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第37話
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「ん……忍さん?」
「ああ、京哉、おはよう。気分はどうだ?」
「おはようございます。大丈夫みたい。心配をお掛けしてすみません」
横になったまま頭を下げる仕草をする京哉の黒髪を霧島はクシャリと掴んだ。
「何を言う。心配はしたがお前が謝ることは何もない。話していて大丈夫か?」
「ええ。っていうより何がどうなったのか知りたくて堪りませんよ」
「そうか。黙っていて悪かったが監視役の赤井と石川は麻取の潜入捜査官でな」
「えっ、もしかしてアガサの別荘にいる間に忍さんは気付いてたんですか?」
「まあな。それで私はあのクスリを赤井たちに預けたんだ」
証拠物件が手に入った厚生局は色めき立った。そこで偶然霧島と京哉が囮を演じることになり、船倉に潜んだ霧島の連絡を受けた海保と厚生局の大捕物となったのだ。
「結果として海棠組は富樫組長以下幹部八名をパクられた。クスリと高級バイクの密輸に関与したとして城山も引っ張られた。城山は別件逮捕だが海棠組との黒い癒着と現職警察官拉致監禁容疑で組対が確実に有罪に持って行く構えだ」
「でもそれじゃあ僕がスナイパーだったのもバレるかも知れませんよね?」
「その辺りはサッチョウの上がバーターに持ち込む。城山も命は惜しいだろうしな」
「なら、あとの懸案は明後日の沙織と麻生重工との会合だけですね」
上体を起こして朗らかに言った京哉に霧島は唖然とした。
「金魚を真正面から見たような顔をしないで下さい、色男が台無しですよ」
「一応突っ込み役として訊く。お前がジョークを言わないというのは本当なのか?」
「突っ込み役……何だか忍さんが言うとエロい感じがしますね」
「エロくて悪かったな。それよりお前は入院中の身だぞ?」
「腕にギプスを巻いたら退院オッケーだって聞きましたけど?」
と、京哉は寝ている間にしっかりギプスを巻かれた右腕を振る。
霧島は嘆息した。
「だめだ。保護者として私が許さん。明後日まで入院だ」
「許さなくても僕は沙織のガードに就きます。僕にチャンスをくれるんでしょう?」
「お前はそのチャンスが却って鬱陶しいのだろう。違うのか?」
「忍さんがくれるなら貰うと決めたんです。僕は忍さんがくれる全てが欲しいから」
「欲張りなのは結構だが、お前は撃てない筈だぞ」
最重要事項を指摘したつもりの霧島だったが、京哉は涼しく同意し付け加えた。
「確かにピストル射撃は無理っぽいですね。そこは忍さんに期待してますよ」
「期待されてしまったか。しかし海棠組は組長を挙げられて殆ど分裂状態の混乱中、実際の敵は松永工業の残党くらいだ。そういう意味でもチャンスかも知れんな」
「ですよね。じゃあそういうことで僕は退院しますから」
京哉は霧島の手を借りてベッドを降り、クリーニングされた普段着に着替えた。戻ってきていた銃入りヒップホルスタその他付き帯革を霧島に巻いて貰う。右腕はアームホルダーで首から吊った。
退院準備が完了し保護者たる霧島とナースステーションで挨拶を終えると会計では県警に請求書を回すよう頼んで駐車場の黒塗りに乗る。
そこで京哉は思い出して携帯の電源を入れた。すると大量のメールが届いていた。
「うわ、何これ。あー、全部沙織からですね。もしかして忍さんにもメールが来ていたんじゃないですか?」
「確かに来ていたが読まなくてはならん義理などない」
「またそんな。とにかく家に寄ってくれって話です」
「今、午前二時だぞ?」
「でも最終メールが一時間前ですし、一応寄ってみて貰っていいですか?」
仕方なく霧島は黒塗りを迂回させる。郊外の屋敷に辿り着き車寄せに滑り込むなり玄関ドアが開いて茶系のパンツスーツ姿の沙織がボストンバッグを手に出てきた。
立たせておくのも何なので京哉が後部座席を示す。沙織はドアを開けて乗った。
「夜遅くにごめんなさい。パソコンメールに脅迫状が混じってて怖くなったのよ」
「脅迫とは具体的にはどんなだ?」
「麻生重工に与したら殺すぞって……お約束だって分かってても怖くて」
「だからってその荷物は何だ、まさか私たちのマンションに乗り込んでくる気か?」
「だめかしら? 今晩と明日の晩だけでいいからお願い!」
「そのままホテルに泊まったらどうだ、どうぜ会合はウィンザーだろう?」
言いつつ霧島はウィンザーホテルに送るべく黒塗りを発車させ駅方面に向かっていた。だが沙織はルームミラーの中で細い顎を反らして言い放つ。
「あんなお高い所に泊まれないわよ。マンションが嫌なら何処か紹介して頂戴」
「不足分は出す。だからウィンザーに泊まってくれ」
「誰が貴方たちなんかに恵んで貰うものですか!」
「京哉、何とかしてくれ~」
「僕に言わないで下さい~」
巨大な溜息をつきながらも霧島は白藤市駅の駅前まで黒塗りを走らせていた。ウィンザーは駅前の一等地に建つ、県下でも一、二を争う格の高いホテルだ。普通は入るだけでもドレスコードが課される。それを目前にしてまたも沙織が食いついた。
「ウィンザーには泊まらないって言ってるでしょ!」
「そう、とんがるのはやめてくれ。今から安いホテルを物色するところだ。それでも嫌なら車を降りて好みのベンチを探して貰っても構わないんだぞ」
非常に険悪な雰囲気に身を浸しながら三人は手頃なホテルを探し続けた。しかしランクを落とすとなると盛り場のド真ん中だったり、ずっと駅から離れていて治安が悪かったりで、訳アリでなくとも未成年の女性には勧められない。
「それで何処にするんですか?」
「ベンソンかモンド辺りと思ったんだが、あそこは近くに海棠組の事務所がある」
「ウィンザーに泊まって貰えなければ、僕らもモンドに宿泊するとか」
そこまでしなければならない理由など何処にもないのだが、溢れんばかりの沙織のバイタリティに当てられたかのように二人は諦めの境地に達しつつあった。
京哉は霧島の眉間に刻まれた深いシワを見つめながら控えめに口にする。
「やっぱりマンションにつれて行くしかないんじゃないですかね?」
真城市内のマンションに到着するまで誰も何も喋らなかった。月極駐車場に黒塗りを駐めると人質事件のあったコンビニ・サンチェーンで買い物をしてからマンション五階の五〇一号室に辿り着く。
霧島は予備の毛布をリビングの二人掛けソファに放り出し、電気ポットで湯を沸かしてカップ三つにティーバッグの玄米茶を淹れた。
キッチンで三人はずるずると茶を飲み、買ってきた夜食の海苔弁当を温めてモソモソと食った。食い終わると京哉は煙草を吸ったが、大学時代に禁煙した筈の霧島まで自分の煙草を盗んで吸い出したのを見てこれは危ないと思い、久々に声を発した。
「僕、久しぶりのお風呂に入ってきますから」
独りで逃げる卑怯者だった。それでも霧島はギプスが濡れないようビニールを巻きテープで止めてくれる。深夜なので静かにシャワーを浴びて上がり、女性の目を意識してパジャマを避け普段着を身に着けた。
霧島と交代してキッチンに暫くいたが、沙織は京哉など存在しないかの如く無視している。仕方なく煙草とオイルライターを手に寝室に引っ込んだ。
パジャマに着替えてベッドに上がると、もう眠気が押し寄せてくる。
霧島の気配がするまでじっと我慢してから意識を夢に溶かした。だが十五分も経たないうちに霧島に抱き締められ、次にはせっせとパジャマのボタンを外されて眠りから浮上した。
「はあ~っ。夫が元気すぎるのも考え物ですよね」
物悲しく響いた京哉の声が甘く変わり、そしてまた寝息が聞こえるまで結構な時間が費やされた。
お蔭で翌朝寝坊した二人は激しく後悔することになる。
「ああ、京哉、おはよう。気分はどうだ?」
「おはようございます。大丈夫みたい。心配をお掛けしてすみません」
横になったまま頭を下げる仕草をする京哉の黒髪を霧島はクシャリと掴んだ。
「何を言う。心配はしたがお前が謝ることは何もない。話していて大丈夫か?」
「ええ。っていうより何がどうなったのか知りたくて堪りませんよ」
「そうか。黙っていて悪かったが監視役の赤井と石川は麻取の潜入捜査官でな」
「えっ、もしかしてアガサの別荘にいる間に忍さんは気付いてたんですか?」
「まあな。それで私はあのクスリを赤井たちに預けたんだ」
証拠物件が手に入った厚生局は色めき立った。そこで偶然霧島と京哉が囮を演じることになり、船倉に潜んだ霧島の連絡を受けた海保と厚生局の大捕物となったのだ。
「結果として海棠組は富樫組長以下幹部八名をパクられた。クスリと高級バイクの密輸に関与したとして城山も引っ張られた。城山は別件逮捕だが海棠組との黒い癒着と現職警察官拉致監禁容疑で組対が確実に有罪に持って行く構えだ」
「でもそれじゃあ僕がスナイパーだったのもバレるかも知れませんよね?」
「その辺りはサッチョウの上がバーターに持ち込む。城山も命は惜しいだろうしな」
「なら、あとの懸案は明後日の沙織と麻生重工との会合だけですね」
上体を起こして朗らかに言った京哉に霧島は唖然とした。
「金魚を真正面から見たような顔をしないで下さい、色男が台無しですよ」
「一応突っ込み役として訊く。お前がジョークを言わないというのは本当なのか?」
「突っ込み役……何だか忍さんが言うとエロい感じがしますね」
「エロくて悪かったな。それよりお前は入院中の身だぞ?」
「腕にギプスを巻いたら退院オッケーだって聞きましたけど?」
と、京哉は寝ている間にしっかりギプスを巻かれた右腕を振る。
霧島は嘆息した。
「だめだ。保護者として私が許さん。明後日まで入院だ」
「許さなくても僕は沙織のガードに就きます。僕にチャンスをくれるんでしょう?」
「お前はそのチャンスが却って鬱陶しいのだろう。違うのか?」
「忍さんがくれるなら貰うと決めたんです。僕は忍さんがくれる全てが欲しいから」
「欲張りなのは結構だが、お前は撃てない筈だぞ」
最重要事項を指摘したつもりの霧島だったが、京哉は涼しく同意し付け加えた。
「確かにピストル射撃は無理っぽいですね。そこは忍さんに期待してますよ」
「期待されてしまったか。しかし海棠組は組長を挙げられて殆ど分裂状態の混乱中、実際の敵は松永工業の残党くらいだ。そういう意味でもチャンスかも知れんな」
「ですよね。じゃあそういうことで僕は退院しますから」
京哉は霧島の手を借りてベッドを降り、クリーニングされた普段着に着替えた。戻ってきていた銃入りヒップホルスタその他付き帯革を霧島に巻いて貰う。右腕はアームホルダーで首から吊った。
退院準備が完了し保護者たる霧島とナースステーションで挨拶を終えると会計では県警に請求書を回すよう頼んで駐車場の黒塗りに乗る。
そこで京哉は思い出して携帯の電源を入れた。すると大量のメールが届いていた。
「うわ、何これ。あー、全部沙織からですね。もしかして忍さんにもメールが来ていたんじゃないですか?」
「確かに来ていたが読まなくてはならん義理などない」
「またそんな。とにかく家に寄ってくれって話です」
「今、午前二時だぞ?」
「でも最終メールが一時間前ですし、一応寄ってみて貰っていいですか?」
仕方なく霧島は黒塗りを迂回させる。郊外の屋敷に辿り着き車寄せに滑り込むなり玄関ドアが開いて茶系のパンツスーツ姿の沙織がボストンバッグを手に出てきた。
立たせておくのも何なので京哉が後部座席を示す。沙織はドアを開けて乗った。
「夜遅くにごめんなさい。パソコンメールに脅迫状が混じってて怖くなったのよ」
「脅迫とは具体的にはどんなだ?」
「麻生重工に与したら殺すぞって……お約束だって分かってても怖くて」
「だからってその荷物は何だ、まさか私たちのマンションに乗り込んでくる気か?」
「だめかしら? 今晩と明日の晩だけでいいからお願い!」
「そのままホテルに泊まったらどうだ、どうぜ会合はウィンザーだろう?」
言いつつ霧島はウィンザーホテルに送るべく黒塗りを発車させ駅方面に向かっていた。だが沙織はルームミラーの中で細い顎を反らして言い放つ。
「あんなお高い所に泊まれないわよ。マンションが嫌なら何処か紹介して頂戴」
「不足分は出す。だからウィンザーに泊まってくれ」
「誰が貴方たちなんかに恵んで貰うものですか!」
「京哉、何とかしてくれ~」
「僕に言わないで下さい~」
巨大な溜息をつきながらも霧島は白藤市駅の駅前まで黒塗りを走らせていた。ウィンザーは駅前の一等地に建つ、県下でも一、二を争う格の高いホテルだ。普通は入るだけでもドレスコードが課される。それを目前にしてまたも沙織が食いついた。
「ウィンザーには泊まらないって言ってるでしょ!」
「そう、とんがるのはやめてくれ。今から安いホテルを物色するところだ。それでも嫌なら車を降りて好みのベンチを探して貰っても構わないんだぞ」
非常に険悪な雰囲気に身を浸しながら三人は手頃なホテルを探し続けた。しかしランクを落とすとなると盛り場のド真ん中だったり、ずっと駅から離れていて治安が悪かったりで、訳アリでなくとも未成年の女性には勧められない。
「それで何処にするんですか?」
「ベンソンかモンド辺りと思ったんだが、あそこは近くに海棠組の事務所がある」
「ウィンザーに泊まって貰えなければ、僕らもモンドに宿泊するとか」
そこまでしなければならない理由など何処にもないのだが、溢れんばかりの沙織のバイタリティに当てられたかのように二人は諦めの境地に達しつつあった。
京哉は霧島の眉間に刻まれた深いシワを見つめながら控えめに口にする。
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真城市内のマンションに到着するまで誰も何も喋らなかった。月極駐車場に黒塗りを駐めると人質事件のあったコンビニ・サンチェーンで買い物をしてからマンション五階の五〇一号室に辿り着く。
霧島は予備の毛布をリビングの二人掛けソファに放り出し、電気ポットで湯を沸かしてカップ三つにティーバッグの玄米茶を淹れた。
キッチンで三人はずるずると茶を飲み、買ってきた夜食の海苔弁当を温めてモソモソと食った。食い終わると京哉は煙草を吸ったが、大学時代に禁煙した筈の霧島まで自分の煙草を盗んで吸い出したのを見てこれは危ないと思い、久々に声を発した。
「僕、久しぶりのお風呂に入ってきますから」
独りで逃げる卑怯者だった。それでも霧島はギプスが濡れないようビニールを巻きテープで止めてくれる。深夜なので静かにシャワーを浴びて上がり、女性の目を意識してパジャマを避け普段着を身に着けた。
霧島と交代してキッチンに暫くいたが、沙織は京哉など存在しないかの如く無視している。仕方なく煙草とオイルライターを手に寝室に引っ込んだ。
パジャマに着替えてベッドに上がると、もう眠気が押し寄せてくる。
霧島の気配がするまでじっと我慢してから意識を夢に溶かした。だが十五分も経たないうちに霧島に抱き締められ、次にはせっせとパジャマのボタンを外されて眠りから浮上した。
「はあ~っ。夫が元気すぎるのも考え物ですよね」
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