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第52話(最終話)
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それから二日間の霧島の有休が終わると同時に二人はマンションに戻り、翌日から出勤すると決めた。
隊長とその秘書は本来内勤なので京哉は片手の作業に慣れるだけだ。
器用な京哉は幾らも経たず片手で茶を淹れる技を身に着け、職務に支障もなくなった。デスクワーク嫌いの隊長殿の書類代書もいつも通りこなせるようになる。
「隊長、明日は通院なので半休を頂きます」
「そうか、では私も半休だ。私はお前の保護者でもあるからな」
などという会話にも皆が笑って頷いてくれる。
翌日の通院ではギプスを外してレントゲンを撮ったが経過は良好で、再びギプスを巻き直し釈放となった。そこで約束の沙織の見舞いに行こうと外科病棟に向かう。
散歩気分で病院の整備された敷地内を移動していたが、外科病棟の入り口で思わず二人は足を止めた。京哉が喋ろうとすると霧島は「しっ!」と指を口に当て、前方を黙って指差す。京哉も分かっている、見覚えのあるスーツの男が歩いていたのだ。
「あとをつけるぞ」
「はい、隊長」
密かに尾行し始めたがその男も迷いなく外科病棟五階に上がって通路を進む。そして男は西原沙織の病室をノックし、するりと入って行った。十秒ほど経ってから京哉と霧島もノックして返事を待ちドアを開ける。
踏み込むなり霧島が大喝した。
「栗田巡査部長、職務中に何をしている!」
「あっ、えっ、まさか隊長!?」
そう。沙織に薔薇とかすみ草の花束を差し出しながら愉しげに談笑していたのは、まさかの栗田巡査部長だったのだ。
だがそこでベッドの沙織が援護射撃に出る。
「違うの、わたしがこの時間に来てってお願いしたのよ。一番淋しい時間だから」
「いえ、自分が悪いんです。職務中に見舞いなど自分が間違っておりました!」
「そんなことないわ、わたしが毎日来て欲しいなんて甘えてるのが悪いのよ」
「違います。自分は昼だけでなく夕方にも……隊長、申し訳ありません!」
「栗田さん、わざわざ自白で上塗りしないで。ここはわたしが誤魔化すから」
「そう簡単に誤魔化せるほど我が隊長はチョロく……チョロいでありますか?」
馬鹿馬鹿しくなっていた霧島は栗田の頭を一発張り飛ばしてから訊いた。
「つまり、きみらは付き合っているのか?」
「自分は……自分は、沙織に結婚を申し込みたく思っております!」
うわ、いきなり言っちゃったよと京哉は少々引いたが、段取りをすっ飛ばされた割に意外にも沙織は頬を染めている。そんな沙織を眺めた霧島は部下の肩を叩いた。
「では見届け人になってやる。もう一度それを沙織に言って、しっかり返事を貰え」
◇◇◇◇
白いセダンの窓から蒼穹を仰いで京哉は伸びをする。
「僕らが花嫁の付き添いまで引き受けるなんて、思いも寄らなかったですね」
「沙織には両親もいないからな。その分、私たち二人で盛り立ててやろう」
「そうですね。あっ、御前に知らせたらどうでしょうか、お祭り好きだし」
「とんでもない騒ぎになるから止めておけ。知らせずとも嗅ぎつけそうだがな」
「ですよね。それにしてもあの二人、賑やかな夫婦になりそうじゃないですか?」
「それにリハビリ次第で歩けるようにもなるというのも幸いだったな」
微笑み頷く京哉はここでも心の中の墓標を意識していた。その中のひとつが孫を見守っているのかも知れないと思い、この自分にも『何かを生み出す始まりの時』に居合わせることを許された喜びに涙が浮かんだ。
すると急に霧島が車を路肩に停める。
黙って京哉の涙を舐め取ると、何事もなかったかのように車を発車させた。
午後からも機捜の職務が待っていた。
了
隊長とその秘書は本来内勤なので京哉は片手の作業に慣れるだけだ。
器用な京哉は幾らも経たず片手で茶を淹れる技を身に着け、職務に支障もなくなった。デスクワーク嫌いの隊長殿の書類代書もいつも通りこなせるようになる。
「隊長、明日は通院なので半休を頂きます」
「そうか、では私も半休だ。私はお前の保護者でもあるからな」
などという会話にも皆が笑って頷いてくれる。
翌日の通院ではギプスを外してレントゲンを撮ったが経過は良好で、再びギプスを巻き直し釈放となった。そこで約束の沙織の見舞いに行こうと外科病棟に向かう。
散歩気分で病院の整備された敷地内を移動していたが、外科病棟の入り口で思わず二人は足を止めた。京哉が喋ろうとすると霧島は「しっ!」と指を口に当て、前方を黙って指差す。京哉も分かっている、見覚えのあるスーツの男が歩いていたのだ。
「あとをつけるぞ」
「はい、隊長」
密かに尾行し始めたがその男も迷いなく外科病棟五階に上がって通路を進む。そして男は西原沙織の病室をノックし、するりと入って行った。十秒ほど経ってから京哉と霧島もノックして返事を待ちドアを開ける。
踏み込むなり霧島が大喝した。
「栗田巡査部長、職務中に何をしている!」
「あっ、えっ、まさか隊長!?」
そう。沙織に薔薇とかすみ草の花束を差し出しながら愉しげに談笑していたのは、まさかの栗田巡査部長だったのだ。
だがそこでベッドの沙織が援護射撃に出る。
「違うの、わたしがこの時間に来てってお願いしたのよ。一番淋しい時間だから」
「いえ、自分が悪いんです。職務中に見舞いなど自分が間違っておりました!」
「そんなことないわ、わたしが毎日来て欲しいなんて甘えてるのが悪いのよ」
「違います。自分は昼だけでなく夕方にも……隊長、申し訳ありません!」
「栗田さん、わざわざ自白で上塗りしないで。ここはわたしが誤魔化すから」
「そう簡単に誤魔化せるほど我が隊長はチョロく……チョロいでありますか?」
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「自分は……自分は、沙織に結婚を申し込みたく思っております!」
うわ、いきなり言っちゃったよと京哉は少々引いたが、段取りをすっ飛ばされた割に意外にも沙織は頬を染めている。そんな沙織を眺めた霧島は部下の肩を叩いた。
「では見届け人になってやる。もう一度それを沙織に言って、しっかり返事を貰え」
◇◇◇◇
白いセダンの窓から蒼穹を仰いで京哉は伸びをする。
「僕らが花嫁の付き添いまで引き受けるなんて、思いも寄らなかったですね」
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「そうですね。あっ、御前に知らせたらどうでしょうか、お祭り好きだし」
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「ですよね。それにしてもあの二人、賑やかな夫婦になりそうじゃないですか?」
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微笑み頷く京哉はここでも心の中の墓標を意識していた。その中のひとつが孫を見守っているのかも知れないと思い、この自分にも『何かを生み出す始まりの時』に居合わせることを許された喜びに涙が浮かんだ。
すると急に霧島が車を路肩に停める。
黙って京哉の涙を舐め取ると、何事もなかったかのように車を発車させた。
午後からも機捜の職務が待っていた。
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