零れたミルクをすくい取れ~Barter.18~

志賀雅基

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第11話

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 その日の夜も霧島は張り込みに出掛けた。今夜も売人を行確、行動確認するつもりで白いセダンをスーパーカガミヤの駐車場に駐めてある。
 乗っていると却って目立つので自分はカガミヤのロゴが入ったトラックの蔭に潜んで、黒いウールのコートを着た売人と革ジャンを着たシキテンを見張っていた。

 一人でいることに関して不安を感じなかった。銃も持っている。ピストル射撃では京哉と五分を張るか上を行く腕前だ。それより心配なのは残してきた京哉だった。

 京哉は何度か霧島と共に海外任務に出掛けたが、国外に独りで出掛けるのは初めての筈だ。おまけに京哉は英語ですら殆ど喋れない。そんな身で本当に単独任務に就いて大丈夫なのか、そもそも本気で暗殺任務を受ける気なのかと思う。

 ミランダでのやり取りも思い出した今では、京哉があのような言動をしたのはこの自分が京哉を置いて張り込みに出ていることへの意趣返しであって、こうして心配する側の気持ちを分からせるためだけなのではないかと考えてもいた。

 だが、だからといってあんな風に拒絶された自分に、何ができるというのか。

 答えは簡単で、ただ『自分も行く』と告げ、自身の誓いを楯に押し切れば良かったのだが、血が上った頭に睡眠不足が加わり思考は濁ったままだ。お蔭で『一生、どんなものでも一緒に見てゆく』、そして『この先、お前独りにトリガは引かせない』と誓ったのは覚えていても、京哉の鉄壁の無表情を前に雲散霧消してしまったのだ。

 言うべきことも言えず腹に溜めたまま、昼間の出来事がループして離れない。寝不足も極まって表面的な言葉と態度ばかりが記憶に残り、霧島への想いから京哉が単独任務を受けたとは思い至らず、ネチこくあんな口の利き方をした京哉に腹が立って仕方なかった。

 しかし腹立ちと比例して心配は湧くばかりである。

「くそう、早く動け、撃つぞ!」

 土曜の夜でクスリを買い求める客の数は結構多かった。だが霧島の声が聞こえたかのようにシキテンが売人の許にやってくる。早くも店じまいのようだ。今までは二人別々に帰っていたが、今日に限っては一緒に何処かに向かうらしい。ようやくビンゴを引いたかと期待して見守る。

 売人たちは駐車場に置いてあったガンメタリックのハッチバックに乗り込んだ。
 霧島も白いセダンに乗ってエンジンを掛ける。動き出したガンメタのハッチバックを追ってゆっくりと駐車場を出た。ハッチバックは住宅街からバイパス方向に向かっている。

「ふん、白藤市方面か」

 時刻は午前零時半、道も空いていて白藤市に四十分足らずで乗り入れた。そのまま市街地をハッチバックは迷いなく走ってゆく。そうして白藤市駅東口からロータリーを巡って西口側に出た。こちらは古いビルの建て直しが多く進められている再開発地である。
 やがてハッチバックが滑り込んだのは雑居ビル裏の駐車場だった。霧島は暫し様子を見たのち、大胆にも同じ駐車場に白いセダンを駐める。 

 だが売人たちは気にした風でもなく降車した。霧島は少し考えて素早くジャケットを脱ぐとショルダーホルスタを外してダッシュボードに押し込んだ。
 警察グッズのついた帯革も同様にしてから、以前任務で使用したサングラスを出してダッシュボードを閉め、上着を着直すとコートを掴んで車を降り、キィロックしておいて走る。

 危うく売人たち三人を失尾しそうになって焦ったが、何とか雑居ビルのエントランスから入ってゆくのを見届けた。続いて入ったものかどうか霧島は考えつつビルを見上げる。

 二十階建てほどのビルはポツポツと窓明かりを零していた。

 茶色いタイル張りの外観で周囲を青銅の柵で覆い、入り口にも青銅の門があるというレトロな雰囲気のビルである。だが門扉は開かれていて、特徴的な灰色の目を隠すためにサングラスを掛けながら入ってみるかと心を決めたとき、丁度やってきた若い女性二人組が霧島に目を留めた。二人でつつき合った末に一人が声を掛けてくる。

「もしかして貴方も遊びに来たのかしら?」
「ああ、そうだが、あんたらもか?」

 懲戒を食らって停職中に京哉との密会をスクープされたのを皮切りに、警察の記者会見や霧島カンパニー絡みでもメディアに露出している霧島だが、薄い茶色のサングラスをかけたせいで幸い相手はこちらの正体に気付いていないらしい。

 まともに霧島から見られて結構美人の女性二人は一瞬ボーッとした。その二人の目をビルの窓明かりで見て霧島はなるほどと思う。
 女性二人の瞳孔は開き気味で明らかに何かのクスリを食っていた。柏仁会の末端が街なかでドラッグを安価で売り『もっと欲しければカジノに来い』などと言って誘っているのだろう。

 タイミングの良さに感謝しながら霧島は女性二人に誘いを掛ける。

「ならば今日は一緒に遊ばないか?」
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