38 / 38
第38話(エピローグ)
しおりを挟む
「もしかして今度は宝飾品の贋物が流れるんじゃないのかなあ」
「それはねぇだろ。あそこにはまだ本物が眠ってるんだしさ」
「ならいいけどね」
タイタンからテラ本星の宙港に辿り着いた二人は、セントラルエリアに戻るべく宙港メインビルの屋上から定期BELに乗っていた。
一時間半をウトウトして過ごし、懐かしの単身者用官舎ビルの屋上停機場に到着する。五十一階のシドの自室に帰り着くと時刻は十五時過ぎだ。食事は宙港で済ませてあった。
「はーい、通院のお時間です」
ハイファの宣言にシドは素で怪訝な顔をする。
「何だハイファお前、腹でも痛いのかよ?」
「そうじゃなくって! 貴方が! 通院するの!」
「ああ? 俺は通院じゃなくて通勤だ。ヴィンティス課長の夢を叩き壊してやる」
暫しの舌戦ののち通勤したのちに通院するということで何とか落ち着いた。
「コーヒーの一杯も飲まないなんて、うー」
「コーヒーならデカ部屋で幾らでも飲めるだろ。行くぞ」
そうして出勤したシドとハイファの間には、ひったくりと不法入星者の合計三名が挟まっていてヴィンティス課長はブルーアイに哀しげな色を湛え、一週間ぶりに多機能デスクの引き出しから茶色い瓶をふたつ取りだした。中身は赤い増血剤とクサい胃薬である。
心の中で快哉を叫んだシドは、不法入星者には入星管理局の役人が来るまで地下留置場でお待ち頂き、ハイファと共にサラサラとひったくりの調書を上げる。
そして気付けば放ったらかしの七枚の報告書がシドのデスクには積んであった。
「くそう、こいつを忘れてたぜ」
定時間際で煮詰まった泥水コーヒーをふたつ持ってきたハイファがじんわり見る。
「どうするの、病院は。約束でしょ?」
「ったって、こいつがだな――」
通院を何とか回避せんとシドがポケットから煙草を出しかけたそのとき、マイヤー警部補とヤマサキに捜査二課の課員数名がデカ部屋に駆け込んできた。
「応援願います! 二分署管内ラグランジュ財団ビル地下で本日十七時半から闇オク開催の通報あり、贋作多数が出品されるというタレコミでガサ掛けます!」
本日の在署番を除く男たちが一斉に立ち上がった。シドも椅子の背に掛けた対衝撃ジャケットを引っ掴んで緊急機に乗るべくデカ部屋を走り出る。ハイファも続いた。
飛び立った緊急機の中で声を潜めハイファが囁く。
「ねえ、もしかしてオリバーやマイケルだったらどうするの?」
「どうもこうもあるか、俺たちは刑事だぞ。逮捕するに決まってるだろ」
「そう、だよね」
「でも心配要らねぇよ、贋作なんて作者が直接売りにくる訳じゃねぇからな」
「まあ、そうなんだけど……いつかは逮捕されちゃうのかな」
「逮捕の前に夢を掴むさ、あいつらは」
「そっか、そうだね」
十分と掛からずサイレンを鳴らさない緊急機は二分所管内の郊外にあるラグランジュ財団ビルに到着する。辺りは広いコイル駐車場になっていて、そこに次々と緊急機が飛来して駐まっては地上六十六階地下三階の切ったオレンジのようなくし形をしたビルに人員が吸い込まれていた。
もう捕り物は始まっているらしい。
それを見て突入するまでもないと思ったシドは、結局デカ部屋で吸い損ねた煙草を未練たらしくポケットから出した。すると一緒に何か小さなモノがカチャンと音を立ててファイバの地面に落ちる。ハイファがそれを拾い上げた。
「何これ?」
「ああ、それな。あの鉱山でエマと別れてから拾った石コロだ、綺麗だったからさ」
「ふうん……えっ、ええっ……これ、ラクリモライトだよ!」
「へえ、原石って奴か。小さくても綺麗だな。お前にやるよ、婚約指輪代わりだ」
「嘘でしょ、五カラットはある……ってゆうか、何で通関クリアして、ええっ!?」
了
「それはねぇだろ。あそこにはまだ本物が眠ってるんだしさ」
「ならいいけどね」
タイタンからテラ本星の宙港に辿り着いた二人は、セントラルエリアに戻るべく宙港メインビルの屋上から定期BELに乗っていた。
一時間半をウトウトして過ごし、懐かしの単身者用官舎ビルの屋上停機場に到着する。五十一階のシドの自室に帰り着くと時刻は十五時過ぎだ。食事は宙港で済ませてあった。
「はーい、通院のお時間です」
ハイファの宣言にシドは素で怪訝な顔をする。
「何だハイファお前、腹でも痛いのかよ?」
「そうじゃなくって! 貴方が! 通院するの!」
「ああ? 俺は通院じゃなくて通勤だ。ヴィンティス課長の夢を叩き壊してやる」
暫しの舌戦ののち通勤したのちに通院するということで何とか落ち着いた。
「コーヒーの一杯も飲まないなんて、うー」
「コーヒーならデカ部屋で幾らでも飲めるだろ。行くぞ」
そうして出勤したシドとハイファの間には、ひったくりと不法入星者の合計三名が挟まっていてヴィンティス課長はブルーアイに哀しげな色を湛え、一週間ぶりに多機能デスクの引き出しから茶色い瓶をふたつ取りだした。中身は赤い増血剤とクサい胃薬である。
心の中で快哉を叫んだシドは、不法入星者には入星管理局の役人が来るまで地下留置場でお待ち頂き、ハイファと共にサラサラとひったくりの調書を上げる。
そして気付けば放ったらかしの七枚の報告書がシドのデスクには積んであった。
「くそう、こいつを忘れてたぜ」
定時間際で煮詰まった泥水コーヒーをふたつ持ってきたハイファがじんわり見る。
「どうするの、病院は。約束でしょ?」
「ったって、こいつがだな――」
通院を何とか回避せんとシドがポケットから煙草を出しかけたそのとき、マイヤー警部補とヤマサキに捜査二課の課員数名がデカ部屋に駆け込んできた。
「応援願います! 二分署管内ラグランジュ財団ビル地下で本日十七時半から闇オク開催の通報あり、贋作多数が出品されるというタレコミでガサ掛けます!」
本日の在署番を除く男たちが一斉に立ち上がった。シドも椅子の背に掛けた対衝撃ジャケットを引っ掴んで緊急機に乗るべくデカ部屋を走り出る。ハイファも続いた。
飛び立った緊急機の中で声を潜めハイファが囁く。
「ねえ、もしかしてオリバーやマイケルだったらどうするの?」
「どうもこうもあるか、俺たちは刑事だぞ。逮捕するに決まってるだろ」
「そう、だよね」
「でも心配要らねぇよ、贋作なんて作者が直接売りにくる訳じゃねぇからな」
「まあ、そうなんだけど……いつかは逮捕されちゃうのかな」
「逮捕の前に夢を掴むさ、あいつらは」
「そっか、そうだね」
十分と掛からずサイレンを鳴らさない緊急機は二分所管内の郊外にあるラグランジュ財団ビルに到着する。辺りは広いコイル駐車場になっていて、そこに次々と緊急機が飛来して駐まっては地上六十六階地下三階の切ったオレンジのようなくし形をしたビルに人員が吸い込まれていた。
もう捕り物は始まっているらしい。
それを見て突入するまでもないと思ったシドは、結局デカ部屋で吸い損ねた煙草を未練たらしくポケットから出した。すると一緒に何か小さなモノがカチャンと音を立ててファイバの地面に落ちる。ハイファがそれを拾い上げた。
「何これ?」
「ああ、それな。あの鉱山でエマと別れてから拾った石コロだ、綺麗だったからさ」
「ふうん……えっ、ええっ……これ、ラクリモライトだよ!」
「へえ、原石って奴か。小さくても綺麗だな。お前にやるよ、婚約指輪代わりだ」
「嘘でしょ、五カラットはある……ってゆうか、何で通関クリアして、ええっ!?」
了
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる