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第34話
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制服二人に対して王族の皆が皆、薄い生地のふわふわした服を重ね着し、どれもピンクやブルーにパープルやイエローなどのパステル調の色合いで、それぞれに個性を表しているようだがシドには未だに誰が誰だか名前も覚えられない。
胸の下で締めたエキゾチックな模様の帯で何とか生まれ順だけは把握した程度だ。
そこまで自分たちに興味を示さない異星人の闖入者にも皆が大変親切で、この星に着いた晩にマクリスタル支社長が言っていた通り、王族の威光を嵩に着た風でもなく、一様に鷹揚かつ暢気な人々だった。勿論シドもそれなりに猫を被ってはいたが。
せっかく孫が初めての里帰りをしたのだから距離を縮めようと、いつもより小さいテーブルを用意したのだという。それでも本星セントラルのシドたちの部屋より確実に大きかった。
家族の食卓からなるべく一歩下がろうとするシドも皆の態度に誘われ、猫を被りつつも引き込まれてしまい、いつしかハイファと同じく孫の如く扱われている。
結局、思っていたのとは裏腹に、非常に美味しく腹いっぱいご馳走になり、今は舐めるようにこの星特産という果実酒を食後酒として頂いていた。
「それにしても初孫、男孫が彼氏を連れて帰ってくるとは驚いたのう」
不意を突かれてシドとハイファは同時に果実酒を吹きそうになる。まだ何も言ってはいないのに、この観察眼は伊達に王なんぞやっていないということなのか。
「跡継ぎができんのなら、やっぱり次の王は――」
「無理です、無理!」
「遺伝子操作なら、そなたたち二人の子供も――」
「……勘弁して下さい」
「そうか。じゃあそれも仕方なかろうの」
(おいおい、それだけで許して貰えるセフェロ王族、マジ大丈夫かよ?)
などと思いつつシドは改めてFCのハイファへの執着について考えさせられ、民間企業の恐ろしさを痛感したのであった。
堅苦しさの一片もない二時間半はあっという間に過ぎた。
別れ際は愁嘆場だった。セフェロ王と王妃は共にハイファに抱きついて泣いた。
「お前の母にも生きて会いたかった。お前だけでもまた会いに来てくれ」と。
幾度も幾度も再びの来星を乞う言葉を口にし、手を取り頬ずりをしては涙を零す。
その様子にチェンバーズの言葉をシドは思い出した。『なよやかな外見とは裏腹に、セフェロ人王族の気性は激しい』。なるほどと納得したシドも傍観者ではいられず、堅く手を握られて「ハイファスを頼む」と何度も懇願された。次も来星する際は是非一緒にとも言われた。
そうして「ハイファスが良い伴侶を得たのが、せめてもの安堵だ」とも。
果てしない別れの言葉の最後に、セフェロ王はエキゾチックな衣装の何処からか白銀の鎖のペンダントを取り出してシドに渡した。
「本来ならこれは子供の頃に親が掛けてやるものじゃ。じゃがハイファスには既にそなたがいる。一番大切な者から掛けてやってくれ」
ペンダントヘッドは銀の縁取りに濃い緑の石が嵌っている。石は遊色効果というヤツか見る角度によって虹色の光を放ち、王宮のあちこちで見たセフェロ王族の印だという剣と蔓草が彫りつけてある。その石を枠ごと開けば中に小さな物が入れられる、ロケットペンダントというシロモノだ。
中に毒が入っているかどうかの詮索はあと、シドは受け取るとハイファの首に掛けてやり、白銀の華奢な鎖の環を留めてやった。
妙に厳かな顔つきをしたハイファはそれを濃いベージュのワイシャツの中へとたくし込んだ。
とっくに広大なエントランスの車寄せにはコイルが着けられ、その前には首相と会談を終えたセンリーとマクリスタル氏が待っていた。
「王、王妃……いえ、お祖父さん、お祖母さん、それに叔父さんに叔母さん方。きっとまた来ます。今度はゆっくりできるよう、プライヴェートで」
「ハイファのことは任せておいて下さい」
「くれぐれも我が孫を頼んだぞよ、シド」
この王の言葉にはシドも最敬礼で応えた。
いよいよの別れに声もなく泣き濡れた王と王妃、もらい泣きした家族たちを前にしてもう訊けない。仕方ないので有難く下賜され、シドとハイファの二人は揃って挙手敬礼してからコイルに乗り込んだ。コイルが発進してからハイファが小さく呟いた。
「苦手だよ、ああいうのは」
「そりゃあ得意な奴はいないだろ。でもいい人たちだったな」
「まあ、そうなんだけど。何だかスパイ稼業で騙し合いばっかりの世界にいたからかな、ああいうナマの感情が苦手ってゆうか。本音を言えば僕はやっぱり怖いのかも」
「なるほどな。騙してねぇけど、だったら俺も怖いか?」
「貴方は別に。そりゃあ怒らせたら怖いけど好きな人に嫌われる怖さだよ」
これは『作っていない』と直感し、シドは安堵する。
「ならいい。だが王族の誰も彼もがお前に似てて吃驚したな。クローンみたいだぜ」
「やっぱりそんなに似てた?」
「お前は髪の色が違うが、縁がないっていうには無理があるだろうな」
「そっかあ。それはちょっと拙いかもね。どうするかなあ」
何が拙いのかシドは分からずにハイファの横顔を見つめた。
「分からない? だって明日はレアメタル、トリアナチウム鉱山の視察なんだよ?」
「知ってるさ。で、それが?」
「セフェロの王政は支持されている、でもそれはセフェロⅤでの話。セフェロⅥで鉱夫として働いている人たちに政治参画権はないんだよ。つまり――」
「ああ、搾取者代表が突然、奴隷同様な人々の前に現れるってことか」
「そう。……だよね、センリー?」
「社長にはBELで上空から視察して頂くよう計画をしております」
姿勢良くソファに腰掛けたままでセンリー。地上は危険と判断したのだろう。
「んーとね、それじゃ困るんだけど」
「何がお困りなんですか? 直接視察されてはもっと困る事態、それこそバザールでの比ではない事態が発生するのは目に見えておりますが」
「うーん……」
歯切れ悪くも粘るハイファは、セフェロⅥで何かを掴もうとしているに違いなかった。不確定性が大きなことほど隠す傾向があるため、それがいったい何なのか、どう別室任務と絡むのかは予想すらつかなかったが取り敢えずシドも援護射撃に出る。
「俺たちが武装しているのは知ってるな。ハイファ自身、自分の身は守れるし、俺が絶対に護る。誰にも指一本触れさせねぇ。現にファサルートの支社員も出張所には出入りしてるんだろ。何ならハイファはカラーコンタクトでも入れればいいんじゃねぇか?」
暫し考えて、だがセンリーは首を縦には振らなかった。
しかしセンリーは知らなかった。
メンバー中にイヴェントストライカなる二つ名を持つ男が混じっていて、それも特大級のイヴェントを前に、その謎の因子発動のパワーを溜め込んでいるなどということを。
胸の下で締めたエキゾチックな模様の帯で何とか生まれ順だけは把握した程度だ。
そこまで自分たちに興味を示さない異星人の闖入者にも皆が大変親切で、この星に着いた晩にマクリスタル支社長が言っていた通り、王族の威光を嵩に着た風でもなく、一様に鷹揚かつ暢気な人々だった。勿論シドもそれなりに猫を被ってはいたが。
せっかく孫が初めての里帰りをしたのだから距離を縮めようと、いつもより小さいテーブルを用意したのだという。それでも本星セントラルのシドたちの部屋より確実に大きかった。
家族の食卓からなるべく一歩下がろうとするシドも皆の態度に誘われ、猫を被りつつも引き込まれてしまい、いつしかハイファと同じく孫の如く扱われている。
結局、思っていたのとは裏腹に、非常に美味しく腹いっぱいご馳走になり、今は舐めるようにこの星特産という果実酒を食後酒として頂いていた。
「それにしても初孫、男孫が彼氏を連れて帰ってくるとは驚いたのう」
不意を突かれてシドとハイファは同時に果実酒を吹きそうになる。まだ何も言ってはいないのに、この観察眼は伊達に王なんぞやっていないということなのか。
「跡継ぎができんのなら、やっぱり次の王は――」
「無理です、無理!」
「遺伝子操作なら、そなたたち二人の子供も――」
「……勘弁して下さい」
「そうか。じゃあそれも仕方なかろうの」
(おいおい、それだけで許して貰えるセフェロ王族、マジ大丈夫かよ?)
などと思いつつシドは改めてFCのハイファへの執着について考えさせられ、民間企業の恐ろしさを痛感したのであった。
堅苦しさの一片もない二時間半はあっという間に過ぎた。
別れ際は愁嘆場だった。セフェロ王と王妃は共にハイファに抱きついて泣いた。
「お前の母にも生きて会いたかった。お前だけでもまた会いに来てくれ」と。
幾度も幾度も再びの来星を乞う言葉を口にし、手を取り頬ずりをしては涙を零す。
その様子にチェンバーズの言葉をシドは思い出した。『なよやかな外見とは裏腹に、セフェロ人王族の気性は激しい』。なるほどと納得したシドも傍観者ではいられず、堅く手を握られて「ハイファスを頼む」と何度も懇願された。次も来星する際は是非一緒にとも言われた。
そうして「ハイファスが良い伴侶を得たのが、せめてもの安堵だ」とも。
果てしない別れの言葉の最後に、セフェロ王はエキゾチックな衣装の何処からか白銀の鎖のペンダントを取り出してシドに渡した。
「本来ならこれは子供の頃に親が掛けてやるものじゃ。じゃがハイファスには既にそなたがいる。一番大切な者から掛けてやってくれ」
ペンダントヘッドは銀の縁取りに濃い緑の石が嵌っている。石は遊色効果というヤツか見る角度によって虹色の光を放ち、王宮のあちこちで見たセフェロ王族の印だという剣と蔓草が彫りつけてある。その石を枠ごと開けば中に小さな物が入れられる、ロケットペンダントというシロモノだ。
中に毒が入っているかどうかの詮索はあと、シドは受け取るとハイファの首に掛けてやり、白銀の華奢な鎖の環を留めてやった。
妙に厳かな顔つきをしたハイファはそれを濃いベージュのワイシャツの中へとたくし込んだ。
とっくに広大なエントランスの車寄せにはコイルが着けられ、その前には首相と会談を終えたセンリーとマクリスタル氏が待っていた。
「王、王妃……いえ、お祖父さん、お祖母さん、それに叔父さんに叔母さん方。きっとまた来ます。今度はゆっくりできるよう、プライヴェートで」
「ハイファのことは任せておいて下さい」
「くれぐれも我が孫を頼んだぞよ、シド」
この王の言葉にはシドも最敬礼で応えた。
いよいよの別れに声もなく泣き濡れた王と王妃、もらい泣きした家族たちを前にしてもう訊けない。仕方ないので有難く下賜され、シドとハイファの二人は揃って挙手敬礼してからコイルに乗り込んだ。コイルが発進してからハイファが小さく呟いた。
「苦手だよ、ああいうのは」
「そりゃあ得意な奴はいないだろ。でもいい人たちだったな」
「まあ、そうなんだけど。何だかスパイ稼業で騙し合いばっかりの世界にいたからかな、ああいうナマの感情が苦手ってゆうか。本音を言えば僕はやっぱり怖いのかも」
「なるほどな。騙してねぇけど、だったら俺も怖いか?」
「貴方は別に。そりゃあ怒らせたら怖いけど好きな人に嫌われる怖さだよ」
これは『作っていない』と直感し、シドは安堵する。
「ならいい。だが王族の誰も彼もがお前に似てて吃驚したな。クローンみたいだぜ」
「やっぱりそんなに似てた?」
「お前は髪の色が違うが、縁がないっていうには無理があるだろうな」
「そっかあ。それはちょっと拙いかもね。どうするかなあ」
何が拙いのかシドは分からずにハイファの横顔を見つめた。
「分からない? だって明日はレアメタル、トリアナチウム鉱山の視察なんだよ?」
「知ってるさ。で、それが?」
「セフェロの王政は支持されている、でもそれはセフェロⅤでの話。セフェロⅥで鉱夫として働いている人たちに政治参画権はないんだよ。つまり――」
「ああ、搾取者代表が突然、奴隷同様な人々の前に現れるってことか」
「そう。……だよね、センリー?」
「社長にはBELで上空から視察して頂くよう計画をしております」
姿勢良くソファに腰掛けたままでセンリー。地上は危険と判断したのだろう。
「んーとね、それじゃ困るんだけど」
「何がお困りなんですか? 直接視察されてはもっと困る事態、それこそバザールでの比ではない事態が発生するのは目に見えておりますが」
「うーん……」
歯切れ悪くも粘るハイファは、セフェロⅥで何かを掴もうとしているに違いなかった。不確定性が大きなことほど隠す傾向があるため、それがいったい何なのか、どう別室任務と絡むのかは予想すらつかなかったが取り敢えずシドも援護射撃に出る。
「俺たちが武装しているのは知ってるな。ハイファ自身、自分の身は守れるし、俺が絶対に護る。誰にも指一本触れさせねぇ。現にファサルートの支社員も出張所には出入りしてるんだろ。何ならハイファはカラーコンタクトでも入れればいいんじゃねぇか?」
暫し考えて、だがセンリーは首を縦には振らなかった。
しかしセンリーは知らなかった。
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