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第58話(エピローグ)
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「どうするんだ?」
「どうするんでしょうね? 僕にも『次代のゲームチェンジャー』が何なのかは分かりませんが、無人機に関してはそれこそ本物の戦闘機を無人機にするくらいのつもりでやらないとね」
「そんなもの、作れるのか?」
「某大国で試験機は飛んでるらしいです。既に無人AI戦闘機でドッグファイト、空中戦も実験ではこなしてるらしいですし、実戦投入寸前まで来てるんです。でも『実戦投入できますよ』とは言わない。軍事機密でもありますが、つまり何処も同じで戦う相手は予算なんですよ」
「ふむ、無人戦闘機同士が戦うなら人は死なずに済むな」
「そう思いますか? 単なる制空権の奪い合いでしかなく、地上や海に人的損害のしわ寄せがいくだけだと僕は思いますけど」
「お前は何かにつけて悲観的だな」
「そうですか? 一応『最新』なんて書かれてる兵器の記事なんて実際の物は機密事項で『最新』な筈は無いんだし、人間は思いつける範囲にあるモノなら大抵を実現しちゃいますからね」
「ふむ、それらが元々兵器だったり転用されたりするというのか?」
「ええ。何だって作りますよ、人間は。今はスタンドオフなんていう『見えない所』まで精確に攻撃するミサイルやUAVが流行っているように思えますが、本当の最先端なんてジョークグッズかと勘違いしそうなブツだったりね」
投げやりに京哉は言って締めたつもりだったが、霧島は眉間にシワを寄せる。
「あの堂本一佐なら予算配分の改ざんくらいは平気でやりそうだが」
「それでAI戦闘機ですか?」
頷いた霧島に京哉は薄く笑った。
「予算の改ざんで浮いた分くらいで実現するような無人戦闘機なんて却って怖いですよ」
「そんな巨額が必要なのか、開発に?」
「おそらく忍さんが思ってる金額にゼロを三つくらい足さなきゃダメなんじゃないですかね。……もういい加減にしましょうよ。それより貴方、コートくらい脱いだらどうですか」
さっさとジャケットを脱ぎ銃を外してドレスシャツとスラックス姿になった京哉はショルダーバッグの荷ほどきも終えていた。なのに霧島は外出ルックのままだ。
「今から出れば午後出勤に丁度いいだろう」
「えっ、出勤するんですか? 十六時間も飛行機に乗ってたのに?」
「特別任務の在り方について一ノ瀬本部長と腹を割って話し合うべきだからな」
今回こそ本気で頭にきた霧島は大真面目に言った。だが京哉は聞いているのかいないのか、座っていた椅子から立ち上がると向かいの霧島の膝に乗っかり、胸にさらりとした髪を擦りつける。更には頬ずりしたのちコートの上からなまめかしく躰をまさぐった。
「これでも出勤したいんですか? まだキスもしてないのに?」
実力行使に出た京哉に見上げられ、霧島は空になったカップを置く。
「喧嘩の続きは勘弁だが、お前は本当に発情期ではないのか?」
「そう思ってくれても構いませんよ。でも貴方が嫌ならやめますけど」
「嫌な訳ないだろう。私もお前といる限り発情期だ……なあ、京哉」
◇◇◇◇
数日後、機捜の詰め所で二人はまたそれぞれノートパソコンに向かっていた。いない間に小田切副隊長が溜め込んだ書類の督促メールは何と十六通で待ったなし状態なのだ。
だが秘書たる京哉がたびたびチェックを入れて檄を飛ばさないと、隊長と副隊長はすぐにゲーム麻雀に逃げ、一週間の献立レシピを眺め、腕組みして居眠りをしている。
ただ隊長に限ってはもうオンライン空戦ゲームは見たくもないらしい。
また大声で隊長を叩き起こした直後、京哉の携帯にメールが入った。誰からだろうと年上の男は気になって目を覚まし、自分の席から伸び上がって京哉を注視する。
「パットからですよ。【怪我も大したことはなく内臓を外れた貫通弾でした。入院ついでにジャンキーも卒業します。今後はドミニクと一緒にカランド正規軍に入隊する予定です】ですって」
「ふむ。それは良かったな。おっ、こっちもメールだ、雅人からだぞ」
「えっ、どれどれ、見せて下さい」
席を立って傍まで来た京哉と共に霧島は携帯の小さな画面を覗き込んだ。
【霧島さん、鳴海さん、カランドでは大変お世話になりました。今日、母が退院して一緒に家に戻ったばかりです。母と相談してナルコム社の申し出を有難く受けることにしました。母に無理して欲しくないのと、僕の夢は医療分野で有用なゲームソフトを開発することなので、学業にも力を入れたいからです。実現するまで恥ずかしくないよう勉強したいと思っています。ゲームはちょっとだけにしてね。まずはご報告まで。 ――沢井雅人】
二人は顔を見合わせ苦笑いする。ゲームから完全に卒業とはいかなかったようだ。
「でもトリプルAレヴェルのゲーマーが作る医療分野で使えるゲームソフトなんて愉しみですね。いったいどんなものなのか想像もつかないですよ」
「そうだな。……ところで京哉、お前は雅人は本当に猿芝居に騙されたと思うか?」
「当然でしょう、あれだけ帰りは元気だったんですから。って、まさか……?」
「ああ、私はそのまさかだと思っている。あいつは『見抜く目』を持っているとな。おそらくあの元気は私たちに気を遣った空元気だろう。だが何れにせよ、雅人は『親父の遺言』通りの男には違いない。卑怯な現実に負けたりはせん」
「そっか、そうですよね」
その言葉で救われた気がした京哉は霧島に抱きついて口づけたいのを我慢した。
「どうするんでしょうね? 僕にも『次代のゲームチェンジャー』が何なのかは分かりませんが、無人機に関してはそれこそ本物の戦闘機を無人機にするくらいのつもりでやらないとね」
「そんなもの、作れるのか?」
「某大国で試験機は飛んでるらしいです。既に無人AI戦闘機でドッグファイト、空中戦も実験ではこなしてるらしいですし、実戦投入寸前まで来てるんです。でも『実戦投入できますよ』とは言わない。軍事機密でもありますが、つまり何処も同じで戦う相手は予算なんですよ」
「ふむ、無人戦闘機同士が戦うなら人は死なずに済むな」
「そう思いますか? 単なる制空権の奪い合いでしかなく、地上や海に人的損害のしわ寄せがいくだけだと僕は思いますけど」
「お前は何かにつけて悲観的だな」
「そうですか? 一応『最新』なんて書かれてる兵器の記事なんて実際の物は機密事項で『最新』な筈は無いんだし、人間は思いつける範囲にあるモノなら大抵を実現しちゃいますからね」
「ふむ、それらが元々兵器だったり転用されたりするというのか?」
「ええ。何だって作りますよ、人間は。今はスタンドオフなんていう『見えない所』まで精確に攻撃するミサイルやUAVが流行っているように思えますが、本当の最先端なんてジョークグッズかと勘違いしそうなブツだったりね」
投げやりに京哉は言って締めたつもりだったが、霧島は眉間にシワを寄せる。
「あの堂本一佐なら予算配分の改ざんくらいは平気でやりそうだが」
「それでAI戦闘機ですか?」
頷いた霧島に京哉は薄く笑った。
「予算の改ざんで浮いた分くらいで実現するような無人戦闘機なんて却って怖いですよ」
「そんな巨額が必要なのか、開発に?」
「おそらく忍さんが思ってる金額にゼロを三つくらい足さなきゃダメなんじゃないですかね。……もういい加減にしましょうよ。それより貴方、コートくらい脱いだらどうですか」
さっさとジャケットを脱ぎ銃を外してドレスシャツとスラックス姿になった京哉はショルダーバッグの荷ほどきも終えていた。なのに霧島は外出ルックのままだ。
「今から出れば午後出勤に丁度いいだろう」
「えっ、出勤するんですか? 十六時間も飛行機に乗ってたのに?」
「特別任務の在り方について一ノ瀬本部長と腹を割って話し合うべきだからな」
今回こそ本気で頭にきた霧島は大真面目に言った。だが京哉は聞いているのかいないのか、座っていた椅子から立ち上がると向かいの霧島の膝に乗っかり、胸にさらりとした髪を擦りつける。更には頬ずりしたのちコートの上からなまめかしく躰をまさぐった。
「これでも出勤したいんですか? まだキスもしてないのに?」
実力行使に出た京哉に見上げられ、霧島は空になったカップを置く。
「喧嘩の続きは勘弁だが、お前は本当に発情期ではないのか?」
「そう思ってくれても構いませんよ。でも貴方が嫌ならやめますけど」
「嫌な訳ないだろう。私もお前といる限り発情期だ……なあ、京哉」
◇◇◇◇
数日後、機捜の詰め所で二人はまたそれぞれノートパソコンに向かっていた。いない間に小田切副隊長が溜め込んだ書類の督促メールは何と十六通で待ったなし状態なのだ。
だが秘書たる京哉がたびたびチェックを入れて檄を飛ばさないと、隊長と副隊長はすぐにゲーム麻雀に逃げ、一週間の献立レシピを眺め、腕組みして居眠りをしている。
ただ隊長に限ってはもうオンライン空戦ゲームは見たくもないらしい。
また大声で隊長を叩き起こした直後、京哉の携帯にメールが入った。誰からだろうと年上の男は気になって目を覚まし、自分の席から伸び上がって京哉を注視する。
「パットからですよ。【怪我も大したことはなく内臓を外れた貫通弾でした。入院ついでにジャンキーも卒業します。今後はドミニクと一緒にカランド正規軍に入隊する予定です】ですって」
「ふむ。それは良かったな。おっ、こっちもメールだ、雅人からだぞ」
「えっ、どれどれ、見せて下さい」
席を立って傍まで来た京哉と共に霧島は携帯の小さな画面を覗き込んだ。
【霧島さん、鳴海さん、カランドでは大変お世話になりました。今日、母が退院して一緒に家に戻ったばかりです。母と相談してナルコム社の申し出を有難く受けることにしました。母に無理して欲しくないのと、僕の夢は医療分野で有用なゲームソフトを開発することなので、学業にも力を入れたいからです。実現するまで恥ずかしくないよう勉強したいと思っています。ゲームはちょっとだけにしてね。まずはご報告まで。 ――沢井雅人】
二人は顔を見合わせ苦笑いする。ゲームから完全に卒業とはいかなかったようだ。
「でもトリプルAレヴェルのゲーマーが作る医療分野で使えるゲームソフトなんて愉しみですね。いったいどんなものなのか想像もつかないですよ」
「そうだな。……ところで京哉、お前は雅人は本当に猿芝居に騙されたと思うか?」
「当然でしょう、あれだけ帰りは元気だったんですから。って、まさか……?」
「ああ、私はそのまさかだと思っている。あいつは『見抜く目』を持っているとな。おそらくあの元気は私たちに気を遣った空元気だろう。だが何れにせよ、雅人は『親父の遺言』通りの男には違いない。卑怯な現実に負けたりはせん」
「そっか、そうですよね」
その言葉で救われた気がした京哉は霧島に抱きついて口づけたいのを我慢した。
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