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第28話
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テラ連邦議会も日記を手にしている以上、解除キィが『嘆きの果実』に埋まっていることは先刻承知の筈である。それなら何故『嘆きの果実』をすぐさまテラは回収して解除キィを手にし、核ミサイルを止めようとしないのだろうか。
何故一週間自分たちに絵を護らせようとしたのか……。
「分からないか、シド。私を買収しようとしたことからも、テラ連邦はそのミサイルを止める気がないということだよ。テラ連邦は惑星バイナスの人命より貴重な『遺産』を取ったのだ」
「もしかして解除キィコードは、この絵を壊さねぇと取り出せないのか?」
「その通り。解除キィを確実に取り出すならば、幾層にも重なった絵を犠牲にしなければならないだろう。X‐RAYや赤外線でもサーチ不能なことはテラの対応からも分かっている。そして特殊な鉱物や絶滅した草花を絵の具に使用している以上、二度と修復は不可能だ」
「くそう……そういうことかよ」
そう、貴重なリオ=エッジワースの『嘆きの果実』を護るためならば、鎖国状態のカルチャーダウンした田舎惑星の人々が千人や一万人蒸発しても構わないとテラ連邦は断じたのだ。
そのために『着弾まで』シドたちに『嘆きの果実』を護らせ、一方では秘密を知ったオリバーを買収しようとしている。
「なあ、この解除キィがなくても、ミサイルを撃ち落とせばいいんじゃねぇのか?」
「一度起動したプログラムは解除キィコードでしか止められず、既に核ミサイルも撃ち落とせる高度ではなくなっている。ミサイルの中身はプログラミングされた無数の特殊カプセル入り放射性物質だ。今撃ち落とせばその何割かは間違いなく地上に降り注ぐことになるだろう」
「ふ……ん」
「これで我々が何故『嘆きの果実』を欲しているのか、分かってくれただろうか」
ホッとしたような口調の贋作グループのボスに切り返す。
「分かんねぇよ。あんたらが『切り札』をどう使うつもりなのかが、な」
「それは、アレだ……ほら、その、えーとだな……」
「ボス、しっかり!」
「お頭、ガンと一発、そこが大事なんですよう!」
手下たちに後押しされ、オリバーは口ひげを撫でながらおもむろに言い放った。
「テラ連邦を脅して『嘆きの果実』の身代金をがっぽり頂戴するに決まっている」
「がめつく引き延ばしている間にテメェの頭にミサイルが飛んでくるのがオチだぜ」
「……えっ?」
「当然だろ。テラ連邦がテメェらなんかに『はい、どうぞ』って何十億もくれてやるような、ボランティア精神に溢れてるとでも思ってるのか?」
それを聞いてややオリバーは不安になったらしく一瞬、シドに縋るような目を向けたが、次にはもう余裕のニヤリとした笑みを取り戻している。さすがは宙賊とも対等に渡り合うだけの組織のボスだということか。
だがそれとこれとはまた別だ。シドは再びオイルライターに火を点けた。それをロウテーブルに投げ捨てるように置くと、またも絵を焼かれるかと慌てふためくボスと手下の目の前で自らの手首を炙る。
一瞬で結束バンドが切れた。同時に絵も放り出しマイケルの茶髪に痛烈な上段蹴りをかます。そのまま腰の入った回し蹴りをフィリップの腹に叩き込んだ。
常日頃からクリティカルな状況に晒され、危機管理能力を磨かれてきたイヴェントストライカを前に素人たちが敵う訳がない。
吹っ飛んだフィリップの手から転がったレーザーガンを素早く拾うとソファとロウテーブルを飛び越える。オリバーの首に片腕を巻きつけ側頭部に銃口をねじ込んだ。
「ハイファとエマが血の一滴でも流してたら、テメェの命はねぇからな」
何故一週間自分たちに絵を護らせようとしたのか……。
「分からないか、シド。私を買収しようとしたことからも、テラ連邦はそのミサイルを止める気がないということだよ。テラ連邦は惑星バイナスの人命より貴重な『遺産』を取ったのだ」
「もしかして解除キィコードは、この絵を壊さねぇと取り出せないのか?」
「その通り。解除キィを確実に取り出すならば、幾層にも重なった絵を犠牲にしなければならないだろう。X‐RAYや赤外線でもサーチ不能なことはテラの対応からも分かっている。そして特殊な鉱物や絶滅した草花を絵の具に使用している以上、二度と修復は不可能だ」
「くそう……そういうことかよ」
そう、貴重なリオ=エッジワースの『嘆きの果実』を護るためならば、鎖国状態のカルチャーダウンした田舎惑星の人々が千人や一万人蒸発しても構わないとテラ連邦は断じたのだ。
そのために『着弾まで』シドたちに『嘆きの果実』を護らせ、一方では秘密を知ったオリバーを買収しようとしている。
「なあ、この解除キィがなくても、ミサイルを撃ち落とせばいいんじゃねぇのか?」
「一度起動したプログラムは解除キィコードでしか止められず、既に核ミサイルも撃ち落とせる高度ではなくなっている。ミサイルの中身はプログラミングされた無数の特殊カプセル入り放射性物質だ。今撃ち落とせばその何割かは間違いなく地上に降り注ぐことになるだろう」
「ふ……ん」
「これで我々が何故『嘆きの果実』を欲しているのか、分かってくれただろうか」
ホッとしたような口調の贋作グループのボスに切り返す。
「分かんねぇよ。あんたらが『切り札』をどう使うつもりなのかが、な」
「それは、アレだ……ほら、その、えーとだな……」
「ボス、しっかり!」
「お頭、ガンと一発、そこが大事なんですよう!」
手下たちに後押しされ、オリバーは口ひげを撫でながらおもむろに言い放った。
「テラ連邦を脅して『嘆きの果実』の身代金をがっぽり頂戴するに決まっている」
「がめつく引き延ばしている間にテメェの頭にミサイルが飛んでくるのがオチだぜ」
「……えっ?」
「当然だろ。テラ連邦がテメェらなんかに『はい、どうぞ』って何十億もくれてやるような、ボランティア精神に溢れてるとでも思ってるのか?」
それを聞いてややオリバーは不安になったらしく一瞬、シドに縋るような目を向けたが、次にはもう余裕のニヤリとした笑みを取り戻している。さすがは宙賊とも対等に渡り合うだけの組織のボスだということか。
だがそれとこれとはまた別だ。シドは再びオイルライターに火を点けた。それをロウテーブルに投げ捨てるように置くと、またも絵を焼かれるかと慌てふためくボスと手下の目の前で自らの手首を炙る。
一瞬で結束バンドが切れた。同時に絵も放り出しマイケルの茶髪に痛烈な上段蹴りをかます。そのまま腰の入った回し蹴りをフィリップの腹に叩き込んだ。
常日頃からクリティカルな状況に晒され、危機管理能力を磨かれてきたイヴェントストライカを前に素人たちが敵う訳がない。
吹っ飛んだフィリップの手から転がったレーザーガンを素早く拾うとソファとロウテーブルを飛び越える。オリバーの首に片腕を巻きつけ側頭部に銃口をねじ込んだ。
「ハイファとエマが血の一滴でも流してたら、テメェの命はねぇからな」
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