Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第28話

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 今朝届いていたクリーニング済みのシャツ類を鞄に入れて準備は万端だった。

 制服二人組と秘書センリーこと武藤千里、それとファサルートコーポレーションのレアメタル輸入部門部長の総勢四人の視察行であった。
 本来は本社社長の視察ともなれば、もっとぞろぞろとお供がつくのだろうが、急な話でもあり都合がつかなかったらしい。

 尤もハイファとしても半分は別室任務であり、それが証拠に着続けている制服を理由として大所帯での視察にならぬようセンリーに言いつけてあったというのもある。

 セフェロ星系に向かうには、まずは本星の宙港から太陽ソル系の出入り口である土星の衛星タイタンのハブ宙港に行かなければならない。

 朝のラッシュが収まった頃、テラ標準時で午前十時の下り軌道エレベーターに乗った。これで暫くは満天のテラ本星ともお別れだ。

 テラ本星側ステーションに着くと、民間BELの駐機場エプロンには既に社のVIP専用BELが待ち受けていた。乗り込むなりテイクオフして一路宙港へと向かう。

 懐かしのセントラルエリアは一瞬で過ぎ去った。

「途中下車したかったね」

 定期BELとは格段に座り心地が違うシートでハイファがシドの耳許、それもごく近くに囁いた。その様子を見て部長さんが咳払いをする。

 ハイファは別室任務で何度も利用している宙港だがシドの記憶の中ではポリスアカデミー時代のタイタン見学以来だ。一回だけショートワープした記憶がある。

 三十分ほどで宙港が見えてきた。シドは伸び上がるようにして前方を注視する。

 広大な白いファイバの地面が見渡す限り続き、様々な大きさ・形の宙艦が一見デタラメに停泊していた。その広く白い大地を避けて今は宙港管制からの誘導波によってコントロールされたBELは大きく迂回してBEL専用のエプロンへと降り立った。

 ここでも降りると出迎えのコイルが待機していて、この遅滞のなさにはセンリーの執念を感じたシドとハイファだった。まだ社を出てから一時間と経っていない。

 コイルは宙港施設のうち、一般利用客は足を踏み入れないビルの前で停止し接地した。降りるなり待ち構えていた制服女性に待合室の小部屋に案内される。小部屋といってもVIP専用のそこは七分署のデカ部屋くらいはありそうだった。

 外から見た大質量のこのビルは二棟同じものが並び、スカイチューブで繋がれている。高さは地上六十階でセントラルのシドたちの部屋がある高層ビル群を思い起こさせた。
 窓外の光景で目立つのはこれも巨大なパラボラアンテナが二基と、昔ながらに変わらぬ形状の管制塔だ。

 あとは、当初デタラメに見えていた宙艦群がここからはボード上に並べられたチェスの駒の如く見えてくる。まるで透明な巨人がゲームをしているように時折、音もなく虚空に向けて飛び立ってゆくものあり、また緩やかに着地してくるものもある。

 AD世紀では轟かせていたジェットの音も現代では無縁だ。反重力装置やG制御装置、ワープ航法のための反物質機関によって騒音も爆発の危険もなく、ある程度のクレジットさえあれば一般人でも手軽に他星系への旅行が可能となっていた。

 飽きもせず窓外を眺めるシドの背にハイファが囁く。

「コーヒーが冷めちゃうよ」
「ん、ああ、すまん」

 自ら護衛と称している身で、うっかりしていたことに対して詫びた。

「あと三十分で我が社の専用宙艦にお乗り頂けます。その後二十分でショートワープし、二十分でタイタン第一宙港。そこではお降り頂くことなく通関をクリア、そののち四十分ごとに二回のワープを経て、本日中にはセフェロ星系第五惑星セフェロⅤに到着します」
「タイタンから二時間、ワープ二回かあ。シドは酔うたちじゃなかったよね?」
「さあな、分からん。記憶にあるのはショートワープ二回きり、その時は酔った覚えはなかったが。って、ワープって酔うモンなのか?」
「一応、宿酔止めの服用が常識とされてる。それでも酔う人は酔うらしいから」
「そういや白い薬を飲んだっけな――」

 そんな会話をしていながらもそこでは気付かなかった。
 キレ味鮮やかな超有能秘書官・武藤千里、通称センリーがワープを前に既に顔色を青くしていたことに。
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