Blue Revolution[青の公転]~楽園2~

志賀雅基

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第43話

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「結局二人で切り込み隊長とはな。いけると思うか?」
「人質が、ねえ。全員人質ってるようじゃ、無傷って訳にはいかないだろうね」
「そうだな。じゃあさ、最初にセンリーを使い物にするとして俺とお前とセンリーで八・八・四ってとこか。最初の不意打ちで五・五・二くらいまで持ち込もうぜ」
「そうやって数の論理で言われるといけそうな気がしてくるから不思議だよね」

 二人がいるのは出張所の前庭の対空攻撃とハードランディングで壊れたBELの陰だった。動きの鈍い惑星内駐留テラ連邦軍をアテにするのはやめて音で気付かれぬよう既にリモータの傍受機能もオフにしてある。

「取り敢えず俺がフルオートでぶちかます。その間にセンリーを頼む」
「ラジャー」
「じゃあ、このジャケットだから俺が先な」
「いっつもシドがそうやって盾になるんだから。僕もそういうの買おうかな」
「お前には似合わねぇって。それに重いわ高いわ」
「社長のお給料より高いかな?」
「そんなシケた会社には見えねぇが……しーっ、な」

 星明かりを避けて影を選びつつ、建物の一番端にある入り口から侵入を開始した。

◇◇◇◇

 センリーは縛られた後ろ手に何かが触れるのを感じた。冷たい金属が確かに動きながら当たっている。
 そっと隣を窺うと気絶したかに思われたマルチェロ医師が片目だけ薄く開けて合図していた。左手でそっとセンリーの縛めを切ろうとしているのだ。

 そもそもどうやって自身の縛めを解いたのか。どうやら何処からか刃物を取り出したようである。それを実行するためにわざと挑発し殴られて姿勢を変え、上手くセンリーとの距離を詰めたらしかった。
 レーザーで射たれてまでそれを実行するのも結構な根性が要りそうである。射たれ処によっては命に係わるのだ。

 常に身に着けた刃物といい、考えるだに変わった医師である。

 縛めが切れたとき、ブツッと割合大きな音がしたが未だ縛られたフリをし続けた。テロリストやそれにオルグされた鉱区民たちは何も気が付いていないようだ。

 縛られて痺れた腕を回復させるためセンリーはなるべく躰から力を抜く。その手に薄い金属、おそらくメスらしきものが叩き付けられるようにしっかりと渡された。

 だからといって、たった二人でメスを振り回してどうにかなる人数ではなく、機を待つしかない。別室員と惑星警察刑事の二人を待つしかないようだ。

(社長としてでなく今の自分が誰より待ち望み期待をかけているあの、いつも飄々としている人物はいったい何者なのだろう?)

 そう、ここで初めて不思議に思う。社長として、企業のトップとしての筋は悪くない。むしろ年を経れば見事な統帥力を身につけるだろう。

 だが会社社長、経営者などという『小さな器』に収まっているよりも、望み通りの情報軍人だの刑事だのをやって生きている姿の方が余程容易に想像できるのだ。本社社長付き秘書として経営者であろうとしているところしか見たことがない筈なのに。

 今もこうして間違いなく助けに来る、そう信じさせているあの二人に、この先もずっと自分の頭上に在って欲しいという思いと同時に、いつか自由な翼を与えてやりたいとの思いがちらりとよぎり、戸惑うセンリーだった。

 だがセンリーの期待は裏切られることはない。何のシミュレーションもせず二人は極めて大雑把なプランで以て密かに近づきつつあった。

◇◇◇◇

 食堂の扉はオートドアだった。センサ反応する一歩手前でシドは半笑いで呟く。

「素人並みだな、こいつは」

 続くハイファにドアから廊下の先までを目で示して囁いた。

「廊下どころか出入り口にも立哨の一人さえ配置してねぇとはな」
「これまでもかなりマヌケてたもんね。でも数と人質の存在は大きいよ」

 そっと一歩後退するとシドは立ち上がり、ドア上部に嵌め込まれた透明樹脂から内部を覗き見る。時折会議にも使われるらしい食堂は、デカ部屋より少し狭いくらいの広さだ。

「ハイファ、お前は向こうのドアからだ。人質は全員向こうの壁際にいる」
「んで、シンパになっちゃった鉱区民はどうするの?」
「欲張ると失敗するぜ、社長サンよ。られる前に殺る。犯人側は入り乱れて区別がつかない以上は誰も残せない。おまけに素人の方が乱射にオーバーキルで厄介だ。それに潰しておきたいんだろ?」
「潰してって……何のこと?」
「ふん。鉱区民救済計画……に一見思えるテロリストの浸透。今、突然始まった訳じゃねぇ筈だ。別室は湧きかけた不穏分子、その芽を摘むためにも俺たちをここまで寄越した。まだここだけで済むうちに。そうじゃねぇのか?」

 目薬が切れて若草色の瞳を見せたハイファは静かに長い息を吐いた。

「たぶん、そういうことなんだと思う」
「おまけにここを制圧するだけじゃねぇ、オルグされた奴らの一掃が別室の狙いだ。最悪クーデターを起こした鉱区民を俺たちに皆殺しさせるのが別室の目論見だった。だからこそ悠長にこんな他星系まで俺たちが向かうよう、ある意味仕向けた……そうなんだろ? 俺を外した計画が上手く立たなくてずっと悩んでた別室員さんよ」
「……ごめん」
「ちょ、今は泣くなよ。泣くなら帰ってベッドで鳴けよっ!」
「貴方の方が声デカいよ。でも、あーあ、色々悩んでたのがバカみたいに思えてきちゃったよ、貴方といると」

 本気で脱力したハイファの落とした薄い肩に、シドは僅かながら自慢げに言い放つ。

「お前の選んだ男を舐めるなよ」
「舐めてたつもりはないんだけどね。やっぱり貴方と一緒で良かった……のかな?」
「俺に人を撃たせたくない、なんて今更思うなよ。本星セントラルエリアですらどれだけこいつをぶちかましてきたと思ってるんだ。あんな奴らをぶち抜くなんざ望むところだぜ」

 少し考えてからハイファは笑顔になって大きく頷いた。

「こんなに心強い任務は初めてだよ」
「だろ? じゃあ、まずはクーデター前にさっさと人質事件の方を片付けようぜ」
「うん。僕が配置についたら貴方とセンリーにリモータ発振するから」
「ああ、三秒後に突入するぞ」

 オートドアと同じく廊下側の壁の上半分にも透明樹脂板が嵌っているため、膝から下を埃まみれにしつつ、ハイファは次の扉まで這い進む。
 慎重にセンサを避けて片膝立ちになると愛銃のテミスコピーを抜き、ためらいなくリモータに触れた。
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