Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第22話

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「何故こんな所に葬儀屋がいる?」

 一応訊いたが敵意や殺気は全く感じられない。
 それどころかプレスの利いたドレスシャツにチリひとつ付いていない黒スーツを着込み、キッチリと黒ネクタイを締めた男は非常に礼儀正しかった。
 顎のラインで切りそろえた銀髪を揺らし、二人に芝居がかった一礼をすると嬉しげに微笑む。

「ご遺体ある所に葬儀屋あり、おかしいですか?」

 おかしくないか、そうなのか? と、自問しつつも霧島が短く英語で応えた。

「……いや」
「殺しも殺したり二十ものご遺体。商売繁盛、棺桶の在庫も心配なくらいです。割れた頭をどう美しく装飾しましょうか。創作意欲が刺激されますね~。フヒヒヒ」

 ぶっちぎりに気味が悪かった。何て街なんだろうと二人は思った。

 銃は収めたが警戒は解かず、階段を下りると事務所内に落としていた空のスペアマガジンを回収して外に出る。外では倒したチンピラ二人の他、賭けをしていた中年男二人がすっかり酔いの醒めた顔つきで立っていた。

 中年男たちだけではない。物見高い街の住人たちがドアの中を覗こうと伸び上がっている。誰もが死体に慣れているという、ある意味、哀しい街ではあるらしい。

「本当に還ってきやがった……あんたら、全員殺ったってのは本当だったんだな」
「ふん、見てきたようなことを」
「葬儀屋が言ったんだ、こいつが死体を数え間違える筈はねぇ」

 どうも葬儀屋なのはガセではないらしい。それもかなり信頼(?)されている。
 葬儀屋が周囲を見渡してから口を開いた。

「さあて、麗しい殺し屋さんたち。今日はお帰りになられた方が宜しいかと」
「どうしてだ?」
「追加でブレガーから手勢が来ても、これ以上は棺桶が間に合わないもので。何と愉しい状況でしょうね~。フヒヒヒ」

 なるほど、ここでRPGは勘弁だ。この場は去るのが上策だろう。

「わたしも葬儀の準備に一旦帰ると致しましょう。それではまたお目に掛かります」

 お目に掛かりたくなんぞこれっぽっちもなかったが、ともかくそう言い一礼した葬儀屋は踊るような足取りで人々の中に消えた。それを見送って京哉がポツリと呟く。

「車代、取り立てられなかったですね」
「黄昏れている場合じゃない、さっさと宿に戻るぞ」

 踵を返してブレガーの事務所をあとにする。しかし背後から一瞬だけ殺気を感じた霧島と京哉は振り向きざまに銃を抜き撃っていた。
 伸びていた筈のチンピラ二人が銃を構えたまま吹っ飛んで仰向けに斃れる。もう立ち上がることはない。

 ざわめく街の人々が空けた道を、銃を収めた二人は宿へと歩き始めた。

「追加で死体を作っちゃいましたけど、棺桶は足りるんでしょうか?」
「お前まで気持ちの悪いことを言うんじゃない」
「はぁい。でもこれからどうします?」

「取り敢えずはブレガーのお礼参りに警戒だ」
「あ、それがあったんでしたっけ。『派手なアクションで目を惹く計画』は第一段階クリアですけど、ブレガーに潜入なんてまず無理っぽいですよね」
「お礼参りの人間が来たなら来たで、今度はどういう交渉をするかにも依るぞ?」

 暢気にも霧島はそう言ったが、京哉にはどう考えてもブレガー潜入の可能性は既に潰れたも同然のように思えた。それならレアードしかないのだが、どうやら霧島の頭にある売込み手段はカチコミという名の戦争に限定されているらしい。

 それともまた人間離れした超計算能力で京哉には計り知れないことを考えているのかも知れないが、それが何なのか知る由もない京哉にとっては、もういったいナニをしに来たのやら分からなくなってきていた。

 取り敢えず二人で足早に宿を目指す。きっとマスターは心配しているだろう。

 その宿の一階、バー・バッカスの前には車が三台も停まっていた。スイングドアから入ってみると客が増えている。
 酔い潰れたシェリフはスツールに根が生えたままだったが、カウンターにアイボリーの上下を着た薄い金髪の男が一人、テーブルふたつには八人もの客がいた。

 テーブルふたつを埋めている八人はドブ色スーツを着崩した男たちで、いかにもなマフィア臭はするが大して偉くもない雰囲気だった。ありていに言えば貫禄が皆無なのだ。

 それでも体格を見ると多少は鍛えているようで、チンピラにしては腕が立ちそうなのが特徴的だった。お蔭で霧島と京哉はカウンターのスツールに腰掛けるのに、少々の緊張を強いられる。さっきの今でもうお礼参りとは、えらく早いというかせっかちすぎる気がしたが、背中に目をつけておくに越したことはない。

 二人の姿を見てグラスを磨いていたマスターが驚きの声を上げた。

「お客さんたち、まさか帰ってくるとは……ご無事で何よりです」
「何か冷たいものでも飲ませてくれるか?」
「アイスティーならすぐにお出しできますよ」

 紅茶を待つ間、京哉は周囲を観察する。テーブル席のドブ色八人はビールを飲みながら小声で喋っているが、どうやら仕事中らしい。アイボリーの上下を着てカウンター席に腰掛けた男を常に視界に入れている。
 その視線に敵意は感じられないので、カウンターのアイボリーの上下を着た男をドブ色八人が護衛している感じだった。

 何れにせよ自分たちに関心が向いていないのはいいことである。京哉は右側ふたつを空けてカウンター席に腰掛けたアイボリーの男をそっと窺った。

 歳は霧島と京哉の間くらい、二十五、六と思われた。横顔の見目形は整っている。身に着けたアイボリーの上下もどうやらオーダーメイドの高級品だ。歳の割に落ち着いた様子で、カットグラスに注がれた琥珀色の液体を啜る姿も様になっていた。

 何者だろうと考えているとアイスティーのグラスが出された。二人はストローでチュウチュウ吸う。グラスを磨くマスターも寡黙で不思議な緊張感が漂っていた。

 そこでスイングドアが押し開けられる気配がした。ジロジロ見るのも厄介事の元だと学習したばかりで、京哉は声を掛けられるまでアイスティーをチュウチュウ吸っていた。
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