39 / 53
第39話
しおりを挟む
雑居ビルであるサンエイ第一ビル十階にある空きテナントに京哉とオルファスが駆けつけた時、まだSAT突入班も到着したばかりだった。
当然ながらまだ突入班長の指示も出されておらず、スナイパーのジョーイ=逆井も医療機関に搬送される前で、右手から肩まで都合四射も浴びてずたずたにし、気を失っていた。
そんな逆井に近づいた京哉はいきなり胸ぐらを掴み上げて左右の頬を張り飛ばす。それでも目覚めないので引きずって部屋の隅の洗面所に頭を突っ込ませ、水道を捻った。すると真冬にエアコンもない部屋で冷水を浴びせられて逆井が目を見開いた。
起きたのを知って放り出すと懐からシグを抜いて鼻先に突きつける。
「貴方を雇った人物とオルファスを狙っている人物の名前を教えて」
「おっ、俺は……言ったら殺され……あうっ!」
問答無用で京哉は逆井の大腿部を撃ち抜いていた。周りにいるのは泣く子も黙るSAT隊員だがマル被に対する拷問を目にしながら誰一人として京哉を止めることはできず、ただ息を詰めて見守ることしかできなかった。
当事者のオルファスですら割って入れないまま、京哉はごく静かな声で逆井に迫る。
「これが最後のチャンス。教えて」
「お、俺は柏仁会の若頭補佐にカネを貰って……リンドル王国の皇太子を狙っているのはたぶんリンドル王国の防衛大臣だって、その若頭補佐が言っていた。本当だ!」
「じゃあ今夜オルファスを何処につれて行く予定だったんですか?」
「そんなことまで俺は聞いて……ぐはっ! 本当なんだ、信じてくれ!」
それ以上の弾薬の浪費を止め、京哉は逆井に背を向けた。携帯で本部長に連絡を取りながらオルファスと共にエレベーターで降りるとビルから出て、黒塗りに載っていたDSR1を持ち出し目についた覆面パトカーの一台に狙撃銃を放り込んで乗り込む。
ステアリングを握り助手席にオルファスが滑り込むと、京哉はパトライトと緊急音を出した。
すぐさま走り出して向かったのは本部長経由で組対から聞いた柏仁会の若頭補佐の居所だ。それは幸いと言っていいのか殆ど空になったという事務所だった。最高司令官は槙原会長かも知れないが、今回の仕事は若頭補佐が仕切っているようである。
だが当の若頭補佐がいる以上、手下もある程度は残っているに違いない。
「ヤクザの事務所に乗り込むとは鳴海、それは殴り込みと言うのではないか?」
「業界用語でカチコミとも言いますね」
「なるほど。して、俺も参加表明していいのか?」
「ヤクザを見たかったんでしょう? あ、得物は自分で調達して下さいね」
「ふむ、そうきたか」
緊急走行する覆面は高速に乗り、一区間で降りて白藤市駅近くの繁華街に乗り入れる。柏仁会の事務所は幾つもあるが、目的の事務所は繁華街でも外れにあった。近づくと緊急音を止める。警戒されて逃げられては元も子もない。
まもなく事務所前に到着し、京哉は降り立って五発満タンにしたDSR1を手にした。そうして眺めると、それこそカチコミ防止か窓もない事務所は『パラダイスホテル』なる小さなラブホテルの一階に入居する形で建っている。こういったホテルを企業舎弟として持っていると色々なシノギに使えて便利なのだろう。
隣を見るとオルファスも物珍しそうに事務所を眺めていた。ネオンが光っているのが嬉しいのかも知れない。
「いいんですか、命懸けって分かってます?」
「そなたたちばかりを危険に晒す訳にはいかん。鳴海、早くゆこうぞ」
「じゃあ、三、二、一……お邪魔しまーすっと!」
事務所のドアノブを回すこともせず、京哉はドアの上下の蝶番にDSR1をぶちかました。外れかけたドアを蹴り倒して押し入ったが、監視カメラで見ていたのか、途端に銃弾が降り注いできて目前のデスクの下にオルファスを蹴り込む。同時に有効射程が千四百メートルのマグナム・ライフル弾を叩き込み、三射で五人を倒していた。
その勢いに恐れをなしたか、腰の引けた残り三人の右肩にシグの九ミリパラを食らわせるのは簡単だった。藻掻く男の一人にオルファスをつれて行く予定だった場所を聞く。
「コンスタンスホテルだ……部屋までは分からねぇ」
それだけ聞けば用はない、身を翻して事務所を駆け出ると覆面に飛び乗った。DSR1をまたフルロードに戻し、シグのマガジンチェンジをしてから京哉は覆面を発車させる。
「若頭補佐にも話を聞かなくてよいのか?」
「そんな面倒はあとで誰かがやりますよ。今は忍さんの救出が最優先です。国内での大物だけに身代金目的でない今回は消される可能性が高いですから」
「涼しい顔をして、もしかしてそなた、ものすごく怒っていないか?」
「当然でしょう。忍さんと僕は誓ったんです、『一生、どんなものでも一緒に見てゆく』って。『一生、同じ長さ生きてる』って。あの人がいない世界に僕は用がありません」
「そうか。素晴らしい伴侶を得たのだな。羨まし……うわっ!」
バシッと音がしてリアウィンドウが白く濁っていた。銃撃だ。次弾で強化ガラスが粉々に割れて素通しになる。二人して頭を下げたところでオルファス側のヘッドレストが爆発的に緩衝材を飛び出させた。次々と撃ち込まれてフロントガラスまでが砕け散る。
「これはたぶん若頭補佐のお礼参りでしょうね」
「そなたの胆の据わりようは見習うべきものがあるな」
言いつつオルファスは本当に先程のカチコミで調達したらしいハンドガンを後方に向けて撃ち始めた。二射を放つと暫し銃撃が止む。
その間に京哉は覆面をコンスタンスホテルの前に横付けしていた。
当然ながらまだ突入班長の指示も出されておらず、スナイパーのジョーイ=逆井も医療機関に搬送される前で、右手から肩まで都合四射も浴びてずたずたにし、気を失っていた。
そんな逆井に近づいた京哉はいきなり胸ぐらを掴み上げて左右の頬を張り飛ばす。それでも目覚めないので引きずって部屋の隅の洗面所に頭を突っ込ませ、水道を捻った。すると真冬にエアコンもない部屋で冷水を浴びせられて逆井が目を見開いた。
起きたのを知って放り出すと懐からシグを抜いて鼻先に突きつける。
「貴方を雇った人物とオルファスを狙っている人物の名前を教えて」
「おっ、俺は……言ったら殺され……あうっ!」
問答無用で京哉は逆井の大腿部を撃ち抜いていた。周りにいるのは泣く子も黙るSAT隊員だがマル被に対する拷問を目にしながら誰一人として京哉を止めることはできず、ただ息を詰めて見守ることしかできなかった。
当事者のオルファスですら割って入れないまま、京哉はごく静かな声で逆井に迫る。
「これが最後のチャンス。教えて」
「お、俺は柏仁会の若頭補佐にカネを貰って……リンドル王国の皇太子を狙っているのはたぶんリンドル王国の防衛大臣だって、その若頭補佐が言っていた。本当だ!」
「じゃあ今夜オルファスを何処につれて行く予定だったんですか?」
「そんなことまで俺は聞いて……ぐはっ! 本当なんだ、信じてくれ!」
それ以上の弾薬の浪費を止め、京哉は逆井に背を向けた。携帯で本部長に連絡を取りながらオルファスと共にエレベーターで降りるとビルから出て、黒塗りに載っていたDSR1を持ち出し目についた覆面パトカーの一台に狙撃銃を放り込んで乗り込む。
ステアリングを握り助手席にオルファスが滑り込むと、京哉はパトライトと緊急音を出した。
すぐさま走り出して向かったのは本部長経由で組対から聞いた柏仁会の若頭補佐の居所だ。それは幸いと言っていいのか殆ど空になったという事務所だった。最高司令官は槙原会長かも知れないが、今回の仕事は若頭補佐が仕切っているようである。
だが当の若頭補佐がいる以上、手下もある程度は残っているに違いない。
「ヤクザの事務所に乗り込むとは鳴海、それは殴り込みと言うのではないか?」
「業界用語でカチコミとも言いますね」
「なるほど。して、俺も参加表明していいのか?」
「ヤクザを見たかったんでしょう? あ、得物は自分で調達して下さいね」
「ふむ、そうきたか」
緊急走行する覆面は高速に乗り、一区間で降りて白藤市駅近くの繁華街に乗り入れる。柏仁会の事務所は幾つもあるが、目的の事務所は繁華街でも外れにあった。近づくと緊急音を止める。警戒されて逃げられては元も子もない。
まもなく事務所前に到着し、京哉は降り立って五発満タンにしたDSR1を手にした。そうして眺めると、それこそカチコミ防止か窓もない事務所は『パラダイスホテル』なる小さなラブホテルの一階に入居する形で建っている。こういったホテルを企業舎弟として持っていると色々なシノギに使えて便利なのだろう。
隣を見るとオルファスも物珍しそうに事務所を眺めていた。ネオンが光っているのが嬉しいのかも知れない。
「いいんですか、命懸けって分かってます?」
「そなたたちばかりを危険に晒す訳にはいかん。鳴海、早くゆこうぞ」
「じゃあ、三、二、一……お邪魔しまーすっと!」
事務所のドアノブを回すこともせず、京哉はドアの上下の蝶番にDSR1をぶちかました。外れかけたドアを蹴り倒して押し入ったが、監視カメラで見ていたのか、途端に銃弾が降り注いできて目前のデスクの下にオルファスを蹴り込む。同時に有効射程が千四百メートルのマグナム・ライフル弾を叩き込み、三射で五人を倒していた。
その勢いに恐れをなしたか、腰の引けた残り三人の右肩にシグの九ミリパラを食らわせるのは簡単だった。藻掻く男の一人にオルファスをつれて行く予定だった場所を聞く。
「コンスタンスホテルだ……部屋までは分からねぇ」
それだけ聞けば用はない、身を翻して事務所を駆け出ると覆面に飛び乗った。DSR1をまたフルロードに戻し、シグのマガジンチェンジをしてから京哉は覆面を発車させる。
「若頭補佐にも話を聞かなくてよいのか?」
「そんな面倒はあとで誰かがやりますよ。今は忍さんの救出が最優先です。国内での大物だけに身代金目的でない今回は消される可能性が高いですから」
「涼しい顔をして、もしかしてそなた、ものすごく怒っていないか?」
「当然でしょう。忍さんと僕は誓ったんです、『一生、どんなものでも一緒に見てゆく』って。『一生、同じ長さ生きてる』って。あの人がいない世界に僕は用がありません」
「そうか。素晴らしい伴侶を得たのだな。羨まし……うわっ!」
バシッと音がしてリアウィンドウが白く濁っていた。銃撃だ。次弾で強化ガラスが粉々に割れて素通しになる。二人して頭を下げたところでオルファス側のヘッドレストが爆発的に緩衝材を飛び出させた。次々と撃ち込まれてフロントガラスまでが砕け散る。
「これはたぶん若頭補佐のお礼参りでしょうね」
「そなたの胆の据わりようは見習うべきものがあるな」
言いつつオルファスは本当に先程のカチコミで調達したらしいハンドガンを後方に向けて撃ち始めた。二射を放つと暫し銃撃が止む。
その間に京哉は覆面をコンスタンスホテルの前に横付けしていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
★第9回キャラ文芸大賞エントリー中!
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる