希望の果実~楽園17~

志賀雅基

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第38話(エピローグ)

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「もしかして今度は宝飾品の贋物が流れるんじゃないのかなあ」
「それはねぇだろ。あそこにはまだ本物が眠ってるんだしさ」
「ならいいけどね」

 タイタンからテラ本星の宙港に辿り着いた二人は、セントラルエリアに戻るべく宙港メインビルの屋上から定期BELに乗っていた。
 一時間半をウトウトして過ごし、懐かしの単身者用官舎ビルの屋上停機場に到着する。五十一階のシドの自室に帰り着くと時刻は十五時過ぎだ。食事は宙港で済ませてあった。

「はーい、通院のお時間です」

 ハイファの宣言にシドは素で怪訝な顔をする。

「何だハイファお前、腹でも痛いのかよ?」
「そうじゃなくって! 貴方が! 通院するの!」
「ああ? 俺は通院じゃなくて通勤だ。ヴィンティス課長の夢を叩き壊してやる」

 暫しの舌戦ののち通勤したのちに通院するということで何とか落ち着いた。

「コーヒーの一杯も飲まないなんて、うー」
「コーヒーならデカ部屋で幾らでも飲めるだろ。行くぞ」

 そうして出勤したシドとハイファの間には、ひったくりと不法入星者の合計三名が挟まっていてヴィンティス課長はブルーアイに哀しげな色を湛え、一週間ぶりに多機能デスクの引き出しから茶色い瓶をふたつ取りだした。中身は赤い増血剤とクサい胃薬である。

 心の中で快哉を叫んだシドは、不法入星者には入星管理局の役人が来るまで地下留置場でお待ち頂き、ハイファと共にサラサラとひったくりの調書を上げる。
 そして気付けば放ったらかしの七枚の報告書がシドのデスクには積んであった。

「くそう、こいつを忘れてたぜ」

 定時間際で煮詰まった泥水コーヒーをふたつ持ってきたハイファがじんわり見る。

「どうするの、病院は。約束でしょ?」
「ったって、こいつがだな――」

 通院を何とか回避せんとシドがポケットから煙草を出しかけたそのとき、マイヤー警部補とヤマサキに捜査二課の課員数名がデカ部屋に駆け込んできた。

「応援願います! 二分署管内ラグランジュ財団ビル地下で本日十七時半から闇オク開催の通報あり、贋作多数が出品されるというタレコミでガサ掛けます!」

 本日の在署番を除く男たちが一斉に立ち上がった。シドも椅子の背に掛けた対衝撃ジャケットを引っ掴んで緊急機に乗るべくデカ部屋を走り出る。ハイファも続いた。
 飛び立った緊急機の中で声を潜めハイファが囁く。

「ねえ、もしかしてオリバーやマイケルだったらどうするの?」
「どうもこうもあるか、俺たちは刑事だぞ。逮捕するに決まってるだろ」
「そう、だよね」
「でも心配要らねぇよ、贋作なんて作者が直接売りにくる訳じゃねぇからな」

「まあ、そうなんだけど……いつかは逮捕されちゃうのかな」
「逮捕の前に夢を掴むさ、あいつらは」
「そっか、そうだね」

 十分と掛からずサイレンを鳴らさない緊急機は二分所管内の郊外にあるラグランジュ財団ビルに到着する。辺りは広いコイル駐車場になっていて、そこに次々と緊急機が飛来して駐まっては地上六十六階地下三階の切ったオレンジのようなくし形をしたビルに人員が吸い込まれていた。

 もう捕り物は始まっているらしい。

 それを見て突入するまでもないと思ったシドは、結局デカ部屋で吸い損ねた煙草を未練たらしくポケットから出した。すると一緒に何か小さなモノがカチャンと音を立ててファイバの地面に落ちる。ハイファがそれを拾い上げた。

「何これ?」
「ああ、それな。あの鉱山でエマと別れてから拾った石コロだ、綺麗だったからさ」
「ふうん……えっ、ええっ……これ、ラクリモライトだよ!」
「へえ、原石って奴か。小さくても綺麗だな。お前にやるよ、婚約指輪代わりだ」
「嘘でしょ、五カラットはある……ってゆうか、何で通関クリアして、ええっ!?」

      
                             了

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