Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第21話

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 ゆっくりとした英語で霧島は張り番の男たちに訊いた。

「今日のお嬢様のボディガードは何処にいる?」

 胡散臭そうに男たちが霧島を足元から顔までを舐めるように見る。

「何だ、見かけねぇ面だな」
「質問の意味が分からないのか? フィオナ=ブレガーの取り巻きは何処に――」
「ンだと、コラ! ふざけたこと抜かすとタダじゃおかねぇぞ!」

 と、気の短いブルゾンの若い男がいきなりこぶしを振り上げた。それなりに腰の入ったパンチだったが霧島は軽くダッキングで避ける。
 そのまま長身を屈めると低い姿勢で足を飛ばした。足を払われたブルゾン男は尻餅をついて地面に転がる。観客の中年男らが遠慮なく笑い、無様な相棒を見て暗いスーツの男が喚いた。

「野郎、やりやがったな!」

 喚き終わるまで待つことなくスーツ男がフックを放ってくる。ヘッドスリップで躱した霧島はその懐に飛び込んで右袖と胸ぐらを掴んだ。
 身を返して腰に体重を載せ、背負い投げ地面に叩きつける。起き上がっていたブルゾン男が背から襲う前に回し蹴りを腹に見舞った。
 数メートルも吹っ飛んでブルゾン男は地面に頭をぶつけ、一声呻いて動かなくなる。

 咳き込みながらも這い起きたスーツ男は天晴れだが、懐の銃に手をやったのは頂けない。その顎を容赦なく蹴り上げると、こちらも呻いて沈黙する。

「ふん、口ほどにもないな」
「ご苦労さまです。忍さんにとっては前菜ってとこですね」
「次はメインディッシュだぞ。いいか?」
「はい、任せて下さい」

 合板のドアを霧島が開けた。ロックは掛かっていない。だが外の異状を察知していたようで僅かに長身を沈ませた霧島の耳元をピシッという音と衝撃波が掠める。瞬時に霧島はシグを引き抜き速射でトリプルショット。

 デスクの向こうから撃ってきた男は紛れもなく車破壊の時の黒スーツ、その腹にダブルタップ、更にヘッドショットが決まる。

 完全に頭部を狙い撃ってきた相手に遠慮も容赦も無用だ。
 殺らなければ殺られる。

 だが轟音を立てて次々と銃弾が放たれた。素早く霧島と京哉は退避し事務用デスクの陰に身を寄せた。室内の配置はひとめで把握している。デスク群の左に応接セットと向こうにロッカー。右には二階への階段。援軍がくるとすればここと背後のドアからだ。

 京哉がデスクから一瞬だけ顔を出して二連射を放つ。男二人がヘッドショットを食らって棒きれの如く斃れた。更にダブルタップを灰紫スーツの男に浴びせる。
 男は背をロッカーに打ち付けながら、自らの腹を信じられないような顔で見る。それでも腕を持ち上げ銃を構えたが、火を噴かせることなく京哉はヘッドショット。

 その間も二人を狙って鉛玉の大雨だ。

 しかし興奮しきったチンピラたちに乗せられることなく、霧島も弾の温存でヘッドショット狙いに切り替える。ピストル射撃の腕は京哉をも凌ぐほどだ。
 その腕で冷静且つ確実に二人、三人と速射で仕留めた。狙いを定めさせないよう二人は左右に移動し反撃する。

 デスクの地平越しの攻防は続いた。目前の跳弾を危うく避けた京哉は、二人の男がサブマシンガンを持ち出したのを目に映す。ハンドガンとは桁違いの発射速度を誇る二連射をやり過ごしてから速射でハートショットを撃ち込んだ。

「忍さん、階段から!」
「分かっている!」

 室内右端にある階段を男たちが二階から駆け下りてくる。二人が発砲し、霧島が応射。精確に銃機関部を撃ち壊した上でヘッドショット。
 非情だが実際は非情な精神状態に浸るヒマもない。ただ光景は凄惨で白い壁に血飛沫が前衛的な模様を描く。命の炎が消えた敵二人は残りの階段を力なく転がり落ちた。

 デスクの向こうの敵は京哉担当で、悪い体勢ながら反動を手首で逃がしつつ、ソードオフ・ショットガン、つまり取り回しやすいよう銃身バレルを短くノコギリで切り落とした散弾銃を構えた男にダブルタップ。膝をついた男の頭を容赦なく撃つ。

 そこで残った敵たちは、まともに撃ち合っても敵わないと悟ったらしい。
 二人が同時に二丁拳銃を構えた。

 計四丁の四十五口径バラ撒き作戦に、一時的に京哉はデスク下へと退避する。

 けれど位置を変えて様子を窺っているとあっさり三丁がホールドオープン、銃上部のスライドが後退し切ったままで止まる。弾切れになった証拠の現象、いわゆるエマが掛かった状態を見取って速射でトリプルショットを放った。

 そのまま銃口をスイングさせ、階段の途中から手すりを掩蔽に撃ってきた男の腹を目がけて撃つ。シグ・ザウエルP226の撃発音を聞き分けてカウントしていた京哉の残弾一、それこそエマが掛かる寸前で霧島が援護に回った。

 三方に向け速射で弾幕を張る。その間に京哉は空になったマガジンを地に落としコンマ数秒と掛けずマガジンチェンジ。

 こうして薬室チャンバに一発以上残したタクティカルリロードをすると、ホールドオープンしたスライドを戻してチャンバに初弾を送り込むという一手間が省けるのだ。
 敵に残弾数を知られないための策としても使うことがある。チャンバまで空にしてからのリロードはエマージェンシーリロードといいプロは嫌う。

 今度は京哉が援護に回り、霧島がマグチェンジ。そうして京哉は事務所内に視線を走らせた。確かあと一人残っていた筈だ。敵を求めて移動を開始する。階段から狙われないようデスクの左側から巡ろうとした途端、いきなり男と鉢合わせた。

 反射的にその額をぶち抜く。だが男の手が痙攣的に動いて指がトリガをガク引きし弾が発射された。さすがに避けようもなく、サツカンにしては長めの黒髪をなびかせて耳元を弾丸が掠め、殴られたような衝撃に京哉は一瞬の眩暈を起こす。

「京哉、どうした!」

 階段からの火線を避けて左に寄ってきていた霧島が叫んだ。

「当たってない、大丈夫!」

 頭を一振りして眩暈を振り払った京哉は、霧島と共に階段の手すりの間を狙い撃った。男が二人、ヘッドショットを食らって階段に斃れ伏す。

 ふいに火線が止んだ。硝煙が濃く漂う室内に静けさが満ちる。

 十秒ほどのサイレントタイムののち霧島と京哉は顔を出して室内を見渡した。ゆっくりデスクの周りを巡る。生者は一人も見当たらない。一階で隠れられるのはロッカーの中くらいだが、それは非常に細い上に既にどれも銃弾の穴が穿たれている。

 前を霧島、背後を京哉が警戒しつつ、慎重に階段を上った。張り詰めた神経はまだ警鐘を鳴らしている。踊り場で方向の変わる階段を上ろうとしたとき、もう見えていたドアの陰から黒い銃口が覗いた。

 軽快な連射音はまたも発射速度の速いサブマシンガン、咄嗟に霧島は京哉に覆い被さった。床に押し倒されるように護られながら京哉は霧島の脇からトリガを引く。薄い合板のドアを貫通した九ミリパラ数発が命中し、湿った音と共に連射が止んだ。

 体勢を立て直して二階の廊下に出る。先程のドアと並んでもう一枚ドアがあった。まずは手前側を覗く。そっと開けると室内は明るかった。
 サブマシンガン男が入り口で転がっている以外はテーブルがふたつに椅子が数脚あるだけだ。テーブルの上には灰皿とカップ類の他、ゲームのカードが散乱していた。

 素早くルームクリアリングを終えて二人は部屋を出た。もうひとつのドアの左右の壁に張りつく。声を出さずに霧島がスリーカウントして開けて飛び込んだ室内は真っ暗、だが銃口から放たれる火薬の燃焼炎、マズルフラッシュを認める寸前に身を沈ませながら二人同時に発砲。

 どさりと音がして静けさが戻った。
 手探りで霧島が天井の蛍光灯のスイッチを入れる。予測射撃した二弾は見事にヘッドショットとなって男を絶命させていた。

 室内は仮眠所なのかベッド四台がひしめいている。そのベッドの間や下まで覗いて誰もいないのを確認した。これでこの事務所に生きた者は霧島と京哉しかいない。

 そう思ってホッとしかけた時だった。

「いやいやいや、すごいですね~。フヒヒヒ」

 突然の奇声が背後で響いて二人は仰天した。靴から飛び出すかと思った。振り向きざまに二人して両側から銃を突きつける。その人物はあっさり両手を挙げた。

「誰だ!」
「わたしですか?『葬式はベルジュラックで美しく』、この街の葬儀屋ですよ」
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