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第41話(最終話)
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捜一の三係長にある程度の説明を任せ、更に一ノ瀬本部長からも根回しはして貰ったにも関わらず、皆が納得の行くストーリーを組み立て帳場で説明するのは難事業だった。
おまけに死体の出た各所での実況見分を済ませると、夜が明けるどころか翌日の昼を過ぎた。
だが事が終わると速やかにSP任務は解かれ、同時に重ねて発令されていた特別任務も終わって機捜の詰め所に戻ることができた。
ただ捜一や所轄だけでなく警備部のSP連中にまで『刑事部の機捜隊長と秘書はヤバい』という曖昧な噂が流れることになったが。
「あああ~っ、疲れたよ~っ!」
「ご苦労だったな」
デスクに突っ伏した京哉が足元でミケを遊ばせながら見上げると、霧島隊長が手ずから茶を淹れた湯呑みを配給してくれる。湯呑みからは紅茶の香りが立ち上っていた。ひとくち飲んでみると濃い紅茶は甘かったが、今はその甘さが沁みるほど美味しい。
それでも湯呑み一杯の紅茶で消えてなくなるほど疲労は軽いものでなく、霧島と二人、今日はもう早上がりすることにした。今日は金曜日で明日からの連休を愉しみにしつつ、小田切のラフな挙手敬礼に見送られて詰め所から出る。
大通り沿いで首尾良くタクシーを拾って乗り込み、マンションのアドレスを告げて二人は目を瞑った。まばたき一回のつもりで京哉が目を開けると、もうマンション前に着いている。慌てて霧島を起こすと料金を支払い、領収証を貰って降車した。
「あっ、しまった。買い物してこれば良かったかも」
「まだ時間はある。あとでいいだろう。まずは上がろう」
部屋に戻ると二人はコートとジャケットを脱いで装備を解き、身軽になって手を洗い、うがいをする。あれだけ撃ってしまい硝煙臭いのは当然で、シャワーを浴びるまでの我慢だ。
ここでも霧島が電気ポットを洗ってセットし、インスタントコーヒーを二人分淹れてくれた。その間もずっと京哉はキッチンに立ったまま霧島を目で追い続けている。
「どうした、京哉? 落ち着かんから、せめて座れ」
「あ……はい。すみません」
リビングの二人掛けソファに腰掛けた京哉は溜息混じりに言った。
「まだ神経が立って肌がぞくぞくしてるような、変な感じがしませんか?」
「ああ、それはあるな」
「スーツもコートも硝煙被ったからクリーニング行きですね」
「スーパーカガミヤのクリーニング屋なら今日持って行けば日曜に仕上がるだろう」
言いつつ霧島はかなり熱い筈のコーヒーを一気飲みし、立ち上がって宣言する。
「風呂に入ったら落ち着くかも知れん。硝煙臭くて敵わんから先に浴びるぞ」
バスルームに向かいかけた霧島のドレスシャツを京哉は掴んだ。
「ちょっと待って下さい。一服くらいさせてくれてもいいでしょう?」
「お前も一緒に入るのか?」
「嫌なんですか?」
返事は思い切り嬉しげな笑顔だった。
ストレートに喜ぶ霧島の感情が伝染したかのように、京哉も心が浮き立ってくるのを感じる。胸を弾ませながら煙草を一本だけ吸った。キッチンの換気扇の下にいる間、ずっと霧島は京哉を背後から抱き締めてくれていた。
バスルームの前で互いの上衣のボタンを外し合う。霧島は胸に装着していた固定帯も外してから袖を抜いた。ベルトを緩めて下衣も脱ぐと二人してバスルームに入る。
シャワーを出して二人で熱い湯を頭から浴びた。
「……忍さん」
「ああ、京哉」
京哉は霧島に抱きつき、引き締まった腹筋に指を這わせる。緊張と興奮も醒めやらぬまま、恥じらいと情欲とで目元を上気させた京哉は澄んだ黒い瞳を潤ませていた。
霧島は薄い肩に力強い腕を回し抱き締める。僅かに長身を屈ませて京哉の耳元に低く囁いた。
「何だ、どうした? はっきり言ってみろ」
「分かってるクセに……貴方が欲しくて、もう、僕、我慢できない」
「そうか。だが風邪を引く前にベッドに転進する。了解か?」
「はい。あ、でも……」
「でも、何だ。異存があるのか?」
「貴方は今日から一ヶ月間、ずっと食事当番とゴミ出し当番ですよ。それを考慮した上で体力の温存に努めて下さいね。それに指輪も買ってくれないと」
「何だと? あの時、先に撃ったのは私だぞ。賭けに負けたのはお前の方だ!」
「まったまた、そんな、負け惜しみはいいですから」
「何と言われようと、私の方が先に撃った。だからお前はこのあと……ん、ああ?」
了
おまけに死体の出た各所での実況見分を済ませると、夜が明けるどころか翌日の昼を過ぎた。
だが事が終わると速やかにSP任務は解かれ、同時に重ねて発令されていた特別任務も終わって機捜の詰め所に戻ることができた。
ただ捜一や所轄だけでなく警備部のSP連中にまで『刑事部の機捜隊長と秘書はヤバい』という曖昧な噂が流れることになったが。
「あああ~っ、疲れたよ~っ!」
「ご苦労だったな」
デスクに突っ伏した京哉が足元でミケを遊ばせながら見上げると、霧島隊長が手ずから茶を淹れた湯呑みを配給してくれる。湯呑みからは紅茶の香りが立ち上っていた。ひとくち飲んでみると濃い紅茶は甘かったが、今はその甘さが沁みるほど美味しい。
それでも湯呑み一杯の紅茶で消えてなくなるほど疲労は軽いものでなく、霧島と二人、今日はもう早上がりすることにした。今日は金曜日で明日からの連休を愉しみにしつつ、小田切のラフな挙手敬礼に見送られて詰め所から出る。
大通り沿いで首尾良くタクシーを拾って乗り込み、マンションのアドレスを告げて二人は目を瞑った。まばたき一回のつもりで京哉が目を開けると、もうマンション前に着いている。慌てて霧島を起こすと料金を支払い、領収証を貰って降車した。
「あっ、しまった。買い物してこれば良かったかも」
「まだ時間はある。あとでいいだろう。まずは上がろう」
部屋に戻ると二人はコートとジャケットを脱いで装備を解き、身軽になって手を洗い、うがいをする。あれだけ撃ってしまい硝煙臭いのは当然で、シャワーを浴びるまでの我慢だ。
ここでも霧島が電気ポットを洗ってセットし、インスタントコーヒーを二人分淹れてくれた。その間もずっと京哉はキッチンに立ったまま霧島を目で追い続けている。
「どうした、京哉? 落ち着かんから、せめて座れ」
「あ……はい。すみません」
リビングの二人掛けソファに腰掛けた京哉は溜息混じりに言った。
「まだ神経が立って肌がぞくぞくしてるような、変な感じがしませんか?」
「ああ、それはあるな」
「スーツもコートも硝煙被ったからクリーニング行きですね」
「スーパーカガミヤのクリーニング屋なら今日持って行けば日曜に仕上がるだろう」
言いつつ霧島はかなり熱い筈のコーヒーを一気飲みし、立ち上がって宣言する。
「風呂に入ったら落ち着くかも知れん。硝煙臭くて敵わんから先に浴びるぞ」
バスルームに向かいかけた霧島のドレスシャツを京哉は掴んだ。
「ちょっと待って下さい。一服くらいさせてくれてもいいでしょう?」
「お前も一緒に入るのか?」
「嫌なんですか?」
返事は思い切り嬉しげな笑顔だった。
ストレートに喜ぶ霧島の感情が伝染したかのように、京哉も心が浮き立ってくるのを感じる。胸を弾ませながら煙草を一本だけ吸った。キッチンの換気扇の下にいる間、ずっと霧島は京哉を背後から抱き締めてくれていた。
バスルームの前で互いの上衣のボタンを外し合う。霧島は胸に装着していた固定帯も外してから袖を抜いた。ベルトを緩めて下衣も脱ぐと二人してバスルームに入る。
シャワーを出して二人で熱い湯を頭から浴びた。
「……忍さん」
「ああ、京哉」
京哉は霧島に抱きつき、引き締まった腹筋に指を這わせる。緊張と興奮も醒めやらぬまま、恥じらいと情欲とで目元を上気させた京哉は澄んだ黒い瞳を潤ませていた。
霧島は薄い肩に力強い腕を回し抱き締める。僅かに長身を屈ませて京哉の耳元に低く囁いた。
「何だ、どうした? はっきり言ってみろ」
「分かってるクセに……貴方が欲しくて、もう、僕、我慢できない」
「そうか。だが風邪を引く前にベッドに転進する。了解か?」
「はい。あ、でも……」
「でも、何だ。異存があるのか?」
「貴方は今日から一ヶ月間、ずっと食事当番とゴミ出し当番ですよ。それを考慮した上で体力の温存に努めて下さいね。それに指輪も買ってくれないと」
「何だと? あの時、先に撃ったのは私だぞ。賭けに負けたのはお前の方だ!」
「まったまた、そんな、負け惜しみはいいですから」
「何と言われようと、私の方が先に撃った。だからお前はこのあと……ん、ああ?」
了
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