20 / 48
第20話
しおりを挟む
飲まなくて正解だったと思いつつ、そのまま玄関を出るとドアロックしエレベーターで一階に降りた。駆け足で駐車場に向かい白いセダンを出す。
バイパスで事故渋滞があり、県警本部に辿り着いたのは二十一時過ぎだった。
裏口から本部庁舎に駆け込んでエレベーターで十六階に上がると秘書官に取り次いで貰い本部長室に飛び込んだ。一ノ瀬本部長は茶器を前に腕組みして座っていた。
「やあ、早かったね」
「自分としては遅すぎたかも知れないと思っているのですが」
「ふむ。思ったより落ち着いてくれていて助かったよ、霧島くん。では、まず本日バルドールに向かう航空便は、もうないということを理解して欲しい」
「……分かりました」
落ち着いた訳ではないが、じたばたしても仕方がないということだ。霧島は素直にソファに腰掛けて秘書官に出された紅茶を口にする。ひとくち飲んでから訊いた。
「ですが何もないのに呼び出すことはない筈です。鳴海に何があったのですか?」
「今回鳴海くんに持たせた携帯には通常使われるGPSでの位置探査機能の他に、某大国の所有する軍事衛星での常時トレーサー機能もついていた。これだ」
渡された携帯は何処といって特殊には見えない。だが常に軍事衛星で捕捉されていたということは、発信器を付けられていたようなものだろうと霧島は理解した。
「なるほど。リアルタイムで監視・追跡されていたのですね?」
「その通り、コンピュータ上に反映された携帯位置をモニタする要員もいた」
「また某大国まで絡んだオペレーションだったということですか?」
訊いてはみたが曖昧に頭を振る本部長を見て霧島も追及する気を失くす。一介の警察官に答えなど与えられないのは分かり切っている上に、政治に興味はなかった。
「だがここからが問題なのだ。その軍事衛星での追跡が振り切られた」
「追跡が振り切られたとは……どういうことです?」
「一昨日の夜中、現地時間で十九時二分に鳴海くんが持つ当該トレーサー機能を持つ携帯は破壊されたとみられる……そのような情報が某大国側のモニタからもたらされた。言い訳になるが某大国のトレーサー対象は四桁を超えるのだ」
「一昨日の夜にトレーサーの破壊だと?」
「すまない。つまり鳴海くんは行方不明だ」
急激に頭にきて霧島は一ノ瀬本部長に掴み掛からんばかりに詰め寄った。
「ふざけるな、どれだけ時間をロスして……あんたも何をやっていた!」
警視監相手に『あんた』呼ばわりしても一ノ瀬本部長は咎めもしなかった。
「本当に申し訳ないが、鳴海くんをロストしたのは『任務成功』のあとだった。それ故に事態を軽視した某大国からの情報も入ってくるのが遅れたのだ」
「私が聞きたいのは言い訳ではない。京哉が生きているのか訊いているんだ!」
「今以て不明だ。そうとしか言いようがない」
紅茶で口を湿らせて一ノ瀬本部長は続けた。
「鳴海くんはデリク=ホフマンなる現地情報士官をスポッタとして同行し、イーノス=バーナードと護衛二名の計三名を狙撃し成功した。その約二時間後に携帯は破壊されている。マフィアのバーナードファミリーのドンは係累のアンセルム=カミュが継いだ。ドン・アンセルム=バーナードの誕生だ。そしてデリクはアンセルムに浸透しているスパイだった。更に某大国の情報では鳴海くんの携帯が破壊されたのはドン・バーナードの屋敷内らしい」
「そこまで分かっていて何故だ! 何故デリクを、アンセルムを叩かない!」
またも霧島は大声を出したが一ノ瀬本部長は動じず答える。
「今回の特別任務を下した我々の『上』は日本国であり国際社会ともいえる。だからといって日本政府や国際社会が自らの看板を背負ってバルドールに攻め入ることが出来るかね?」
「もういい、はっきり言ってくれ。『上』は京哉を斬り捨てる気なのか?」
押し殺した低い声に応えず、ここにきて一ノ瀬本部長は苦渋の表情となっていた。
「ならば我が県警の事案は我が県警で解決すればいい。本部長、私に特別任務を下して頂きたい。行方不明となった県警捜査員の捜索に関する特別任務を」
「霧島警視、きみはいったい何をするつもりだね?」
「私はバルドールに京哉を探しに行きます。当然でしょう」
「どんな国かは身を以て知っている筈だ、本当に任せてもいいのかね?」
「任される訳ではない、私は私のバディでパートナーを迎えに行くだけです」
暫し考え込んだ一ノ瀬本部長は頷いて告げる。
「霧島警視に特別命令を下す。バルドールにおいて鳴海巡査部長を捜索・救出せよ」
「了解、拝命します」
霧島は警察官の手本のような敬礼で応えた。
バイパスで事故渋滞があり、県警本部に辿り着いたのは二十一時過ぎだった。
裏口から本部庁舎に駆け込んでエレベーターで十六階に上がると秘書官に取り次いで貰い本部長室に飛び込んだ。一ノ瀬本部長は茶器を前に腕組みして座っていた。
「やあ、早かったね」
「自分としては遅すぎたかも知れないと思っているのですが」
「ふむ。思ったより落ち着いてくれていて助かったよ、霧島くん。では、まず本日バルドールに向かう航空便は、もうないということを理解して欲しい」
「……分かりました」
落ち着いた訳ではないが、じたばたしても仕方がないということだ。霧島は素直にソファに腰掛けて秘書官に出された紅茶を口にする。ひとくち飲んでから訊いた。
「ですが何もないのに呼び出すことはない筈です。鳴海に何があったのですか?」
「今回鳴海くんに持たせた携帯には通常使われるGPSでの位置探査機能の他に、某大国の所有する軍事衛星での常時トレーサー機能もついていた。これだ」
渡された携帯は何処といって特殊には見えない。だが常に軍事衛星で捕捉されていたということは、発信器を付けられていたようなものだろうと霧島は理解した。
「なるほど。リアルタイムで監視・追跡されていたのですね?」
「その通り、コンピュータ上に反映された携帯位置をモニタする要員もいた」
「また某大国まで絡んだオペレーションだったということですか?」
訊いてはみたが曖昧に頭を振る本部長を見て霧島も追及する気を失くす。一介の警察官に答えなど与えられないのは分かり切っている上に、政治に興味はなかった。
「だがここからが問題なのだ。その軍事衛星での追跡が振り切られた」
「追跡が振り切られたとは……どういうことです?」
「一昨日の夜中、現地時間で十九時二分に鳴海くんが持つ当該トレーサー機能を持つ携帯は破壊されたとみられる……そのような情報が某大国側のモニタからもたらされた。言い訳になるが某大国のトレーサー対象は四桁を超えるのだ」
「一昨日の夜にトレーサーの破壊だと?」
「すまない。つまり鳴海くんは行方不明だ」
急激に頭にきて霧島は一ノ瀬本部長に掴み掛からんばかりに詰め寄った。
「ふざけるな、どれだけ時間をロスして……あんたも何をやっていた!」
警視監相手に『あんた』呼ばわりしても一ノ瀬本部長は咎めもしなかった。
「本当に申し訳ないが、鳴海くんをロストしたのは『任務成功』のあとだった。それ故に事態を軽視した某大国からの情報も入ってくるのが遅れたのだ」
「私が聞きたいのは言い訳ではない。京哉が生きているのか訊いているんだ!」
「今以て不明だ。そうとしか言いようがない」
紅茶で口を湿らせて一ノ瀬本部長は続けた。
「鳴海くんはデリク=ホフマンなる現地情報士官をスポッタとして同行し、イーノス=バーナードと護衛二名の計三名を狙撃し成功した。その約二時間後に携帯は破壊されている。マフィアのバーナードファミリーのドンは係累のアンセルム=カミュが継いだ。ドン・アンセルム=バーナードの誕生だ。そしてデリクはアンセルムに浸透しているスパイだった。更に某大国の情報では鳴海くんの携帯が破壊されたのはドン・バーナードの屋敷内らしい」
「そこまで分かっていて何故だ! 何故デリクを、アンセルムを叩かない!」
またも霧島は大声を出したが一ノ瀬本部長は動じず答える。
「今回の特別任務を下した我々の『上』は日本国であり国際社会ともいえる。だからといって日本政府や国際社会が自らの看板を背負ってバルドールに攻め入ることが出来るかね?」
「もういい、はっきり言ってくれ。『上』は京哉を斬り捨てる気なのか?」
押し殺した低い声に応えず、ここにきて一ノ瀬本部長は苦渋の表情となっていた。
「ならば我が県警の事案は我が県警で解決すればいい。本部長、私に特別任務を下して頂きたい。行方不明となった県警捜査員の捜索に関する特別任務を」
「霧島警視、きみはいったい何をするつもりだね?」
「私はバルドールに京哉を探しに行きます。当然でしょう」
「どんな国かは身を以て知っている筈だ、本当に任せてもいいのかね?」
「任される訳ではない、私は私のバディでパートナーを迎えに行くだけです」
暫し考え込んだ一ノ瀬本部長は頷いて告げる。
「霧島警視に特別命令を下す。バルドールにおいて鳴海巡査部長を捜索・救出せよ」
「了解、拝命します」
霧島は警察官の手本のような敬礼で応えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる