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第45話
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昼食も摂らず、上着も脱がずにタイまで締めたまま、ハイファは三時間ほど泥のように眠った。まだ寝ていたいくらいだったが予定もある。
何よりもリモータ発振を無視できなかった。発振パターンはシドだ。同時に気付いたのは点けた覚えのない3DホロTVである。中空に浮いたそれが、
《お連れ様が到着しました》
と、文字列を瞬かせていた。それでもまた謀られないように、テミスコピーを抜いて手にしたまま、そっとオートドアの脇に隠れてロック解除。動きが制限される自走車椅子には乗らない。
けれどセンサ感知で入ってきたのはシドだけ、すぐにまたロックしてポーカーフェイスに非常な不機嫌を溜めた愛し人を見返した。
「ここにくるまで、どれだけ苦労したと思ってるんだよ」
「貴方の推理力、プラス、宿泊者リストを検索すれば一発じゃない」
「そうじゃなくてさ……」
分かっている、シドは自分が着たスーツと締めざるを得なかったタイが気に食わないのだ。だが上から対衝撃ジャケットを羽織っているとはいえ、バーントシェンナのドレスシャツに黒に近いグレイのスーツを着て、地模様のある濃いブラウンのタイを締めたシドは、思わずハイファが見とれるほど格好良かった。
「出てくるなら、何で相談くらいしなかったんだよ?」
何を訊かれたのか読めなかった。だが分かる。
「だって手術前にカタをつけるなんて絶対シドは止めるでしょ」
「分かってるなら……大体、お前、酷い顔色だぞ。食事くらいはしたのか?」
「あ、貴方がお腹空いたんでしょう?」
「……それもある」
「じゃあ、ルームサーヴィス貴方が頼んでよ」
ボリュームのあるセットメニューはすぐに届けられ、窓際のテーブルで頂いた。食事中は仕事の話はしないのが二人のセオリーだが、時間も迫っているので相談しながら食べる。
「お前はいいとして、俺はどうやって潜入するんだ?」
「大丈夫。センリーが送ってきた招待状は僕と貴方の二人分だったから」
「ふうん。けど敵も大胆だな、分かってて俺たちを招待するとは」
「僕らが気付いたことに向こうも気付いてるとは限らないよ」
「だからって、ナレスでお前が拉致られなかったことは伝わった筈だろ」
「それはそうだよね、僕らはライマンファミリーのドンまで殺っちゃったんだから」
「ドン・ライマンが全てを吐いて、分離主義者の目論見が粉砕されたことも知ってる筈だぞ」
「それでも僕はどうしても行かなくちゃならない」
「ふん……全力サポートする、存分にやれ」
セットメニューをシェアしつつ食べてしまうと準備に取り掛かる。このドレスコードもあるメイフェアホテルを選んだ理由、それは正装のレンタルがあるからだった。
フロントにシドが連絡し、十八時を予約するとまたシドはハイファを抱いてリフレッシャを浴びた。ドライモードで乾かし着替えてホロTVなど視ながら待つ。
十八時にホテルの専属レンタルショップから三人の女性がワゴンを従えてやってきた。執銃したままで正装に近づけてくれという無理難題を突き付けられたスタイリストは、それでも嫌な顔をするどころか、プロフェッショナルとして燃えたらしい。
ホワイトタイの燕尾服ではなくブラックタイのタキシードで、ショルダーホルスタのハイファは割と正統派の着こなしとなった。
問題はシドだったが、こちらもタキシードながらカマーバンドを巻かずにベストを着せてベルト使用、それに合わせてボウタイではなく幅広のタイをウィンザーノットで締め、上着はフロックコートに近いくらい裾の長いものを選んだことで、巨大レールガンは殆ど隠された。
とはいえどうせ潜入時にはX‐RAYサーチされて執銃がバレるのは承知の上だ。
サイズの微調整をするともう十九時近く、だがレンタルショップの女性たちに懇願され、二人はリモータアプリでポラを何枚も撮られる。
そうして女性陣が黄色い声を上げつつ去るなり、ハイファはシドに抱きついた。
「格好いい~っ! シドってば本当に格好いいよう!」
「お前の方が似合ってるぞ。けど剥がれろよ、押し倒したくなるからさ」
「……壊れた僕でも?」
一瞬で真顔になったハイファを見返し、シドは僅かに目を眇める。
「どんなお前でも愛してる。何度言っても言い足りない。信じられないなら、本当に今すぐこの場で押し倒して、その服を引き剥がして……」
「――ごめん」
「分かればいい。それより立ってるのも限界だろ。もうそっちに座ってろ」
素直にハイファはベッドに腰掛けた。シドはフロントにハイヤーの手配を頼み、連絡が来るまで二人分の髪に櫛を通してハイファの長い髪を銀の金具で留めた。
まもなくフロントから発振がきて移動だ。
正装したシドと自走車椅子に乗ったハイファのコンビは非常に目立ち、誰もの目を惹きながらエントランスに辿り着く。出るときもリモータチェッカをクリアせねばならないここは信頼できるホテル、無人黒塗りハイヤーもピカピカに磨かれていた。
ドアマンに挨拶されハイヤーのドアを開けて貰う。だがここでもシドはドアマンの怪訝な顔を無視してハイヤーの底まで点検することを怠らなかった。
二人して後部座席に乗り込むと出発だ。
「ここからは三十分と掛からないな。丁度いい時間だ」
「貴方、本当に貴族みたい」
「お前の方が貴族以上に貴族らしいぞ」
「それにしても、どうやって斬り込もうかなあ?」
「まずは敵に近づかなきゃ話にならないもんな」
「それに何か後ろからついてくるんだけど」
「FCの四号警備だ。あとであいつらにも謝っておけよな」
多少ちぐはぐながら喋っているうちに目的地に着く。宙港メインビルの屋上から見たときには森の中に尖塔を幾つかみせていただけの建物だが、目前にすると当然ながら巨大だった。
それでも他星系のものに比べれば余程小ぶりだろう建物はライトアップされ、青銅の柵に囲まれたその壁は白とロイヤルブルーに塗られていた。
ロイヤルブルーの部分には金彩を使って獅子の紋章が描かれている。
ここはリマライ王宮だった。
何よりもリモータ発振を無視できなかった。発振パターンはシドだ。同時に気付いたのは点けた覚えのない3DホロTVである。中空に浮いたそれが、
《お連れ様が到着しました》
と、文字列を瞬かせていた。それでもまた謀られないように、テミスコピーを抜いて手にしたまま、そっとオートドアの脇に隠れてロック解除。動きが制限される自走車椅子には乗らない。
けれどセンサ感知で入ってきたのはシドだけ、すぐにまたロックしてポーカーフェイスに非常な不機嫌を溜めた愛し人を見返した。
「ここにくるまで、どれだけ苦労したと思ってるんだよ」
「貴方の推理力、プラス、宿泊者リストを検索すれば一発じゃない」
「そうじゃなくてさ……」
分かっている、シドは自分が着たスーツと締めざるを得なかったタイが気に食わないのだ。だが上から対衝撃ジャケットを羽織っているとはいえ、バーントシェンナのドレスシャツに黒に近いグレイのスーツを着て、地模様のある濃いブラウンのタイを締めたシドは、思わずハイファが見とれるほど格好良かった。
「出てくるなら、何で相談くらいしなかったんだよ?」
何を訊かれたのか読めなかった。だが分かる。
「だって手術前にカタをつけるなんて絶対シドは止めるでしょ」
「分かってるなら……大体、お前、酷い顔色だぞ。食事くらいはしたのか?」
「あ、貴方がお腹空いたんでしょう?」
「……それもある」
「じゃあ、ルームサーヴィス貴方が頼んでよ」
ボリュームのあるセットメニューはすぐに届けられ、窓際のテーブルで頂いた。食事中は仕事の話はしないのが二人のセオリーだが、時間も迫っているので相談しながら食べる。
「お前はいいとして、俺はどうやって潜入するんだ?」
「大丈夫。センリーが送ってきた招待状は僕と貴方の二人分だったから」
「ふうん。けど敵も大胆だな、分かってて俺たちを招待するとは」
「僕らが気付いたことに向こうも気付いてるとは限らないよ」
「だからって、ナレスでお前が拉致られなかったことは伝わった筈だろ」
「それはそうだよね、僕らはライマンファミリーのドンまで殺っちゃったんだから」
「ドン・ライマンが全てを吐いて、分離主義者の目論見が粉砕されたことも知ってる筈だぞ」
「それでも僕はどうしても行かなくちゃならない」
「ふん……全力サポートする、存分にやれ」
セットメニューをシェアしつつ食べてしまうと準備に取り掛かる。このドレスコードもあるメイフェアホテルを選んだ理由、それは正装のレンタルがあるからだった。
フロントにシドが連絡し、十八時を予約するとまたシドはハイファを抱いてリフレッシャを浴びた。ドライモードで乾かし着替えてホロTVなど視ながら待つ。
十八時にホテルの専属レンタルショップから三人の女性がワゴンを従えてやってきた。執銃したままで正装に近づけてくれという無理難題を突き付けられたスタイリストは、それでも嫌な顔をするどころか、プロフェッショナルとして燃えたらしい。
ホワイトタイの燕尾服ではなくブラックタイのタキシードで、ショルダーホルスタのハイファは割と正統派の着こなしとなった。
問題はシドだったが、こちらもタキシードながらカマーバンドを巻かずにベストを着せてベルト使用、それに合わせてボウタイではなく幅広のタイをウィンザーノットで締め、上着はフロックコートに近いくらい裾の長いものを選んだことで、巨大レールガンは殆ど隠された。
とはいえどうせ潜入時にはX‐RAYサーチされて執銃がバレるのは承知の上だ。
サイズの微調整をするともう十九時近く、だがレンタルショップの女性たちに懇願され、二人はリモータアプリでポラを何枚も撮られる。
そうして女性陣が黄色い声を上げつつ去るなり、ハイファはシドに抱きついた。
「格好いい~っ! シドってば本当に格好いいよう!」
「お前の方が似合ってるぞ。けど剥がれろよ、押し倒したくなるからさ」
「……壊れた僕でも?」
一瞬で真顔になったハイファを見返し、シドは僅かに目を眇める。
「どんなお前でも愛してる。何度言っても言い足りない。信じられないなら、本当に今すぐこの場で押し倒して、その服を引き剥がして……」
「――ごめん」
「分かればいい。それより立ってるのも限界だろ。もうそっちに座ってろ」
素直にハイファはベッドに腰掛けた。シドはフロントにハイヤーの手配を頼み、連絡が来るまで二人分の髪に櫛を通してハイファの長い髪を銀の金具で留めた。
まもなくフロントから発振がきて移動だ。
正装したシドと自走車椅子に乗ったハイファのコンビは非常に目立ち、誰もの目を惹きながらエントランスに辿り着く。出るときもリモータチェッカをクリアせねばならないここは信頼できるホテル、無人黒塗りハイヤーもピカピカに磨かれていた。
ドアマンに挨拶されハイヤーのドアを開けて貰う。だがここでもシドはドアマンの怪訝な顔を無視してハイヤーの底まで点検することを怠らなかった。
二人して後部座席に乗り込むと出発だ。
「ここからは三十分と掛からないな。丁度いい時間だ」
「貴方、本当に貴族みたい」
「お前の方が貴族以上に貴族らしいぞ」
「それにしても、どうやって斬り込もうかなあ?」
「まずは敵に近づかなきゃ話にならないもんな」
「それに何か後ろからついてくるんだけど」
「FCの四号警備だ。あとであいつらにも謝っておけよな」
多少ちぐはぐながら喋っているうちに目的地に着く。宙港メインビルの屋上から見たときには森の中に尖塔を幾つかみせていただけの建物だが、目前にすると当然ながら巨大だった。
それでも他星系のものに比べれば余程小ぶりだろう建物はライトアップされ、青銅の柵に囲まれたその壁は白とロイヤルブルーに塗られていた。
ロイヤルブルーの部分には金彩を使って獅子の紋章が描かれている。
ここはリマライ王宮だった。
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