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第15話
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「けれどあんたは公安だ。そうペラペラと内情を喋っていいのか?」
「これに関しては僕自身が香坂堂の次男という事実が担保だ。サッチョウの在り方を左右する森本議員は香坂堂が推している。逆を言えば香坂堂は森本議員のためにならないことはできないし、延長してサッチョウのためにならないこともできない」
「ふん。あんたも首輪をつけられての捜査とは気の毒な限りだな」
まるで気の毒に思っていない口調で霧島は吐き捨て香坂を苦笑させる。
それを醒めた目で眺めながらも霧島とて、上層部がキャリアでその期のトップを使い潰す選択はしないと分かっていた。
何も香坂堂の問題だからといって香坂堂の次男坊が捜査せねばならない案件ではない。おそらくこの男は自ら現場に出て身内の悪事を暴こうとしたのだろう。
「まあ、せっかく一番安全な場所に避難したと思ったのに僕より上が慌てた。僕が本庁のハムと知っても霧島警視が捜査担当官なら内々で済ませず問答無用で有罪に持っていくと思われたんだ。お蔭で安住の地にも二日といられなかった」
「甘えるな。あんたもサツカン、お手軽に留置場をホテル代わりに使えんことくらいは承知しているだろう。それに事実として事後強盗という罪をあんたは犯している」
「大目に見ろとは言わないけど、それどころじゃないのも確かでね」
肩を竦めると香坂は怪我をした右腕を振って見せる。
「二度のスナイプまでされた以上、あんたの素性もバレたということか?」
「さあね。殺された村西たちが吐かされたなら、バレていてもおかしくないけど」
「ふ……ん。それで何処まで探れた?」
「まだ本庁の『上』が疑惑を抱いて僕を派遣したばかり、先週初めに二人が潜入した矢先だったんだ。だから殆ど何も……ただ具体的には違法薬物がヘロインで、化粧品の原材料に紛れ込ませて密輸入している、そういう疑惑が持たれてる」
ヘロインと聞いて霧島と京哉は顔を見合わせた。ケシの花を原料とするヘロインはいわゆるダウナーで、最近流行りのアッパーである覚醒剤に比べると需要は少ないと言える。だが薬物の女王とも呼ばれるヘロインだ。高級品である。
暴力団に流れ込めば資金源として大きな役割を果たすだろうと予想された。そんな二人の考えを読んだように香坂は続けた。
「密輸しているのはヘロインだけじゃない。武器弾薬も少量だが密輸して日本国内に流していると上は睨んでる。それで捜査に一応僕が立候補したという訳だ」
「だが支社とはいえ香坂堂のような巨大優良企業が、何故そんな危ない橋を渡る?」
「それはまだ分からない。本庁の公安が引っ張った左翼系の某組織員や右翼団体の末端が吐いた内容から遡って疑惑が生まれただけだからな」
「ふん。スパイが殺されたことである意味、事実が裏付けられたとみていいな」
真剣な目をして香坂が頷く。それを見て霧島は立ち上がった。
「よし、分かった。では我々は出勤する。書類が溜まると秘書が五月蠅くてな」
「えっ、覗くだけ覗いて箱は置きっ放しにする気か?」
思わぬ霧島の反応に香坂は驚いたようだった。
「てっきり僕は噂通り、霧島警視は正義感の塊だと思ってたんだけどな」
「それこそ危ない橋を渡らされるのには辟易しているんだ。あんたは治るまでここにいて構わんが、私たちはヘロインだの武器弾薬だのの密輸なんぞに関わるのは真っ平だ。ハムの戯言は聞かなかったことにしてやるから安心して寝ていろ」
「待ってくれ。スパイに就けた二人も殺されて僕は孤軍奮闘だぞ?」
「本庁の案件は本庁で片付けろ。私たちは御法度の管轄破りまでするつもりはない」
「頼りにしてたんだけどな」
「なら頼りにはならんが、この小田切を死んだスパイの代わりに使っていい」
それだけ言うと霧島はさっさと踵を返した。京哉も倣う。約一名が文句を垂れたが聞こえないふりで部屋を出て京哉の部屋に戻った。ドアを閉めると二人して溜息だ。
「はあ~っ。ヘロインに武器弾薬なんて意外なまでの大ごとかも。でも本当に忍さんは放置する気なんですか? 管轄内での案件なのに?」
「お前を二度とあんな目に遭わせたくないからな」
前回の件で京哉は証拠を手に入れるため指定暴力団・真王組に単身乗り込んだ。証拠はキッチリ手に入れたが代わりに京哉は組員たちに嬲り尽くされた挙げ句、二度の手術と入院生活に耐えねばならなくなったのだ。
「お前を見つけた時は死んでいるのかと思った。今でも思い出すと血が凍える」
「……忍さん」
最初の手術を乗り越えて生還し、初めて見た霧島の涙を京哉は思い出して長身に抱きつく。灰色の目を見上げると痛みを堪えるように切れ長の目は眇められて京哉を見返していた。
二人は熱く口づけ合い、息が上がるほど求め合う。霧島は京哉の軽い躰を横抱きにした。ベッドに運んで寝かせ、のしかかって衣服越しに身を擦りつけた。
「京哉……私の京哉!」
「はぁん、忍さん……って、そうじゃなくて、だめです忍さん、出勤ですっ!」
明け方までやらかしたからか、珍しく霧島は素直に退いた。
だがその時には京哉のドレスシャツのボタンは三つも外されて、襟でギリギリ隠れるか否かという処に赤く濃く霧島の所有印を穿たれている。逞しい腕に縋ってクローゼットまで歩いた京哉は鏡を見てまた溜息だ。これは気を付けないと姿勢によっては他人に見られる。
ともあれ急いで二人ともタイを締めてショルダーホルスタで銃を吊り、手錠ホルダーと特殊警棒の付いた帯革をベルトの上に締めた。ジャケットを羽織ると七時四十五分だ。もう出ないと遅刻ギリギリだった。
一階に降りると心得ている今枝執事とメイドたちが並んで礼をする。
「小田切と香坂を頼む」
「承知致しております故、ご安心下さい」
車寄せには白いセダンが停められていた。乗り込んで京哉が助手席の窓を開ける。
「ではお気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
そうして二人は定時である八時半の一分前に機捜の詰め所に滑り込んだ。京哉は早速、本日上番の二班の隊員たちに茶を配給し、霧島は下番する一班の日報に目を通す。
引き継ぎ交代に立ち会い、機捜の長老である二班長の田上警部補を労ってから茶を啜りつつ仕事のふりだ。
怒られるので麻雀や空戦ゲームの間に少しは仕事もする。
隊員たちが警邏に出て行くと京哉は各デスクをハンディモップで掃除し始めた。
心ゆくまで掃除し、残された空の湯呑みを集めて給湯室で洗い物をするとデスクに就いて一服しながら本日の書類仕事を確かめる。
まずは小田切の有休申請だ。
「これに関しては僕自身が香坂堂の次男という事実が担保だ。サッチョウの在り方を左右する森本議員は香坂堂が推している。逆を言えば香坂堂は森本議員のためにならないことはできないし、延長してサッチョウのためにならないこともできない」
「ふん。あんたも首輪をつけられての捜査とは気の毒な限りだな」
まるで気の毒に思っていない口調で霧島は吐き捨て香坂を苦笑させる。
それを醒めた目で眺めながらも霧島とて、上層部がキャリアでその期のトップを使い潰す選択はしないと分かっていた。
何も香坂堂の問題だからといって香坂堂の次男坊が捜査せねばならない案件ではない。おそらくこの男は自ら現場に出て身内の悪事を暴こうとしたのだろう。
「まあ、せっかく一番安全な場所に避難したと思ったのに僕より上が慌てた。僕が本庁のハムと知っても霧島警視が捜査担当官なら内々で済ませず問答無用で有罪に持っていくと思われたんだ。お蔭で安住の地にも二日といられなかった」
「甘えるな。あんたもサツカン、お手軽に留置場をホテル代わりに使えんことくらいは承知しているだろう。それに事実として事後強盗という罪をあんたは犯している」
「大目に見ろとは言わないけど、それどころじゃないのも確かでね」
肩を竦めると香坂は怪我をした右腕を振って見せる。
「二度のスナイプまでされた以上、あんたの素性もバレたということか?」
「さあね。殺された村西たちが吐かされたなら、バレていてもおかしくないけど」
「ふ……ん。それで何処まで探れた?」
「まだ本庁の『上』が疑惑を抱いて僕を派遣したばかり、先週初めに二人が潜入した矢先だったんだ。だから殆ど何も……ただ具体的には違法薬物がヘロインで、化粧品の原材料に紛れ込ませて密輸入している、そういう疑惑が持たれてる」
ヘロインと聞いて霧島と京哉は顔を見合わせた。ケシの花を原料とするヘロインはいわゆるダウナーで、最近流行りのアッパーである覚醒剤に比べると需要は少ないと言える。だが薬物の女王とも呼ばれるヘロインだ。高級品である。
暴力団に流れ込めば資金源として大きな役割を果たすだろうと予想された。そんな二人の考えを読んだように香坂は続けた。
「密輸しているのはヘロインだけじゃない。武器弾薬も少量だが密輸して日本国内に流していると上は睨んでる。それで捜査に一応僕が立候補したという訳だ」
「だが支社とはいえ香坂堂のような巨大優良企業が、何故そんな危ない橋を渡る?」
「それはまだ分からない。本庁の公安が引っ張った左翼系の某組織員や右翼団体の末端が吐いた内容から遡って疑惑が生まれただけだからな」
「ふん。スパイが殺されたことである意味、事実が裏付けられたとみていいな」
真剣な目をして香坂が頷く。それを見て霧島は立ち上がった。
「よし、分かった。では我々は出勤する。書類が溜まると秘書が五月蠅くてな」
「えっ、覗くだけ覗いて箱は置きっ放しにする気か?」
思わぬ霧島の反応に香坂は驚いたようだった。
「てっきり僕は噂通り、霧島警視は正義感の塊だと思ってたんだけどな」
「それこそ危ない橋を渡らされるのには辟易しているんだ。あんたは治るまでここにいて構わんが、私たちはヘロインだの武器弾薬だのの密輸なんぞに関わるのは真っ平だ。ハムの戯言は聞かなかったことにしてやるから安心して寝ていろ」
「待ってくれ。スパイに就けた二人も殺されて僕は孤軍奮闘だぞ?」
「本庁の案件は本庁で片付けろ。私たちは御法度の管轄破りまでするつもりはない」
「頼りにしてたんだけどな」
「なら頼りにはならんが、この小田切を死んだスパイの代わりに使っていい」
それだけ言うと霧島はさっさと踵を返した。京哉も倣う。約一名が文句を垂れたが聞こえないふりで部屋を出て京哉の部屋に戻った。ドアを閉めると二人して溜息だ。
「はあ~っ。ヘロインに武器弾薬なんて意外なまでの大ごとかも。でも本当に忍さんは放置する気なんですか? 管轄内での案件なのに?」
「お前を二度とあんな目に遭わせたくないからな」
前回の件で京哉は証拠を手に入れるため指定暴力団・真王組に単身乗り込んだ。証拠はキッチリ手に入れたが代わりに京哉は組員たちに嬲り尽くされた挙げ句、二度の手術と入院生活に耐えねばならなくなったのだ。
「お前を見つけた時は死んでいるのかと思った。今でも思い出すと血が凍える」
「……忍さん」
最初の手術を乗り越えて生還し、初めて見た霧島の涙を京哉は思い出して長身に抱きつく。灰色の目を見上げると痛みを堪えるように切れ長の目は眇められて京哉を見返していた。
二人は熱く口づけ合い、息が上がるほど求め合う。霧島は京哉の軽い躰を横抱きにした。ベッドに運んで寝かせ、のしかかって衣服越しに身を擦りつけた。
「京哉……私の京哉!」
「はぁん、忍さん……って、そうじゃなくて、だめです忍さん、出勤ですっ!」
明け方までやらかしたからか、珍しく霧島は素直に退いた。
だがその時には京哉のドレスシャツのボタンは三つも外されて、襟でギリギリ隠れるか否かという処に赤く濃く霧島の所有印を穿たれている。逞しい腕に縋ってクローゼットまで歩いた京哉は鏡を見てまた溜息だ。これは気を付けないと姿勢によっては他人に見られる。
ともあれ急いで二人ともタイを締めてショルダーホルスタで銃を吊り、手錠ホルダーと特殊警棒の付いた帯革をベルトの上に締めた。ジャケットを羽織ると七時四十五分だ。もう出ないと遅刻ギリギリだった。
一階に降りると心得ている今枝執事とメイドたちが並んで礼をする。
「小田切と香坂を頼む」
「承知致しております故、ご安心下さい」
車寄せには白いセダンが停められていた。乗り込んで京哉が助手席の窓を開ける。
「ではお気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
そうして二人は定時である八時半の一分前に機捜の詰め所に滑り込んだ。京哉は早速、本日上番の二班の隊員たちに茶を配給し、霧島は下番する一班の日報に目を通す。
引き継ぎ交代に立ち会い、機捜の長老である二班長の田上警部補を労ってから茶を啜りつつ仕事のふりだ。
怒られるので麻雀や空戦ゲームの間に少しは仕事もする。
隊員たちが警邏に出て行くと京哉は各デスクをハンディモップで掃除し始めた。
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