特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する任務~楽園29~

志賀雅基

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第49話

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「で、その黒幕マルコムはどうした?」
「リチャードが全て吐いてお縄ですよ。ただテラとしても事を公にしてしまうのは避けたいので、取り敢えずは政務次官を自ら辞した形になってはいますけど」
「へえ。それで他の奴らはどういう繋がりなんだ?」

「ブラントファミリーとベン=リールは単にクレジットに目が眩み、リチャードはこんな僻地にトバされて腐っていたところを、地元有力者のベン=リールに唆されたようです」
「あのイーノス=ダンヒル二等書記官と組んで、最初は本当にザリガニ密輸だったんだとさ」

 軽く言ったノーマンにシドは首を傾げる。

「イーノスの野郎か。確かにあいつはザリガニ相手にタモ持って駆け回ってるのが似合いそうだが、けど何でケチなザリガニ密輸が人肉商売に化けたんだ?」
「じつはユーイン一等書記官はザインなんだ」
「えっ、本当に?」

 ハイファに頷いたジョアンは少々顔を曇らせた。

「ザインでありながらユーインは女性がだめだったんです――」

 それでもどうにか保護者がついて外出した際にユーインはリチャードと知り合い、恋仲となった。それから暫くはリチャードが雇った『保護者』と外に出たときに逢瀬を繰り返していたが、結局リチャードは人を雇ってユーインを誘拐するようにして手に入れ、治外法権ともいえる大使館内で一等書記官という隠蔽カヴァーを与えたのだという。

「――でも最近はユーインとリチャードとの仲に影が差していたらしいです」
「ユーインがザインだとベン=リールに見破られて脅されたのも、リチャードがザイン密輸に荷担した理由のひとつらしい。結局リチャードは小物だってことだ」
「ふん。それでユーインへの当てつけにハイファを……ナニしようとした訳か」

「当てつけかどうかは知りませんが、結果はそういうことですね」
「で、ユーイン一等書記官やアランはどうなった?」
「それは……今のところはベサートです」
「……」

 自分がされたような暴力を振るわれているのではないかと思い、シドは言葉を失う。
 だがそこでノーマンが真面目な口調で言った。

「特務警察を通した訳じゃないからな、直接的な暴行は受けていない筈だ。それにあんたも身に沁みて分かってるだろうが、今はユーインもアランもベサートにいる方が安全なんだ」

 更にジョアンが勇気づけるかのように白い歯を見せる。

「このクセラ星系のあり方についてはテラ連邦内だけの問題とせず、我々は汎銀河条約機構を通して選民システムを崩壊させる方向で早急に動く予定です」
「そうか、なるほどな」

 何れにせよシドとハイファに下った別室任務はザリガニ密輸阻止ではなく、行き詰まったザイン密輸の捜査を進めるためのものだったのだ。

「チクショウ、別室長ユアン=ガードナーの野郎!」
「まあまあ、ザリガニ捜査しなくてよくなったんだから、いいじゃない」
「何処がいいんだ、下手すれば俺もお前も重石を付けられて海に沈んでたんだぞ!」
「沈まなかったんだから、結果オーライだよ」

 二人のやり取りを眺めて笑ったジョアンとノーマンが軍隊式の敬礼をして去ると、ずっとシドの左腕を抱いたままだったハイファが首を傾げる。

「退院してもいいって話だけど、どうする?」
「退院するさ。でもその前にハイファ、お前は少し寝ろ」
「何で僕が寝なきゃならないのサ?」
「殆ど寝てねぇんだろ、目ぇ赤いぞ」

 チェーンスモークしていた煙草を消したシドは、ハイファをぶら下げて病室に戻った。
 病室は二人部屋、片方のベッドはとうにハイファ専用となっている。
 二十八時の病院食を二人で摂ったのち、リフレッシャを浴びたハイファを窓際のベッドにシドは寝かしつけた。きっと本当に眠っていなかったのだろう、天井のライトパネルを常夜灯モードにするとハイファはすぐに規則正しい寝息を立て始めた。

 そうして三十一時の消灯になってシドもベッドに潜り込む。勿論ハイファの寝ているベッドだ。狭いがこの方が良く眠れるのは自分もハイファも知っている。狭さも互いに抱き枕と腕枕になれば丁度いい。毛布を引っ張り上げてハイファと自分にキッチリ被せると、久々に左腕で腕枕してやった。温かな躰をしっかりと抱き締める。

 さらさらの長い髪を指で梳いてやると、無意識なのかハイファも寝返りを打ってシドの胸に寄り添い抱きついた。

◇◇◇◇

 二十分ほど前に看護師の見回りがきたのはシドも気が付いていた。だが再びウトウトし始めたとき、さらさらの感触が胸から頬を撫でて目を見開く。すると腹の上にハイファが乗っかっていた。何も身に着けていないハイファの細い躰は、薄暗がりに燐光を放つかのように白く、長い髪と相まって神々しいばかりの美しさだ。

 更にシドも寝間着代わりに着ていた患者服の前をすっかりはだけられ、下着すら脱がされている。触れ合う素肌同士がすべすべとして非常に気持ちいい。

 そんなことを考えるシドからハイファはキスを奪う。

「んっ……んんぅ……っん、はあっ! ハイファ?」
「ねえ、シド……欲しいよ」
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