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第42話
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「大丈夫……なあんてね。貫通してパイプラインに穴を空けたら大ごとですよ」
「何だ、サボる気なら最初から言ってくれ」
「ふふん。では、お茶を濁す用意をしましょうか」
ここも足元は人工的に作られたとはいえ踏み固められてはいない。長く放置されている間に表層だけ固まった茶色い砂礫で、表面をコロコロと砂粒が滑っていくのを見て京哉は顔をしかめる。ガンヲタとしては銃をなるべく汚したくないのだ。
そこで取り出した狙撃銃を地面には置かず、取ったのは膝撃ち姿勢だった。本当にやる気がないようで、狙撃銃は構えもせず抱いたままである。
「おい、十四キロを抱えたままで大丈夫か?」
「疲れたら置くから平気です。どうせ僕のじゃないし」
「お前が壊れる前に積極的に置くことをお勧めする」
そう言った霧島はと云えば、こちらも気象計の様々な数値を読み上げたあとは砂礫の上にあぐらをかいて座り込み、京哉のものだった筈の煙草まで咥えた。オペレーション中なので、さすがに火は点けずに我慢する。
ジリジリと太陽に脳天を灼かれていると僅かな時間で男の子は状況に飽き、レーザースコープでコンビナート見学を始めた。暑さ故かそれとも建物内で用は足りるのか人影は数えるほどしかない。だからといってまるきり無人でもないためターゲットの『犬』かどうか一応の確認はしていく。
ビンゴを引いてもアクションを起こす気はないのだが。
しかし男の子がコンビナート見学をすれば、まず目が行くのは人などではない。何よりも塗装も施していない金属色が剥き出しの巨大な幾つものオイルタンクだった。足場の上に乗っかった球形や円筒に半円を被せたような、数種の形状をしたタンクがある。
「あれに絵を描いたら愉しそうだな」
狙撃銃に付属のスコープを微調整した京哉も霧島が見ているものを目に映した。
「ああ、あのタンク。日本では湾岸エリアなんかで絵が描かれてるのを見ますよね」
「私なら戦闘機と海とミケを描くな。エビフライもいいかも知れん」
「エビ……何だかまるで脈絡のない組み合わせなんですけど」
「シノブ=キリシマ画伯の手に掛かれば、美しくも奇跡的な調和が生まれてだな」
馬鹿な話をしながら霧島は観察を続けて時間を潰す。時折腰に下げた水筒のぬるい水を飲みつつ、黒髪を灼く日差しの強さと喫煙欲求にじっと耐え続けた。
そうして眺めている間にレーザースコープの視界の中で何ヶ所かのポイントも発見する。アンチ・マテリアル・ライフルをぶちかましても貫通弾が背後の建物に当たらない、まさに奇跡的に向こうとこっちが素通しの京哉の言う『充分狙える』場所だ。
そんなポイントをつぶさに眺めていると何故か一ヶ所から目が離せなくなる。不思議な既視感に囚われたのだ。こんな場所など見たことがない筈なのに胸がざわめく。
「どうしたんです、忍さん。そんなに真剣になっちゃって」
「お前もそっちのスコープで見てくれ。十一時の方向で距離千七百五十、パイプラインの間だ」
「ええと、どれどれ。ここがどうかしましたか?」
「見たことがある、それも最近だ」
「えっ、そうかなあ? 何度も見てる間に刷り込まれて……あ、人が出てきた!」
同じものを霧島も見ていた。追われてでもいるように背後を何度も気にしているのはスーツに白ヘルメットの男だ。他の人影と何ら変わらない格好をしているがスコープの中で男は明らかに挙動不審である。焦り、逃げたくても周囲は岩砂漠で逃げられない。
そう。それは間違いなく『野良犬』扱いされた産業スパイの一人だった。
「わあ、あっさりビンゴ引いちゃったかも。どうします?」
「どうするって、私にあれを撃つ根性はない。お前が撃ちたければ勝手にしろ」
「僕もちょっとパスしたいな……って、あれは何ですかね?」
先に気付いたのはスナイパーの目を持つ京哉だった。気配に霧島もアイピースから目を離して振り仰ぐ。眩い太陽を背にし光を掩蔽にして何かが低空を舞っていた。ダンスのように白い翼をくるくるとロールさせつつ降りてくる。思わず霧島は叫んだ。
「あれは……そうだ!」
叫ぶなり既視感と現実が混ざって奔流となり霧島を襲っていた。黒髪を灼く殺人的な暑さにも関わらず、霧島は身体中の血が凍えるような気分を味わう。目に映っているモノと電脳世界で体験した記憶が合致し、今や霧島自身がくるくるとロールを打っているような錯覚さえしていた。もう不思議な既視感の原因を悟っていた。
顔色を白くした霧島の異変を察知し、現実に引き戻そうと京哉は大声を上げる。
「一人で納得してないで、いったい何なのか教えて下さい!」
「あれはRQ三五〇Aオルトロス……ではない、基地から飛ばしたUAVだ!」
鋭い霧島の声が合図だったかのように現実のUAVはロールをやめてコンビナートに真っ直ぐ突っ込んできた。パワーダイヴ、自由落下を超えた推力による降下。ふいに減速してノーズを跳ね上げ空中に立つようなコブラ機動。ふわりと姿勢を戻すとコンビナートの複雑な建造物にぶつからないようジグザグに移動する。
さっきまで遊んでいた子供が新しい遊びを思いついたようにUAVは真剣だった。
「何だ、サボる気なら最初から言ってくれ」
「ふふん。では、お茶を濁す用意をしましょうか」
ここも足元は人工的に作られたとはいえ踏み固められてはいない。長く放置されている間に表層だけ固まった茶色い砂礫で、表面をコロコロと砂粒が滑っていくのを見て京哉は顔をしかめる。ガンヲタとしては銃をなるべく汚したくないのだ。
そこで取り出した狙撃銃を地面には置かず、取ったのは膝撃ち姿勢だった。本当にやる気がないようで、狙撃銃は構えもせず抱いたままである。
「おい、十四キロを抱えたままで大丈夫か?」
「疲れたら置くから平気です。どうせ僕のじゃないし」
「お前が壊れる前に積極的に置くことをお勧めする」
そう言った霧島はと云えば、こちらも気象計の様々な数値を読み上げたあとは砂礫の上にあぐらをかいて座り込み、京哉のものだった筈の煙草まで咥えた。オペレーション中なので、さすがに火は点けずに我慢する。
ジリジリと太陽に脳天を灼かれていると僅かな時間で男の子は状況に飽き、レーザースコープでコンビナート見学を始めた。暑さ故かそれとも建物内で用は足りるのか人影は数えるほどしかない。だからといってまるきり無人でもないためターゲットの『犬』かどうか一応の確認はしていく。
ビンゴを引いてもアクションを起こす気はないのだが。
しかし男の子がコンビナート見学をすれば、まず目が行くのは人などではない。何よりも塗装も施していない金属色が剥き出しの巨大な幾つものオイルタンクだった。足場の上に乗っかった球形や円筒に半円を被せたような、数種の形状をしたタンクがある。
「あれに絵を描いたら愉しそうだな」
狙撃銃に付属のスコープを微調整した京哉も霧島が見ているものを目に映した。
「ああ、あのタンク。日本では湾岸エリアなんかで絵が描かれてるのを見ますよね」
「私なら戦闘機と海とミケを描くな。エビフライもいいかも知れん」
「エビ……何だかまるで脈絡のない組み合わせなんですけど」
「シノブ=キリシマ画伯の手に掛かれば、美しくも奇跡的な調和が生まれてだな」
馬鹿な話をしながら霧島は観察を続けて時間を潰す。時折腰に下げた水筒のぬるい水を飲みつつ、黒髪を灼く日差しの強さと喫煙欲求にじっと耐え続けた。
そうして眺めている間にレーザースコープの視界の中で何ヶ所かのポイントも発見する。アンチ・マテリアル・ライフルをぶちかましても貫通弾が背後の建物に当たらない、まさに奇跡的に向こうとこっちが素通しの京哉の言う『充分狙える』場所だ。
そんなポイントをつぶさに眺めていると何故か一ヶ所から目が離せなくなる。不思議な既視感に囚われたのだ。こんな場所など見たことがない筈なのに胸がざわめく。
「どうしたんです、忍さん。そんなに真剣になっちゃって」
「お前もそっちのスコープで見てくれ。十一時の方向で距離千七百五十、パイプラインの間だ」
「ええと、どれどれ。ここがどうかしましたか?」
「見たことがある、それも最近だ」
「えっ、そうかなあ? 何度も見てる間に刷り込まれて……あ、人が出てきた!」
同じものを霧島も見ていた。追われてでもいるように背後を何度も気にしているのはスーツに白ヘルメットの男だ。他の人影と何ら変わらない格好をしているがスコープの中で男は明らかに挙動不審である。焦り、逃げたくても周囲は岩砂漠で逃げられない。
そう。それは間違いなく『野良犬』扱いされた産業スパイの一人だった。
「わあ、あっさりビンゴ引いちゃったかも。どうします?」
「どうするって、私にあれを撃つ根性はない。お前が撃ちたければ勝手にしろ」
「僕もちょっとパスしたいな……って、あれは何ですかね?」
先に気付いたのはスナイパーの目を持つ京哉だった。気配に霧島もアイピースから目を離して振り仰ぐ。眩い太陽を背にし光を掩蔽にして何かが低空を舞っていた。ダンスのように白い翼をくるくるとロールさせつつ降りてくる。思わず霧島は叫んだ。
「あれは……そうだ!」
叫ぶなり既視感と現実が混ざって奔流となり霧島を襲っていた。黒髪を灼く殺人的な暑さにも関わらず、霧島は身体中の血が凍えるような気分を味わう。目に映っているモノと電脳世界で体験した記憶が合致し、今や霧島自身がくるくるとロールを打っているような錯覚さえしていた。もう不思議な既視感の原因を悟っていた。
顔色を白くした霧島の異変を察知し、現実に引き戻そうと京哉は大声を上げる。
「一人で納得してないで、いったい何なのか教えて下さい!」
「あれはRQ三五〇Aオルトロス……ではない、基地から飛ばしたUAVだ!」
鋭い霧島の声が合図だったかのように現実のUAVはロールをやめてコンビナートに真っ直ぐ突っ込んできた。パワーダイヴ、自由落下を超えた推力による降下。ふいに減速してノーズを跳ね上げ空中に立つようなコブラ機動。ふわりと姿勢を戻すとコンビナートの複雑な建造物にぶつからないようジグザグに移動する。
さっきまで遊んでいた子供が新しい遊びを思いついたようにUAVは真剣だった。
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