグがここのマフィアに機密資料とサンプルを売ってたらどうしよう?」
ハイファの懸念をシドが否定する。
「俺は売ってないと思う。たった数時間の滞在だ、偽造IDを買うのが関の山だろ。元々ここのマフィアと繋がりがあって依頼された可能性も否定できねぇが、クレジット目当てじゃないっていうお前の推論が正しければ、せっかく奪ってきたスリルをここで終わらせて悠々自適ってタイプには思えねぇからな」
「そう言われればそうかも。じゃあ、次はアジュル?」
「便はあるか?」
「ええと、四時発のがあるね。あと一時間くらい、ここでゆっくりしてる?」
「外に出ると何にぶち当たるか分からねぇからな」
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