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第4話
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「見ているだけで幸せになれるんですから、黙って見られていて下さい」
「ずるいぞ、私もお前の綺麗な顔を見たいというのに」
「忍さん、前見て、前!」
「分かっている。けれど着くまでの間だけでも素顔を見せてくれ」
「うーん、仕方ないですね」
しぶしぶ京哉は野暮ったい銀縁眼鏡を外す。伊達なので生活に必要な訳ではない。だがスナイパー時代に自分を目立たなくするため導入して以来かけ慣れてしまい、フレームのない視界は落ち着かないのだ。それに他人の前では外すと却って霧島の機嫌が悪くなるから難しい。県警一目立つカップルの片割れとして京哉もランキングで注目株なのだ。
「あまりこっちを見てないで下さい、機捜隊長が事故ったら洒落になりませんから」
「だから分かっている、ガミガミ言うな。私もガミガミ言わん筈だぞ。だが、これだけは言わせてくれ。お前も分かっていると思うが、私以外の人間の前では外すんじゃないぞ。特に六十名超えという噂の『鳴海巡査部長を護る会』の婦警の前ではな」
「はいはい」
女性を恋愛対象として見られない霧島と違い、かつて京哉が付き合ってきたのは全員が女性だった。当たり前だ、霧島には半ば無理矢理抱かれたのだ。流れに逆らえなかっただけとも言えるが。それまでは男友達と飲めば必ず好みの女性のタイプが話題になり、一人で官舎にいたら男の儀式のオカズは肌の露出度が極端に高い女性の画像だった。
これからもそういう人生なのかと思っていたら、ふいに否応もなく急流を下る筏にポイと乗せられ、気付いたら制服婦警で一番ヤバい腐警たちにストーキングされている。どうしてこうなったのか霧島に『全部ドッキリ』と白状されても納得しそうだ。
大体、天性のテクニックで躰から堕とされた挙げ句、警察官としても理想が実体化したような場面を見せられて憧れは最高潮に達した。そこでデートめいた誘いまで受けて舞い上がってしまったのである。なのに一転して突き放され、一方的に決別された。あの時の霧島が揺らめき立ち上らせた怒気より怖いものを知らない。
そのあと数日間はアルコール漬けで過ごし呼び出しに応じて暗殺肯定派の実行本部に赴いた。自分でやらかしたスナイパー引退宣言だったが、既に京哉を消すのは予定調和だった。最期の煙草とコーヒーを味わってから射場につれて行かれた。
リボルバ三丁で照準された時は妙に透明な気分だった。
本当に本気で京哉は自分を三発の銃弾で終わらせるつもりだったのに……。
ラストのコンマ数秒だった、まさかの霧島が飛び込んできたのは。
射殺されかけた瞬間、フレームチャージなる特殊成型爆薬でドアを破った爆音が響き、機捜隊員が職務で携帯するセミオートのシグ・ザウエルP230JPを手にした霧島が連射した。精密照準ではなく流れるような連射が全てジャスティスショットで命中した。京哉も驚く腕だったが霧島も反撃の一射を食らい肩を負傷した。
身体を張ってまでの救出で京哉は完全に堕とされた。スーツを血で濡らす男に抱き締められて堕ちない奴がいるとは思えない。あの色気には勝てない。性別など絶対どうでも良くなる。
今更ながら思い出し妙なことを内心力説しつつ京哉は霧島の脇見運転がコワい。
一方の霧島は反則に近い力技で京哉を堕とした自覚がある分、元は女性を恋愛対象とする性の京哉が心配で堪らない。見た目もやや女顔だが本当に綺麗に整っている。はっきり言って男女関係なく目を留めるくらいだ。
そこで出会って初めての誕生日にはペアリングを嵌めさせ、でき得る限り県警本部内でも京哉と自分の関係を公言してきた。京哉が本部に異動してくる前から霧島は自分が何かと注目される存在らしいというのは理解していたので、逆手にとって『鳴海京哉は霧島忍のもの』と喧伝するのは容易かった。
今、本部内で二人の仲を知らない人間がいたらモグリという状態である。職務上、皆が情報を求める傾向にあるので本部だけではなく、広い県内に散った所轄署や交番勤務者でも知っていることがあり、たまに本部内で普段は見かけない職員から指差されたりもした。こんなに顔を売り歩いては通常ならサツカンという商売に障る。
そこまでしてなお年上の男は年下の恋人が女性に転ぶ、又は横恋慕野郎に掻っ攫われるのではないかと気が気でないのだ。京哉も無駄に外面がいい。気に食わない。
運転しながらも考えているうちに微妙に霧島は機嫌を斜めにしてゆき、それを察知した京哉はこの空気をどう回避しようかと思いを巡らせながら窓外に目をやる。
既に白藤市に入り、辺りは林立するビル群でいっぱいになっていた。
地面がごっそりと隆起したかの如き高低様々なビルの谷間には高速道路の高架もうねっていて、今の時間は何処も車だらけだった。そんな中を暢気に走っていたら遅刻どころでは済まない。そこで霧島は普通なら選ばないような細い路地に入り込む。
ここからが機捜隊長を張る霧島の本領発揮で、一方通行路などを駆使して市街地の混雑をクリアし、出発して五十分ほどで県警本部裏の駐車場にセダンを滑り込ませていた。同時に目で合図され、京哉はスーツのポケットから眼鏡を出してかける。
「ずるいぞ、私もお前の綺麗な顔を見たいというのに」
「忍さん、前見て、前!」
「分かっている。けれど着くまでの間だけでも素顔を見せてくれ」
「うーん、仕方ないですね」
しぶしぶ京哉は野暮ったい銀縁眼鏡を外す。伊達なので生活に必要な訳ではない。だがスナイパー時代に自分を目立たなくするため導入して以来かけ慣れてしまい、フレームのない視界は落ち着かないのだ。それに他人の前では外すと却って霧島の機嫌が悪くなるから難しい。県警一目立つカップルの片割れとして京哉もランキングで注目株なのだ。
「あまりこっちを見てないで下さい、機捜隊長が事故ったら洒落になりませんから」
「だから分かっている、ガミガミ言うな。私もガミガミ言わん筈だぞ。だが、これだけは言わせてくれ。お前も分かっていると思うが、私以外の人間の前では外すんじゃないぞ。特に六十名超えという噂の『鳴海巡査部長を護る会』の婦警の前ではな」
「はいはい」
女性を恋愛対象として見られない霧島と違い、かつて京哉が付き合ってきたのは全員が女性だった。当たり前だ、霧島には半ば無理矢理抱かれたのだ。流れに逆らえなかっただけとも言えるが。それまでは男友達と飲めば必ず好みの女性のタイプが話題になり、一人で官舎にいたら男の儀式のオカズは肌の露出度が極端に高い女性の画像だった。
これからもそういう人生なのかと思っていたら、ふいに否応もなく急流を下る筏にポイと乗せられ、気付いたら制服婦警で一番ヤバい腐警たちにストーキングされている。どうしてこうなったのか霧島に『全部ドッキリ』と白状されても納得しそうだ。
大体、天性のテクニックで躰から堕とされた挙げ句、警察官としても理想が実体化したような場面を見せられて憧れは最高潮に達した。そこでデートめいた誘いまで受けて舞い上がってしまったのである。なのに一転して突き放され、一方的に決別された。あの時の霧島が揺らめき立ち上らせた怒気より怖いものを知らない。
そのあと数日間はアルコール漬けで過ごし呼び出しに応じて暗殺肯定派の実行本部に赴いた。自分でやらかしたスナイパー引退宣言だったが、既に京哉を消すのは予定調和だった。最期の煙草とコーヒーを味わってから射場につれて行かれた。
リボルバ三丁で照準された時は妙に透明な気分だった。
本当に本気で京哉は自分を三発の銃弾で終わらせるつもりだったのに……。
ラストのコンマ数秒だった、まさかの霧島が飛び込んできたのは。
射殺されかけた瞬間、フレームチャージなる特殊成型爆薬でドアを破った爆音が響き、機捜隊員が職務で携帯するセミオートのシグ・ザウエルP230JPを手にした霧島が連射した。精密照準ではなく流れるような連射が全てジャスティスショットで命中した。京哉も驚く腕だったが霧島も反撃の一射を食らい肩を負傷した。
身体を張ってまでの救出で京哉は完全に堕とされた。スーツを血で濡らす男に抱き締められて堕ちない奴がいるとは思えない。あの色気には勝てない。性別など絶対どうでも良くなる。
今更ながら思い出し妙なことを内心力説しつつ京哉は霧島の脇見運転がコワい。
一方の霧島は反則に近い力技で京哉を堕とした自覚がある分、元は女性を恋愛対象とする性の京哉が心配で堪らない。見た目もやや女顔だが本当に綺麗に整っている。はっきり言って男女関係なく目を留めるくらいだ。
そこで出会って初めての誕生日にはペアリングを嵌めさせ、でき得る限り県警本部内でも京哉と自分の関係を公言してきた。京哉が本部に異動してくる前から霧島は自分が何かと注目される存在らしいというのは理解していたので、逆手にとって『鳴海京哉は霧島忍のもの』と喧伝するのは容易かった。
今、本部内で二人の仲を知らない人間がいたらモグリという状態である。職務上、皆が情報を求める傾向にあるので本部だけではなく、広い県内に散った所轄署や交番勤務者でも知っていることがあり、たまに本部内で普段は見かけない職員から指差されたりもした。こんなに顔を売り歩いては通常ならサツカンという商売に障る。
そこまでしてなお年上の男は年下の恋人が女性に転ぶ、又は横恋慕野郎に掻っ攫われるのではないかと気が気でないのだ。京哉も無駄に外面がいい。気に食わない。
運転しながらも考えているうちに微妙に霧島は機嫌を斜めにしてゆき、それを察知した京哉はこの空気をどう回避しようかと思いを巡らせながら窓外に目をやる。
既に白藤市に入り、辺りは林立するビル群でいっぱいになっていた。
地面がごっそりと隆起したかの如き高低様々なビルの谷間には高速道路の高架もうねっていて、今の時間は何処も車だらけだった。そんな中を暢気に走っていたら遅刻どころでは済まない。そこで霧島は普通なら選ばないような細い路地に入り込む。
ここからが機捜隊長を張る霧島の本領発揮で、一方通行路などを駆使して市街地の混雑をクリアし、出発して五十分ほどで県警本部裏の駐車場にセダンを滑り込ませていた。同時に目で合図され、京哉はスーツのポケットから眼鏡を出してかける。
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