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第64話
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小さく呟くと京哉は急いで着替える。ドレスシャツとスラックスを身に着けてタイを締めるとショルダーホルスタで銃も吊った。
特殊警棒や手錠ホルダーに手帳は敢えて持たない。
ジャケットを羽織ると携帯でタクシーを呼び、ポケットに財布と煙草を入れた。御前に貰った愛用のジッポのライターではなく使い捨てを持つ。
もう一度だけ霧島に再びキスしたかったが起こすと拙いので我慢だ。
リビングに出ると小田切もしっかり眠っていた。静かに玄関で靴を履く。ドアロックしてエレベーターで一階に降りた。外にはもうタクシーが来ている。
乗り込んだタクシーのドライバーに「真王組の本家まで」と告げた。
事故渋滞に巻き込まれてしまいバイパスに乗るまでにかなりの時間を食う。行き先が行き先でドライバーは結構焦っているらしく、妙に申し訳ない気分になった。
窓に映った己の顔を眺めて、その白さに花梨の死に顔が浮かんだ。所轄署勤務の頃から刑事として色々な人間の生き様や死に様も見てきた。暗殺者スナイパーの自分が撃ち砕いた人々の凄惨な光景も忘れられない。彼らの墓標を打ち立てヒビの入った心を抱えて一生を過ごす覚悟もできている。
だが十七歳にしてシャブ漬けになった挙げ句、実の父親に監禁されて手下への褒美の如く投げ与えられ、暴行と凌辱の限りを尽くされ、逃れるために窓から落ちて命を落とすなど、筆舌に尽くしがたい淋しい生涯じゃないか。
死者は喜びも悲しみもしない、もうできない。それは分かっていた。こうして生きている自分でさえもでも『もし、今、ああすれば』という世界線は存在しないのだ、ファンタジーでもないのだから。そんな後悔はしていない。
唇にキスしてやれば、抱いてやれば、覚せい剤や酒に溺れた身が立ち直れたとも考えない。
ただ想うのは、花梨は最期にこの自分を認めてくれたのか。果たして声は届いたのだろうか。死に顔が笑顔に見えたのはこの自分が救われたかっただけではないのか。
そんなことが頭から離れずに、自分を納得させるためには出てくるしかなかったのである。答えは欲していない。答えなんか何処にもない。ただけじめをつけるのみ。
だが不思議で堪らないのは鳴海京哉という人間はそんなことにこだわる人間ではなかったという点だ。他人の生き死になんか殆どどうでも良く、自分にとって大切なのは霧島だけの筈だった。だったら何もかも自分のせいじゃないと割り切って、いつもと同じく過去にしてしまえばいいのにと思う。
けれど花梨の存在が自分が勘ぐった霧島にとっての結城友則になるのも嫌だった。
喉に刺さった小骨を抜きに行くだけだ。喩えそれが命懸けの行為でも。
花梨の『淋しくて死にそうなのよ!』という叫びが耳について離れないから。
大学が愉しみだと言った花梨の笑顔はもっと痛かった。
さっさと片付けてしまいたい。結果どうなっても構わない。もう限界だった。
自分と霧島が現職警察官という事実が立川拓真に洩れている可能性があると霧島から聞いている。ガサの日に直接見られた可能性も大いにあった。
結局タクシーが真王組本家に辿り着いたのは二十二時近かった。料金を支払って降りると石畳を歩いてオートで開いた青銅の柵状門をくぐる。花梨のガードとして顔は売れていたので、張り番の誰からも銃など向けられず敵意も感じなかった。
お蔭でスムーズに屋敷内に足を踏み入れることができた。更に二階の執務室でソファに腰掛け、立川拓真と一対一での対面も叶う。紅茶まで出されて待遇は悪くない。
紅茶の香りにまた花梨の笑顔を思い出して、やはり片付けるべきだと再確認し、相変わらず飄々とした立川組長の顔をじっと見つめた。娘を殺した父親の顔ではない。
「おや、御坂はどうかしたのかね?」
それが立川拓真の第一声だった。最初から事を荒げなくていい。素直に答える。
「すみません、一服盛って置いてきてしまいました」
「何だ、それはつまらないな。また働いて貰えると思って期待してしまったよ」
「まだ躰も完全ではありませんので。……花梨さんはご愁傷様でした」
早々に話をを振った。座したまま深く頭を下げて弔意を示す。ここからが本題だ。
「きみが看取ってくれたと聞いたのだが、本当かね?」
「ええ。三階から転落したのち、僕の腕の中で旅立たれました」
「娘は苦しんだかな?」
「いいえ。落ちてから息を引き取るまで少し時間がありましたが、意識は殆ど……」
「なるほど、そうか」
「最期に貴方からシャブ漬けにされたと吐かれなくて安心されましたか?」
急に何をといった風に立川拓真は黒い目を見開いたが、それだけである。
「まあ、取り繕っても仕方ない。あの娘を従順にさせるのは難しかったからね」
「そうでしたか。シャブ漬けにしなければ扱えないくらい娘さんとの二年は大変だった。つまり花梨さんの覚醒剤中毒は二年前から始まっていたんですね」
「どうしてそれが分かったんだね?」
「元々花梨さんが覚醒剤中毒だったと聞いて分かりました。登校拒否の十代にガードが張り付いているんです。出処は貴方しかない。手下の勝手な振る舞いを許す貴方でもありませんし、それなら立川組長、貴方しかいません。そもそも貴方は娘さんが黒深会のシャブを盗んで気付かないような人じゃないですから」
褒められたとでも思ったのか、立川拓真は口元に人懐こい笑みを浮かべて見せた。
「これまで与えていたシャブの出所は足がつく物じゃありませんよね?」
「手下ともいえないチンピラに買わせていたからね、わたしにも分からんよ」
「じゃあその手下は――」
「昨日市内でバイク事故を起こして頭を割ったらしい」
保身に周到な相手への怒りがこみ上げる。だが静かな呼吸を繰り返して自分を抑えた。自分が単に自分の気を済ませに来ただけではないのだ。
「でもどうして花梨さんをあんな目に遭わせる必要があったんですか?」
「それは勿論わたしに刃向かったからだよ。潜入捜査員に自分がシャブ中だと見破られたか吐いたか知らないが、彼らを巻き込んだ挙げ句、黒深会のシャブを摂取したなどと嘘をついてまで出頭し、わたしを警察に売ろうとした。これは許せんだろう?」
「……なるほど。なら花梨さんは黒深会のシャブを摂取していないんですか?」
「盗んで気付かない訳がないと言ったのはきみだよ」
「そうでしたね、花梨は死に損でしたか。ところでその黒深会経由のシャブは何処にあるんでしょう?」
「さて、そこまでは教えられないな」
シャブの在処は分からなかったが仕方ない。これだけ言質を取れば取り敢えず用は済んだといえた。けれど辞去を切り出すのも難しいと思った途端に機先を制される。
「御坂の代わりに暫くここに滞在しないかね? きみはきみでなかなかに面白い」
「いえ。お誘いは有難いですが、それこそ御坂が待っているので帰ります」
「そう言わずに。きみがいれば、きっと御坂はここにやってくるだろう」
畳み掛けるように言って立川はまたも人懐こい微笑みを浮かべた。そして立川はポケットから携帯を出すと短く通話して切る。
手筈は整えられていたのだろう、すぐに執務室の観音扉が開けられて手下が六人も入室してきた。押し入ってきただけでなく、手下たちは下卑た嗤いを浮かべて、京哉に銃口を向けている。
反射的に京哉もシグを抜いて立川組長の頭部に向けていたが、この状態での抵抗は自殺と変わらない。暫し睨み合ったが溜息をつくしかなかった。大人しくシグを収める。
すると立川拓真は何処からか一振りの短刀らしきものを出して男の一人に手渡した。刃渡りの短い白鞘の匕首というシロモノだ。
それで刺殺されるかと京哉は急激に緊張した。だが男はそれをベルトの後ろに差し込む。ホッとしたのも束の間、立川拓真が手を一振りし、手下たちが一斉に京哉に襲いかかった。
ジャケットを引き剥がされショルダーホルスタごと銃を奪い取られる。更には髪を、薄い肩を掴まれて絨毯に引き倒された。
そうして破らんばかりの勢いでドレスシャツの前まで開けられる。
「やめ、何を……いや、あ……ああっ!」
下着ごとスラックスまで引き下ろされ、前をはだけたドレスシャツ一枚にされるまであっという間だ。絨毯に押さえ付けられた京哉の傍に立川が諭すように説く。
「きみはいったい何をしにきたんだね? 暢気に小娘のガードなんぞしていて忘れたのかも知れないが、ここは指定暴力団、ヤクザなんだよ? 恐怖を売って恨みを買うのが我々の仕事だ。喩え法の番人相手でもわたしたちのやり方は変わらない」
「現職警察官への暴行で挙げられてもいいんですか?」
「サツカンの暴行なんて面倒を、わたしがするとでも思っているのかね?」
「命令したのは貴方だ。教唆犯も正犯に準じて処罰される。ご存じでしょう?」
事実を突き付けて迫るも立川は頷きながら聞き流すのみだ。
「抜け道は幾らでもある。だがまあ霧島カンパニー会長お気に入りのきみを殺すと、あとが怖いからね。しかしわたしに刃向かった罰だけは受けて貰わねばならん」
人懐こい猫のような表情は一切変えず、優しげな口調で宣言した立川組長は手下たちに押さえ付けられ這わされた京哉の前に立つ。
そのスラックスの裾に京哉は唾を吐きかけた。躰が軋むのも他人事の如く無視して強引に顔を上げ、立川を睨みつける。
「あんたなんかにヤラれても、僕は何も傷つきません」
「ふむ。意外に堕とし甲斐もありそうだが、わたしはきみの躰など欲しくはないよ」
「手下だって同じ、本当に僕を傷つけられるのは、この世で唯一人だけです」
「この状況でそこまで言うのは感心しないな。もう少し冷静な判断力を身に着けた方がいい。とにかく絨毯を汚されるのはごめんだ、温室にでもつれて行け」
特殊警棒や手錠ホルダーに手帳は敢えて持たない。
ジャケットを羽織ると携帯でタクシーを呼び、ポケットに財布と煙草を入れた。御前に貰った愛用のジッポのライターではなく使い捨てを持つ。
もう一度だけ霧島に再びキスしたかったが起こすと拙いので我慢だ。
リビングに出ると小田切もしっかり眠っていた。静かに玄関で靴を履く。ドアロックしてエレベーターで一階に降りた。外にはもうタクシーが来ている。
乗り込んだタクシーのドライバーに「真王組の本家まで」と告げた。
事故渋滞に巻き込まれてしまいバイパスに乗るまでにかなりの時間を食う。行き先が行き先でドライバーは結構焦っているらしく、妙に申し訳ない気分になった。
窓に映った己の顔を眺めて、その白さに花梨の死に顔が浮かんだ。所轄署勤務の頃から刑事として色々な人間の生き様や死に様も見てきた。暗殺者スナイパーの自分が撃ち砕いた人々の凄惨な光景も忘れられない。彼らの墓標を打ち立てヒビの入った心を抱えて一生を過ごす覚悟もできている。
だが十七歳にしてシャブ漬けになった挙げ句、実の父親に監禁されて手下への褒美の如く投げ与えられ、暴行と凌辱の限りを尽くされ、逃れるために窓から落ちて命を落とすなど、筆舌に尽くしがたい淋しい生涯じゃないか。
死者は喜びも悲しみもしない、もうできない。それは分かっていた。こうして生きている自分でさえもでも『もし、今、ああすれば』という世界線は存在しないのだ、ファンタジーでもないのだから。そんな後悔はしていない。
唇にキスしてやれば、抱いてやれば、覚せい剤や酒に溺れた身が立ち直れたとも考えない。
ただ想うのは、花梨は最期にこの自分を認めてくれたのか。果たして声は届いたのだろうか。死に顔が笑顔に見えたのはこの自分が救われたかっただけではないのか。
そんなことが頭から離れずに、自分を納得させるためには出てくるしかなかったのである。答えは欲していない。答えなんか何処にもない。ただけじめをつけるのみ。
だが不思議で堪らないのは鳴海京哉という人間はそんなことにこだわる人間ではなかったという点だ。他人の生き死になんか殆どどうでも良く、自分にとって大切なのは霧島だけの筈だった。だったら何もかも自分のせいじゃないと割り切って、いつもと同じく過去にしてしまえばいいのにと思う。
けれど花梨の存在が自分が勘ぐった霧島にとっての結城友則になるのも嫌だった。
喉に刺さった小骨を抜きに行くだけだ。喩えそれが命懸けの行為でも。
花梨の『淋しくて死にそうなのよ!』という叫びが耳について離れないから。
大学が愉しみだと言った花梨の笑顔はもっと痛かった。
さっさと片付けてしまいたい。結果どうなっても構わない。もう限界だった。
自分と霧島が現職警察官という事実が立川拓真に洩れている可能性があると霧島から聞いている。ガサの日に直接見られた可能性も大いにあった。
結局タクシーが真王組本家に辿り着いたのは二十二時近かった。料金を支払って降りると石畳を歩いてオートで開いた青銅の柵状門をくぐる。花梨のガードとして顔は売れていたので、張り番の誰からも銃など向けられず敵意も感じなかった。
お蔭でスムーズに屋敷内に足を踏み入れることができた。更に二階の執務室でソファに腰掛け、立川拓真と一対一での対面も叶う。紅茶まで出されて待遇は悪くない。
紅茶の香りにまた花梨の笑顔を思い出して、やはり片付けるべきだと再確認し、相変わらず飄々とした立川組長の顔をじっと見つめた。娘を殺した父親の顔ではない。
「おや、御坂はどうかしたのかね?」
それが立川拓真の第一声だった。最初から事を荒げなくていい。素直に答える。
「すみません、一服盛って置いてきてしまいました」
「何だ、それはつまらないな。また働いて貰えると思って期待してしまったよ」
「まだ躰も完全ではありませんので。……花梨さんはご愁傷様でした」
早々に話をを振った。座したまま深く頭を下げて弔意を示す。ここからが本題だ。
「きみが看取ってくれたと聞いたのだが、本当かね?」
「ええ。三階から転落したのち、僕の腕の中で旅立たれました」
「娘は苦しんだかな?」
「いいえ。落ちてから息を引き取るまで少し時間がありましたが、意識は殆ど……」
「なるほど、そうか」
「最期に貴方からシャブ漬けにされたと吐かれなくて安心されましたか?」
急に何をといった風に立川拓真は黒い目を見開いたが、それだけである。
「まあ、取り繕っても仕方ない。あの娘を従順にさせるのは難しかったからね」
「そうでしたか。シャブ漬けにしなければ扱えないくらい娘さんとの二年は大変だった。つまり花梨さんの覚醒剤中毒は二年前から始まっていたんですね」
「どうしてそれが分かったんだね?」
「元々花梨さんが覚醒剤中毒だったと聞いて分かりました。登校拒否の十代にガードが張り付いているんです。出処は貴方しかない。手下の勝手な振る舞いを許す貴方でもありませんし、それなら立川組長、貴方しかいません。そもそも貴方は娘さんが黒深会のシャブを盗んで気付かないような人じゃないですから」
褒められたとでも思ったのか、立川拓真は口元に人懐こい笑みを浮かべて見せた。
「これまで与えていたシャブの出所は足がつく物じゃありませんよね?」
「手下ともいえないチンピラに買わせていたからね、わたしにも分からんよ」
「じゃあその手下は――」
「昨日市内でバイク事故を起こして頭を割ったらしい」
保身に周到な相手への怒りがこみ上げる。だが静かな呼吸を繰り返して自分を抑えた。自分が単に自分の気を済ませに来ただけではないのだ。
「でもどうして花梨さんをあんな目に遭わせる必要があったんですか?」
「それは勿論わたしに刃向かったからだよ。潜入捜査員に自分がシャブ中だと見破られたか吐いたか知らないが、彼らを巻き込んだ挙げ句、黒深会のシャブを摂取したなどと嘘をついてまで出頭し、わたしを警察に売ろうとした。これは許せんだろう?」
「……なるほど。なら花梨さんは黒深会のシャブを摂取していないんですか?」
「盗んで気付かない訳がないと言ったのはきみだよ」
「そうでしたね、花梨は死に損でしたか。ところでその黒深会経由のシャブは何処にあるんでしょう?」
「さて、そこまでは教えられないな」
シャブの在処は分からなかったが仕方ない。これだけ言質を取れば取り敢えず用は済んだといえた。けれど辞去を切り出すのも難しいと思った途端に機先を制される。
「御坂の代わりに暫くここに滞在しないかね? きみはきみでなかなかに面白い」
「いえ。お誘いは有難いですが、それこそ御坂が待っているので帰ります」
「そう言わずに。きみがいれば、きっと御坂はここにやってくるだろう」
畳み掛けるように言って立川はまたも人懐こい微笑みを浮かべた。そして立川はポケットから携帯を出すと短く通話して切る。
手筈は整えられていたのだろう、すぐに執務室の観音扉が開けられて手下が六人も入室してきた。押し入ってきただけでなく、手下たちは下卑た嗤いを浮かべて、京哉に銃口を向けている。
反射的に京哉もシグを抜いて立川組長の頭部に向けていたが、この状態での抵抗は自殺と変わらない。暫し睨み合ったが溜息をつくしかなかった。大人しくシグを収める。
すると立川拓真は何処からか一振りの短刀らしきものを出して男の一人に手渡した。刃渡りの短い白鞘の匕首というシロモノだ。
それで刺殺されるかと京哉は急激に緊張した。だが男はそれをベルトの後ろに差し込む。ホッとしたのも束の間、立川拓真が手を一振りし、手下たちが一斉に京哉に襲いかかった。
ジャケットを引き剥がされショルダーホルスタごと銃を奪い取られる。更には髪を、薄い肩を掴まれて絨毯に引き倒された。
そうして破らんばかりの勢いでドレスシャツの前まで開けられる。
「やめ、何を……いや、あ……ああっ!」
下着ごとスラックスまで引き下ろされ、前をはだけたドレスシャツ一枚にされるまであっという間だ。絨毯に押さえ付けられた京哉の傍に立川が諭すように説く。
「きみはいったい何をしにきたんだね? 暢気に小娘のガードなんぞしていて忘れたのかも知れないが、ここは指定暴力団、ヤクザなんだよ? 恐怖を売って恨みを買うのが我々の仕事だ。喩え法の番人相手でもわたしたちのやり方は変わらない」
「現職警察官への暴行で挙げられてもいいんですか?」
「サツカンの暴行なんて面倒を、わたしがするとでも思っているのかね?」
「命令したのは貴方だ。教唆犯も正犯に準じて処罰される。ご存じでしょう?」
事実を突き付けて迫るも立川は頷きながら聞き流すのみだ。
「抜け道は幾らでもある。だがまあ霧島カンパニー会長お気に入りのきみを殺すと、あとが怖いからね。しかしわたしに刃向かった罰だけは受けて貰わねばならん」
人懐こい猫のような表情は一切変えず、優しげな口調で宣言した立川組長は手下たちに押さえ付けられ這わされた京哉の前に立つ。
そのスラックスの裾に京哉は唾を吐きかけた。躰が軋むのも他人事の如く無視して強引に顔を上げ、立川を睨みつける。
「あんたなんかにヤラれても、僕は何も傷つきません」
「ふむ。意外に堕とし甲斐もありそうだが、わたしはきみの躰など欲しくはないよ」
「手下だって同じ、本当に僕を傷つけられるのは、この世で唯一人だけです」
「この状況でそこまで言うのは感心しないな。もう少し冷静な判断力を身に着けた方がいい。とにかく絨毯を汚されるのはごめんだ、温室にでもつれて行け」
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