Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

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第8話

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 温かな文明の風で身が溶け出すと二人は寝室でコートとジャケットを脱いだ。ベルトの上から締めた帯革を外す。これには特殊警棒や手錠ホルダーなどがくっついていた。結構重いのでこれらを直接ベルトに着けるとスラックスは下がるわ、小用の時に難があるわで大変なのだ。あとはショルダーホルスタを解いてホッとする。

 機捜はその職務の特性から職務中は銃を携行することが義務付けられていた。
 通常、機捜隊員が持つのはシグ・ザウエルP230JPなる三十二ACP弾を薬室チャンバ一発マガジン八発の合計九発連射可能ながら、貸与される弾薬は五発のみというものだ。だが二人がショルダーホルスタで保持しているのは、同じシグ・ザウエルでもP226という十六発の九ミリパラベラムを発射できるフルサイズの銃である。

 使用する弾薬も三十二ACPより九ミリパラの方が格段に強力で貫通力に勝る。
 二人にしてみたら、そんなモノなど要らない生活を送りたいのだ。だが特別任務の際に必要に駆られて仕方なく交換・貸与され、そのうち借りているヒマもなくなって十五発満タンのスペアマガジン二本と共にいつの間にか持たされっ放しになってしまった。

 県下のヤクザから恨みを買ったり、それこそ部屋ごと吹っ飛ばされたりすると特別任務でなくても身を守る手段を講じたい気分になるものだ。県警本部長としても貴重な手駒をヒットマンに消されたくはないらしく、職務時間外でも銃携帯許可は下りている。
 それらを外すと小柄な京哉は躰が浮き上がる気さえした。

 二人分の装備をライティングチェストの引き出しに収め、京哉は自分を鼓舞する。

「じゃあ手洗いとうがいをして、僕は晩ご飯の製作に励みますから」

 交代で洗面所を使うと京哉は換気扇の下で煙草を一本吸い、早速黒いエプロンを着けた。冷蔵庫から食材を出していると背後から霧島も覗き込んでくる。

「おい、今週の食事当番は今夜、何を食わせてくれるんだ?」
「酢豚と水餃子です。少し時間が掛かりますけど、大丈夫ですか?」
「構わんが、手伝えることがあれば指示してくれ」

 頷いた今週の食事当番は野菜を刻み始めた。白菜とニラを細かく刻み、水分を絞ってからボウルに入れて挽き肉を投入、味をつけて練り混ぜる。その間に霧島はリビングのTVを点けてニュースを見ながら、カットグラスにウィスキーを注いで飲み始めた。殆ど酔わない体質と知ってはいるが、景気のいい飲み方に京哉は眉をひそめて苦言を呈する。

「またストレートでそんな。ヒマ潰しに飲むくらいなら、これ手伝って下さい」

 言われて素直にやってきた霧島は餃子を包み始めた。身長百九十近い偉丈夫だが手先は器用な上に料理のセンスも兼ね備えている。ゆで卵すら作れなかった京哉に料理を伝授したのも霧島だ。お蔭でプレートに並んだ餃子は売り物になりそうなくらい綺麗だった。

 手伝って貰っている間に京哉は揚げ物を終え、手早く作ったスープに餃子を放り込んでから酢豚を炒める。全て出来上がると京哉はエプロンを外し、タイマーで炊けていたご飯を茶碗に盛りつけた。またウィスキーを手にした霧島に茶碗を押し付ける。

「ほら、飲んだくれてないで食べましょう」
「これは旨そうだな。頂きます」
「頂きまーす。はふ……熱っ!」

「京哉、落ち着いて食え。火傷するぞ」
「火傷ならもう……あ、TV」

 ラジオのように音声のみ聴いていたTVニュースが今日のアイリスビルの件を報じていた。だがそれだけではなく十八時過ぎに連続して起こった男性の転落死事件を二件も伝え始める。場所は両方とも真城市と反対側で白藤市に接する貝崎かいざき市内だ。

「これも二人とも薬物中毒でアルコールを大量に摂取か」
「それもまた高輪組の組員なんて、幾ら何でも一気にりすぎじゃないですかね?」
「確かに手口としては荒い。畳みかけなければならん事情でもできたのか」

「畳みかける事情って例えばどんなです?」
「さあな。悪いが今は脳のリソースを使う気にならん。だがここまで続いた以上自殺の線は完全に消えてマル被がいる。それだけは確実になったと言えるだろう」

「でもヤクザでヘマして消されるって、普通は沈められるか埋められません?」
「まあ、そうだな。とすると、これは手口からして見せしめか……」

 それでも霧島の個人的感傷は関係なく、事実としてヤクザ同士の諍いや裏切り者の粛清ならマル被を炙り出すのは殆ど無理だと二人は承知していた。
 幾ら初動捜査のみの機捜であっても捜査員として最初から投げてしまうのは宜しくないが、一般人が手に掛けられた訳でもなく、実際に事件として立件されず自殺と判断するしかない状況である。
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