Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

文字の大きさ
4 / 59

第4話

しおりを挟む
「見ているだけで幸せになれるんですから、黙って見られていて下さい」
「ずるいぞ、私もお前の綺麗な顔を見たいというのに」
「忍さん、前見て、前!」

「分かっている。けれど着くまでの間だけでも素顔を見せてくれ」
「うーん、仕方ないですね」

 しぶしぶ京哉は野暮ったい銀縁眼鏡を外す。伊達なので生活に必要な訳ではない。だがスナイパー時代に自分を目立たなくするため導入して以来かけ慣れてしまい、フレームのない視界は落ち着かないのだ。それに他人の前では外すと却って霧島の機嫌が悪くなるから難しい。県警一目立つカップルの片割れとして京哉もランキングで注目株なのだ。

「あまりこっちを見てないで下さい、機捜隊長が事故ったら洒落になりませんから」
「だから分かっている、ガミガミ言うな。私もガミガミ言わん筈だぞ。だが、これだけは言わせてくれ。お前も分かっていると思うが、私以外の人間の前では外すんじゃないぞ。特に六十名超えという噂の『鳴海巡査部長を護る会』の婦警の前ではな」
「はいはい」

 女性を恋愛対象として見られない霧島と違い、かつて京哉が付き合ってきたのは全員が女性だった。当たり前だ、霧島には半ば無理矢理抱かれたのだ。流れに逆らえなかっただけとも言えるが。それまでは男友達と飲めば必ず好みの女性のタイプが話題になり、一人で官舎にいたら男の儀式のオカズは肌の露出度が極端に高い女性の画像だった。

 これからもそういう人生なのかと思っていたら、ふいに否応もなく急流を下る筏にポイと乗せられ、気付いたら制服婦警で一番ヤバい腐警たちにストーキングされている。どうしてこうなったのか霧島に『全部ドッキリ』と白状されても納得しそうだ。

 大体、天性のテクニックで躰から堕とされた挙げ句、警察官としても理想が実体化したような場面を見せられて憧れは最高潮に達した。そこでデートめいた誘いまで受けて舞い上がってしまったのである。なのに一転して突き放され、一方的に決別された。あの時の霧島が揺らめき立ち上らせた怒気より怖いものを知らない。

 そのあと数日間はアルコール漬けで過ごし呼び出しに応じて暗殺肯定派の実行本部に赴いた。自分でやらかしたスナイパー引退宣言だったが、既に京哉を消すのは予定調和だった。最期の煙草とコーヒーを味わってから射場につれて行かれた。

 リボルバ三丁で照準された時は妙に透明な気分だった。
 本当に本気で京哉は自分を三発の銃弾で終わらせるつもりだったのに……。
 ラストのコンマ数秒だった、まさかの霧島が飛び込んできたのは。

 射殺されかけた瞬間、フレームチャージなる特殊成型爆薬でドアを破った爆音が響き、機捜隊員が職務で携帯するセミオートのシグ・ザウエルP230JPを手にした霧島が連射した。精密照準ではなく流れるような連射が全てジャスティスショットで命中した。京哉も驚く腕だったが霧島も反撃の一射を食らい肩を負傷した。

 身体を張ってまでの救出で京哉は完全に堕とされた。スーツを血で濡らす男に抱き締められて堕ちない奴がいるとは思えない。あの色気には勝てない。性別など絶対どうでも良くなる。

 今更ながら思い出し妙なことを内心力説しつつ京哉は霧島の脇見運転がコワい。

 一方の霧島は反則に近い力技で京哉を堕とした自覚がある分、元は女性を恋愛対象とする性の京哉が心配で堪らない。見た目もやや女顔だが本当に綺麗に整っている。はっきり言って男女関係なく目を留めるくらいだ。

 そこで出会って初めての誕生日にはペアリングを嵌めさせ、でき得る限り県警本部内でも京哉と自分の関係を公言してきた。京哉が本部に異動してくる前から霧島は自分が何かと注目される存在らしいというのは理解していたので、逆手にとって『鳴海京哉は霧島忍のもの』と喧伝するのは容易かった。

 今、本部内で二人の仲を知らない人間がいたらモグリという状態である。職務上、皆が情報を求める傾向にあるので本部だけではなく、広い県内に散った所轄署PS交番PB勤務者でも知っていることがあり、たまに本部内で普段は見かけない職員から指差されたりもした。こんなに顔を売り歩いては通常ならサツカンという商売に障る。

 そこまでしてなお年上の男は年下の恋人が女性に転ぶ、又は横恋慕野郎に掻っ攫われるのではないかと気が気でないのだ。京哉も無駄に外面がいい。気に食わない。
 運転しながらも考えているうちに微妙に霧島は機嫌を斜めにしてゆき、それを察知した京哉はこの空気をどう回避しようかと思いを巡らせながら窓外に目をやる。

 既に白藤市に入り、辺りは林立するビル群でいっぱいになっていた。
 地面がごっそりと隆起したかの如き高低様々なビルの谷間には高速道路の高架もうねっていて、今の時間は何処も車だらけだった。そんな中を暢気に走っていたら遅刻どころでは済まない。そこで霧島は普通なら選ばないような細い路地に入り込む。

 ここからが機捜隊長を張る霧島の本領発揮で、一方通行路などを駆使して市街地の混雑をクリアし、出発して五十分ほどで県警本部裏の駐車場にセダンを滑り込ませていた。同時に目で合図され、京哉はスーツのポケットから眼鏡を出してかける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...