希望の果実~楽園17~

志賀雅基

文字の大きさ
28 / 38

第28話

しおりを挟む
 テラ連邦議会も日記を手にしている以上、解除キィが『嘆きの果実』に埋まっていることは先刻承知の筈である。それなら何故『嘆きの果実』をすぐさまテラは回収して解除キィを手にし、核ミサイルを止めようとしないのだろうか。

 何故一週間自分たちに絵を護らせようとしたのか……。

「分からないか、シド。私を買収しようとしたことからも、テラ連邦はそのミサイルを止める気がないということだよ。テラ連邦は惑星バイナスの人命より貴重な『遺産』を取ったのだ」
「もしかして解除キィコードは、この絵を壊さねぇと取り出せないのか?」

「その通り。解除キィを確実に取り出すならば、幾層にも重なった絵を犠牲にしなければならないだろう。X‐RAYや赤外線でもサーチ不能なことはテラの対応からも分かっている。そして特殊な鉱物や絶滅した草花を絵の具に使用している以上、二度と修復は不可能だ」
「くそう……そういうことかよ」

 そう、貴重なリオ=エッジワースの『嘆きの果実』を護るためならば、鎖国状態のカルチャーダウンした田舎惑星の人々が千人や一万人蒸発しても構わないとテラ連邦は断じたのだ。
 そのために『着弾まで』シドたちに『嘆きの果実』を護らせ、一方では秘密を知ったオリバーを買収しようとしている。

「なあ、この解除キィがなくても、ミサイルを撃ち落とせばいいんじゃねぇのか?」
「一度起動したプログラムは解除キィコードでしか止められず、既に核ミサイルも撃ち落とせる高度ではなくなっている。ミサイルの中身はプログラミングされた無数の特殊カプセル入り放射性物質だ。今撃ち落とせばその何割かは間違いなく地上に降り注ぐことになるだろう」
「ふ……ん」
「これで我々が何故『嘆きの果実』を欲しているのか、分かってくれただろうか」

 ホッとしたような口調の贋作グループのボスに切り返す。

「分かんねぇよ。あんたらが『切り札』をどう使うつもりなのかが、な」
「それは、アレだ……ほら、その、えーとだな……」
「ボス、しっかり!」
「お頭、ガンと一発、そこが大事なんですよう!」

 手下たちに後押しされ、オリバーは口ひげを撫でながらおもむろに言い放った。

「テラ連邦を脅して『嘆きの果実』の身代金をがっぽり頂戴するに決まっている」
「がめつく引き延ばしている間にテメェの頭にミサイルが飛んでくるのがオチだぜ」
「……えっ?」
「当然だろ。テラ連邦がテメェらなんかに『はい、どうぞ』って何十億もくれてやるような、ボランティア精神に溢れてるとでも思ってるのか?」

 それを聞いてややオリバーは不安になったらしく一瞬、シドに縋るような目を向けたが、次にはもう余裕のニヤリとした笑みを取り戻している。さすがは宙賊とも対等に渡り合うだけの組織のボスだということか。

 だがそれとこれとはまた別だ。シドは再びオイルライターに火を点けた。それをロウテーブルに投げ捨てるように置くと、またも絵を焼かれるかと慌てふためくボスと手下の目の前で自らの手首を炙る。
 一瞬で結束バンドが切れた。同時に絵も放り出しマイケルの茶髪に痛烈な上段蹴りをかます。そのまま腰の入った回し蹴りをフィリップの腹に叩き込んだ。

 常日頃からクリティカルな状況に晒され、危機管理能力を磨かれてきたイヴェントストライカを前に素人たちが敵う訳がない。
 吹っ飛んだフィリップの手から転がったレーザーガンを素早く拾うとソファとロウテーブルを飛び越える。オリバーの首に片腕を巻きつけ側頭部に銃口をねじ込んだ。

「ハイファとエマが血の一滴でも流してたら、テメェの命はねぇからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...