Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第49話

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「それにもう一人の悪ガキの霧島はまだやる気のようじゃったが」

 青い瞳が笑みを含んで二人を交互に見る。
 まさに悪戯小僧ではあるが弱い者いじめを許さないガキ大将でも見守るような目つきだった。京哉も未だに身動きひとつせず眠り続ける愛しい男の横顔を目に映す。腫れこそ引いたが端正な顔は傷だらけだ。

「ああ言った以上、忍さんは本気です。病院につれ込んで全身麻酔でもしておかないと独りででもやりかねないですから、この人。大きな図体して手が掛かるんですよ」
「ほう。あんた方はいったい何者かね?」

「普段は警察官です。極東の島国の日本国で警察官……の筈なんですが」
「何じゃ、同業者か。それはそれは。なら記念に一杯やらんか?」

 この状況で飲んだくれる訳にもいかず京哉は固辞した。シェリフも酔っ払う寸前で切り上げ向かいの自室に引っ込む。英会話の勉強を実地でさせて貰った京哉も霧島に寄り添い目を瞑る。なるべく躰を休めておかなければいつ何が起こるか分からない。

 そして翌朝、京哉は大勢の人間の気配で目が覚めたのだった。

◇◇◇◇

 街中の店や家屋に土足で押し入り、文字通り家具まで引っ繰り返して調べ上げたレアードの手下たちは、すました顔でデスクに就いたシェリフ・パイク=ノーマンと防弾ガラスの窓一枚を挟んで対峙していた。
 下辺が腰の高さの窓には二桁ものレアードの手下たちが張り付いて怒号を浴びせ続けている。

 だがロックしたドアを気の短いチンピラたちが足蹴にしても、シェリフはデスクの上の古いリボルバを弄びながら、顔色ひとつ変えずに椅子に座り続けていた。

 ここにいなければもう街の何処にも霧島と京哉はいないのだ。チンピラたちも相変わらずの勘気で怒声を振り撒くドン・ハイラム=レアードを恐れ、その直属の部下であるオットー=ベインが役立たずをいつ粛清し始めるかと恐怖して必死だった。

「爺さん、開けて見せろよ、こら!」
「いい加減にしねぇか! ぶち殺すぞ、ジジイ!」

 結構な罵声をBGMにシェリフは自室に一度戻るとグラスとウィスキーを持ち出してきて飲み始めた。ちびちびと飲みながら窓の向こうで喚く面々を端から一人一人睨みつける。
 そしてまた引っ込むと今度はショットガンを手にして戻ってきた。

 いつか使う日のためにと手に入れてあったイタリアのベネリ社・M3スーパー90である。セミオートとポンプアクションの切り替えが可能な法執行機関向けの散弾銃だ。
 口径は十二ゲージでチューブマガジンに七発プラスチャンバ一発の合計八連発。買い込んである弾薬は00Bダブルオーバックである。悪党ども相手のビッグゲームならこのくらいは準備せにゃ……そう思ったのは何年前だったか。 

 ゆっくり見せつけるように弾薬を一発一発、チューブマガジンへと装填してゆく。

「このジジイ、やる気かよ!」
「敵うとでも思ってんのか、クソジジイが!」

 何処吹く風でシェリフはみたび奥へと引っ込む。不穏な空気を察知し銃を手に警戒していた京哉の許にやってきた。酔いの片鱗もない青い目で見つめ、鋭く囁く。

「逃げるんじゃ」
「そんな、どうやって?」
「ちょっと待っておれ」

 留置場に入ったシェリフは寝台をずらし、床面コンクリートのシンダーブロックを持ち上げ外し始める。五つも外すとそこには長辺六、七十センチの穴が出現した。

「昔々囚人がスプーンで掘った脱獄の道じゃ。街の地下、下水道まで繋がっておる」

 急いで京哉は霧島を起こした。人のいた形跡をなるべく消すために手早く毛布を畳んで寝台の上に重ね、ショルダーバッグを斜めがけにすると、霧島の右脇に潜り込むようにして躰を支える。今は自分の利き腕を空けておかなければならない。

「忍さん、少し無理させます。でも限界の二歩手前で教えて下さい」
「分かった、頼む。シェリフ、感謝する。また会おう」

 道の最初は狭い縦穴で霧島を先に下ろした。二メートルほど深さがあったが長身なので僅か膝を折っただけで着地し、霧島は次に進むべき横穴の直径を手探りで測ったのち這って移動する。その間に京哉はシェリフからフラッシュライトを受け取った。

「本当に有難うございました」
「なんの。ほら、早く行かんか」

 縦穴に京哉も飛び込んだ。留置場の明かりで高さは分かっていたので身軽に着地する。穴は全体が乾いた硬い砂でスプーンで掘ったというのには執念を感じた。横穴に入ると同時にシェリフがブロックを戻し、上からの明かりが失われた。

 フラッシュライトで横穴を照らすと楕円形の穴が黒々と続いている。天井は二メートル足らず、閉所恐怖症でなくとも閉じ込められたら結構な恐怖感が味わえそうだ。

「忍さん。腕、貸して下さい」

 這ったままの霧島を何とか立たせ、僅かに動いただけで消耗してしまった躰を支えながら進んだ。横幅は狭いので窮屈だったが仕方ない。
 おそらく敵はいないと推測できるだけで有難かった。歩調も霧島に合わせてゆっくりと一歩一歩を踏み締める。

「下水道になればもう少し歩きやすくなるでしょうから、それまでの我慢ですよ」
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