36 / 41
第36話
しおりを挟む
薬剤で意識を落としていた霧島は三日後に一般病棟の個室に移された。
自然と目が覚めるのは十五時頃だろうと医師に言われたが、京哉は朝からずっと待機していた。出来る限り看護師任せにせず、霧島の躰を拭いたり患者服を着替えさせたりしながら待つ。
それも終わるとパイプ椅子に座ってベッドに仰臥する霧島を見つめた。看護師たちから勧められても昼食すら摂りに行かず、真っ白な横顔を眺め続ける。
やがて十四時を過ぎた頃、霧島のまぶたが震えて灰色の目が現れた。ゆっくり霧島は頭を巡らせて京哉の視線を捉える。じっと灰色の目が京哉を見返した。
ナースコールを押してから京哉は愛し人に微笑みかける。
「忍さん、おはようございます。気分はどうですか?」
「ん……あ、頭、痛い」
僅かに舌足らずな口調が痛々しい。医師がやってきて診察した結果、脳障害については未だ確たることは云えないが、傷に関しては驚異的な治りの早さと告げられた。
医師や看護師が退出して二人きりになると、点滴がポタポタと落ちるのを眺めながら京哉は霧島に事件の結果を報告した。脳障害があったとしても積極的に話し掛けるのは回復に有効だと聞かされていたからだ。
霧島はあまり自発的に喋らないものの、頷きながら聞く態度といい、あの五人に対して示す表情といい、普段と何ら変わったところは見受けられない。
十八時半には食事が届き京哉は霧島が食べるのを介助する。だが霧島は食欲がないらしかった。半ば残ったトレイを片付けると霧島は倒れ込むように横になる。
相当頭が痛むようで心配だったが京哉は思い切りよくパイプ椅子から立ち上がった。そろそろ自分も何か食べなければ入院患者二号になっては目も当てられない。
「ちょっと売店まで買い物に行ってきますね」
「ん……あ、ああ」
超速で戻ると途中のナースステーションで看護師に暫く泊まり込むことを告げる。付き添い用のベッドをあとで搬入して貰うことや有料ながら食事も出して貰えることを確認した。もう何度も世話になっているのでお互いに慣れたやり取りだった。
そして病室病室に戻る。今は霧島とひとときも離れたくなかった。
既に一ノ瀬本部長に霧島の意識が戻ったことをメールしてあった。すると返す刀で返信が届き【受傷した霧島警視においては快癒するまで全ての手続き及び必要諸経費等、任せられたし。鳴海巡査部長も扱いを同じとする。なお霧島警視の受傷は口外無用】なる有難い内容だった。
だが実父である霧島カンパニー会長だけには最低限伝えるべきと思いコールする。
しかし霧島自身が自分の生母を愛人とした父を嫌っているのだ。おまけにたびたび本社社長の椅子に座らせようと画策してくるために殆ど目の仇レヴェルである。
当然ながらそれを知っている会長自身は電話口でカラカラと笑い、
《忍にはおぬしがついていたら宜しい。わしの顔なぞ見たら余計に具合が悪くなる》
などと言い通話を切ってしまった。お蔭で様々な書類に京哉がサインすることになる。それも終えると霧島の病室に急いで戻った。
霧島はウトウトしていたようだが、京哉が再びパイプ椅子に座ると目覚めて切れ長の目を少し和ませる。嬉しくなった京哉は立ち上がると霧島の乾いた唇にそっとソフトキスを落とした。前髪もかき上げてやる。
やがて点滴に入れられた鎮痛剤が効いてきたのか、霧島は視線をぼやけさせて再び眠りに引き込まれたようだった。
そうして短い眠りと覚醒を繰り返す霧島が目を開けたら必ず微笑む自分が視界に映るよう、京哉は霧島の枕元に寄り添い続けた。
自然と目が覚めるのは十五時頃だろうと医師に言われたが、京哉は朝からずっと待機していた。出来る限り看護師任せにせず、霧島の躰を拭いたり患者服を着替えさせたりしながら待つ。
それも終わるとパイプ椅子に座ってベッドに仰臥する霧島を見つめた。看護師たちから勧められても昼食すら摂りに行かず、真っ白な横顔を眺め続ける。
やがて十四時を過ぎた頃、霧島のまぶたが震えて灰色の目が現れた。ゆっくり霧島は頭を巡らせて京哉の視線を捉える。じっと灰色の目が京哉を見返した。
ナースコールを押してから京哉は愛し人に微笑みかける。
「忍さん、おはようございます。気分はどうですか?」
「ん……あ、頭、痛い」
僅かに舌足らずな口調が痛々しい。医師がやってきて診察した結果、脳障害については未だ確たることは云えないが、傷に関しては驚異的な治りの早さと告げられた。
医師や看護師が退出して二人きりになると、点滴がポタポタと落ちるのを眺めながら京哉は霧島に事件の結果を報告した。脳障害があったとしても積極的に話し掛けるのは回復に有効だと聞かされていたからだ。
霧島はあまり自発的に喋らないものの、頷きながら聞く態度といい、あの五人に対して示す表情といい、普段と何ら変わったところは見受けられない。
十八時半には食事が届き京哉は霧島が食べるのを介助する。だが霧島は食欲がないらしかった。半ば残ったトレイを片付けると霧島は倒れ込むように横になる。
相当頭が痛むようで心配だったが京哉は思い切りよくパイプ椅子から立ち上がった。そろそろ自分も何か食べなければ入院患者二号になっては目も当てられない。
「ちょっと売店まで買い物に行ってきますね」
「ん……あ、ああ」
超速で戻ると途中のナースステーションで看護師に暫く泊まり込むことを告げる。付き添い用のベッドをあとで搬入して貰うことや有料ながら食事も出して貰えることを確認した。もう何度も世話になっているのでお互いに慣れたやり取りだった。
そして病室病室に戻る。今は霧島とひとときも離れたくなかった。
既に一ノ瀬本部長に霧島の意識が戻ったことをメールしてあった。すると返す刀で返信が届き【受傷した霧島警視においては快癒するまで全ての手続き及び必要諸経費等、任せられたし。鳴海巡査部長も扱いを同じとする。なお霧島警視の受傷は口外無用】なる有難い内容だった。
だが実父である霧島カンパニー会長だけには最低限伝えるべきと思いコールする。
しかし霧島自身が自分の生母を愛人とした父を嫌っているのだ。おまけにたびたび本社社長の椅子に座らせようと画策してくるために殆ど目の仇レヴェルである。
当然ながらそれを知っている会長自身は電話口でカラカラと笑い、
《忍にはおぬしがついていたら宜しい。わしの顔なぞ見たら余計に具合が悪くなる》
などと言い通話を切ってしまった。お蔭で様々な書類に京哉がサインすることになる。それも終えると霧島の病室に急いで戻った。
霧島はウトウトしていたようだが、京哉が再びパイプ椅子に座ると目覚めて切れ長の目を少し和ませる。嬉しくなった京哉は立ち上がると霧島の乾いた唇にそっとソフトキスを落とした。前髪もかき上げてやる。
やがて点滴に入れられた鎮痛剤が効いてきたのか、霧島は視線をぼやけさせて再び眠りに引き込まれたようだった。
そうして短い眠りと覚醒を繰り返す霧島が目を開けたら必ず微笑む自分が視界に映るよう、京哉は霧島の枕元に寄り添い続けた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を
花籠しずく
キャラ文芸
――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。
月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。
帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。
「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」
これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。
※R-15っぽいゆるい性描写があります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる