零れたミルクをすくい取れ~Barter.18~

志賀雅基

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第12話

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 女性二人は頬を染めて頷いた。
 三人で青銅の門扉をくぐって三段しかない階段を上り、回転式の自動ドアからビル内へと入る。慣れた風を装いながらも女性二人に先導させて、エレベーターホールから六基あるエレベーターの一基に乗った。

 エレベーター内の表示でビルは二十二階建てだと霧島は知る。双葉ふたば記念ビルなる名称もだ。壁に貼られた案内板に依ると、やはりここは様々なオフィスにテナントとして貸し出された雑居ビルらしい。女性が押したのは地下一階のボタンだった。

 最下階の地下一階に着くと明るく清潔ながら、やや細い廊下を歩いて更に下へと向かう階段を下りる。案内板にも地下二階の表示はなかった。
 思った通り、これはビンゴだと霧島の期待は高まる。

 階段を下りた地下二階の廊下には雰囲気作りかレッドカーペットが敷かれていた。
 カーペットを踏み十メートルほど歩くとクロークがしつらえられていて、毛皮のコートを召したご婦人二名の次に三人は並ぶ。順番がくるとコートを預けてボディチェックだ。くすぐったさで笑う女性に続き霧島も簡単な身体検査を受ける。

 そしてクロークの係員というには目つきの鋭い男たち二人に深々と礼をされ、三人は奥へと歩を進めた。

 大きな観音扉の前で霧島はカジノ初心者ではなさそうな女性二人をエスコートし、扉の片側を引き開ける。途端にアップテンポのBGMと人々の笑い声に、ゲーム機の電子音などが溢れ出してきた。女性二人に続いて霧島もカジノに足を踏み入れる。

 中は意外に狭かった。機捜の詰め所と同じくらいだろうか。それでもカジノは盛況で、十台ほども並んだスロットマシンを操作し、一喜一憂する男女がいる。中央のルーレット台やカードゲーム台で盛り上がるグループもいた。

 ただ、元からのカジノではなく急ごしらえの箱という感は否めなくて、天井も低く照明も華やかさに欠けている。つまりは外国映画などで見るカジノより、随分とショボかった。それも仕方がないと云える。

 違法なのだから摘発されないように、たびたび箱を変えているからだろう。
 だが一緒に来た女性たちは愉しげな声を上げ、早速お手軽なスロットマシンで遊び始めている。霧島も適当にコインを買って遊びながら、多額のカネが動くルーレットやカードの方に目を配った。

 するとブラックジャックで「ワンベット、千」などという囁きが耳に入ってくる。たった一勝負で最低参加額が千円とは素人相手に破格の高額レートだ。

 銀のトレイにグラスを載せてきた蝶タイ男からウィスキーのグラスを貰い、啜ってみると酷い安物で非常に旨くない。しかしそんなことで文句をつけて目立っても仕方ないので我慢し、暴利を貪り借金地獄に嵌めるヤクザの手口を密かに観察し続けた。

 明け方まで粘ったが今日に限っては誰かが国外に売り飛ばされたような感触はなかった。だがクスリの密売は確認し、それがシャブらしいのも見届けた。

 カジノがお開きになる寸前に双葉記念ビルを出る。美人二人からホテルに誘われたが、美を愛でる感性は持ち合わせていても、異性と行為に及ぶなど霧島にとってはキングペンギンとの間でタマゴを産むくらい、ありえないことなので引き剥がして白いセダンで帰宅した。

 するとまだ温もりを感じる室内に京哉の姿がない。

 慌てて狭い部屋中を探索したがこれといって荒らされていない上に、京哉のスーツとコートが見当たらないことで既に出掛けたのだと知る。腕時計を見るともう六時より七時に近く、バスも運行している時間だった。
 更にはショルダーバッグもなくなっていて、京哉が単に出勤したのではなく遠出した、つまりはバルドールでの狙撃任務を遂行しに行ったのだと悟る。

 だが昨日の今日で任務に出掛けられるとは思いも寄らず、心配が膨れ上がって八つ当たり気味に、出る前にどうして連絡くらい寄越さないのかとまた腹を立てた。

 腹を立てながら落ち着かない思いで室内をうろうろし、キッチンのテーブル上で皿ごとシールされたサンドウィッチに目を留める。
 焼き目のついたひとくちサイズのパンにタマゴやベーコンにチーズや野菜など色とりどりの盛りだくさんに挟まれて、赤いピックの刺さったクラブハウスサンドというヤツだ。

 満タンに沸いていたポットの湯でインスタントコーヒーを淹れ、彩りも良く手の込んだサンドウィッチを立ったまま口に放り込み始めた。腹が立ちすぎると余計に腹が減るタイプなので、あっという間にサンドウィッチを食い尽くす。

 満腹になるとコーヒーのおかわりもしたが効果も薄く、強烈な眠気に襲われた。そこで一ノ瀬本部長にメールで全てを伝えておいて少し眠ることにする。寝室でパジャマに着替えるとベッドに独り横になりブルーの毛布を引き被った。

 するとここでも京哉の体温の残滓を感じて、国内にいる間にメールをしてやろうと思ったものの、もう霧島の躰は動かずに眠りの中へと沈んでいった。
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