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第17話
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「くそう、また管轄外で仕事だぜ。バルナ署なんてあるのか?」
「あるみたいだよ。でも本当に本領発揮してるよね、イヴェントストライカ」
「それだ。思った途端だったもんな。その単語は封印決定、言った奴は罰金な」
「幾ら払えばいいの?」
「どうせ言うのはどこぞの社長候補様だからな、五百クレジット」
「FCを舐めてるの? 何だかシドって可哀想、それって子供のおやつ代じゃない」
馬鹿を言い合っている間に既に社員が通報していたが、シドもバルナ署の機捜課を検索して連絡、ついでに救急機の手配も頼んでおく。
暫く経つと駆け付けた救急隊員がテロリスト四名と身から離れた腕とを運び出すやら、バルナ署の同輩たちと鑑識が作業を始めるやらでエラい騒ぎとなった。
当然ながらシドとハイファは実況見分に長々と付き合わされ、ようやく二十五階に与えられた部屋に戻ることができたのは、とっくに日付が変わってからだった。
交代で備え付けのリフレッシャを使い、保温機の中に用意されていたエレア特製のオムライスを二人して頬張った。バターの香りが卵の旨味を一層引き立てている。
「なあ、今度これ作ってくれよな」
異常なまでのクリティカルな日常に慣れきった身は先程の一件など頭の中に欠片ほども残ってはおらず、シドはスプーンでがっついている。
「うーん、オムライスって意外と難しいんだよね。この卵のトロトロ感とかサ」
「メニュー考えろっつったじゃねぇか、作るより考える方が難しいとかも」
「いつの話をしているんですか、あーたは」
「で、作ってくれるのか?」
「はいはい、努力させて貰いますよ」
オムライスで途端にポーカーフェイスの中にも笑みを浮かべる男、テラ標準歴24歳。
「んで、明日は?」
「葬儀は十三時からだからゆっくり眠れるよ。段取りは今日と同じく献花までで棺は本星の屋敷に着いてから埋葬するから。僕はそこまでは付き合わない」
「ってか、役員会だの何だので付き合えないんだろ」
食事中に嫌う話題を振られたハイファはあからさまに不機嫌な顔をする。だが時間的にも余裕がないのでシドは敢えて気は回さず、その話題のまま押した。
「避けて通れねぇんだろうが。俺も同席させて貰うからな」
「それはそうだけど、貴方はたぶん入室不可だと思うよ」
「入室不可? 誰がンなこと言ってんだ。俺はお前の背を護るって言ったろ。離れられるか。止めたきゃ力ずくで止めて見ろってんだ!」
「そこまで気合い入れてくれるのは嬉しいけど役員会にテロリスト? それとも役員の誰かが僕を狙うとか?」
「何の想定もしてねぇよ。ただ俺は有言実行、それだけだ」
ふっと肩の力を抜き、ハイファは笑う。
「相変わらず頑固だね。でも保護者の要る社長なんて変だよ」
「おまけに跡継ぎもできねぇってか。チェンバーズ氏と話したんだ。そしたら『愉快な話だ』って笑ってやがった。あれも結構食えないオッサンだぜ?」
「ふうん。お通夜の最中、妙にお酒臭いと思ったらチェンバーズだけじゃなかったんだね。上物のお酒でガブ飲みしたんじゃないの?」
「誰かが怒るから二杯だけだ。オッサン、『また煙草を吸いにきたまえ』だってよ」
「それで懐柔されちゃった訳でもないんだろうけど、結局吸っちゃったんだ?」
食べ終わった皿を脇に押しやりながらシドは首を傾げて見せた。
「煙草、嫌か?」
「ふふん。嫌だったら付き合えないでしょ、時に一日で三箱も空けちゃう人とは。大昔と違って躰に悪くもないし。服とか髪に臭いがつくのを嫌う人も多いけど、僕は別に構わないから」
立ち上がったハイファは皿を重ねて貨物エレベーターに入れボタンを押し戻った。
「もうそろそろ寝ない?」
「ああ、お前、今日は調子悪かったもんな。そうだな、寝るか」
「セミダブルベッドでツインだけど、どうする?」
「どうするって、寝るんだろ?」
「ベッドの中までは護衛してくれないの?」
「ベッドメイクされて困る事はできねぇぞ」
「当たり前でしょ。ただ一緒に……」
二人は置かれていた夜着に着替えながら互いに笑い合った。エレアが用意してくれたらしいそれはハイファの瞳に合わせてか淡い萌葱色のガウンだった。
「ほら、さっさと横になれ。寝付くまでだぞ」
ハイファが誰にでも同じ微笑を向けるためのペルソナを外して弱みや甘えを見せられるようになったのはシドの前でだけだ。
それでも完全には晒していないと感じるがやっと自分から仮面の内側を垣間見せるようになり、何でもそつなくこなす男のそんな不器用さが愛しく、シドは酷く弱い。
部屋の奥、窓側のベッドに潜り込んだハイファに腕枕をしてやりながら、シドは窓外いっぱいに広がる夜のテラを眺める。こんな大パノラマ、カーテンで隠してしまっては勿体ない。
テラ本星も夜だが、ぼうっとふちが浮き上がって光る球体は全体像こそ見えないが確かに地球蝕だ。特に明かりが集中している場所も視認できる。
上空五百キロメートルから俯瞰できる本星セントラルエリアだ。
規則正しい寝息でそっと腕を引き抜こうとしたら寝返りを打たれ、腕に抱きつかれてしまった。離すまで見守る手もあるが、それでは明日の自分が寝不足である。
エレアも承知していることだ。もうひとつのベッドは明日の朝にでも少し乱しておけばいいかと思い、ハイファの体温で既に温かいベッドから出て行くのをやめた。
自分はいつでも何処までもハイファと共にある、そう決めた。決めた以上は迷わない。約束したからではない、自分がそうありたいと願うからだ。
失くした家族より今は大切な、自分の意志で選んだ唯一の存在と歩んでいきたい、どんなものと引き換えにしてもいいと願うから。
だがその一方でこうも思ってしまうのだ。
(ハイファ、あそこだ。あの明かりの中にあるのが俺たちの帰る家なんだぞ――)
さらさらの金髪を指で梳きながらいつまでも本星セントラルエリアを眺め続けた。
「あるみたいだよ。でも本当に本領発揮してるよね、イヴェントストライカ」
「それだ。思った途端だったもんな。その単語は封印決定、言った奴は罰金な」
「幾ら払えばいいの?」
「どうせ言うのはどこぞの社長候補様だからな、五百クレジット」
「FCを舐めてるの? 何だかシドって可哀想、それって子供のおやつ代じゃない」
馬鹿を言い合っている間に既に社員が通報していたが、シドもバルナ署の機捜課を検索して連絡、ついでに救急機の手配も頼んでおく。
暫く経つと駆け付けた救急隊員がテロリスト四名と身から離れた腕とを運び出すやら、バルナ署の同輩たちと鑑識が作業を始めるやらでエラい騒ぎとなった。
当然ながらシドとハイファは実況見分に長々と付き合わされ、ようやく二十五階に与えられた部屋に戻ることができたのは、とっくに日付が変わってからだった。
交代で備え付けのリフレッシャを使い、保温機の中に用意されていたエレア特製のオムライスを二人して頬張った。バターの香りが卵の旨味を一層引き立てている。
「なあ、今度これ作ってくれよな」
異常なまでのクリティカルな日常に慣れきった身は先程の一件など頭の中に欠片ほども残ってはおらず、シドはスプーンでがっついている。
「うーん、オムライスって意外と難しいんだよね。この卵のトロトロ感とかサ」
「メニュー考えろっつったじゃねぇか、作るより考える方が難しいとかも」
「いつの話をしているんですか、あーたは」
「で、作ってくれるのか?」
「はいはい、努力させて貰いますよ」
オムライスで途端にポーカーフェイスの中にも笑みを浮かべる男、テラ標準歴24歳。
「んで、明日は?」
「葬儀は十三時からだからゆっくり眠れるよ。段取りは今日と同じく献花までで棺は本星の屋敷に着いてから埋葬するから。僕はそこまでは付き合わない」
「ってか、役員会だの何だので付き合えないんだろ」
食事中に嫌う話題を振られたハイファはあからさまに不機嫌な顔をする。だが時間的にも余裕がないのでシドは敢えて気は回さず、その話題のまま押した。
「避けて通れねぇんだろうが。俺も同席させて貰うからな」
「それはそうだけど、貴方はたぶん入室不可だと思うよ」
「入室不可? 誰がンなこと言ってんだ。俺はお前の背を護るって言ったろ。離れられるか。止めたきゃ力ずくで止めて見ろってんだ!」
「そこまで気合い入れてくれるのは嬉しいけど役員会にテロリスト? それとも役員の誰かが僕を狙うとか?」
「何の想定もしてねぇよ。ただ俺は有言実行、それだけだ」
ふっと肩の力を抜き、ハイファは笑う。
「相変わらず頑固だね。でも保護者の要る社長なんて変だよ」
「おまけに跡継ぎもできねぇってか。チェンバーズ氏と話したんだ。そしたら『愉快な話だ』って笑ってやがった。あれも結構食えないオッサンだぜ?」
「ふうん。お通夜の最中、妙にお酒臭いと思ったらチェンバーズだけじゃなかったんだね。上物のお酒でガブ飲みしたんじゃないの?」
「誰かが怒るから二杯だけだ。オッサン、『また煙草を吸いにきたまえ』だってよ」
「それで懐柔されちゃった訳でもないんだろうけど、結局吸っちゃったんだ?」
食べ終わった皿を脇に押しやりながらシドは首を傾げて見せた。
「煙草、嫌か?」
「ふふん。嫌だったら付き合えないでしょ、時に一日で三箱も空けちゃう人とは。大昔と違って躰に悪くもないし。服とか髪に臭いがつくのを嫌う人も多いけど、僕は別に構わないから」
立ち上がったハイファは皿を重ねて貨物エレベーターに入れボタンを押し戻った。
「もうそろそろ寝ない?」
「ああ、お前、今日は調子悪かったもんな。そうだな、寝るか」
「セミダブルベッドでツインだけど、どうする?」
「どうするって、寝るんだろ?」
「ベッドの中までは護衛してくれないの?」
「ベッドメイクされて困る事はできねぇぞ」
「当たり前でしょ。ただ一緒に……」
二人は置かれていた夜着に着替えながら互いに笑い合った。エレアが用意してくれたらしいそれはハイファの瞳に合わせてか淡い萌葱色のガウンだった。
「ほら、さっさと横になれ。寝付くまでだぞ」
ハイファが誰にでも同じ微笑を向けるためのペルソナを外して弱みや甘えを見せられるようになったのはシドの前でだけだ。
それでも完全には晒していないと感じるがやっと自分から仮面の内側を垣間見せるようになり、何でもそつなくこなす男のそんな不器用さが愛しく、シドは酷く弱い。
部屋の奥、窓側のベッドに潜り込んだハイファに腕枕をしてやりながら、シドは窓外いっぱいに広がる夜のテラを眺める。こんな大パノラマ、カーテンで隠してしまっては勿体ない。
テラ本星も夜だが、ぼうっとふちが浮き上がって光る球体は全体像こそ見えないが確かに地球蝕だ。特に明かりが集中している場所も視認できる。
上空五百キロメートルから俯瞰できる本星セントラルエリアだ。
規則正しい寝息でそっと腕を引き抜こうとしたら寝返りを打たれ、腕に抱きつかれてしまった。離すまで見守る手もあるが、それでは明日の自分が寝不足である。
エレアも承知していることだ。もうひとつのベッドは明日の朝にでも少し乱しておけばいいかと思い、ハイファの体温で既に温かいベッドから出て行くのをやめた。
自分はいつでも何処までもハイファと共にある、そう決めた。決めた以上は迷わない。約束したからではない、自分がそうありたいと願うからだ。
失くした家族より今は大切な、自分の意志で選んだ唯一の存在と歩んでいきたい、どんなものと引き換えにしてもいいと願うから。
だがその一方でこうも思ってしまうのだ。
(ハイファ、あそこだ。あの明かりの中にあるのが俺たちの帰る家なんだぞ――)
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