Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

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第57話

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「こういう訳です。お分かり頂けたでしょうか?」
「何故こんなややこしい、残酷なことをするんだ!」

 唐突に激昂した霧島がロウテーブル越しに茶色いスーツの襟元を掴み上げる。社長の躰が浮いた。細身なので足まで浮いている。事務所の全員が立ち上がった。

「ご家族にはご了承頂いております。ただレヴェルが高すぎたのを見過ごしてしまったのは、わたしどもに非があるかと。誠に申し訳ありませんでした」

 そこで集まってきた事務員三人が口々に謝り、頭を下げた。

「本当にすみませんでした」
「社長と家族の悪ふざけで大変な思いをさせてしまって……」
「じつは『酷すぎる』と苦情も最近多くて。だからサーヴィスも終了しました」
「それでは、お父様は本当に亡くなられたと?」

 社長に訊かれて少年は頷く。

「会社からは事故だと言われて、でも遺体も見てなくて。もし会えるなら現地まで行こうと思っていたんですけど……」
「そうですか。思い出させてすみません。ご愁傷様です」
「いいえ、もういいんです。却ってご迷惑を掛けて……ううん、父からのメッセージをくれて、どうもありがとうございました。ここまできた甲斐がありました」
「そう言って頂いたのは初めてです、わざわざ訪ねてきて頂いたのも」

 ぶら下げられていた社長が霧島に手を離され、すとんとソファに着地した。そして雅人は自分が就職するまでの養育費と慰謝料を兼ねた金額を提示され、毎月受け取るようスレーダー社長から打診されて思わず霧島と京哉に目で助けを求める。

 霧島は雅人自身に任せて何も言わず京哉が代わりに頷いてやった。

「おカネは馬鹿にできませんからね、貰っちゃえ、貰っちゃえ!」
「でも……帰って母と相談してから返事をさせて貰ってもいいですか?」
「構いません。ただ遠慮はなさらないで下さい」

 冷めた紅茶で喉を潤すと三人はナルコム社を辞去する。何処までも明るい陽の下、ナルコム社の社長以下事務員も含めて四人までが出てきて手を振ってタクシーを見送ってくれた。雅人も窓を開けてナルコム社が見えなくなるまで手を振り続けた。

 大通りを走り出したタクシーの中で霧島は雅人に訊いた。

「雅人、親父さんが亡くなった現地まで行くのか?」
「ううん、やっぱり行かない。笑った父さんとあの言葉を覚えていて欲しい、父さんならきっとそう思ってるから」
「そうか。ならこのまま空港に行こう。日本に帰って早く母さんに報告してやれ」
「はい。いっぱいお世話になっちゃって……ありがとうございました」

◇◇◇◇

 高揚したままの雅人は機内でも元気だった。そんな雅人と二人は東京駅で別れた。
 雅人の乗った新幹線を見送った霧島は踵を返すと京哉の手を握りぐいぐい歩く。自分たちも帰るため電車に乗り込んだが、それでもまだ霧島の機嫌は宜しくなかった。

 察知した京哉は暫く気付かないふりをしていたが根負けして口を開く。

「雅人にも監視は必要でしょう、仕方ないじゃないですか」
「あいつはナルコム社とのことを誰彼構わず吹聴するような男ではないぞ?」
「それは分かってますけど、でも重要な生き証人ですからね」
「クインランやリライ事務にマフィアが狙ってくるということか?」

「僕らと行動を共にしてナルコムまで出向いたんですから。何処で見られてたか分からないし、そうなればマフィアの残党か高輪組に狙われる可能性もゼロじゃないでしょう。雅人のためですよ」
「ふん。自衛隊が『優秀なパイロット』を確保したのでなければいいのだがな」

 吐き捨てるように言って窓外に目をやったが、まだ言い足りずに唸った。

「大体、ナルコムでの猿芝居は何だ、子供相手だと思って舐めているだろう?」
「猿芝居って……せっかくカランド軍が映像加工した上に化けてくれたのに酷いですよ、それは」

 分かっている、少年の心を救うにはあれが一番良かったのだ。霧島の腹立ちは別物で八つ当たりしているに過ぎない。堂本一佐に、牽いては日本政府に囮にされたことと、UAVのオンライン制御システムを自衛隊とカランド軍が我が物にしたのが許せないのだ。

「一歩間違えば私たちは殺されていたんだぞ、それにお前まであんな……くそう」
「まあ、それはもういいじゃないですか」
「お前に惚れたパットが動かなければ、私たちはだな――」

 他人には忘れろと言いつつ霧島はすっきりさっぱりナイスガイと見えて意外と、いや、結構な土鍋性格だ。思い出し怒りをして憤慨し堂本一佐への悪口雑言をしこたま並べているうちに乗り換えもこなして白藤市駅に辿り着く。ここからバスに乗り換えた。無事に県警本部に着いて白いセダンで真城市のマンションに向かう。

 やっと帰り着くと午前十時過ぎだった。まずはインスタントコーヒーでくつろぐ。京哉は煙草も味わった。もう霧島は煙草を吸わない。それでもまだ毒づいている霧島に京哉は呆れる。京哉にしてみたら腹は立ったが上手いシステム構築で感心すらしたほどなのだが。

「まだ言ってるんですか? ネチこいですね」
「ふん。二日や三日前のことさえ忘れる脳天気でないとスナイパーは務まらんか」

「はいはい、そうですねー。でも無人航空機UAVも自爆ドローンも世界中の戦争や紛争で大活躍中、今後も無くなりはしないでしょうけれど、技術は日進月歩ですからね」
「もっとエグい兵器が戦場を席捲するとでもいうのか?」

「エグいかどうかはともかく、進化して対抗しづらい兵器が開発されつつありますよ。例えば電磁的な力、ローレンツ力で弾体を飛ばすレールガンは初速がマッハ七以上で既に完成間近です。他には電磁パルス利用のEMP爆弾。これにやられたら電子機器の一切は機能が吹っ飛びます。インフラの制御装置もね。あとは自立歩行メカに――」
「――もういい。兵器開発にカネを注げる大国だけが意見を押し通せる訳は分かった」

「でも押し通せば反発する人も必ず現れる。その人たちは?」
「テロリストはいわゆる『貧者の核』なるBCバイオ・ケミカル兵器に手を出す、か」
「軽々に手を出せば、どんなに立派な主義主張も雲散霧消しますけどね。僕が言いたいのは『ゲームチェンジャー』なる言葉で次々とSF的な兵器が生まれつつあるってことですよ」

「なるほど。ならば今回の堂本一佐らが仕入れた技術というかシステムは、すぐに古くなるのか」
「かもってことです。小型化ドローンが戦争の在り方を変えた、『ゲームチェンジャー』になった。でもそれだって今回の件みたいにサーバなんか使わず、殆どの戦地では兵士がリモコンで飛ばしてる。目視やカメラ・アイや果ては携帯電話まで使ってね。そうやって一方で高性能を競い、一方で創意工夫した挙げ句に新たな兵器が登場する。じゃあ、どうするか、ですよ」
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