Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第20話

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 翌日の役員会議は小ホールで行われた。人質未遂事件で中ホールの壁紙その他のメンテナンスが間に合わなかったためである。

 遠い他星系の各支社長以下人事採決権を持つ者にはダイレクトワープ通信を使わせるなど、莫大なコストが掛かった会議には総勢百名近い頭数が揃っていた。

 スーツも持ってきてはいたが結局は制服を選んだハイファは、チェンバーズと共に皆と向かい合うようにして壇上の椅子に座っている。これはさすがにスーツを着たシドは壇の下ながら相変わらずハイファの背後を固めていた。

 入室時のリモータチェックでライセンスキィを持たない事を咎められたが、チェンバーズとハイファの援護があって、しぶしぶながらSPの肩書で入室を許可された。

 司会進行はここバルナ本社の代表取締役常務だ。オーダーメイドの高級スーツを制服の如く着こなした、いかにも有能な企業戦士然とした男は、次期会長及び社長の指名採決をリモータ入力にて直ちに行うことをその場の全員に要求した。

「本人の拒否権ってねぇのかよ?」
「そりゃあ、あるでしょ。やる気のない人に無理矢理やらせても意味ないじゃない」
「じゃあここでお前が椅子を蹴倒して『やりません!』って言えばいいのか?」
「うーん、それはどうなんだろうねえ。チェンバーズ氏の例もあるし」
「結局はやりたくなくてもやらせるってか。それでも意外と余裕だな、お前」
「そう見える?」
「けどな。でもお前のことだ、何か策があってのことなんだろ?」
「策ねえ。ないこともないけど社長にまでならなきゃならないのか疑問なんだよね」
「ならやめとけよ。面倒クセェし、大体、刑事と軍人はどうすんだ?」
「さあ? ここで揉めるのも相当面倒臭いと思うよ」

 ひそひそやっている間にも、皆がどの角度から視ても判別できる3Dマルチディスプレイが室内中心に採決結果を表示する。非常に端的にそれは浮かび上がった。

 新会長:チェンバーズ=ファサルート――信任
 新社長:ハイファス=ファサルート――信任

「おい! ハイファ、どうすんだよ!?」
「どうするもこうするも、明日の株主総会で不信任だったら選び直しだよ」

 しれっと言ったハイファはぞろぞろと出て行く人波を眺めながら、おもむろに立ち上がって薄い肩を竦めてみせた。余裕すぎてシドにすらその考えは良く分からない。

 そうして翌日の株主総会でもことはサラサラと進み、「辞退」の「じ」の字も発しないまま、ハイファス=ファサルート二百五十八世は、巨大ファサルートコーポレーションの新社長の椅子にすっぽり納まってしまったのだった。

 幹部や株主は担ぐぎょくが欲しいだけなのだろう、それは理解できた。しかしその『玉』に意志というものを要求しているようには感じられない。
 それどころか意志などむしろ邪魔でしかないのではないか、そうシドは揃って無表情で座る明るい金髪の父子を見ながら、エンジュ=セフェロのポラを見た時のハイファの笑顔を思い出していた。

◇◇◇◇

「そんな気はしてたけどな」
「うん。分かってるって思ってた」

 総会を終えた夜だった。自らの約束を護るため、シドはハイファに持ちかける。

「俺にも何かの椅子をくれよな、傍にいられるように。護衛でも第二秘書でも茶坊主でも何でもいいからさ。食えてきゃいいから大仰なモンじゃなくていいぜ?」
「って、シドは刑事辞めちゃうの?」
「ここにいて七分署の刑事が務まるかよ」
「え? 僕は刑事も軍も辞める気ないんだけど」
「はあ? 何言ってんだ、お前こんな大会社の社長が兼業できる訳ねぇだろうが。意外にお前って律儀で真面目だし、何処もここもなんてやってたら死ぬぞマジで!」

 本当に真面目に説いたつもりのシドだったが、対してハイファは悠然としている。

「んな大声で言わなくても聞こえてるよ。それに『意外に律儀で真面目』は余計で失礼だと思うけどね、七年間もたった一人の男に尽くした僕を捕まえて。でも社長業なんてあのチェンバーズ氏でも務まってたんだよ? 暫くは付き合ってよ、頼りにしてるからサ」
「過労死しても知らねぇからな」
「まあまあ。別室任務だって残ってるし、まだバルナ観光だってしてないんだから」
「観光って……お前ってそんなに楽天主義者オプチミストだったっけか?」
「これだけ任務に忠実に生きてきたんです、それくらいはアリでしょうが」

 天を仰いでシドは溜息をついた。

 これだけの大会社ともなれば社長が実務を執ることなど殆どないのかも知れない。だが社交の場や、例えばテラ連邦エネルギー財団のような名誉職同士の集まりだのパーティーなどに忙殺されるのは目に見えている。
 それを刑事・軍情報局員ともに全てを並列でこなすなどという超人的なことがハイファの肉体と精神にどれだけの負荷をかけるものか想像を絶する。

 システム的にはシドが言ったように、まずは刑事からして無理だった。

 それでもハイファが選んだ道だ。共に在ると決めた以上は何処かで引き留めるのも自分の役割だとシドも腹を括るしかなかった。パートナーでバディなのだ。そうでなくても表に自分を出さないハイファが一線を超える際に気付けるのは自分だけだという自負があった。力ずくでも引き留められるのは自分しかいない。

「あと、チェンバーズ氏からエネルギー財団に加入する権利も譲って貰ったから」
「何でそう、あれもこれもと欲張るんだお前は!」

 これに関しては別室任務絡みだと分かっていた上に、自身の宿題の答えでもあったが、だからといって嬉しい筈もない。文句のひとつやふたつ、言わずにはいられなかった。
 人間、心配の分量と正比例で腹が立つ。

「ところでこれで無罪放免じゃないんだろ。明日の予定は?」
「機嫌悪いなあ。取り敢えず社長用のライセンスキィだの何だのをメモリにしたヤツ受け取って、社長室付きの人間と顔合わせ。それと全従業員のリモータに流す今後の経営指針の録音。ねえ、何て喋ったらいいと思う?」
「知るかよ、俺が。過去のを検索して適当に繋ぎ合わせればいいんじゃねぇのか?」
「それ名案! でもそんなの何処に残ってるのかなあ。ま、いいや、明日で。……ところで足で捜査する人がずっとこれじゃフラストレーション溜まってるでしょ。散歩にでも行かない? 検索したんだけど結構いいデートコース見つけちゃったんだ」

 何故にここまで余裕があるのか、付き合いが深まれば深まるほどに掴めない奴だった。だが既にハイファは制服を脱ぎ、普段着のソフトスーツにドレスシャツでノータイという姿に着替え始めている。シドにかこつけて自分が観光に行きたいらしい。

「ったく、仕方ねぇな」

 いつもの綿のシャツとコットンパンツ、対衝撃ジャケットにシドも着替えた。イヴェントストライカの出動なのでそれぞれ刑事ルックの内側に武装は忘れていない。

 リモータリンクでチェンバーズとエレアにだけ外出を告げると、両方から含み笑いの声で応答されシドは密かに赤くなった。こればかりはいつまで経っても慣れない。
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