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第15話
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まもなくタクシーは停止した。京哉は料金を支払って降りる。
ベスタ射場は腰くらいの高さの緑色に塗られたコンクリートブロックと、青銅の柵で囲まれていた。右に約五メートル、柵の切れ目に門がある。そこまで歩いて覗いてみた。
青銅の格子扉の前に門番小屋があり、守衛らしき男が戸を開け放って座っている。男と目が合ったので京哉は軽く会釈した。すると男は笑いを含んだ大声を上げる。
「何だ何だ、デリクにこんな美人の知り合いがいたとは驚いたぜ」
開口一番で放たれた英語を理解し、じっとり見られて京哉は事務的に訊いた。
「デリク=ホフマンさんと約束したキョウヤ=ナルミですが」
「あ、ああ。待ってる筈だ、入んな」
あっさり敷地に入ることを許可され、京哉はアスファルトの小径を歩き出した。五十メートルも歩くと赤茶色のレンガ屋敷の前で男が一人、煙草を吸っているのが目に入る。スナイパーの視力で見つめながら近づきつつ、京哉は本部長から見せられた写真を思い出していた。
名前こそ現地風だが長身でアジア系らしい黒髪に浅黒い肌。
間違いない、今回の京哉をバックアップしてくれるというバーナードファミリーに潜入中の軍人、デリク=ホフマンだ。ここでも目が合うなり大声を出される。
「あんまり遅いんで何処かで爆撃食らったかと思ったぜ、鳴海さんよ」
「お待たせしてすみません」
日本語が通じて安堵はしたが握手はしない。ただ互いをやや無遠慮に見つめ合った。
(うーん、軍のスパイっていうより、まるっきりマフィア……)
派手な南国の花模様のシャツに型崩れした灰紫色のスーツ。タイを締めていない代わりに首にはゴールドチェーンを下げている。腕時計も何だかギラギラしていた。
だがそこでデリク=ホフマンは笑いながら言葉遣いを改める。
「驚かれたなら申し訳ない。バルドール国軍第一師団・団長直下の第二情報中隊に所属するデリク=ホフマン中尉です。このたびは遠路ご苦労様です」
「あ、いえ。今回はお世話になります」
「本当に驚かれたんじゃないですか、ベスタ射場がターゲット自身の持ち物とは。だがわたしはバーナードファミリーに浸透している身なので、この方が都合良かったんですよ」
頷きながら京哉は促されてログハウスの方へと歩を進めた。
「それにターゲット自身の持ち物でターゲットを殺る。面白い趣向でしょう?」
「面白いとは別に……皮肉だとは思いますけど。でも立派な施設ですよね」
「ドン・バーナードは毎月ゲストを招待して盛大に射撃大会ですよ。こちらです」
三棟並んだログハウスの一番奥へと案内される。五段の階段を上がって中に入ると大きな一枚板のテーブルがあり、丸太を切っただけの腰掛けに毛皮を敷いたものが取り囲んでいた。
他に部屋の奥には本物らしい暖炉、その横には二階に上がる階段がある。床から階段にまで敷かれているのは、これもフェイクではない毛皮だった。
武骨ながらも日本でこれを再現すれば、かなりの財力が必要だと思われる豪華なログハウスである。けれど何よりも京哉の目を惹いたのは壁に掛けられた様々な銃器類だった。
「うわあ、すっごい!」
ライフルからハンドガンにリボルバまで、五十丁を下らない名銃が揃っていて、ガンヲタの気のある京哉にはまさに夢のような光景である。
「すごいすごい、コルト・ガバメントM1911シンガーモデルに、ウィンチェスターのM1866イエローボーイまである、嘘みたい!」
子供のようにはしゃいでしまい、他人の存在すら忘れて見入ってしまった。
「殆どはドン・イーノス=バーナードではなく、係累のアンセルム=カミュのコレクションなんですがね。やっぱりそういう仕事だとお好きなんですか?」
「……」
返事も仕事も忘れた京哉は、マニア垂涎のコレクションを夢中で眺めていた。どの銃も滅多に見られない博物館クラスの品々でマフィアのカネの力に溜息が洩れる。
一方のデリク=ホフマンもそんな京哉を呆気にとられたように見ていた。異国からやってきた暗殺者が意外なまでに小柄でなよやかだったのも、見入った理由のひとつだろう。やがて先に我に返ると頭を振って部屋の奥へと消える。
「ああ、すみません、つい」
部屋の奥から出てきたデリク=ホフマンはソフトケースを担いでいた。それを一枚板のテーブルに置いた、ガシャリという音で京哉は自分の仕事を思い出して謝った。構わないという風に笑ったデリク=ホフマンは、少し勿体ぶってからケースのジッパーを開ける。
中に入っていたのは既に組み上げられた狙撃銃だった。
ベスタ射場は腰くらいの高さの緑色に塗られたコンクリートブロックと、青銅の柵で囲まれていた。右に約五メートル、柵の切れ目に門がある。そこまで歩いて覗いてみた。
青銅の格子扉の前に門番小屋があり、守衛らしき男が戸を開け放って座っている。男と目が合ったので京哉は軽く会釈した。すると男は笑いを含んだ大声を上げる。
「何だ何だ、デリクにこんな美人の知り合いがいたとは驚いたぜ」
開口一番で放たれた英語を理解し、じっとり見られて京哉は事務的に訊いた。
「デリク=ホフマンさんと約束したキョウヤ=ナルミですが」
「あ、ああ。待ってる筈だ、入んな」
あっさり敷地に入ることを許可され、京哉はアスファルトの小径を歩き出した。五十メートルも歩くと赤茶色のレンガ屋敷の前で男が一人、煙草を吸っているのが目に入る。スナイパーの視力で見つめながら近づきつつ、京哉は本部長から見せられた写真を思い出していた。
名前こそ現地風だが長身でアジア系らしい黒髪に浅黒い肌。
間違いない、今回の京哉をバックアップしてくれるというバーナードファミリーに潜入中の軍人、デリク=ホフマンだ。ここでも目が合うなり大声を出される。
「あんまり遅いんで何処かで爆撃食らったかと思ったぜ、鳴海さんよ」
「お待たせしてすみません」
日本語が通じて安堵はしたが握手はしない。ただ互いをやや無遠慮に見つめ合った。
(うーん、軍のスパイっていうより、まるっきりマフィア……)
派手な南国の花模様のシャツに型崩れした灰紫色のスーツ。タイを締めていない代わりに首にはゴールドチェーンを下げている。腕時計も何だかギラギラしていた。
だがそこでデリク=ホフマンは笑いながら言葉遣いを改める。
「驚かれたなら申し訳ない。バルドール国軍第一師団・団長直下の第二情報中隊に所属するデリク=ホフマン中尉です。このたびは遠路ご苦労様です」
「あ、いえ。今回はお世話になります」
「本当に驚かれたんじゃないですか、ベスタ射場がターゲット自身の持ち物とは。だがわたしはバーナードファミリーに浸透している身なので、この方が都合良かったんですよ」
頷きながら京哉は促されてログハウスの方へと歩を進めた。
「それにターゲット自身の持ち物でターゲットを殺る。面白い趣向でしょう?」
「面白いとは別に……皮肉だとは思いますけど。でも立派な施設ですよね」
「ドン・バーナードは毎月ゲストを招待して盛大に射撃大会ですよ。こちらです」
三棟並んだログハウスの一番奥へと案内される。五段の階段を上がって中に入ると大きな一枚板のテーブルがあり、丸太を切っただけの腰掛けに毛皮を敷いたものが取り囲んでいた。
他に部屋の奥には本物らしい暖炉、その横には二階に上がる階段がある。床から階段にまで敷かれているのは、これもフェイクではない毛皮だった。
武骨ながらも日本でこれを再現すれば、かなりの財力が必要だと思われる豪華なログハウスである。けれど何よりも京哉の目を惹いたのは壁に掛けられた様々な銃器類だった。
「うわあ、すっごい!」
ライフルからハンドガンにリボルバまで、五十丁を下らない名銃が揃っていて、ガンヲタの気のある京哉にはまさに夢のような光景である。
「すごいすごい、コルト・ガバメントM1911シンガーモデルに、ウィンチェスターのM1866イエローボーイまである、嘘みたい!」
子供のようにはしゃいでしまい、他人の存在すら忘れて見入ってしまった。
「殆どはドン・イーノス=バーナードではなく、係累のアンセルム=カミュのコレクションなんですがね。やっぱりそういう仕事だとお好きなんですか?」
「……」
返事も仕事も忘れた京哉は、マニア垂涎のコレクションを夢中で眺めていた。どの銃も滅多に見られない博物館クラスの品々でマフィアのカネの力に溜息が洩れる。
一方のデリク=ホフマンもそんな京哉を呆気にとられたように見ていた。異国からやってきた暗殺者が意外なまでに小柄でなよやかだったのも、見入った理由のひとつだろう。やがて先に我に返ると頭を振って部屋の奥へと消える。
「ああ、すみません、つい」
部屋の奥から出てきたデリク=ホフマンはソフトケースを担いでいた。それを一枚板のテーブルに置いた、ガシャリという音で京哉は自分の仕事を思い出して謝った。構わないという風に笑ったデリク=ホフマンは、少し勿体ぶってからケースのジッパーを開ける。
中に入っていたのは既に組み上げられた狙撃銃だった。
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