高貴なる義務の果て~楽園19~

志賀雅基

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第46話

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 王宮の前には黒塗りが並び、ちょっとした渋滞を作っていた。

 だが衛兵にリモータの招待状を見せるだけで正門はクリア、黒いコイル群はどんどん吸い込まれてゆき、ロータリーとなった車寄せで正装した人々は降りてゆく。自家用・ハイヤー問わず黒塗りは全て流されたプログラム通りに専用のコイル駐車場へと向かって行った。

 順番がきてシドと自走車椅子のハイファもハイヤーを降りる。

 目の前には三段しかないが幅は三十メートルほどもありそうな階段だ。僅かに浮いている自走車椅子だが、大事を取ってシドは真ん中にあるスロープを選び、手ずから押し上げた。

 上りきると大きな観音開きの扉が両方開放されている。誰もが談笑して入ってゆく中、二人も王宮に入った。すると真っ先にクロークでリモータの招待状を詳細までチェックされる。

 今回二人はこのリマライ星系で国賓とも云えるFC専務とその友人であり、今は王となったジャイルズ=ライトの恩人でもある。そのジャイルズ王から直接の夜会への招待状だ、クロークの人間も二人に対しては丁重だった。

 そのお蔭か意外に銃すら取り上げられず、フリーパス状態でチェックをクリアした。
 シドの対衝撃ジャケットはハイファが預かって畳んだまま膝に載せている。

 そこに自動人形のように並んでいたメイド数十名から二名が近づいてきて、真っ白なヘッドドレスを見せお辞儀した。手振りで行き先を指し示しながら、

「お客様を大ホールにご案内致します」

 と言い前後に立って歩く。シドはここでも手ずから自走車椅子を押して移動した。

 辺りには同じく案内される貴族だか何だか知らない上流階級者たちが脂粉と香水の匂いを漂わせたローブデコルテのご婦人方を黒服で引き立てている。そのご婦人方の着けたジュエリーじゃらじゃらのネックレスやイヤリングを眺めながらシドはポーカーフェイスのまま、アレは肩が凝るだろうな、などと色気のないことを考えた。

 考えながら視線という視線を集めていることにも気付いている。大体、何処にいても二人揃うと目立ってしまうのだ。既に二人は車椅子だの少し変わった正装だのといった特異点だけではなく、もうご婦人方のひそひそ話のネタにされていた。

 人目を惹きつつレッドカーペットを歩いていると喧噪が近づいてくるのが分かる。やがて先導していたメイドたちがヘッドドレスを見せて再びお辞儀した。

 そうして二人はジャイルズ王が初めて催す、お披露目の夜会に飛び込んだのだった。

 大ホールの高い天井にはお約束の巨大なシャンデリアが幾つも下がっていた。壁には代々の王の肖像画が掲げられ、人々に話題を提供しているようである。ランダムに置かれたゴブラン織りのソファでもご婦人方がお喋りに興じていた。

 小編成のオーケストラがワルツを奏で、中央のダンスエリアでは気も早くダンスに興じる若い男女もいる。くるくると回る色とりどりの裳裾がホールに華やかさを添えていた。
 たぶん中庭だと思われる側の大きなフランス窓も開放してあり、丹精された薔薇園が眺められる。シドとハイファのいる所にまで爽やかな香気が漂ってきていた。

 自走給仕機ではなくベージュの制服を着た給仕が自らワゴンを押して、賓客たちに様々な飲み物を勧め、一辺の壁際では料理人が腕をふるっているのが見られる。巨大なテーブルにはこれも様々な料理が並んでいた。

 とにかくどれもが平刑事に縁のないモノばかりだったが、シドは過去の別室任務でこういった場を何度か経験しているので怯むことはない。

「豪華ではあるが、王宮の夜会ってこんなものか?」

 互いに顔を覗き込む訳にもいかず、シドがリモータ入力を見せての会話だ。

「テラ本星で言えば、星系政府議会議員のパーティーレヴェルだよね」
「別に不満もないが『これで精一杯』って感じがするのは俺だけか?」

「ジャイルズが言ってたじゃない、末端の王子王女は自力で食べて行かなきゃならないみたいなことをサ。やっぱり台所事情は苦しいんだよ、きっと」
「それでも夜会なんか開かなきゃならないんだな」
「まあ、即位後初のお披露目だしね」

 ここでも人目を惹きつつ話していると傍に給仕がワゴンを止める。酔わないシドは容赦なく高級そうなウィスキーを、ハイファはそうもいかないのでミモザを貰った。
 喉を潤しながら二十三時ジャスト、オーケストラが曲調を変える。奏で始めたのは栄誉礼、ジャイルズ王のお成りらしい。皆が動きとお喋りを止めた。

 王冠を被ってロイヤルブルーのマントを引きずり、由緒ある古風な衣装で現れたジャイルズ王は水色の目と薄い色の金髪こそ変わらなかったが、その顔は一変して美麗になっていた。

 サイキ持ち特有の恵まれた容姿を取り戻した男はもうシドとハイファの知るジャイルズ=ライトではない。鷹揚に片手を挙げてみせた仕草も割と堂に入っていた。

 美はときに力となる。
 実権を持たない象徴に対し人々は自然と頭を垂れていた。
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