Hope Maker[ホープメーカー]~Barter.12~

志賀雅基

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第13話

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「頂きます。あ、結構美味しいかも。それにかなり豪華ですよね」
「一般人の食卓や、第二十七駐屯地の食事のあとだと、そう思うだろうな」

 と、オスカー。リッキーが頬張った肉を呑み込んで笑う。

「軍に入ってこれだけは嬉しかったのを忘れませんよ」
「そっか。ところで寝るのは皆、どうしてるんですか?」

「士官は本部になっている、あの建物の中に二人部屋が割り当てられる。女性用と違って男の方はシャワーと洗濯乾燥機も共用、ただベッドがあるだけだが。俺たち下士官以下は大人数でベッドも順番、残りは機内泊だ。何せ総員二百名近くいるからな」

「ふうん、大変ですね」
「いや、慣れると倒したシートは具合が良くってな。バッテリは巨大容量に換装されてるしエアコン完備、却ってベッドに寝に行く奴は少ないくらいだ」

「本当にヘリが好きなんですね」
「ヘリ嫌いで爆撃ヘリ乗りは務まりませんよ。でも僕、本当は爆撃も嫌いですけど」

 萎れたようなリッキーの言葉を聞いて霧島が頷きながら滑らかな英語で言った。

「殺し合いが好きな奴は滅多にいないだろう」
「大人になっても仕事なんか何もないし、兵隊になって戦争やるしかなくって、当たり前みたいに軍に入ったらご飯は美味しかったから嬉しかったけど、でも今になって思うんです、整備兵にでもなれば良かったって。後悔してます」

「こんな時代に戦争など海外ではゲームの中の世界だぞ。コミュニケーション不全なんじゃないのか? 意思疎通がなっていないのだろう」
「意思疎通ならできていると思います。向こうが爆弾を落としてくるのも、こちらが向こうに爆弾を落とすのも、互いに相手を殺そうとしている訳です。殺したいという意思がこれ以上、ありえないほど伝わっています。とても分かりやすいです」
「そういうんじゃなくてだな……」

 悲観主義者ペシミストらしいリッキーに霧島は言葉をかけあぐねる。聞いていた京哉は煙草を取り出し一本咥えた。風向きを確かめ、非喫煙者たちを避けてオイルライターで火を点ける。

「その爆弾抱いてのソーティは毎日あるんですか?」

 食べ終えてスプーンをトレイに置いたオスカーが答えた。

「三日と開けずってとこだが、二十機全部が出るような大規模爆撃はたまにしかないな。大体、中隊の四個小隊のうち一個小隊五機と指揮機が日替わりで出て行く。昨日がウチの小隊だったから、明日明後日は、取り敢えずお呼びじゃないと思うが」
「そっか。二日間は猶予があるんですね。ねえ、オスカー、訊いていいですか?」
「改まって、何だ?」
「僕らは何小隊なんでしょうか? や、本当に誰も教えてくれなくて!」

 顎を落としたオスカーとリッキーだったが、何もかもを手取り足取り教える慈母のような気持ちでオスカーが噛んで含めるように教える。

「バルドール国・陸軍第二十七駐屯地第五〇二爆撃中隊第一小隊。小隊長はボブ=グッドマン中尉だ。ちなみにこの機のシリアルナンバは一九一八、忘れて他のヘリに乗らないように。それと小隊長に挨拶に行って連絡網に組み込んで貰った方がいい」
「重ね重ね、スミマセン」

 互いに連絡がつくように全員で携帯のナンバーとメアドを交換した。特別任務の際は、自前の携帯だと壊れて被害が大きいので既に現地調達を二人は原則としていた。
 今回もチュニジアのチュニス国際空港での長い乗り継ぎ待ちの間にバルドールで使用可能な携帯を購入し設定済みである。
 自前の携帯は成田のロッカーに服と一緒に放り込んできた。

 そうしてここでの携帯を手にしているのはいいが、オスカーによるとレピータアンテナも数が少なく、携帯電話会社もまともに運用されているとは言い難いので、電話もメールも常に繋がる訳ではないという。文明圏の象徴のような機器を霧島と京哉は暫し眺めた。

 そんな二人を現地の兵士はじっと窺う。

 こいつらこそ意思疎通がなっていないのではなかろうか、それならそんな二人をまとめて放り込んだこのチームには何も求められていないのではないか、牽いては戦闘の重要な局面で自分たちは果たして員数内に置いて貰えるのか、そうでなければ撃墜されても放っておかれるのではないか。

 抱いた不安が膨れ上がったリッキー=マクレーン伍長は顔をこわばらせつつ、また飲みたくなってしまうのであった。確か今日の厨房係のダミアンはチョロい。

「忍さん、食器返したら挨拶回りに行きましょうよ」
「この時間だと捕まえるのも難儀そうだが仕方ない。連絡網に組み込んで貰わんと」
「あとは指揮命令系統の分かる組織表だけでも分捕らなくちゃ話になりませんよ」

 ついでに爆撃機早分かりマニュアルでも分捕ってこいよ、話にならないのはあんたらの存在だとオスカーは思う。

 だが人間性は悪くなさそうな二人を見ると緒戦で死なせる訳にはいかない、何とかフォローしてやらねば、前任者の轍を踏ませてなるものかと、今度は慈父の如き思いを抱くオスカー=コンラッド軍曹こそがいい人なのであった。

 二人が消えるとオスカーとリッキーのバディも食器の返却に行って、ついでに厨房からワインを二本もくすねてきて爆撃ヘリの中で飲み直し始めた。
 一方で霧島と京哉は教わった小隊長機のドアを叩いたがグッドマン中尉は不在で、彷徨った末に通り掛かりの兵士から食堂にグッドマン中尉がいることを聞き出す。

 食堂で見つけたグッドマン中尉は中年でヘリ内ではさぞかし不自由だろうと思わせる巨漢だった。揃って敬礼する二人にラフな答礼をしグッドマン中尉は鷹揚に笑う。

「あんたらが情報科のお二人さんか。色男に美人だな。手違いは災難かも知れんが、ここはひとつ、いい経験だと思って交代要員がくるまで気張って欲しいものだ」

 既に噂を聞いていたらしい小隊長殿は気さくな男のようだった。ここで組織表を分捕るという当初の目的は達せられる。そうしてグッドマン中尉にバシバシと背を叩かれ、人々の視線を引きずりながら一九一八号機に戻った。

 するとオスカーとリッキーがそれぞれワインの瓶を抱えて痛飲していた。

「そんなに飲んでバレても知りませんからね」
「じゃあ、知って下さい、機長!」

 詰め寄るリッキーは出来上がっている。オスカーも無意味な笑いが止まらない。

「なら僕の秘密も知ってくれますか?」
「えー、何ですかあ?」

 ここで訊かなければヨカッタと、一瞬後にオスカーは後悔することになった。

「じつは僕、ヘリの操縦って知らないんですよね」
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